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化け物少女と、塔、登ります  作者: つくたん
かえらなきゃ
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教えて師匠! 上層ってどんなところですか?

書架を目指そう。そう決めて、翌日にはもうすでに出立を始めることにした。


中層攻略のために揃えた食料がまだ十分に残っている。少し補充すれば問題ない。買い出しも1日がかりで行うほど量は多くない。


「それに……帰還者は食べなくていいですし……」

「霖、卑屈にならないでくれるかい?」


帰還者の自覚ができて何よりだが、そこで卑屈になられても困る。

確かに、食事の必要も睡眠の必要もない。用意するものは真鉄ひとりぶんだとすれば、もはや補充さえ必要ない。


「はいそうですかと霖のぶんを用意しないほど、僕って冷血に見える?」


帰還者だから必要ない。それは知っている。だが真鉄はきちんと今まで霖のぶんの食事を用意してきた。霖自身に完全帰還者の自覚がなく、人間だと思い込んでいたということもあるが、それよりも。


「食事は独りで摂るものじゃないからね」


独りで食べる食事のなんと孤独なことか。

帰還者だから食事が要らないからと、霖の横で黙々と食べるなんて味気がないにもほどがある。

誰かと食卓を共有することは、栄養摂取以上に意味があることなのだ。


「いいんですか?」

「僕はそれを食料の無駄とは思わないよ」


まぁでも、どうしても食料が不足して切羽詰まった時は許してほしい。

軽くウインクして話を茶化して切り上げる。さぁ、そうと決まったら買い出しに行こう。


***


「上層ってどんなところなんです?」


31階に町。32階にお試し階層。そこから神々の眷属の領域になり、しばらく進めば頂上なのだとサイハは教えてくれた。だがあまりにもざっくりとしすぎていて、探索者目線での話に欠ける。


「魔物が強い……具体的には力が強かったり、頑丈だったりね」


ジャル・ヘディで例えるならば。

花の擬態はより巧妙になる。それどころか、擬態せずそのまま鼻先だけ出して地中を移動し、地面の振動から獲物を感知して襲うという知恵もみせてくる。

その噛み付く力は強く、人間の体などガラスよりも脆く噛み砕く。頭から背中を覆う甲殻は中層に出現するものとは比べ物にならないほど頑健で、生半可な刃では通らない。口が開いた隙に口の中に刃を突っ込むとか、毒なり何なり食わせて内臓から傷つけるとか、そういった手段でなければまともに倒せない。


まさにレベルが違う。その強さについていけなければ、そこから上、神々の眷属の領域を通過できない。

32階は登竜門なのだ。これから先の困難を進む力量があるかどうかをはかるための。


「僕も最初の頃は何回も引き返したくらいにね」


32階に上がって、すぐ魔物に行き当たって、3人で飛んで逃げ帰った。魔物を1体倒すのが精一杯で、しばらくは倒しては戻り、倒しては戻りと探索どころではなかった。迷宮の角から角へ、たった数メートルを進むだけで何日もかかったくらいだ。

今でさえ、楽々通過というわけにもいかない。下手すれば真鉄でも死ぬ。誇張でも脅しでもなく、事実だ。


「……そんなに……?」

「魔物同士が食い合うのか、個体数そのものは少ないほうかな。ただし、遭ったら死闘だ」


だから、と話をつなげる。


「霖の囮の武具。あれ禁止だから。置いていって」

「え?」

「囮になるためとはいえ、あれは魔物寄せの効果があるんだ。リスクが高い」


発動なんてさせたらその瞬間に近くの魔物が一気に集まってくるかもしれない。

そうなったら、真鉄ですら対応できない。


そしてついでに言うなら。ここからは繕った表向きの理由ではなく真鉄の心中で呟く真実だ。

霖には武具だと思わせているが、あれは武具でもなんでもなく、ただの魔物寄せの石である。真鉄の魔力を充填して、それを使って発動させている囮のための武具だなんていうのは嘘だ。

ただの魔物寄せの石なのだから、発動のオンオフなんてあるわけがない。そこにあるだけで魔物を引き寄せる。

そんなものを上層に持ち込んでしまったら。どうなるかは表向きの理由で語った通りだ。


「だから置いていって。ね?」

「でも、囮は」

「そこは獣の本能に賭けよう」


真鉄と霖。並んでいたらどちらを狙うか。当然、力なく弱い方だ。

完全帰還者とはいえ、戦う手段をろくに持たないものからまず狙うはず。戦う獣の本能とはそういうものだ。それを無視して真鉄を狙ってきた時はその時だ。


「……わかりました」

「うん。物分りがいい弟子でよかった」


だから好きだよ。扱いやすくて。

前半だけを口にして、真鉄はにこりと微笑んだ。

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