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005 オーナーと仕事道具と結果

「オーナー様は言うなれば派遣会社です。

 私たちがオーナー様に人員の確保と派遣を依頼し

 オーナー様が仕事道具と作業員を提供する。

 作業員とはつまり貴方達のことですね。」


「聞いてないわそんなこと!! あの男はそんなこと何も言ってなかった!!」


「オーナー様方皆さん勝手気ままというか自己中心的と言いますか。

 ま、そこはオーナー様の落ち度ですので私は知りません。」


「そ、そんな…………」


爪を噛んでいた女の子がその場にへたり込み顔を俯かせシトシトと静かに泣き始めてしまった。


「……仕事道具というのはなんですか?」


メガネの男の子は泣き始めてしまった女の子を一瞥した後、サテュリオンへと手を挙げ質問を投げた。


「オーナー様にお会いした時に皆さん何かしら譲り受けてるはずです。それが仕事道具、皆さんの生命線です。」


「これ……ですか。」


メガネをかけた男の子は左手の中指にはめられた真っ暗な指輪をしげしげと見つめる。

あの指輪が彼がもらった仕事道具なんだろうか。


ふと僕がもらったあのガラス玉のことを思い出した。

そういえばあの玉は部屋に置いてきたままじゃないだろうか

サテュリオンに突然拉致されたため僕は何も持ち出すことができなかった。

もしあの玉が僕の仕事道具……モンスターと戦うための道具ならば

今の僕にはモンスターと戦う術がないということになる。


「(ど、どうしよう……)」


内心パニックを引き起こしていた僕の足にコツンと固い何かがぶつかった。

足元を見てみるとそこにはあの三色のガラス玉が転がっていた。


「(どうしてここに?)」


不思議に思いながらガラス玉を拾い上げる。

青と黄色の玉はよく見ていないとわからないほどゆっくりと渦巻いているが

赤色の玉は目に見える速さでグルグルと渦巻いている。


サテュリオンが持ってきてくれたのかと思い彼女をみるが

サテュリオンはメガネの男の子と話していてこちらには一瞥もくれていなかった。

その様子からこのガラス玉のことには気付いていないように見える。


「仕事道具には主に3種類あります。

 眷属(ファミリア)奴隷(スレーブ)魔具(ツール)

 そちらのフクロウさんは眷属(ファミリア)、そこのおチビちゃんは奴隷(スレーブ)に分類されます。」


ニコッと微笑みながらサテュリオンが金森さんの抱える女の子を覗き込む。

女の子は泣いて真っ赤になった目を擦りながら金森さんの胸の中に顔を埋めた。


「3種類あるといいますが、僕の指輪とあの少女。何がどう違うんですか?」


メガネの男の子がまた手を上げ質問した。

いちいち挙手するなんて、やはり彼は真面目な性格のようだ。


「他者に魂を縛られ、自由意志がなくただ消耗されるだけの備品。

 そんな感じの哀れな存在が奴隷(スレーブ)です。」


「消耗……備品?」


思わずといった感じに金森さんが呟く。

その視線は胸元の少女に向けられた。

震えながら抱きついている女の子は悲痛に顔を歪ませた。


「逆に自由意志の元、自由に自分の力を発揮できるものを眷属(ファミリア)と言います。

 大体がオーナー様所有の使い魔だったりします。」


そう説明されたフクロウはその大きな瞳を細め笑っている。


「最後に魔具(ツール)ですが、まぁこれはそのまま特殊な能力を持った道具のことです。

 決まった手順と使い方で誰でも能力が行使できるものです。

 あなたの指輪なんか判りやすく魔具(ツール)ですよね。」


僕は手元の三色のガラス玉へと視線を落とす。

これは多分魔具(ツール)なんだろう、でもこれをどう使うのかはわからない。

掌でコロコロとガラス玉を弄んでみるがなんの反応もない。


決まった手順と使い方を知らないと宝の持ち腐れなのではないだろうか。

あの白い腕は何も教えてくれなかったが

自分で模索して使い方を見つけろってことなのか……

サテュリオンの言う通り、オーナーというのは身勝手で適当だ……


「仕事道具を使ってモンスターを倒す

 モンスターを倒してポイントを稼ぐ

 毎月ポイントをノルマ分まで稼ぐ

 それが僕たちがこの世界でやることですか?他に何かありますか?」


「いえ、それ以外は特にありません。」


ふむと腕を組み考え込んだメガネの男の子

しばらく目を閉じ考え込んだ後、目を開く。


「今までの話を聞いてた限り

 無理やり連れて来られた僕たちがモンスターと戦う理由が見当たりません」


「は?」


「それぞれがオーナーからどのような話をされたのか知りませんが

 ここにいる全員の顔を見るにモンスター退治に同意してここにいる人はいないでしょう。

 ならばそんな貴方達の事情など無視してボイコットすればいい」


笑顔のまま目をまん丸に見開いて固まっているサテュリオンをメガネの男の子は鋭い視線で睨みつける。


「あなたが僕たちの事情など知らないと投げ出すのであれば

 こちらもそちらの事情など知ったことかと投げ出すだけです。」


「え……えぇ……ちょっとこのパターンはマニュアルになかったですね…」


ガリガリと後頭部を掻きながらサテュリオンは空を見上げる。

心底面倒くさいといった顔でうんうんと悩みこんでいる。

これはもしかしてうまいことことが進むんじゃないかと僕は期待した眼差しを向ける。


「あぁ……まぁいいか……。」


はあっと大きなため息と共にサテュリオンが俯く。

腕をだらんとぶらつかせ体を小さく左右に振りながらあぁぁぁっと呻き声をあげている。


「仕事をするしないも貴方達次第ですもんね。いいですよそれで」


「・・・・ほんとうに?」


俯いて泣いていた爪を噛んでいた女の子が生気の戻った顔でサテュリオンを見つめている。

しかしメガネの男の子の表情は暗いままだ

嬉しくないのだろうかと彼を見つめていると、巨大なフクロウが嘴を開く


「それで? ボイコットした先には何があるんですか?」


大きな瞳をギョロギョロと動かしながら、笑みを含んだ声で問いかける。


ピタリとサテュリオンの揺れが止まる。

そしてクツクツと笑う声が聞こえてきて突然体を起こし大爆笑をはじめる


「アッハッハッハッハッ!! さ、さすが眷属(ファミリア)

 しゅ、趣味がクックックッ……あ、合いますねアッハッハッハッハッ!!」


身体をのけぞらせ天に向かって大笑いをするサテュリオン。

突然大笑いを始めたサテュリオンに度肝を抜かれ惚けた顔で固まってしまう。

今の話のどこがそんなに面白かったんだろう…


笑いすぎて目尻に涙を浮かべたサテュリオンがようやく笑いを止めた。

笑いすぎて痛めたのか片手でお腹を押さえている。


「ヒッヒッヒっ……す、すいませんつい……。それでボイコットの先でしたよね?」


「ボイコットの先、僕たちがモンスターと戦わなかった場合ということですよね?

 …………なにがあるんですか?」


メガネをかけた男の子が切羽詰まったようにサテュリオンに問いかける。

先程まで律儀に手を上げてから質問していたが今度は手を上げていない。


「ボイコットの先、ノルマ未達成つまりは契約未履行の場合ですがペナルティが発生します

 この場合のペナルティとは契約対価の没収になるんですが

 これはオーナー様が対象となります。」


「そ、そんなの勝手に没収すればいいじゃない!私たちには関係ないわ!」


「ですよね、ですよね。貴方達にはなーんの関係もありませんよね」


ニヤニヤと笑いながらサテュリオンが爪を噛んでいた女の子に近づき肩を掴み顔を寄せた。

鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を寄せられた女の子は恐怖に顔を痙攣らせる。


「でも関係あることもあるんですよ」


囁くような声でサテュリオンは楽しげに笑う。

パッと女の子から手を離したサテュリオンはクルクルと周りながら手を広げる。


「なんのために貴方達にモンスターを倒してもらうと思います?

 なんのためにモンスターからポイントを稼ぐと思います?

 なんのためにノルマなんてものが定められていると思います?」


クルクルと踊るように回り続けるサテュリオンは歌うように僕たちに問いかける。

真っ暗な世界にサテュリオンの紫色の髪の毛がサラサラと流れては回る。


「ノルマ未達成の場合、それによって引き起こされる現象があります。」


くるりと一度大きく回ったあと、サテュリオンは回るのをやめ、後ろ手でこちらに振り向く


「現象とは…?」


メガネをかけた男の子が緊張を含んだ声で問う

サテュリオンはニヤリと笑い口を開く



「この街の消滅です。」


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