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008 苦戦と目覚め

金森さんの怒声を皮切りに、今までゆっくりだった赤ん坊の速度が上がる。

ハイハイくらいの速度だったのが大人の徒歩並みの速さになり

あっという間に僕たちは取り囲まれてしまう。


「いや! いや! こっちに来ないで!!」


「クソ!! こっちくんな!! 気持ち悪い!!」


城ヶ崎さんがヒステリックに泣き叫び、男の子を背負ってるため手が塞がっている金森さんは

近寄ってきた赤ん坊を蹴り飛ばしながら後退してくる。

どんどんと追い詰められていくことに焦りを覚え恐怖から涙がこみ上げてくる。


「仕方ないか」


正立さんが手のひらを地面に向けると、中指に嵌められた黒い指輪が一瞬煌めき

その瞬間黒いアスファルトが細長い棒状に伸び正立さんの手の平におさまる。

アスファルトの棒を地面から引き抜くとその先端は鋭く尖っており、それが槍の形をしていることに気付いた。


アスファルトから槍を作り出した正立さんは穂先を近場の赤ん坊に突き出し勢いよく横に振り抜く。

先端に赤ん坊が突き刺さったままの槍は周りの赤ん坊を巻き込み振り回される。

槍の間合いにいた赤ん坊を一通り片付けると

正立さんは一度強く槍を振り先端に刺さったままの赤ん坊を遠くへと投げ飛ばした。


「あ、あなたそれは一体…」


城ヶ崎さんが正立さんの槍を震える手で指差しながら問いかける。

昔テレビで見たアニメのように、突然地面から槍を作り出した正立さんに全員が唖然とする。


「仕事道具ですよ。みなさんも出し惜しみせずに戦ってください。」


近寄ってきた赤ん坊に槍を突き出しながら、正立さんは咎めるようにこちらを睨む

その言葉に全員が仕事道具の存在を思い出す。


僕はポケットの中にしまっていた三色のガラス玉を取り出す。

赤・青・黄色の綺麗なガラス玉はちょっとした衝撃で割れてしまいそうなほど頼りないものだ。

こんなものでどう戦えというんだろうか。


金森さんも複雑そうな表情でサヤちゃんを見つめている。

彼女が彼に与えられた仕事道具なのだろうが

見た目5歳程度の幼い彼女が戦えるとはとても思えない。


城ヶ崎さんもポケットから取り出したガラスケースに納められたカードの束を複雑な表情で見つめている。

背面にプラスやマイナスクロスに斜線などの記号の書かれたカードは

それ単体ではただの紙束にしか見えない。

彼女の道具もまた戦いにはむいてはいなさそうだ。


そして金森さんの背中で寝息をたてている男の子も

この騒ぎの中起きることもなくすやすやと眠っている。


そんな僕たちを見て正立さんは眉根を寄せる。


「戦えるのは僕だけですか」


苛立ちをぶつけるように力強く槍を振るう正立さん。

正立さんの槍で確実に赤ん坊の数は減っていっているとは思うのだけど

減ると同時にどこからともなく追加の赤ん坊が這い出てくるのでキリがない。


僕たちを背後に庇うように戦い続ける正立さんの息が乱れてくる。

このままではそのうち数に押されて全滅してしまう。


「クソ! 先輩、ちょっとこいつ頼みます。」


金森さんが背負っていた男の子を城ヶ崎さんに預けると

近くに置いてあった設置型の看板を掴み取り赤ん坊へと殴りかかった。

アルミか何かでできている軽い看板がで殴られた赤ん坊は

殴られた部分が少し凹んでいるように見えたが

赤ん坊を倒すほどのダメージではないらしくその歩みを止めることはできなかった


「クソ!! おいメガネ!! このままじゃジリ貧だぞ」


「わかってます、しかし……この包囲を抜けないと逃げることも…」


ずっと一人で戦っていた正立さんは汗だくになり息も乱れ限界が近いことが見て取れる。


「あんたのその槍! 俺にも作れないのか?」


「これは・・・この指輪をつけている者にしか扱えません。

 この指輪も僕にしか使えないのであなたが使うことはできません。」


「クソッ!!」


金森さんは悪態と共に赤ん坊に看板を叩きつける。

しかし赤ん坊はその小さな手で看板を受け止めた。

小さく短い指が掴んだ看板はそのひ弱な手からは想像もできない力でグシャリと握りつぶされた。


無残な姿になった看板を赤ん坊に投げ捨てた金森さんはその場から大きく後退する。


「あいつらとんでもねぇ馬鹿力だ、掴まれたらやべぇぞ」


「群がられて細かく引きちぎられるような死に方はごめんですね」


力なく笑う正立さんの槍捌きが先ほどよりも弱々しくなっている。

正立さんと金森さんが必死に戦ってくれているが、赤ん坊は減るどころか増えているように見える。

このままだとみんなやられてしまう、意を決して手のひらの玉を握り込む。


「うわあああああぁぁぁ!!!」


がむしゃらに握っていた赤い玉を赤ん坊に向かって投げつける。

これもサテュリオンの言っていた仕事道具なのだとしたら

正立さんの指輪のようになにか不思議な力が込められているのかもしれない。

ほとんどヤケクソ気味に投げつけた玉は、ノーコンの僕にしては珍しく真っ直ぐに近くの赤ん坊の額に直撃した。


コーンっと甲高い金属がぶつかったような音が鳴り響く。

赤ん坊に直撃した玉は額から跳ね返り、投げた僕の方へとコロコロと転がり戻ってきた。

脆そうなガラスの見た目とは裏腹に、赤い玉には傷一つついていなかった。

玉が当たった赤ん坊はしばしの間ボーッとしたあと、何事もなかったかのように再び這いずりだした。


「えぇぇ…全然きいてない…」


足元まで転がり帰ってきた赤い玉を落胆の目で見つめ拾い上げようとしたその時


『いっっっっっったあああぁぁぁああぁぁぁいいいいい!!!!!』


甲高い少女の悲鳴が暗い街に響き渡った。

突然の悲鳴にその場の全員が反射的にこちらを振り返る。

玉を拾おうとした中途半端な姿勢で固まる僕は、今の声が自分ではないと必死に首を振った。


『ちょっとだれよ!! 気持ちよく寝てたのに私のこと投げつけたバカは!!!』


声のする方へと視線を向けると

そこにはつい今し方拾い上げようとしていた赤い玉が

怒りを表すようにカタカタと震えながら少女の声を発していた。


『あんたね! 女の子を乱暴に扱うなんてサイテー!!

 男の風上にも置かないわ!! 兄様がここにいたらあんた首と胴がお別れしてたわよ!!』


微かに明滅しながら怒り続けている赤い玉を拾い上げ、手のひらの上に乗せ覗き込む。


「玉が…喋ってる…」


『玉じゃないわよ! リビルキア王国第一王女サーラ・リビルキアよ!!』


「お、王女!?」


『それよりあなた誰よ! ここはどこなのよ! 出がらしクソジジイはどこいったのよ!!』


チカチカと赤い光を明滅させながら赤い玉は口汚く喚き続ける。

あまりの声の大きさに思わず玉を自分から遠ざけると

その行為すらも気に入らないのか罵りの声はヒートアップしていく


『久しぶりに外に出られたのに寝てたら暴行されるわ

 知らない場所にいるわ知らない子供に持たれてるわでもう最悪!』


「少し静かにしてもらえませんか!! 気が散ります!!」


槍を振り払い迫りくる赤ん坊を切り払った正立さんが大きな声でこちらを怒鳴りつける。

疲労と焦りで追い詰められている彼にとってサーラと名乗ったこの玉の声は癪に障ったようだ。


正立さんの怒声に怯んだのか、サーラの罵詈雑言がピタリと止まる。

しばらく黙り込んだ後、気まずそうにあーっと間延びした声を出す。


『もしかしなくてもこれって危機的状況ってやつ?

 事情はよくわからないけど、子供が殺されるのを黙って見てるほど人でなしでもないわ。

 いいわ私が助けてあげる。私を持ってる子、今から言う言葉を復唱しなさい。』


「え?あ、はい…」


フワリと僕の掌から一人でに浮かび上がった赤い玉はその内部の赤い光を螺旋に回転させる


『我願うは原初の炎。リビルキアの炎の象徴たるサーラを手繰り

 這い寄る魔を破壊せよ。原初の炎(サーラ)!!!』


「わ、我願うは? 

 原初の炎…り、リビルキアの炎の象徴たるサーラをた、手繰り?

 這い寄る魔を破壊せよ……原初の炎(サーラ)!!」


先程まで喚いていた耳障りな声とは打って変わって

朗々とした声で呪文を唱えるサーラに続き、辿々しいながらも僕もそれを復唱した。


呪文を唱え終えると、サーラを中心に真っ赤な炎が渦巻き始めた。


『キタキタキタキタァ!!!』


轟々と燃え盛る炎を身に纏い、サーラは猛スピードで赤ん坊の群れの中に飛び込んでいく。

サーラの炎に触れた赤ん坊は瞬く間に全身を炎に包まれ、骨も残らないほどに焼き尽くされていく。

炎の弾丸と化したサーラは僕たちを中心に円を描くように回転し

包囲していた赤ん坊たちを次々に灰に変えていった。

そして気付いた時にはあれほどいた赤ん坊は一人残らず燃やし尽くされていた。


『はぁー! 久しぶりに力が使えて気持ちよかったわ!』


満足げな声を出しながらサーラが僕の手元に戻ってくる。

轟々と燃えていた炎は手元に戻ってくる途中で沈下し、今はただの綺麗な赤い玉になっている。


あっという間に赤ん坊を全滅させたサーラの力にその場の全員が呆気に取られる。

体力の限界を迎えた正立さんはその場に座り込み

路上駐車されていた自転車を振り回していた金森さんも自転車をその場にそっと置き直した。


「た、助かりました…」


「なんだよその玉ころ、めちゃくちゃつぇーじゃねえか。」


『当たり前よ、リビルキア1の炎の魔法使いサーラ様にかかればこんなの朝飯前よ。』


空中に浮かんだサーラは自慢げにそういうと、チカチカと赤く点滅を繰り返した。

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[一言] 物語の中にぜんぜん引き込まれない
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