第14話 隠しキャラを追いかけて
いつも通り、前半は、瑠々華視点、後半は、麻衣沙視点です。
今回、新しいキャラが登場しています。
今の私は、校舎の影にひっそりと隠れて、とある人物を…観察しておりますわ。『光条 徳樹』という、そのお人を……。
クラスメイトの皆さんからの情報では、苗字のみをお伺い致しましたけれど、この苗字の生徒さんは、この大学では2年生に限らず、他にはおられないようでした。ですから、直ぐに私でも、彼のフルネームが分かりましたのよ。その為、先走ってしまいまして、まだ麻衣沙には…報告しておりませんのよ。
私は校舎の影に隠れながらも、彼のお姿を確認し、彼が隠しキャラではないかと、何となく感じておりました。ここからでは少し遠すぎて、ハッキリとお顔が見えませんけれども、それでも…それなりのイケメンだとは、確認が出来ましたからね。もう少しだけ近くで、彼の顔をしっかりとご確認したいですわね?
そう思っていましたのが…いけなかったみたいですね…。真っ先に、麻衣沙にご報告すれば良かったですのに、先走って1人で確認しに来たのが、抑々の間違いでしたのよ。後悔先に立たず…ですわね…。
「君は、1年の『藤野花 瑠々華』さんだね?…今日は時折、俺の行動を陰から見張っていたよね?…俺に、何の用なのかな?」
「…えっ?!……何かのお間違いでは…ないでしょうか?…私は偶々、此処にいただけですわ。」
「…ふうん。君は…何をしに来たんだい?」
「…え~と、これは…ちょっと探し物をしていて、ですね……。」
隠しキャラと思われる『光城』さんが、校舎を移動されておりまして、授業後偶々見かけた私は、少し距離を離して後を追っておりました。当初は他の男子生徒や女子生徒と一緒に歩いておられましたのに、途中から彼は…他の学生と別れられて、校舎の外を1人移動された先で、ピタリと歩みを止められたのでした。ずっと追いかけておりました私は、大学内の草むらに隠れるようにして、彼の様子を窺っておりましたのよ。
突然、彼は私が居る方に振り向き、長い脚で大きな歩まれ、あっという間に…私が隠れた場所に、やって来られたのです。そして、草むらに隠れておりました私を、見下ろすようにして見つめられましたのよ。私は今更、逃げ出すことも出来ずに、簡単に見つかってしまったのでした…。
それが…先程のセリフです。…えっ?!…何故、私のフルネームを知っておられますの?…私は見つかった上に、名前を知られておりますことに、多少の動揺を感じながらも、何とか誤魔化そうと…必死でしたが。完全に…バレておりますわね…。だからと言いまして、あっさりと認める訳にも参りませんもの。私が追い掛けた理由が、ご説明出来ない以上は。
「探し物ね…。まあ、そういう事にして置こう。君には…婚約者がいるよね?…俺とこんな場所で2人っきりで、誤解されるんじゃないかな?…それとも、俺と浮気でもしたいのかな?」
「……なっ!…貴方と浮気など…しませんわ!…樹さんは、誤解など…されませんわ。心が広いお人ですもの。貴方は何気に…失礼ですわねっ!」
何て…失礼なっ!……初対面のお人と、浮気をする訳もありませんし、樹さんはこれぐらいで、誤解されたりなさいませんわよ。樹さんに…失礼ですわよ。
樹さんは、過保護なほどの心配性なお人ではありますけれど、このような状況だけで怒るお人ではありません。ちゃんと私のお話を聞いてくださってから、判断されるお人ですのよ。それに、私と彼は…名ばかりの婚約者ですのよ。(※私如きに、ヤキモチを焼かないと思っている。)
「………。君って、何処か…ズレているよね…。…ふうん。彼は…苦労していそうだなあ。…くくくっ。君は……面白いね?」
声を押さえクツクツ笑われておられる、目の前の人物を、私はジッと見つめておりました。…はあ?!…私が…ズレている?…私が…面白い?…彼は意味の分からないことを仰り、私を…揶揄って来られます。初対面のお人から爆笑され、私は…眉を顰めます。一体、何を仰っておられるのか、いまいち理解が出来兼ねます。
初対面のお人が仰る言葉では、ありませんわよね…。失礼な……。
改めてよく観察致しますと、彼のお顔が異様に整っておられ、嫌な予感が…頭を横切りますわねえ。彼が…隠しキャラだと、私の本能が訴えておりますわ。
今すぐにでも、エリちゃんに、確認していただきたいぐらいです…。
隠しキャラを唯一攻略された、エリちゃんならば、彼が本当に隠しキャラなのか、ハッキリ判断されることでしょう。ああ…しくじりましたわね…。遠目で拝見していた折に、スマホで写真を撮って置くべきでしたわ。後悔先に立たずとは、こういうことを申しますのね…。トホホホ……。
****************************
「……もう…ルルは、何をされておられるのですの…。何故、わたくしに真っ先に、ご報告してくださらなかったの?…何故、お1人で行動なさったの?…せめて確認中に、わたくしも誘ってくだされば、こういう事態にはなりませんでしたわ。どうしてルルは、お1人で…暴走なさるのかしらね?」
「………。ごめんなさい、麻衣沙…。」
漸く先程、ルルからご報告をお受け致しましたわたくしは、頭を抱えたい気分に…なっておりますわ。昨日、エリさんからは、隠しキャラのヒントをいただきましたので、先ず…ルルがクラスメイトの女子に聞き、その後2人で確認する、という流れとなっておりました。ですから…ルル1人に、お願い致しましたのに。
後悔先に立たず…ですわ。わたくしもご一緒に、お伺いすれば良かったのですが、生憎と今日の授業は唯一、わたくしとルルの選択科目が異なる日で、その上授業後に…わたくしは、直ぐ帰宅しておりました。昨日は、わたくしの習い事のある日でしたので。昨日は殆ど、別行動しておりましたわ。
ルルが先走らないようにと、予めご忠告させてもらいましたけれど、歯止めが効きませんでしたのね…。まさか、お1人でお顔を確かめに行かれるとは、わたくしも流石に、思っておりませんでしたのよ。不覚でしたわね……。
遠目でお姿を拝見していた、までは…まだ良いでしょう。ルルは然りに、その時に写真を撮らなかったことを、後悔されておられますが、まあ…それも遠目ならば、許されるでしょう。しかしながら、追いかけたのは…間違いですわね…。大勢でおられた時点で、深追いを止めるべきでしてわ。彼がお1人になられた時には、もうその時点では誰かに見られている、と確信されたのでしょうから。確証したいが為に、お1人で行動されたに違いありませんわね…。
ルルは見事に、光条様にまんまと乗せられた形、なのですわ。ルルの口振りでは、彼にしっかりと1人の女性として、認識されてしまったご様子…ですのよね…。
これは…わたくしの見解ですが、ルルは光条さんにそれなりに気に入られた、という気が致しましたわ…。ルルが乙女ゲームの悪役令嬢云々や、彼が隠しキャラかどうかの事実よりも、現実的に考えましても、不味いのでは…ないかしら?
ルルは樹さんのことを、誰にでもお優しいお人だと、疑いもなく思っておられますけれども、それは…完全な間違いでしてよ。確かに表面上、樹さんは誰にでもお優しい態度ではございますが、それは…単にルルのタイプが、お優しいお人だということに、他なりませんのよ。ルルに好かれる努力であり、彼の作戦でもございますのよ。樹さんが本心からお優しくなさるお相手は、ルルしかおられませんわね…。乙女ゲームの樹さんとは異なり、彼は唯お優しいお人ではなく、腹黒い部分もお持ちですのよ。ルル以外に本心からお優しくするお人は、おられませんのよ。
ルルは、ヒロインである和田さんが、見た目も性格も悪役令嬢の如く振舞われる所為で、樹さん達攻略対象が靡かないのだと、思われておられますけれども、例え…ルルの想像上のNewヒロインであろうとも、樹さんがルルから心変わりをされるなど、有り得ないことでしょう。
ですから、光条様がルルに関心を持たれただけでも、ヤキモチどころか…修羅場が待ち受けておりますわ。ああ、恐ろしい…。ルルの樹さんに対する無関心さが…。樹さんルートのバッドエンドには、ヒロインの監禁もございますのに。この現世では…多分、ルルの役割となりますわよ…。他の男性と恋仲にでもなろうものなら、即刻…監禁ルートですわよね…。ルル…。呉々も軽はずみな行動は、お気をつけあそばせ…。
わたくしはルルと同様に、光条様のお姿を確認しに……行きません。ルルがお写真をお撮りしなかったので、わたくしは使用人に命じます。自分で確認など致しませんわよ。わたくしは前世も生粋のお嬢様ですので、ルルのような軽はずみな行動は致しませんのよ。
「…ルル。光条様のお写真は、わたくしにお任せくださいな。隠しキャラかどうかは、わたくしがエリさんにご確認をして参ります。もう…貴方は、余計な行動をなされませんよう…。樹さんに軟禁されても、お助け致しませんわよ?」
「……えっ?…樹さんにナンキン?…樹さんが南京にでも行かれるのですの?」
「………。ち・が・い・ます。軟禁ですわ。監禁では、緩い方の…ですわ。何処かに閉じ込められますよ…と、ご忠告しておりますのよ、わたくしは!」
「………っ!……なっ!?……何で…私が…軟禁ですの!?…私、ヒロインでも何でも…ございませんわよ?!」
「さあ……。わたくしにも…分かりかねますが。ですが、このままですと、ルルが軟禁されるのは、間違いないと思われますわ。それでも…良いのですか?」
「……私が…軟禁!?……ヒロインの役が果たされないから?!…イヤ〜〜!?ああ…。一刻も早く、Newヒロインさん!現れてくださいませ〜~!」
……ふう〜。今日も、ルルは…絶好調ですわね……。
ルルの暴走で、隠しキャラと思われる人物と、初接近となりました。
ルルが…想像以上の天然っぷりを、発揮しています。
ルル次第では、樹さんが…ヤンデレ化しそうですね…。




