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004 裏世界

昔読んだ絵本がある。

主人公の男の子は友達と喧嘩をしてしまい

それを見かねた幼稚園の先生が二人を真っ暗な押し入れの中に閉じ込める。


押入れは暗闇の国に繋がっていて

暗闇の女王が押入れに閉じ込められた男の子達を不法入国罪で処刑しようと追いかけてくる。


男の子二人は助け合いながら暗闇の国の中を逃げ回る。

最後は押入れから逃げ出すことができて、暗闇の女王は悔しがるっという話だったと思う。


幼稚園生だった僕はこの話が怖くて先生が読んでくれている最中ずっと先生にしがみついていた。

最後のページに描かれていた暗闇の女王の悔しそうな顔は今でも記憶に残っている。

そんな昔読んだ絵本のことを思い出した。




「ようこそ、裏世界へ」



女の人の声でハッと我に帰る。

辺りを見回すと、そこは僕の部屋ではなく真っ黒な広場だった。

ここには見覚えがある、町の中心にある駅前のバスターミナルだ。

だが僕が知っているバスターミナルとは大きく違っている。

全ての物が墨で塗りつぶされたかのように真っ黒で

白い線で輪郭が描かれていることでそれがバスだったりベンチだったりと認識できている。

まるで現実のバスターミナルを切り絵で描いたような不思議な空間だった。


ふいに女の人が僕の襟首から手を離す。

お尻から硬いアスファルトに落ちた僕は、ゴリっという嫌な音と共にお尻に痛みが走る。


「ッ!! 痛っ!?」


「はぁ〜いつまでも持ってるのはしんどいんですよ〜」


そう言って肩を回す女の人はどこか芝居臭い。

僕は半目で女の人を睨みながらお尻をさする。


「その子が最後の一人ですか?」


突然女の子の声が投げかけられる。

声の方を向くと六人の子供が立っていた。

六人はそれぞれが不安そうな表情をしており、おそらく僕と同じように突然連れてこられたのだと思う。


「はい〜。この子が最後ですよ〜。」


女性がにこやかに僕の肩を掴みながら子供達に僕を紹介する。

そのまま肩を押しやられ、六人の子供の中に押し込まれた。


「はい、それでは六人揃ったところでルール説明を始めさせてもらいます!

 はい!拍手ー! パチパチパチパチ!」


ニコニコ笑いながら楽しそうに拍手をする女性、そんな彼女を見て子供のうちの一人が怒声をあげた


「んなことどうでもいいんだよ!! それより早く救急車を呼びやがれ!!」


大声に驚き体が跳ねる、声の主の方を見ると茶髪の男の子が地面に膝立ちになりながら怒鳴っている。

黒い学ランを着た一見して不良に見える男の子は5歳ほどに見える小さな女の子を横抱きにしている。

その女の子を見た瞬間、僕の口から小さくヒッと悲鳴が漏れる。


女の子の右目には何かの取手のような長い棒が突き刺さっていた。

目だけではない、背中にも何十本も同じような棒が刺さっているし、胸元にも他より少し太めの棒が飛び出している。

よく見るとその棒には滑り止めのための布のような巻きつけてあり、それは何かの持ち手のようにも見えた。


一眼見て重傷とわかる状況に反して

女の子は困ったように男の子を見上げ、その瞳にはこぼれ落ちそうなほど涙がたまっいる。


「救急車ぁ? ここにはそんなものありませんって。」


「バカ言うな! こいつ…こんな……早く医者に見せねえと!!」


「私…大丈夫だよ?」


「大丈夫なわけねえだろ!! いいからお前は黙ってろ!!」


男の子に怒鳴られて限界を迎えたのか、女の子はポロポロと涙を流し始めた。

飄々と躱す女の人と獰猛に噛みつき続ける男の子の言い合いがギャンギャンと続く。

どうすればいいのかわからずオロオロとしていると

スッと視界の外から突然茶色のモフモフした物が割って入ってきた。


「こちらも暇ではないのですが、いい加減にしていただけませんか?」


バサリと大きな翼を広げ苛立ちを仄かしたモフモフは巨大なフクロウだった。

3mはありそうな体高に、僕の頭よりも大きな目玉が二つギョロリと二人を睨みつけている。

その足元には六人の子供達のうちの一人、僕と同い年くらいの少女が立っている。


さっきまでこんな大きなフクロウどこにもいなかったのに、一体どこから現れたのだろうか。


「思うにそちらの……えっとMr.?」


「………金森伸也」


「どうも、Mr.シンヤはどうも勘違いをなさっていると思われます。」


フクロウの足が金森さんが抱えている女の子へと伸び、その鋭い爪で女の子の服を引っ掛け持ち上げた。


「お、おい! テメェ!!」


「落ち着いてくださいMr.シンヤ。

 あなたはこれを人間と思っているようですがそれは違います。

 これは奴隷(スレーブ)、人間ではなくただの道具です。

 これが正常なのですよ」


そういうとフクロウは女の子を金森さんへと投げ返した。


「そこらへんの説明もこちらのレディがしてくれるはずですので

 とりあえず今は黙って話を聞いていただけますか?」


「・・・・・・。」


「いや〜ハッハッハッ! わざわざどうも」


女の人はフクロウに軽く頭を下げお礼を言う。

頭を下げた女の人を一瞥したフクロウは足元の少女ごと元の位置へと戻っていく。


「では邪魔が入りましたが改めましてルール説明を。

 申し遅れました私の名前はサテュリオン、気軽にリオンちゃんって呼んでくださいね。」


キャピッと可愛らしいポーズをしながら自己紹介をしたが、彼女に応えるものは誰もいなかった。


「ノリが悪いですね皆さん……まぁいいでしょう。

 まず先ほども言いましたがここは貴方達のいた世界とは違う異世界……ってほど別ではないんですが

 まぁ裏世界と呼ばれる世界です。」


「異世界? 裏世界? そんな馬鹿なこと……」


僕の隣に立っていた、僕より少し年上に見える女の子が爪を噛みながらポツリと呟いた。

唇は真っ青で顔色も悪い、カリカリと爪を噛んで不安を押し殺しているように見える。


「この裏世界は貴方達の世界……便宜上表世界と呼びますね。

 表世界の午前0時から午前5時の5時間だけ行き来することができます。

 その間に貴方達にお仕事をしていただきます。」


「仕事とはなんですか?」


メガネをかけた、僕より年上に見える男の子が手を上げながら質問する。

サテュリオンはその男の子に向かって指を刺しはいっと応える。


「仕事内容はズバリ! モンスター退治です!」


「モンスター……?」


指をさされたままのメガネの男の子が怪訝そうな顔をする。

たぶんこの場の全員がそんな顔をしているだろう。

モンスターなんているわけがない、何を言っているんだろうかっと。

その時後ろからホッホッホッと笑う声が聞こえ振り向く。

そこには体長3mに届くか届かないかの巨大なフクロウがニヤニヤ笑いながらこちらを見つめている。


あんなに大きいフクロウがいるならもしかして……

モンスターの存在を信じ始め不安に駆られた僕は胸元をギュッと握りしめた。



「この裏世界にはランダムにモンスターがポップします。

 皆さんはそのモンスターを倒してポイントを稼いでいただきまーす!」


そう言うと、サテュリオンは地面に手を沈めズルリと引き抜く

その手には細長い液晶ディスプレイが掴まれていた。

ディスプレイには6つの名前とその横に0と数字がかかれ

一番下には『今月のノルマ』の項目がありそこには10,000の数字が書かれている。


「これはお仕事、お仕事にはもちろんノルマが存在します!

 個人が稼いだポイントと残りノルマはこれで確認できますからね〜。

 キチンと確認してください。」


「そのモンスターとやらを倒せばどのくらいポイントがもらえるものなんですか?」


メガネの男の子がまた律儀に手を上げながら質問をした。


「あぁ、う〜ん……モンスターによってマチマチなんですよね。

 一番弱いやつで10ポイントとかだったと思います。強ければ強いほど高得点になりますね。」


「モンスターの強さというのがよくわかりません。

 それは僕たちのような子供でも倒せるようなものなんですか?」


「えぇ〜人間の強さなんて知ったこっちゃないですよ。

 一番弱いので貴方達とどっこいどっこいなんじゃないですか?

 たぶん? 恐らく? 知らないけど?」


液晶ディスプレイにもたれ掛かりながら面倒臭そうに応えたサテュリオンに、メガネをかけた男の子の視線が鋭くなる。


「い、一番弱いので私たちと同じくらいって……

 じゃあ強いやつが出てきたら勝ち目なんかないじゃない!!」


爪を噛んでいた女の子がヒステリックに叫ぶ。

僕も同感だった、なんせ僕は喧嘩の一つもしたことがない。

運動は人並みにできるつもりだけど、その程度でモンスターなんかと戦えるわけがない。

仮にあのフクロウと戦ったとしても、傷の一つも負わせられない自信がある。

それどころかあの鋭い爪で一瞬で八つ裂きにされるだろう。


死ぬ


今更ながら自分の命の危険を感じ、胸元を握りしめている手に力が籠もった。

 

「こちらとしてもせっかく集めた人員が早々に全滅するのは好ましくありません。

 ですからそのためのオーナー制度です!皆さんもうすでにお会いしましたよね?オーナー様に……」


キュッと喉が締まる。

オーナー、その言葉に真っ白にひび割れたあの腕が頭をよぎった。











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