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022 本性

「そんなに怒らないでくださいよ、司」


「あの事は秘密にしてって!!」


「ホッホッホッ! 司、そういうのは契約の時に言わないとただの口約束ですよ」


「あんた……」


ギリリっと音がするほど乃木さんが歯を噛み締める。

よっぽどそのことを僕たちに秘密にして置きたかったようだが、ゲイルロズがあっさりとバラしてしまった。

だけど突然の話に僕たちはついていけていない


「待ってください、二人だけで話さないで。まず対価や契約とはなんですか?」


睨み合う乃木さんたちを手で制しつつ正立さんがゲイルロズに問いかけた。

感情のままに怒っている乃木さんよりもゲイルロズのほうが話してくれそうだと判断したんだろう。


「私が与え、司が対価を支払う。そういう契約を結んだだけです。」


「乃木さんは何を求めて、そしてあなたに何を支払ったんですか?」


「ホッホッホッ! 簡単なことです。司は戦う力を欲しました。そして私は与えました、転身を」


転身と聞いて昨日の夜のことを思い出す。

乃木さんとゲイルロズが半分ずつ混ざったような異形の姿。

昨日彼女が変身する時確か転身と呟いていた気がする。

あの姿が乃木さんが戦うために与えられたものだとしたら、代わりに彼女は何を差し出したんだろうか。


「転身って……昨日の乃木ちゃんのあの姿のこと?」


「そうですよ、Ms.リカ」


「あの……乃木ちゃんと合体するのがあなたの力ってこと?」


「一つのことにしか使えない魔具(ツール)や使われないと力が出せない奴隷(スレーブ)と同じ尺度で話されるのはいささか不愉快ですね。……私は眷属(ファミリア)、偉大なるフレズベルク様の10の翼の1翼。転身は司の対価に見合った力なだけで私の力の全てというわけではありませんよ」


「ではその力の対価とはなんだったんですか」


「それを私の口から言うのは少し卑怯ではありませんか? ……ねえ司」


名前を呼ばれた乃木さんの体がビクリっと大きく跳ねる。

全員の視線が乃木さんに集まったことで観念したような顔をして重たい口を開いた。


「私……」


小さく呟き、少し言い淀むように続けた言葉に息を呑んだ。


「の死体」


「え・・・。」


「だから、私の死体を対価に力をもらったって言ってるの!!」


シーンっと静寂がその場を包む。

死体を対価にってどういう意味だ? だって乃木さんはここに生きてるじゃないか。

訳がわからないが乃木さんは顔を俯かせて説明してくれそうにない。

乃木さん以外に事情を把握しているだろうゲイルロズに視線を向けると目があった。

困惑する僕を楽しそうに見た後、どことなく嬉しそうな声で話し出した。


「転身の対価は司の死体です。ですがそれは殺して死体にするというわけではありません。あくまで司が死んだ後の遺体の所有権を対価にいただいたということです。」


「ど、どうしてそんなものを……」


「もちろん、食べるためですよ」


サラッと恐ろしいことを言ったゲイルロズに背筋が凍った。

城ヶ崎さんも正立さんも顔を強張らせている。


「た、食べる……? あなた、人間を食べるの?」


「えぇ食べますよ。この体ですからねネズミや小動物なんかではなかなか満たされないのですよ」


目を細め恍惚な表情で何かを咀嚼するように嘴を開閉させるゲイルロズに彼が人を頭から丸呑みにする姿を連想してしまった。

人喰いの化け物なんて御伽話や作り話の中だけかと思ったが、実際目の前にすると足が震えてきた。


「あぁ……楽しみですね、司。あなたはどう生きてどう死ぬんでしょうか。仲間たちと力を合わせ困難に打ち勝ち幸せに人生を終えるんでしょうか。それとも仲間に裏切られ捨てられて無残に嬲り殺されるんでしょうか」


カチカチと嘴を鳴らしながらもう目を閉じているんじゃないかというほど目を細めたゲイルロズが楽しそうに語る


「それでも司、あなたの死後はもう決まっています。私です、私があなたの最後を啄むのです。木偶共でもなく、阿婆擦れでもなく、他の翼共でもなく! フレズベルク様でもない!!! 私が!! 私だけがあなたを啄むのです!!!」


穏やかに話していたゲイルロズは段々と語気を荒げていき最後のほうはまるで脅しつけるように乃木さんに詰め寄って叫んでいた。


「誰にも渡しはしない!! 司!! おまえは私のものだ!! もう私のだ!! 誰でもない!! 私!! 契約したからな!! 私が啄む!! 内臓を眼球を脳髄を!! その矮小な肢体を啄み抉り咀嚼する権利を持つのは私だ!!!」


豹変したゲイルロズに乃木さんも僕たちも言葉が出ない。

紳士的にしかし常に僕たちを見下し続けていたこのフクロウの本性を垣間見て単純に恐怖した。

理性的な言葉の裏に獰猛な獣欲を隠していたことがただただ怖かった。


目を血走らせ息を荒げるゲイルロズは獲物を前にした獣のようで、ピクリとでも動いたらその瞬間襲い掛かってきそうで動くことができなかった。

ふぅふぅと息を荒げるゲイルロズの声だけが聞こえる中、不意に息を整えたゲイルロズがいつものように三日月状に目を歪ませた。


「っというわけで、私が何かを与える時は対価が必要になります。それが力であっても情報であってもです。」


スイッチを切り替えたかのようにいつも通りに戻ったゲイルロズに恐怖や戸惑いよりも気味の悪さを感じた。

ダメだこいつは信用してはいけない。

心の奥底からゲイルロズに対する警鐘が鳴り響くのが聞こえた。

人間とは全く違う、人間を食べて見下すこの生き物とわかりあえることはきっとない。

それを早めに理解できたのは幸運だったかもしれない。


『ユウヤ……』


いつの間にか僕の真横に来ていたサーラが警戒するような声で呼びかけてくる。

わかってる、多分考えていることは一緒だと思う。

ゲイルロズと僕たちの間にチリチリとした空気が漂い緊迫した雰囲気になる。


「いやはや、失敗しました。つい感情的になってしまい申し訳ありません。」


警戒する僕たちを見たゲイルロズが失敗、失敗と軽い調子で呟いた後ペコリと頭を下げた。


「確かに私は司を食べます。ですがそれは殺して食べるということではありません。司が死に魂なき骸を食べるだけです。貴方達は人が死ぬと燃やして灰にしますよね? それと同じです。鳥葬なんて文化もありますし、食べることは私なりの弔いだと思ってください」


「弔いって………ねぇ乃木ちゃんは本当にそれでいいの?」


「いいわ」


乃木さんは即答した。

ゲイルロズの言葉に怒ったり面食らってたりしたが、すでに落ち着きを取り戻していた彼女は迷うことなく答えた。


「死んだあとのことでしょ、なら私には関係ないわ好きにすればいい」


「で、でもそんな……自分を食べさせるなんて」


「死んだらただの肉よ。腐って果てるよりも食べられて血肉になったほうが有意義でしょ」


淡々と答える乃木さんに城ヶ崎さんは苦しそうな顔をしながらも言い募る


「でも! 遺体も残らないなんてご家族がどんなに悲しむか……」


「悲しむ奴なんかいない!!!」


城ヶ崎さんの言葉を遮るように乃木さんの怒声が響いた。

ギッと突き刺すように乃木さんが城ヶ崎さんを睨みつけ、迫力に押された城ヶ崎さんが一歩後ずさった。


「あんたいったいなんなのよ」


後ろへ下がった城ヶ崎さんを追いかけるように乃木さんが一歩詰め寄る


「昨日もそう、私が心配だったって言ったわよね」


城ヶ崎さんがまた一歩退がり、同じだけ乃木さんも詰め寄る。


「何も知らない他人が私のことが心配だって? 冗談言わないでよ」


「ちがっ……私は……」


「偽善者」


偽善者と呼ばれた城ヶ崎さんの体がビクリっと跳ねる。


「本当は心配なんてしてないくせに」


「そ、そんなこと……」


「あんたが怖いのは他人のことを気遣えない自分を知られることでしょ」


城ヶ崎さんはヒュッと息を飲み、目を見開かせ口元がワナワナと震えはじめた。

それは知られたくないことを知られてしまったかのような反応だった。


乃木さんの気迫に押された城ヶ崎さんはそのまま壁際まで追い詰められ、壁に背をつけてズルズルとへたり込んでしまった。

座り込んで視点が下がった城ヶ崎さんが乃木さんを見上げる。


「私あんたみたいなやつ知ってるわ」


「やめて……」


「自分の気持ちより優先するのは他人の目」


「いや……」


「仲間外れが嫌で他人の顔色ばかりうかがって、他人が欲しがってる言葉が何かをいっつも考えてる姑息なやつ」


「ッ……」


「他人の弱い部分を気遣ったふりをしてその場しのぎの慰めの言葉をかけてあげる私偉いって悦に浸るの、楽しいわよね、気持ちいいわよね」


「・・・・・。」


「あんたここに来てなんかやった? あの不良だって戦うために武器を持ってきてたわよ」


「わ、わたしだって……」


「自分のできることをしようとしたって? それが戦えない子供の面倒を見るだけならさぞ楽だったでしょうね」


「そ、そんな……」


乃木さんの言葉の刃が容赦なく城ヶ崎を傷つけていく、まずい雰囲気だと二人を止めようとしたら逆に正立さんに止められた。


「待ちなさい」


「正立さん?」


「ストレス……撃鉄となるかもしれない……」


ポツリと呟いた言葉の意味がわからず正立さんを見上げるが、真剣な表情で二人を見つめるばかりで動こうとしない


「独りよがりの偽善者、私はあんたみたいなやつが世界で一番嫌い。大嫌いよ」


忌々しげに城ヶ崎さんを見下ろした乃木さんからハッキリとした拒絶の言葉を向けられて城ヶ崎さんの目から涙が溢れる


「なんで? どうして……わたしはあなたを思って……ひどいよ、そんなこと言うなんて」


「自分勝手の上辺だけのお節介焼きが悲劇のヒロイン気取らないでくれる? はっきり言って見るに耐えない」


「そ、そんなこと……なっ……い」


ひっくひっくと嗚咽を漏らしはじめた城ヶ崎さんが俯いて自分の爪を噛みはじめた。

初日のときも爪を噛んでいたけどあれはきっと城ヶ崎さんのストレスが高まったときの癖のようなものだ。

つまり今の城ヶ崎さんは突然裏世界に放り込まれた時と同じくらいのストレスを感じているということだ。

本当に止めないとまずいと思った時


「なんで! どうして!! あなただって不安で怖いだろうから! 私……我慢して頑張って! みんなを不安にさせないようにって頑張ってたのになんでそんなこと言われないといけないの!!」


俯き地面に向かって半狂乱で叫び出した城ヶ崎さんの声で踏み出そうとした足が止まる。


「なんで私だけが頑張らないといけないの! 他のみんなは自分のことばっかりで!! だから私は他人のことを考えて……。もういや!! 私だって好きでこんなことしてるわけじゃないわよ!! 今だって怖い、辛い、帰りたい! なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの!! 私何か悪いことしたの!? どうして…もうやだ!! 帰りたい!! こんなのもういやよ!!」


いやいやと頭を振りながら今まで溜め込んでいただろう不満や弱音を叫び続ける城ヶ崎さん


城ヶ崎さんの叫び、それは僕たち全員の本音を代弁しているようだった。

突然連れてこられた裏世界、訳もわからず戦うことを強要され、気持ちの悪いモンスターから襲われる恐怖。

みんな心の中で思っているはずだ、どうして自分がこんな目に合わないといけないのかと。


こんなところに居たくない、家に帰りたい

みんなが口に出さず心の中に仕舞い込んでいた本音を城ヶ崎さんは喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。


「もういや!! 誰か私を助けてよ!!」


城ヶ崎さんが一際大きな声を張り上げたその時、僕たちの足元に並べておいてあった白紙のカードの内、三枚が何かに弾かれるように飛び上がった。


ギョッと驚いて一歩後ろに下がる。

弾き飛んだ三枚のカードは空中に浮かび、ゆっくりと横方向に向かって回転している。

その場にいた全員がカードに注目している中、白紙だった表面にジワジワと文字と絵が浮かび上がってきた。



PAST(過去) POSITIVE(ポジティブ) GUARDIAN(ガーディアン)

PAST(過去) NEGATIVE(ネガティブ) PRESSURE(プレッシャー)

FUTURE(未来) NEGATIVE(ネガティブ) UNWANTED(望まぬ) LIFE(人生)


1枚目のカードには黒くて大きな犬と小さな少女が

2枚目のカードには椅子に座る少女が黒い何かに囲まれ見下ろされている絵が

最後の3枚目のカードには鎖のついた首輪に引かれて歩く涙を流す女性が描かれている。


「………ランバート?」


涙で濡れた瞳で1枚目のカードを見た城ヶ崎さんがポツリと呟いた。

その瞬間1枚目のカードが突然激しく光だした。

目を刺すような光に思わず目を閉じてしまった。


目蓋越しに光が収まったのを感じ取ったあと、恐る恐る目を開ける


「えっ……」


目を開けると城ヶ崎さんを守るように彼女の前に立ち、歯を剥き出しこちらを威嚇している大きな黒い犬がいた。









水着アビー引きました

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