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化け物少女と、塔、登ります  作者: つくたん
苦難を破りて困難に至る
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教えて師匠! 中層ってどんなところですか?

精霊峠を抜け、13階。

見慣れてしまった石壁の迷路が広がっていた。この光景が迷宮の常であるとはいっても、あの華やかで幻想的な精霊峠のあとだと気が重くなってくる。


「中層の魔物は下層とは違う。その理由がわかるかい?」


強さの度合いが違うとかその辺は置いておいて。下層の魔物とは根本的に違う部分がある。

師匠らしく教師ぶって真鉄が霖に問う。これもまた彼女の知識を試す一投石だ。


「えぇと…………すみません、わかりません」

「答えは……と」


真鉄が答えを言う前に、ひらりと頭上に火の精霊が現れる。


「ウフフ……ネェ、動ク火ヲ見タコトガアル?」


手をかざし、火の精霊が作り出したのは燃え盛る炎の塊。

空中で燃えるそれに精霊の権能で力を与え、その名を呼んで起動させる。


「フレラニ!」


燃え盛る炎は手足のように割れ、ヒトの形へと変わる。

フレラニ。火によって起動されたものという意味を名に持つ魔物だ。精霊が自身の権能でもって、実体のない炎に魔力で一時的に自我を持たせて魔物としたのである。たとえるならば、炎という器に戦闘という機能をインストールしたようなものだ。


真鉄が言いかけた正解はまさにこれだ。

中層の魔物はほとんどが精霊によって作り出されたものなのだ。

その理由とルールを述べる前に、まずはこのフレラニを倒すとしよう。


するりと真鉄が刀を抜く。霖の囮は必要ない。

どうせあちらも力試しか試運転のつもりだろう。この程度なら真鉄が一撃で終わらせる。

彼我の実力差をひと目で判断し、それから息をつく間もなく斬りかかる。実体のない炎ではあるが、その力の結点はある。力の中心、その核を貫けばフレラニは求心力を失ってただの炎へと掻き消える。

その核を見極められないほど、真鉄は鈍くない。


「ルッカらしいところ見せないとね」


いつまでも可愛い恋人を愛でるだけの残念なイケメンと思われたら困る。そう言い終わる前に核を貫き、炎を掻き消す。燃料のない火はそのまま鎮火して煤をわずかに壁に残した。


「モウ!! バカ!」


ぷんぷんと怒った口調で精霊が口を尖らせる。それから魔物を新たに生み出すこともせず、バカ、と幼稚な罵倒をもう一度言い残してするりと消えていった。


「これが中層のルールだよ、霖」


中層は、精霊峠から遊び出てきた精霊たちが気まぐれに探索者で遊ぶ場所でもある。

血気盛んな一部の精霊たちは、自身の権能で魔物を生み出して探索者へとけしかける。魔物が打ち倒されれば精霊は負けを認めてその場を立ち去る。それが精霊たちの間で決められたルールなのだそうだ。

このルールは要するに、探索者(おもちゃ)をみんなで楽しむためのものだ。探索者はそれに負けず、上層を目指して進んでいくのだ。


「えぇと、迷宮の魔物は精霊が生み出してるんですか?」

「そうじゃないよ」


迷宮内のすべての魔物は精霊が生み出したものではない。霖の質問を否定する。

ついでだ。そのまま講釈の続きを垂れよう。


魔物には種類がある。

まずひとつは、生物が迷宮の環境によって変異したもの。町で家畜として飼われている砂牛ボロキアが迷宮へと迷い込み、環境に影響されて変異し魔物化したボロキアリャソフがその代表だろう。ちなみにジャル・ヘディもここに分類される。


「そして2つ目は今みたいに、物体に擬似的な生命が与えられたもの」


炎や水、土や風。岩。あらゆる物体に、魔力でもって擬似的に生命を与える。

今さっき精霊がけしかけてきたフレラニなどがここにあたる。そしてこの類のものが中層に最も多い。


「そして3つ目は、魔力が特定の形を持ったもの」


2つ目のものに似ているが、成立する経緯が異なる。あちらは先に物体があり、後から魔力が与えられた。対するこちらは、魔力があり、それが物質化したものである。


たとえば、エレメンタルがそうだ。

空気中に漂うわずかな魔力。それが環境により、特定の属性を持つようになる。それらは凝縮され、結晶化する。そうして結晶化した魔力が自我を持ったように動き出し、あたりに属性の力を撒き散らす。サンダーエレメンタルなら電撃をばらまき、ウインドエレメンタルは突風や真空の刃で切り裂いてくる。


「エレメンタルの他に……帰還者、とかね」


ちらり、と本人に悟られないように霖を見やる。

帰還者。この言葉で何かしらの反応をするだろうかと試すつもりで。


「そうなんですね! 師匠ってば物知りだなぁ……」

「ルッカだからね」


だが、拍子抜けするほどに霖は何の反応もみせない。無邪気に真鉄の知識を褒め、尊敬している。

どうやらまだ自覚はないようだ。まったくこの愛しい恋人(忌々しい怪物)め。

話を変えようと話題を探して首をめぐらせる。ちょうどそこにはかったようにレストエリアが広がっていた。それなりに広いが、誰か先客がいる様子はない。それならば広々と使わせてもらおう。


「あ、レストエリアだ。ちょうどいい。今日は早めに休もうか」

「はい!」



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