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化け物少女と、塔、登ります  作者: つくたん
苦難を破りて困難に至る
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掃除屋の大巣

20階。まるで冗長な時間をスキップするかのように何事もなくそこにたどり着いた。


19階から登ってくる階段から、21階に続く上り階段へ、一直線に廊下が敷かれている。

そこ以外は石の壁で区切られており、ところどころにある出入り口には全身黒ずくめの格好の見張りが立っている。

この黒ずくめの格好はスカベンジャーズの証だ。目印である無地の黒いマント以外は各人の自由だが、基本的に黒い服装をしている。


「おっとぉ? お久しぶりさぁ」

「あ……えっと……」


だらけきった緩い服装。目深にかぶって見えない目元と笑みを浮かべる胡散臭い口元。

いつだったかに髪飾りの件を任せた黒衣の男だ。そういえば彼の名前を知らない。霖が言いよどんだことで察して名乗るそぶりも見せず、彼はそのまま挨拶から本題につなげてきた。


「あの髪飾りならきちんと処理したさね」


不当に奪われた髪飾りは元の持ち主に返還され、奪った犯人は『掃除』した。

事態は収束。後顧の憂いはなし。あとは守秘義務があるので言えることはないが、通報者への礼としてこれくらいは教えておこうと思ったのだ。

それについても今しがた報告したので、これできれいさっぱりこの件は終わりだ。


「ちょうどいい。霖に転移装置の利用許可をお願いしたいんだけど」


真鉄はすでに許可を得て登録されているので必要はない。しかし霖には必要だ。

その許可を彼に求めよう。スカベンジャーズであれば誰でも許可は出せる。だったらここで許可申請を済ませてしまおう。


「あいよぉ。んー……頼み事ねぇ……」


さてどうしようか。個人ごとに出す許可なので、霖一人で完結する用事でなければならない。そしてそれなりに時間が短く済むもの。

探索者に許可を求められた時は適当に一発芸をさせるのが普段なのだが、下手な要求をしたら背後で笑顔で威圧しているルッカに三枚下ろしにされてしまいそうだ。そもそも相手は完全帰還者だ。


「あ、そうだ」


髪飾りの件の時、真鉄に言われたことを思い出す。霖は他者の思いを読み取る力があるのだと。

それならば。


「思いの読み取りってできるさぁ?」

「え?」

「俺っちの個人的な知り合いのもんでね。あぁ、相手はもう死んでんだけど……」


そいつがどういう思いで死んだのかを読み取ってほしい。それはできるだろうか。

問う彼に霖は目を瞬かせて、それから真鉄を振り返る。どうしよう、と判断を真鉄に委ねようと視線を向ける。


思いの読み取りは霖の意思ではできない。たまたま訴えかけてくる感情に同調した時に初めて読み取れる。チャンネルが合わなければどうしようもない。

それに精神的負担もある。他人と自分の境界が揺らいで混ざって、記憶や認識が混濁してしまう。狂気を覗けば狂気に取り込まれてしまうのではないかという不安が霖の胸を占める。


「霖次第でいいよ。受けようとも断ろうともね」


もしここで彼の要求を拒否したとしても、ここの転移装置が使えなくなるわけではない。

誰か他のスカベンジャーズに声をかければいい。それか、別の要求を彼にしてもらうか。

不安なら拒否すればいいし、大丈夫だと思えばやればいい。


それに、と真鉄は内心で付け足す。

同調の結果、読み取った情動に染まることを懸念しているようだがそれはありえない。完全帰還者だ。根底にはひとつの強い情動が在る。それがかき消されてしまうことはまずないだろう。完全帰還者がかき消されるほどの強い情動が宿っているなら、その時点で、その情動を核にした完全帰還者が生まれているはずである。

上書きはありえない。だから最大の懸念は、チャンネルが合って読み取れるかどうかだ。


「……わかりました。やれるかどうかはわかりませんが……やってみていいですか?」

「助かるさぁ。……内容によっちゃ、信条を曲げねぇといけねぇからさ」


胡散臭く雰囲気を引っ込めて、真剣な声音で彼はそう言った。

それほど大事な相手だったのか。思わず背筋が伸びてしまう。


「あ、恋人とかじゃねぇさ。ダチだよ、一過性の」


しゃっきりと背筋を伸ばしてかしこまった霖に苦笑して彼は付け足した。

そこそこ気が合って気に入ってた同性の友人だ。ろくな会話も挨拶もないままに友人はふと死んでしまった。その死はどうだったのか、どんな思いを抱いて死んだのかが知りたい。

恨んでいたのか、嘆いていたのか。それとも受け入れていたのか。どんな感情だったにせよ、それを知ることで友人への哀悼を完全に終わりにしたい。

それはそれとして、内容によっては死因となった人物を一発殴るくらいはしたい。


「……はぁ……」


ともかく預かろう。もし倒れても邪魔にならない端に寄ってから、彼が差し出した武具を受け取る。小さな銀のアクセサリーを握り、集中するために目を閉じて感情をサルベージしていく。


あなたは最期に、訴えることはありましたか?

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