薬草と福音
鼻に残るような匂いがする。
薬草ってこの匂いなのかなぁ…?
「匂うけどあんまり嫌いじゃないかも…」
周辺を念のため確認しながら歩く。
獣は薬草の匂いを嫌うため村の回りに薬草を植え
るなんて村もあるっていう話を今朝聞いた。
薬草はこの世界では案外安価なものなのだろう
か…もしかしたら薬草栽培で一攫千金…?
「簡単に出来たらみんなやってるか…」
小さく呟く。
なんか口に出した方が考えって纏まりやすくな
い?
匂いがどんどん強くなってきた。
「思ったより匂うな…」
薬草は九本とれた。だから銅貨九十枚程になるの
だろうか。
「結構採れたのかな?」
宿屋に一・八日分か…うん、わかんらん
大事に鞄の中にいれる。
枯れたり萎れても効果が下がったりはしないのだ
ろうか?
「まあ、とりあえず帰りますか!!」
ここから町までおそらく二時間もかからないと思
う。多分…。
「時計があったらなぁ…」
しばらく歩いた時だった。
「ギィィィィ!」
突然左後ろから何かの叫び声と足音がが聞こえ
「…ッ!!いっったっ!!」
視界に赤が広がり転んでしまった。
意味がわからない…
目の前には緑色で小柄な典型的なゴブリン。
そのゴブリンは腰巻をつけており、手には錆びた
ショートソードだろうか?剣を持っていてその剣
が赤黒く染まっている。
あのゴブリンの下にある手は誰のものだろうか…
左腕の先の感覚がない。
「あっあぁああああああぁぁ」
恐怖で体が強張って上手く動かない。
ゴブリンはゲラゲラ笑いながら僕の手を踏みつけ
ている。
恐い恐い恐い恐い
歯がガチガチ音をならす。
ゴブリンが嗜虐的な笑みを浮かべ剣をゆっくり持
ち上げて振り下ろす。
追い詰められ、極限の中で急に体の緊張がとけ
た。
なんとか横転し剣を避ける。
「こんなとこじゃ死ねないっ!!死にたくな
い!!」
肩にかけていたショートソードを抜き放つ。
攻撃を避けられたことに怒っているのだろうか…
憤怒の形相で襲いかかってくる。
でたらめな剣を距離を大きくとって躱す。
こんなときなのに妙に頭がクリアになっている。
ゴブリンが飛びかかりながら斬りつけるのを大き
く躱し、がら空きの首を斬りつける。
ゴブリンが体を反らして回避したため剣が浅く首
の側面を斬りつける。
「ハァ…ハァ…あと一歩前進しておけば…」
「グラァァァッァ」
ゴブリンはさらに逆上し斬りつけてくる。
ゴブリンの前進が早くなった。
なんとか剣を受け止め鍔迫り合い、そして剣を根
元まで押込みゴブリンを自身のいた位置へ、自身
はよりスペースのある方へなんとか押す。
興奮しているためかゴブリンは疲れを一切見せず
切りかかってくる。
今僕が背にしている方は傾斜の急な崖のような場
所でスペースが少なくもう退けない。
「っ…くそっ!!」
ゴブリンの剣に合わせて剣を振り上げる。
ガキンっと大きな音がして僕のショートソードが
折れた。
「はっ?」
ゴブリンは勝利を確信したようににやつき切りか
かってくる。
なんとか一撃目を躱したが、ゴブリンの踏み込み
すぎた二撃目で転落した。
「ッく…」
目を開けると足に錆びたショートソードが深く刺
さっており、ゴブリンが馬乗りになっていた。
「がぁぁぁぁぁぁ」
ゴブリンが剣を使うことを諦め首を絞めてくる。
息ができない、死ぬこんなとこで…
必死にもがくが左手はなく、右手だけではゴブリ
ンを止めれない。
爪が食い込み視界が霞む。
もがく最中右足に装着したナイフに手が当たる。
今出せる全力でナイフをゴブリンの首に突き刺
す。
「グギャァァァァ」
ゴブリンが暴れるが構わず、左に転がりマウント
をとってゴブリンにナイフを振り下ろす。
八回刺した辺りでゴブリンが動かなくなった。
一気に力が抜け身体中が痛くなる。
「ヒ…ヒール…」
ヒールがスキル欄にあったはずだ
なんと詠唱したかは覚えていない。
気づいたらさっきの森の中に倒れていた。
左手が確かについており、爪で突き破られた首に
穴もない。剣は足から抜いたのか側に置いてあ
る。
だが大きな血溜りとその中心で浅く息をするゴブ
リンが夢では無かったと語っている。
錆びた剣を握りしめゴブリンの頭に叩きつけた。
グシャっと音がして血が飛び散り数瞬後に飛びち
った血や肉片と共に粒子となって霧散する。
<レベルが上がりました>
<スキルレベルが上がりました>
<スキルを獲得しました>
どこかゲームで聞いたことのありそうなファンフ
ァーレが頭のなかで響き渡った。
読んでくださりありがとうございます!!