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化け物少女と、塔、登ります  作者: つくたん
かえったら、■さなきゃ
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土の領域、怠惰の山岳

さあ、行くがいいと炎に背中を押され、37階。土の領域、怠惰の山岳。


見慣れた石壁は迷宮のものだ。だがそこにあるのは石の壁で作られた迷宮ではなく、最低限の明かりしかないだだっ広い空間だった。

迷宮の1階層の壁を外周以外すべて取り払い、そこに土の塊のような岩の山のようなものを積んだだけ。

周囲はしんと静まり返っていて、ひとの気配はない。魔物も精霊もいない。


この階層の中央にうず高く積まれている土の塊を迂回すれば38階への階段があるのだろう。そんなことが容易に想像できるほど何もない空間だった。


「この土の山は……?」


一体何のために積まれているのだろう。土の領域と名付けられた階層だから、とりあえず土を積んでみたのだろうか。いやまさかそんな安直で適当な設計ではないだろう。

となるとこれには何かしらの意味があるはず。それに、眷属の姿も見えない。不思議に思いつつ、霖がぺたぺたと土の山に触れてみる。

何の変哲もない土だ。触ってみた感触としては、ごつごつした岩肌のよう。

いったいこれは何なのか、後ろにいる真鉄に意見を聞いてみようと思って霖が振り返ったその瞬間。


山が、動いた。


否、それは山ではない。土神の眷属、怠惰の山岳ドラヴァキア。土と岩が降り積もって堆積するほどの長い年月を寝そべって過ごす巨竜である。

稜線のように投げ出した脚におとがいを載せ、伏せた状態で横たわっている。霖が触れたことで目を覚まし、少しばかりおとがいを持ち上げて顔を上げただけだ。


――おや。


なんだ、もう出番か。そう言いたげに、億劫そうな声がした。土神の眷属の声だ。

顔を上げて目を覚ました土神の眷属はゆっくりと目を開ける。山の表面にあるいびつな割れ目が開き、大地の色の目が真鉄と霖を見る。

そして、それから何をするでもなく、まったく2人に興味なさそうに目を閉じた。通りたければ勝手にしろと言わんばかりだ。


「土神の眷属は大地を支えているというけど……君が?」


――この身は本体の力を割譲したにすぎない。


真鉄の問いに、土神の眷属はそれだけを答えた。

ドラヴァキアと名のついた土神の眷属は、その身を大地として塔の土台となっている。真偽不明の伝承だが、今の答えから察するにどうやら本当のようだ。本体は伝承通りに塔の土台となっているのだろう。土の領域を守護するため、力の一部を割譲してここに留め置いたのだ。


しかしそれにしても本当に動く気配がない。好きにしろと言うような態度はやる気がなさそうに見える。土の属性は堅牢と怠惰を象徴するが、怠惰の部分だけ抽出したかのよう。

通る身である自分が言うのも何だが、こう、試練らしく立ちはだかるとかすればいいものを。火神の眷属は役目の範疇でないからというきちんとした理由で道を譲ったが、この土神の眷属はどういう目的であっても素通りさせるだろう。


――我が使命は塔の土台となること。そして卵を守ることのみよ。


土神の信徒たちはその信仰により、強靭な肉体を持っている。竜を象徴する一族は素晴らしい身体能力と生命力を有していた。本気で刃物を突き立てても貫かれることのない堅牢な肉体は不死とさえ言われるほど頑丈だったし、彼らは指弾(デコピン)で頭を吹っ飛ばすほどの超越的膂力を持っていた。

しかしそんな一族でさえ絶滅しかねないほどの未曾有の危機が世界を襲った。危機を悟ったドラヴァキアは、一族を飲み込んで体内で保護するという手を取った。

魂さえ無事であるなら、肉体は後から作れる。信徒の魂を卵にしてドラヴァキアは腹の中で一族を育んでいる。いつか卵たち孵化し、一族が復活する日を夢見て。


そうして卵を抱えて丸まる背中を土台として塔が作られた。塔を作った神々としては、土台にちょうどいいものがあったので乗っけただけでドラヴァキア自身に特別な意味があるわけでもない。

だから塔で起きるあれこれなどどうでもいい。誰が頂上に至ろうが、誰が真実を知ろうがまったく関わりのないこと。関係ないことなので関知しない。関知しないのでこの階層の通過も自由だ。


この階も好きに使うがいい。野営するにはちょうどいい場所だ。休みたいなら休めばいい。ここには誰も来ない。魔物も精霊もだ。

堅牢さを象徴する土の属性の領域では万物が傷つけられることはない。領域に踏み入れた者すべてに泥のような怠惰な安らぎを与える。


「……まぁ、そろそろ休憩を挟みたいとは思っていたしね」


野営するにはちょうどいい。ここで区切りをつけておくのも悪くはないだろう。

休んでいいというのならその言葉に甘えよう。よっこいしょ、と真鉄は適当な場所に腰を下ろした。


「ほら霖、僕の膝の上においで」

「え?」

「遠慮しなくていいよ、ほら」

「あの」


関知しないとかどうでもいいと目を閉じたとはいえ、一応ここは人前。いや神前。正確には神ではなく眷属だが、いやそういう話で現実逃避している場合ではない。


「いいじゃないか。ほら。僕らの仲を見せつけてやろうよ」

「し、師匠!」


いいだろう? こんな与太、もう最後なんだから。

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