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007 モンスター

「とりあえず誰か人を探しましょう。」


「こんな異常空間に誰かいるとは思えませんが

 とりあえず全員離れず固まって行動するようにしましょうか。」


この中では年長者である城ヶ崎さんと正立さんが今後の方針について話し合う。

会話の内容に不満はないので僕も小さく頷いておく。


「ゲイル、私はどうすればいい?」


「今のところ彼らと行動を共にするのがいいでしょう。」


僕たちから少し離れたところで乃木さんとゲイルロズが話している。

漏れ聞こえたところによると彼女らも行動を共にするようだ。


「このガキどうするよ、ここに置いてくのもヤベェだろ。」


金森さんがくぅくぅと寝入っている男の子を指差しながら顔をしかめる。


「担いで行くしかないでしょうね、金森くんお願いします。」


「あ゛ぁ? なんで俺が」


「那谷くんは体格から無理そうですし、女性にお願いするわけにはいかないでしょう。」


「テメェが担げよメガネ!!」


「言い出しっぺの法則ですよ、じゃあ皆さんとりあえず人の多そうな所に行きましょうか。」


そう言うと正立さんは西区の繁華街のほうへスタスタと歩いて行ってしまう。

乃木さんと城ヶ崎さんも正立さんの後について歩いていってしまい

僕と金森さんと男の子だけが取り残される。


「・・・・・・。」


「あ、あの…僕が頑張って背負ってみます」


「ガキが変な気まわすんじゃねえよ。」


舌打ちをしながら男の子を背負った金森さんもみんなの後を追って歩き出す。

僕もその後についていく。


「ホッホッホッ!見た目にそぐわず随分と面倒みがよろしいのですね」


「うっせぇ、焼鳥にすんぞ」


「ホッホッホッ!怖い怖い」


背中に男の子を背負い、袖口を棒の刺さった女の子が掴み

今の金森さんは一見すると面倒見の良いお兄ちゃんのように見えた。

それをゲイルロズに揶揄され苛立たしげに舌打ちを打つ


「ところでフクロウさん、あなたはこの状況なにかご存知なんじゃないですか?

 私たちは何に巻き込まれてしまっているんですか?」


前を歩いていた城ケ崎さんがおずおずとフクロウを見上げる。

ニンマリと瞳を歪ませたフクロウが城ケ崎さんの後ろに歩み寄り

真上から覗き込むように体を伸ばし、逆さまになった顔を城ケ崎さんの顔に寄せる


「ゲイルロズ、っとお呼びくださいMs.リカ。

 そうですねあなた方に比べると少しは理解がありますが

 私にとってもこの世界は未知の領域。あまりご期待には添えないかと」


頭上全てを蔽いこむように覗き込まれた城ケ崎さんは涙目になって震えている。

そんな城ケ崎さんを見るゲイルロズはまるで獲物を見るような目で彼女を見ている


「そ、それでもいいです、知っていることを教えてもらえますか?」


「申し訳ありませんが、それは拒否させていただきます。」


先頭を歩いていた正立さんが立ち止まり振り返る。


「それはなぜ」


「未知をただ教えるなど、そんなつまらないことはいたしませんよ」


ホッホッホッと笑い城ケ崎さんの上からどいたゲイルロズは

そのままクチバシを閉ざしてしまう。

これ以上問いただしても無駄だと思った正立は踵を返しまた歩き始める。


「ふざけたフクロウだ」


チッと舌打ちをしながら金森さんがゲイルロズを睨みつける。

そんな金森さんを不安げに見つめる棒の刺さった女の子。

そういえばこの子の自己紹介がまだだった。


「ね、ねぇ君の名前はなんていうの?」


僕がそう問いかけると棒の刺さった女の子はビクリと体を震わせ金森さんの影へと隠れてしまう。


「そういえば俺も知らねえや、お前名前はなんていうんだ?」


「・・・・サヤ」


金森さんが問いかけると、恐る恐る顔を出し蚊の鳴くような声で名乗った。


「サヤちゃんっていうんだ、僕は勇哉よろしくね。

その刺さってるの本当に痛くないの?大丈夫?」


自分よりも小さな女の子だからだろう

さほど緊張もせずスルリと言葉が出てきた。


「…うん、刺さった時は痛かったけど……いまはへーき」


「本当に痛くないんだろうな、ッチ! 誰がこんなことしやがったんだ。気分悪いぜ」


金森さんは背負った男の子を一度背負い直すと眉根を寄せながら悪態をついた。


今サヤちゃんは刺さった時は痛かったと言った。

ゲイルロズは刺さってる状態が健常と言っていたが

彼女の言葉をそのまま受け取ると生まれた時からこの姿だったわけではなく

誰かに害されこのような姿になってしまったと受け取れる。


こんな小さな女の子にここまでの仕打ちをした人がいるのかと思うと気分が悪い。

金森さんもそう思ったから悪態をついているのだろう。


そんなことを話しながら歩いていると

バスターミナルを抜け西区の繁華街へと入った。


「やはり誰もいませんね。」


少し広めの交差点で立ち止まり街並みを見渡す。

見慣れたはずのコンクリートの建物は全て白い輪郭の真っ黒な壁に変貌しており

24時間経営のコンビニや飲食店の店内も電気ひとつついておらず人っ子一人いなかった。


「マジで異世界だとかいうんじゃねぇだろうな、俺夢でも見てるんじゃないのか」


「そんな、非現実的な…」


口々に不安が溢れ誰かいないかとすがるように辺りを見回す。

一本の細い小道へと顔を向けたとき、地面になにか赤い物が落ちていることに気づいた。


「あ、あの・・・あそこになにか」


僕が赤い物を指差しみんなに呼びかけると不意にそれが動いた。

蹲る体勢だったそれが顔を上げ、まん丸な青い瞳と目があった。


それは全身の皮が剥かれた赤ん坊だった。


ぷっくらと丸みを帯びた体は筋肉が剥き出しになっており全身から絶え間なく出血している。

目蓋がないため剥き出しになっている青い瞳は、食い入るように僕を見つめ続け

乳歯も生えていない口を大きく開け僕の方へとその小さな手を突き出してきた。


「ッヒ!? ワアアアアアアアア!!!!」


あまりにグロテスクな赤ん坊に悲鳴をあげると、何事かとみんながこちらへ顔を向けた。


「なっ!?」


「い、いやああああ!!!」


「クソッ!! マジかよ!!」


赤ん坊をみたみんなは僕と同じように顔を真っ青にし驚く。

真っ赤な赤ん坊はそんなことを気にすることなくこちらへと這いずって近寄ってくる。


「げ、ゲイル・・・あれはなに?」


「さあ? なんでしょうね、

 人間の幼体のように見えますが・・・・・あぁなるほど」


乃木さんに縋り付かれたゲイルロズがジッと赤ん坊を見つめ

しばらくすると何かに気づき赤ん坊へと近づいていった。

赤ん坊の目の前まで近づいたゲイルロズは片足をあげると


「ヨッ・・・と」


ぐしゃり


踏み下ろしたゲイルロズの足は赤ん坊の頭を水風船を破るように踏み抜き

真っ暗なアスファルトに血が飛び散った。


「キャアアアアアアア!!!!!」


城ヶ崎さんが悲鳴を上げその場にヘナヘナと力なく座り込んでしまう。

その場の全員がゲイルロズの突然の凶行に言葉が出ない。

ゲイルロズに縋り付いていたため踏み潰された赤ん坊を目の前で見てしまった乃木さんは震えながらゲイルロズを見上げた


「げ、ゲイル・・・?なにして・・・。」


「ご安心ください司。これは人間ではありません。

 多分これがモンスターというやつなのでしょう。」


赤ん坊を踏みつぶした足を上げると、ねちゃりと粘着質な音を立てながら赤い糸が引かれた。

ゲイルロズはそのまま赤ん坊の背中に爪を立て背骨に沿って体を切り開いていく。


「やはり、見てください司。この幼体の体は人間のもとは異なります。

見たところ胃と腸と……肝臓もありませんね。

なんでしょう、背中に小さな突起がありますね。・・・・・羽でしょうか?」


ぐちゃぐちゃと足で器用に赤ん坊を解体していくゲイルロズはどことなく楽しそうに見えた。

目の前でそんなことをされている乃木さんは今にも倒れそうな顔色でゲイルロズに縋り付いている。


「この赤ん坊のようなものがサテュリオンの言っていたモンスター?

 僕たちはこれを倒せばいいんですか?」


いつの間にかゲイルロズの隣に立っていた正立さんが

解剖されていく赤ん坊を興味深そうに眺めながらそう問いかけた。


「恐らくそうなのでしょうね。

 それにしてもMr.マナブ、あなたなかなかに胆力がありますね。」


「受験生ですから」


「受験関係あります?」


淡々と世間話をするように赤ん坊を解体しながら二人は話す。

「それは心臓ですか?」っと赤ん坊を指さしながら訊ねる正立さん

なぜそうも平然としていられるのか、正立さんのことが理解できず背筋が寒くなる。


うっとくぐもった嗚咽を漏らした城ヶ崎さんは口元を手で押さえ

通りの隅まで走るとそこで嘔吐した。


漂ってきた濃厚な血の匂いに僕も何かが込み上がってきた。

口を押さえなるべく赤ん坊を見ないよう視線を逸らした。

そして気づいた、僕たちが歩いてきたバスターミナル方面に

先ほどまでなかった赤い物体が落ちていることに


「あ、あっちにまた!!!」


「ひっ!!  こ、こっちにも!!」


城ヶ崎さんが慌ててこちらへと走って戻ってくる。

先ほどまで彼女がいた場所にも赤い物体、赤ん坊がズルズルと這いずってきていた。


「おいおい、あいつ1匹だけじゃねーのかよ」


周りを見回すと、路地から、空っぽの店内から、建物の屋上、看板の上

あちこちから真っ赤な赤ん坊がこちらを見つめていたことに気づく。

その数はゆうに30は超えている。


「ホッホッホッ、なるほどなるほどポップしたというわけですか。」


「ゲイル、笑ってないでなんとかして!!」


あちこちからズルズルとこちらに這い寄ってくる赤ん坊を避けるように

全員がゲイルロズのほうへと後退する。

先ほど一撃で赤ん坊を倒した彼ならばこの状況をなんとかしてくれるのではないかと思ったからだ。


「ホッホッホッ、わかりましたなんとかしましょう。」


軽快に笑ったゲイルロズは乃木さんを足の上に乗せ

大きな翼を羽ばたかせその場から飛び立つ。


羽音を一切立てずに飛び上がった彼は、高所に設置された看板の上にいた赤ん坊を蹴り落とすとそこに着地した。


「さぁ司、これで我々だけは安全ですよ。」


ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべたゲイルロズが取り残された僕たち見下ろしながら楽しげにそう言いのけた


「あのクソ鳥いいいいいいいい!!!!」


金森さんの怒声を皮切りに、今までゆっくりだった赤ん坊の速度が上がる。

ハイハイくらいの速度だったのが大人の徒歩並みの速さになり、あっという間に僕たちは取り囲まれてしまう。

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