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021 三日目

「わあああぁぁぁぁ!!!!」


「お、おおぉぉぉぉぉぉ………」


「正立さんもっと! もっと声出してください!」


「え? あ……はい…………おおうおおおぉぉぉぉ!!!」


今僕と正立さんは北区を大声を上げながら走り回っている。

正立さんは声を出すのが恥ずかしいのか少し顔を赤くしながら思いっきり叫んで走っている。

僕だってこんなこと恥ずかしい、でもここには僕たち以外誰もいないのだからと今は開き直って思いっきり叫んでいる。


「ッ!! 那谷くん来ました!」


「はい!!」


叫び回って数分したら僕たちの後ろから皮のないグロテスクな見た目の赤ん坊が這いずりながら後を追ってきた。


初日のあいつらの行動から視覚と聴覚でこっちを察知してると正立さんが予想していたが、それは正しかったようだ。

僕たちがチマチマと探し回るより、こうして大声を上げて走り回っていたらあちらから勝手にやってきてくれた。

一匹現れたら釣られるようにぞろぞろと赤ん坊がポップし始めた。

脇の小道から、ビルの窓から、ちょっとした物陰から、次から次へと赤ん坊が現れ僕たちの後をついてくるのでちょっとした大名行列みたいになってきた。


それでも僕たちは声を張り上げることをやめず事前に打ち合わせしておいたポイントまで走る。

チラリと後ろを見ると30匹近い赤ん坊が一目散に僕たちに向かって這いずってきていた。

でも昨日のように翼を生やした赤ん坊は1匹もいない。

やはりあれは空を飛んでいた乃木さんを見たから羽を生やしたんだろうか。

そんなことを考えながら走っていると、目的地だった周りをビルに囲まれた小さな袋小路へとたどり着いた。


「こっちです! 早く!」


袋小路に一つだけあったビルの裏口から城ヶ崎さんが焦ったように手招きをしている。

後ろを振り返る余裕はないが、ベタベタと這いずる音がとんでもない数聞こえるから後ろは大変なことになっているんだろう。


開け放たれていたビルの裏口へと飛び込み慌てて扉を閉めた。

直後にドンドンドンと何かが扉にぶつかる音がして扉の表面がボコボコに凹んだ。

正立さんが扉の横の壁を触ると、扉を塞ぐように壁が変形して扉を完全に封鎖した。


「那谷くん」


「はい、我願うは原初の炎。リビルキアの炎の象徴たるサーラを手繰り

 這い寄る魔を破壊せよ。原初の炎(サーラ)!!!」


僕が呪文を唱えると直後に壁の向こうからゴォーっというバーナーから火が吹き出るような轟音が響いた。

轟音は十数秒間鳴り続け、しばらくすると静かになった。


音がしなくなったのを確認した後、僕と正立さんと城ヶ崎さんはビルの二階へと上がった。

裏口の真上にある部屋に入ると赤く輝くサーラと窓の外を覗き込む金森さん、サヤちゃん、日泉くん、乃木さん、ゲイルロズがいた。


「おう、お疲れさん那谷、まっさん、先輩」


部屋に入ってきた僕たちに気づいた金森さんがこっちを見て軽く手を振る。

その様子に正立さんがムッと眉間にシワを寄せた。


「城ヶ崎さんは先輩でどうして僕はまっさんなんですか」


「あぁ? 理由なんか特にねーよ、なんか呼びやすいから?」


「ではまっさんはやめてください、なんだか不愉快です」


「はぁ? 細かいこと気にすんだな、わかったからそんな嫌そうな顔すんなよ」


苦笑しながら金森さんが正立さんの背中をバンバンと叩くが正立さんは口をへの字に曲げ腑に落ちないような顔をしている。

そんなことより外の様子が気になった僕はみんなが見ていた窓から外を見た。

よし、作戦成功だ。


僕たちが考えた作戦は単純で

探し回るよりも誘き出してまとめて倒してしまおうっというものだった。

今までは赤ん坊に突然襲われたり赤ん坊がいた場所へ駆けつけたりでいつもこちらが万全ではない状況で戦っていた。

それでは戦いにくいし、なにより危険だった。

そこで聴覚でこちらを察知してるらしい赤ん坊を大声で呼び寄せて、逃げ場の少ない袋小路に誘き出し上からサーラに一気に燃やしてもらったわけだ。

結果は見ての通りの大成功だ。


狭い袋小路には真っ黒に燃えた赤ん坊の残骸があちこちに転がっている。

僕たちが入った裏口に殺到していたのか、裏口周りは山のように積み上がった赤ん坊の死体で完全に塞がっている。

もしあの数をまともに相手にしていたらと思うとゾッとする。


あれだけの赤ん坊を全員無傷で、しかも一方的に倒せたことでみんなの顔色は明るい。


「作戦うまくいったじゃねえか」


「はい! この方法なら安全にポイントを稼げそうです。」


「ただここはもう使えないわ、似たような別の場所を探さないと」


「次! 次は俺と不良のにーちゃんが誘き出す担当な!!」


「はい、事前に決めた順番でやっていきましょう。次の場所についても検討をつけてあります。皆さんついてきてください」


正立さんが先頭に立ちみんなでビルの外へと出る

裏口ではなく正面の広いエントランスから外へ出る。


ここは街の北側、市庁舎を中心にした巨大なビジネス街だ。

この街に住んでいたら誰でも知っているような大企業や、名前を聞いても何をしている会社なのかわからない小さな会社まで様々な会社がここに集まっている。

僕のお父さんもここ北区で働いているはずだ。


僕たちが作戦に使ったビルもよく知った企業のビルだった。

確かインスタント食品を売ってる会社だったはずだ。


正立さんが朝のうちに作戦に使えそうなところを調べていてくれたおかげで迷うことなく次の作戦に使えそうな場所へたどり着いた。

さっきと同じ周りをビル壁に囲われた小さな袋小路で、上からサーラが一気に燃やすのに最適な場所だ


「じゃあちょっくら行ってくるわ」


「不良のにーちゃん! はやく! はやく!!」


「ちっとは落ち着けよバカガキ」


日泉くんに急かされうんざりしたような顔をした金森さんが表通りのほうへと歩いていく。

そんな二人の後ろ姿をサヤちゃんが心配そうに見送った。


今回サヤちゃんは僕たちとお留守番だ。

サヤちゃんは金森さんの仕事道具だが彼女は外見以外はただの普通の女の子だ、ついて行ったとしても危険しかない。

サヤちゃんは金森さんと離れたがらなかったが、金森さんがここで待ってろとぶっきらぼうに言うと渋々従ってくれた。


金森さんたちの姿が見えなくなってもサヤちゃんは二人が向かった先をジッと見つめ続けたが、城ヶ崎さんが手を握って軽く引っ張ると抵抗なくついてきてくれた。



僕たちは先程と同じようにビルの一つに入り、袋小路が見下ろせる窓のある部屋に待機することになった。

僕と正立さんは10分くらい走り回ってあれだけ集められたが、金森さんたちはもっと時間がかかると思う。

目立つところにいた赤ん坊は僕たちが集めてしまったので、二人は今北区の角のほうを中心に走り回ってるはずだ。


二人が戻ってくるまで暇を持て余してしまった僕はさてどうしようかと部屋の中を見回す。

どこかのオフィスビルの一室であるここはコンピューターが置かれた机がズラリと並んで置いてある。

これが本物のコンピューターであればもしかしたら何か暇つぶしになったかもしれないが、コンピューターは周りの壁と同じ真っ黒な素材でできており電源ボタンを押してもなんの反応もない。

その他にも部屋の中にあった本棚を調べてみても、中身が真っ黒な本や同じく真っ黒なファイルしか見つからず暇つぶしには使えない。


部屋の探索が無意味に終わって肩を落としていると、城ヶ崎さんがカードのようなものを床に並べているのが見えた。

僕以外のメンツもその様子を眺めていたので僕もその中に混ざる。


「何をしてるんですか?」


「あぁ那谷くん。このカードが私の仕事道具なんだけど使い方が全く分からなくて……みんなの意見が聞きたいなって」


そう言いながらカードを並べていた城ヶ崎さんの手が止まる。

ガラスケースに収まっていたカードを全て並べ終えたようだ。

横に10枚、縦に5枚ずつ並べられた合計50枚のカードは全て白紙だった。

一枚めくって裏を見てみる、裏面はプラスとマイナス、バツ印に斜線が四隅に描かれた簡素なものだ。


「表は白紙で裏は記号しか書いてないんですね。」


「えぇ、裏は全部同じ模様だから特に意味はないと思うんだけど表が白紙なのは意味がわからないわ」


「枚数も50枚……これが52枚ならトランプの枚数と一緒なんですが」


「私も同じことを考えました、ジョーカー抜きのカードにしても枚数が足りないので多分別のカードなんだと思います。」


「他にカードといえば・・・かるた、花札・・・あとはタロットカードとかが考えられますね」


「はい、でもそれらのカードのどれとも枚数は一致してません」


「じゃあ一体なんなんでしょうね、このカード」


僕と正立さんと城ヶ崎さんで白紙のカードを見つめながらうーんっと頭を悩ませていると、黙ってカードを見つめていた乃木さんが彼女の後ろに立っていたゲイルロズを振り返った。


「ゲイル、あなたはこれが何かわかる?」


「さあ? 司、あなたにはこれがどう見えますか?」


質問に質問で返された乃木さんがムッと眉根を寄せた。

乃木さんがしかめっ面でゲイルロズを睨むが、ゲイルロズは楽しそうに目を歪ませるだけだった。


「わたしには……白紙に見えるわ」


「ホッホッホッ、そうですね。確かに白紙ですね」


「ゲイルにも白紙に見えるの? それとも何か見えてたりするの?」


「いえいえ、何も見えませんよ。ただただこれはまだ白紙なんでしょうね。」


「まだ?」


ゲイルロズのまだっという発言に正立さんが反応した。

まだ白紙とはどういう意味なんだろうか。


「例えばこれは……あぶりだしのように何かをしたら文字が浮かび上がってきたりするんでしょうか。」


あぶりだし?っと聞いたことない言葉に首を傾げる。

城ヶ崎さんと乃木さんも聞いたことがなかったようで困惑した顔をしている。

僕たちの様子に気づいた正立さんが少し慌てたようにメガネの位置を直してコホンと咳をついた。


「理科の実験とかでしたことないですか? あぶりだしというのは紙に透明な液体で文字を書き、乾いたあとに火で炙ると文字を書いたところだけ少し焦げて字が浮かび上がってくるというものです。みかんの皮の汁とかでできたりするので今度やってみてください。」


少し早口で捲し立てた正立さんが簡潔にあぶりだしについて教えてくれた。

なるほどそういうものがあるのかと感心してしまった。


「いえいえ、Mr.マナブ。そういったものではないと思いますよ。」

 

「では何をもってまだ白紙なんて言ったんですか?」


「ホッホッホッ! ……それについて説明するならば」


ゲイルロズが言葉を切り、チラリと乃木さんを見つめた。


「対価をいただきましょうか、ねぇ司」


「ッ!!!」


あまり感情を表に出さない乃木さんが目に見えて動揺した。

座っていた乃木さんはバッと素早く立ち上がりゲイルロズを睨みあげる。

そんな乃木さんを楽しそうに愛おしそうにゲイルロズは見下ろす。

突然剣呑な雰囲気を漂わせ始めた二人にその場の空気が張り詰める


乃木さんがこれだけ動揺するなんて、対価って一体なんなんだろう……




水着アビーは卑怯だぞ!!

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