018 初日:金森伸也
今日は2話更新、017も追加してます
気に入らない
この世の全てが気に入らない
不快、不愉快、苦痛ですらある。
俺のことを遠目に見てヒソヒソ話すクラスメイト
顎を砕いてやりたくなる
俺を見て慌てて道を譲るヘタレなおっさん
金玉ついてんのか
いきなり呼び止めて何をしていたと上から目線で問い詰めてくる警察
ぶっ殺すぞ
血だらけの鼻を押さえながら必死に命乞いをしてくるクソ
手の上からその汚い面を踏みつけてやった
「す、すまねぇ。もうあんたにゃ逆らわねえ。だ、だから許して……」
「都合の良いこと言ってんじゃねぇよボケ」
血と涙できたねえことになってるクソの横面を軽く小突いてやるとぷぎぃなんて声を出しながら気を失った。
クソの仲間のゴミは壁とキスさせてやってからピクリとも動かない
クソとゴミの仲間のカスはその辺に落ちてたブロックで頭を殴ったら静かになった。
クソとゴミとカスが黙り込んだことで用事は済んだとその場を後にする。
ここは西区の外れの外れ、街の外側に最も近い場所所謂ゴミ溜まりだ。
さっきのゴミみたいな人間がコソコソ集まって胸糞悪いことを企むにはうってつけな場所だ。
しかも時刻は夕暮れ、夜行性のゴミ共が欠伸をしながら闊歩し始める時間だ。
何かと目の敵にされてる俺なんかは軽い気持ちで絡まれて裏路地に連れ込まれる。
中坊が偉そうに、目つきが生意気だ、調子に乗ってんじゃねえ
お決まりのセリフをくせぇ口から垂れ流してつかかってくるゴミ共をいつものように黙らせる。
これだけはいい、なんかスカっとする。
気に食わないやつを殴って黙らせて目を閉じさせてやると、俺の不快な気分がどっかに行く。
誰も俺を見てない、誰も俺の事を話さない、誰も俺を意識しない。
そんな状況がなんだかホッとする。
よくわかんねぇ、言葉にすることが難しい。
んなこと考えてると胃がムカムカしてきた、せっかくいい気分になってたのにまた最低な気持ちになってきた。
イライラを腹ん中に押し込めながらいつもの溜まり場に足を向ける。
西区の外れにある雑居ビルの中にある古くせぇバー、よくわかんねぇ外国の文字の看板がかけられたその店へ入ると金髪に青い目のバーテンダーがこちらを見た。
岩石を連想させるようなガタイのいい体を白いワイシャツと黒のベストで包み、大きくゴツゴツした腕で相対的に小さく見えるシェイカーを器用に振っていたその男は俺を見とめると眉間に皺を寄せた。
「シンヤ、ここは酒を飲む場所だ。君にはまだ早いと何回言えば……」
「うるせぇ、ここが一番静かなんだよ」
金髪青目のバーテンダーはハァーっと大きなため息をついたあと俺を手招き、カウンター席にオレンジジュースのはいったグラスを置いた。
「ここは託児所ではないんだがね」
「あぁ?誰がガキだって?」
「祖国では、嫌なところから逃げて隠れるのは子供のやることだ」
「・・・・ッチ」
この金髪青目のバーテンダー、名前をイワンという。
昔喧嘩に負けて死にかけていたところを助けてもらい、それ以来なんやかんやで関係が続いている。
イワンは変なものに懐かれたと毎度ため息をつくが、無理やり追い出そうとしたりしないしこうしてもてなしてくれたりするので俺も居座らせてもらってる。
なんていうかイワンといると落ち着く。
なんて言っていいのかわからねえがあいつは俺を見てない。
いや、見てるんだけど目にかけてないというか……ダメだまた上手く言えない。
一つ確かなことはイワンは俺よりずっとずっと強い、それは肉体的にもだが精神的にもずっと強い。
喧嘩なんかしなくてもわかる、見た目からしても強いし眼力も鋭いしでこいつは普通の人間とは何か違う。
だからなのか、普通じゃないから俺はイワンといると落ち着くのかもしれない。
そんなイワン相手だから俺の口もついつい軽くなる、イワンは渋い顔をしながらも俺の愚痴を黙って聞いてくれる。
学校であったウザいこと、ゴミ共に絡まれて黙らせてやったこと、普段なら口に出すだけでイラつくようなことでもイワン相手ならなぜか逆に気持ちがスッキリする。
俺の長くてバカみたいな愚痴でもイワンは黙って聞いてくれる、妙な反論もなく相槌だって打ってくれないが俺はそれで満足だった。
しばらくそうして愚痴ってるとカランカランと軽快な鐘の音とともにバーの扉が開かれた
「あっれー? シンちゃんじゃん! なになに? またパパに泣きつきにきたの?」
「・・・・・よぉ。」
入ってきたのは近くの高校の制服を着た金髪青目の二人の男女、イワンのことをパパと呼んだことから分かる通りイワンの子供だ。
二人はそっくりな顔をしている、一卵性の双子だからそっくりな顔をしているのは当然なのだがこの姉弟、性格は真反対である。
弟のイヴァンは父親と似て寡黙で無駄口はあまり好まない静かな性格だ。
それに引き換え姉のソフィアは脳味噌の半分が口に使われてるんじゃないかというほどお喋りだ。
ソフィアはとにかく喋る、イヴァンの代わりと言ってもいいくらい喋りまくる。
ピーチクパーチクやかましく捲し立てては俺をイライラさせる天才だ。
でも俺はこの姉弟に逆らうことはできない、なぜかって?こいつらのほうが断然強いからだ。
父親仕込みなのかよくわかんねえ格闘術を二人とも仕込まれていて、以前うるさいからと頭を叩いてやろうとしたら一瞬で腕を捻られ床に叩きつけられたことがある。
何をされたかまったくわからず呆然としているとごめんごめんと軽い調子で起き上がらせられた。
それ以来この双子には逆らえなくなった。
ソフィアにはイライラさせられるが、それでも俺はこの双子のことも嫌いではなかった。
やはりこいつらもイワンと同じく普通ではないからなんだろうか。
ソフィアは俺の横に座ると髪をすくように俺の頭を撫で始めた。
ガキ扱いされてるようでムカついたので力を込めてその手を振り払った。
その反応がお気に召したのか先ほどよりも乱雑に頭を撫でてきやがった。
「ソフィア、シンヤが嫌がってる。」
「だってだって! イヴァン! シンちゃんってなんかこう……構いたくならない!?」
「俺にはよくわからないよ」
イライラしながら何度もソフィアの腕をはたき落とし続ける、段々とソフィアの目がおもちゃを前にした子猫のようになっていき最終的には俺の後頭部を掴みカウンターに叩きつけられた。
「いってえ……」
「あ! ごめん! つい……」
我に帰ったソフィアが慌てて手を離し申し訳なさそうな顔で俺に謝る。
カウンターに思いっきり叩きつけられた額がズキズキと痛み俺の機嫌が急降下する。
「・・・・・帰る」
苛立ちをぶつけるようにカウンター席の椅子を蹴り飛ばしたあと、扉を蹴り開けそのままバーから出て行った。
後ろからソフィアのごめんって〜という謝ってんだか謝ってないんだかわからねえ声が聞こえたがイラついたから無視した。
外はすっかり暗くなっていて、西区の繁華街は昼とは違った顔をのぞかせていた。
クソうるせえ居酒屋の呼びこみ、脂ぎったおっさんと楽しそうに話してる風俗の呼びこみ、下品な格好をした女子高生が路上に座り込みクソみたいな男共と楽しそうに話している。
見ているだけで胸糞悪くなるような光景を尻目に俺は家のある南区目指して真っ直ぐ歩いた。
家に帰り着いたのはもう夜の11時を過ぎたころだった。
無駄にでかい家には俺以外誰もいない。
クソ親は両方とも仕事に夢中で家に帰ってくるのは月に数回程度だ。
昼間にハウスクリーニングが来て掃除をしているおかげでチリ一つないこの家は俺にとっては不愉快な家だ。
帰りに買ってきたインスタントラーメンを適当にかきこみ自分の部屋のベッドに横になる。
今日も一日不愉快だった、どいつもこいつも俺を見る目が気に入らない。
目を閉じるとクソ共の怯えた目が浮かんできてさらにイライラしてくる。
無理やり寝ちまおうとクソどもの目を頭の中から無理やり消して布団の中に潜り込む。
しばらくそうしていると段々と眠気がやってきて気づいたら俺は寝入っていた。
ガンガンガン
何かを叩くような音で目が覚めた。
ガンガンガン
リズミカルに叩かれるその音は金属と金属をぶつけているようなやかましい音だ。
ガンガンガン
その音がうるさくて寝てなどいられない
舌打ちしながら布団から出て音源を探し辺りを見回すと
ガンガンガン
目の前だ
起き上がった俺の目の前に真っ赤に光った鉄の板とそれと同じくらい真っ赤に燃えたハンマーが鉄の板を叩いている。
ガンガンガン
力強くハンマーが鉄の板に振り下ろされ、2つがぶつかった時に赤い火の粉がチリチリと飛び散る。
誰がハンマーを手繰っているのか、ハンマーの柄の部分を見たが、そこには誰の手もなかった。
ガンガンガン
勝手に動き続ける燃えるハンマーとひたすら叩かれる鉄の板を呆然と見つめる。
あぁなるほどこれは夢だな。
しかもこの光景どこかで見たことがあると思ったらあれだ、昔テレビでみた刀の製作風景だ。
鍛錬とか何とか言ってたあれに似ている。
ガンガンガン
それにしてもうるせぇ、夢にしても人の目の前でこんなガンガン叩くなっつうの
目の前をパチパチと飛ぶ火の粉も危ねえったらありゃしねぇ。
無遠慮に目の前でハンマーを打ち続けるこの夢に段々とイライラしてきたとき
「あちっ……」
飛び立った火の粉の一粒が俺の顔に当たった。
当然火の粉だから熱いに決まってる、顔に当たった火の粉に内心舌打ちを打ったその時
「求ム、我、求ム」
目の前のハンマーから抑揚のない機械的な声が聞こえてきた。
まさかハンマーが喋るとは思ってなかった俺はうぉっと情けない声を上げてしまった。
「な、なんだテメェ、喋れるのかよ」
「求ム、武器、至高、王、求ム」
俺の問いかけを無視したのか、あるいは聞いていないのかどっちでもいいがこのハンマーが言っていることは全然理解できねえ
「はぁ? 武器? 王? 何言ってんだテメェ」
「依頼、武器、至高、探索、或イハ、情報、王、求ム」
単語でしか話せねえのかこのデクの棒は
「なんだ? つまりその、武器だか王だかを探せってのか?」
「然リ、然リ」
「しか……? もうなんでもいいけどよそういうのは警察か探偵に言えよ」
俺みたいなバカに人探しだか物探しなんてできるわけねぇだろ。
他所あたれと雑に手を振る。
「否、資格、探索、裏、儀式、資格、汝、資格、有、然リ」
あ、ダメだもう何言ってんのかわかんねぇ
段々と意味不明なことを言ってくるこのハンマーにイライラとしてきた。
へし折って外に捨てるかとベッドから立ち上がった時
「贈与、我、刀、否、至高、王、劣化、然リ、鍛造、否、鞘、然リ」
またわけわかんねぇことを言ったと思った瞬間、ハンマーの横の何もない空間が突然爆発した。
情けねえことにビビってベッドの上に尻餅をついちまったけど、誰だっていきなり目の前が爆発なんかしたらビビるだろ。
尚も轟々と燃え続けるその空間から突然ニュッと小さな人の手が出てきた。
そのまま炎の中から一人のガキがズルリと滑り落ちてきた。
幸い落下地点はベッドの上だったから怪我はねえみたいだ、でもあんな轟々と燃え盛る炎の中から出てきたくせに火傷の一つもしてる様子はない。
恐る恐るガキを覗き込んで息を飲む。
目になんか刺さってやがる。
ガキは女で古風な前合わせの着物みたいな服を着ているが、その服の上から細長い棒が何本も背中に突き刺さってやがる。
一番やべえのは右目に刺さった棒だ。
確実に失明してるだろうその目からは不思議なことに血の一滴も漏れていない。
背中のやつも血が滲んでいる様子もないがそれでもこのガキが重傷なのは見て取れる
「て、テメェ!! これは!?」
「贈与、贈与、義務、儀式、裏、汝、探索、至高、或イハ、王、然リ、然リ」
ガキが出てきた炎が瞬く間に萎んで消火され、それからこのデクの棒は狂ったように鉄の板を叩き始めた。
ガンガンガンガンガンガン
「否、逃走、汝、儀式、要素、裏、裏、女、待機、然リ、然リ、然リ」
最後にガンっと大きく鉄の板を叩いたあと、ボッとハンマー自体が燃えはじめた。
ガキが出てきた時と同じくらいの大きさの炎に他白く
次の瞬間には炎は一瞬で萎み消えた。
あとには鉄の板もハンマーもなくなって、残ったのはこの重傷のガキ一人だった。
「え……はぁ!?」
訳がわからねぇ、俺は途中からさっきのが夢なんだってことを忘れていた。
いや、夢なんかじゃねえだってこのガキは……
ベッドに倒れたまま目を覚さないガキを、壊れ物に触れるようにゆっくり触れ肩を揺する。
「お、おい……おい、大丈夫か?」
「っん……」
軽く揺するとガキはむずがりながら目を開けた。
黒い髪に黒い目の倭人の特徴が強いガキははじめ寝ぼけた目で俺を見つめていたが、段々と目が覚めたのかその目には怯えが宿りはじめた。
「お、お兄ちゃん……だれ?」
「え? ぁ……俺は金森伸也……」
「かなもり?」
「いや! それよりお前! それ痛くねえのか!?」
「っひ! ………い、いたくないよ?」
つい焦って大声を出してしまってガキがビクリと怯えた。
いや、怖がらせてどうすんだよ、落ち着けよ俺。
突然現れたあのハンマーとこのガキで頭の中がぐちゃぐちゃだ、とりあえず落ち着け……落ちつけ……
まずはこのガキを病院に連れて行かねえと、血は出てないけどこの状態はまずいだろ。
警戒するように身を縮こませたガキの手を無理やり引いて抱き上げる。
ひゃっと小さく悲鳴をあげたが構わねえ
財布と携帯を持って近くの病院がどこだったか思い出しながら部屋から出て……
「こんばんはー!」
突然脳天気な女の声がした。
声のほうに振り向いたら痴女が立っていた。
サイズのあってなさそうなタンクトップと半脱ぎの皮のジャケット、殆ど意味の成してない短いホットパンツ姿の紫色の髪のアホみたいな女が俺の部屋にいつの間にか現れた。
あぁ?さっきまで誰もいなかったはずだろ、この女どこから入ってきやがった。
「キュクロープス様からの参加者様ですよね?」
いきなり現れた気味の悪い女が気持ちの悪さが倍増するような作り笑いで俺に微笑む。
あぁもう勘弁してくれ、なんなんだよ今日は一体
「あぁ!? テメェどこから入ってきやがった!! ってか誰だテメェ!!」
「あ、これ話通じないパターンですね、ってことで強制転移ですとぉー!!」
クソ女がとぉーっと気の抜ける声と共に俺の腕に抱きついてきた
思わず振り払おうとした時、俺の周りの風景が滲んで歪んだ。
突然のことに驚いて体が固まる、なんだ?何が起きてんだ?
腕に抱いたままのガキも突然の事態に俺にしがみついてくる。
クソ女一人だけニヤニヤと笑いながら俺たちを見る
滲んで歪んだ景色が今度はどんどんと後ろへと流れていく。
気持ちの悪い色の中を俺たちはなす術もなく流される。
いい加減酔って吐きそうになった時、パッと色の流れから飛び出し真っ暗な空間に放り出された。
「ようこそ、裏世界へ」
あぉもう、なにもかも気に食わねえ




