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化け物少女と、塔、登ります  作者: つくたん
師と弟子と
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歯車が噛み合わない

「これからどうしますか?」


朝食を済ませて店を出たが、これからの予定が決まっていない。近日中に終わらせなければならない予定もない。完全に暇だ。


「そうだね。……あぁそうだ、買い物していこうか」

「買い物ですか?」


真鉄が目を向けたのは、広場を埋め尽くすほどに並ぶ露店たちだ。色とりどりの布の屋根が風に揺られ、まるで財布の紐が緩むように誘っているようだった。

だが、買い足すものがあっただろうか。不足しているものはなかったはずだ。

首を傾げる霖に真鉄はゆるりと首を振る。確かに生活必需品は揃っているが、そうではなく。


「買い物デートってやつさ」

「し、師匠!」


甘いことを唐突に言うのはやめてほしい。心臓に悪い。さっきも心臓に悪い思いをしたというのに、落ち着いた頃にまた叩きつけてくるのだから、まったく。

顔を赤らめ、頬を押さえて視線をさまよわせる。うぅ、と唸っているうちに露店広場へと着いてしまった。


***


広場は日用品から雑貨まで、物品を問わずさまざまな露店が立ち並んでいた。布を張って屋根とし、地面に羅紗の布を敷いて品物を並べたシンプルな構造のテントが多い。わざわざ棚を持ち込んで品を並べている店もあった。


「いらっしゃい、いらっしゃい! ノンナのチーズの燻製はいかが!」

「砂糖細工の花はいかがですかー! 今なら恋愛成就のおまじないもつけちゃいます!」


売り子の声が響く。客引きと値引きの争い、雑談のふりをした同業者同士の腹の探り合い。諸々の喧騒に包まれている。

あまりにも人が多い。ルッカである真鉄が歩いていることに通行人が気付かないほど、人でごった返している。誰かが声を上げれば気付くのだろうが、皆自分の買い物に夢中だ。


「はぐれないようにね。ほら」


買い物デートという名目で来たのだ。それらしいことをするのは当然。ごく自然に真鉄が手を差し出してくる。

この手を握れと。いつもなら照れと気恥ずかしさで断るところだが、今は話が別だ。こんな喧騒ではぐれたら一大事だ。とてもとても恥ずかしいが仕方ない。赤くなっていく頬を隠すように顔を伏せ、霖は差し出された手を握った。


「いつもこれくらい素直だと可愛いんだけど……いや待てよ、今でも可愛いのにこれ以上可愛くなったら困るな……」

「何言ってるんですか」


気恥ずかしさが1周回って冷静になってきた。照れも極めれば冷淡になるというもの。

はぁ、と溜息を吐く。人々の憧れを一身に受け、その期待に完璧に答える英雄であろうと振る舞っているくせに、こういうところで三枚目らしさを見せる。そのギャップを知っているのは自分だけなのだろうなと自惚れつつ、霖は露店へと目を向ける。

露店には、日用品として使うための低級の武具が並んでいた。羅紗の布の上にいくつか、火の武具と水の武具が並べてある。そしてその後ろに、しっかりと封をされた箱に収められた武具もある。

箱に入っているのは日用品ではなく、戦闘に用いるためのものだ。誤って発動されないようにしっかりと管理されている。


「何か惹かれる?」

「……いえ……」


日用品として用いられる低級のものはさておき、戦闘に用いるような強力な武具には適正がある。

武具に適合する者しか発動できない。武具と魔力の歯車が噛み合わなければ、どんなに強大な魔力を持とうとも強力な武具を持っていようとも意味はない。


そして、武具と適合者は惹かれ合う。どういうわけか、それを扱える者のもとに武具が自然と集まってくるのだ。

戦いに身を置く覚悟を決めた者のもとには、自身が発動できる武具が必ず訪れる。それはまるで磁石のように。

理由も理屈もわからない運命論だが、『そういうもの』なのだ。


だからもし、霖の気を引く武具があるとするなら、それはつまり霖が扱える武具なのだ。

日用品ですら使えない体質の彼女が扱える、そんな奇跡のようなものが実在するかもしれない。そういう狙いもあってこの露店市に足を踏み入れたのだ。なお、露店市に来た理由の8割は公言した通りである。


「もし気になるものがあったら教えてね」

「はい! ……あ」


通りの一角、橙色の布屋根の露店に霖の目が止まった。

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