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化け物少女と、塔、登ります  作者: つくたん
苦難を破りて困難に至る
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努力はスキップできるんじゃないか?

ここまでの努力をひっくり返す可能性に気付いてしまった。

下層の町から中層の町までの転移については、本人にも交感した記憶があり、そしてサイハが連れてきていたので気にしていなかった。

だが中層から先は曖昧でわからないとのことだったので、だから上層に行くためには12階から地道に進む必要がある。20階の転移装置の登録を経つつ、1階ずつ。そう思いこんでいた。

しかしまさか、20階の転移装置が登録済みだということは。


もしや、上層まで登録済みなんじゃないか?


検証は今までしていなかった。上層には行きたくないという自分のわがままで、上層に行く必要のある用事は避けていた。そもそも生活するだけなら中層や下層で事足りる。上層に行くのは、頂上を目指すためだけだ。だから今まで上層に用がなく、そのためこのあたりのことも頭から抜け落ちていた。

とんでもないショートカットができたことに気付けていなかったのは、上層に行くことを避けていた自分のせいだ。


「……上層、行けるんじゃない?」


もしや上層までも利用登録済みなんじゃないかということは霖も思い当たったようで。

何かを言いたげにこちらを振り返る霖へと頷いて、その可能性の検証を肯定する。もし利用登録されて(上層にたどり着いて)いなかったら、その時は装置が作動しない。


「……いきます」


ごくりと固唾を呑んで、霖が転移装置に触れる。上層、31階へ。


――かちん、と装置が作動して転移魔法が展開された。


***


転移魔法特有の足元の消失感と落下感。目を開ければ、懐かしいにおいがした。


31階。困難の層の始まりの町だ。


「……できた……」

「みたいだね。……なんだ、最初からやればよかった」


だめもとで最初から試せばよかった。とんでもない回り道をしてしまった。やれやれとんだ無駄足だ。しかもそれが自分の見落としなのだから余計に腹が立つ。自分で自分を殴りたい気持ちだ。


「霖、覚えてるかい?」

「……いいえ、何も……」

「そうじゃなくて。上層に行くって話さ」


氷の領域、真実の書架。そこに行くためにまずは中層から上層に行くという話だ。

上層にたどり着いてからのことは31階に着いてから考えよう。まずは11階から31階までを。そんな約束のことである。

上層の風景を見て何か思い出さないかということではない。そちらも気になるが。


「こうして無事31階に着いたんだ。これからのことは家に帰って考えないかい?」


31階まで行けるのなら、あとはもう転移装置で行き来できる。一度帰って腰を落ち着けよう。この町で宿をとって過ごす必要もない。そう提案する。

頭痛の前触れのように頭の奥がざわつく。これ以上は進んではならないと何かが訴えてきているのを感じる。


「そうですね。……師匠? 顔色がよくないですけど……」

「可愛い恋人を抱き締められてないからね。迷宮の中じゃ添い寝くらいしかできないし、もう霖不足で仕方なくて」


軽口でごまかして話を切り上げる。

早く帰ろう、と促して転移装置に触れた。


***


「……あれ?」


中層にある小さな家に帰ってきて違和感に気付く。カレンダーがまったく進んでいない。


中層を出て精霊峠に向かったのは48の月26日だ。2日後の28日にあの軽薄な探索者たちの出会いがあった。そこから数日。20階に着いたのは49の月のはじめであるはず。

だが、目の前にあるカレンダーは48の月27日を指しているのだ。不在だったのでカレンダーをめくっていないとかそういう話ではない。このカレンダーはホロロギウムの時間のカウントと同期しているので、ずれることは決してない。


「あぁ、町と迷宮の中じゃ時間の流れが違うんだよ」


時間を司るのは水の精霊だったか風の精霊だったか。

町と迷宮の中では時間の経過が異なっている。迷宮の中で数日過ごしていても、町に戻れは出発から数分しか経っていなかったということもある。その差異もまちまちで、迷宮の中の1日が町の1分だったり1時間だったりする。だが町より遅くなることはない。


なので迷宮内では時間や日付というものはほとんど意味をなさない。町との時間の流れのずれが齟齬を起こす。

変な感覚だなぁと片付けて深く考えないのが吉だ。とはいえここまでずれるのは珍しい。


「さて、ちょっと僕は霖不足で死にそうだから休むね」

「え? あ、はい」


不足というなら抱きしめるなり何なりして補給するものじゃないのか。いや、深く突っ込んだら負けだ。やっていいんだねと微笑まれて今から寝かせてくれなくなる。翌日起き上がれないくらいに。

それに真面目に考えずとも、あれは表向きの軽口だ。顔色が悪い。本当に体調が良くないのだろう。それを心配させまいとしての軽口なのだ。

わかっているから追求しない。おやすみなさいと真鉄をベッドルームへと見送る。


「後で薬か何か持っていきますね」

「ビスケットもね」

「はいはい」


抜け目のない。

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