4.俺は虐めっ子ではありません!
俺はルーカスに目配せしてから、扉の外に返事をした。
「どうぞ。」
返事の後、優雅な動きで部屋へ入ってきたのは、ルーカスの父、ロベルト・ベルワイト侯爵だ。
「やぁ、ゆっくりお話は出来たかな?召し使いを皆部屋から追い出すなんて、一体どんな話をしていたんだい?」
そう言いながら近づいてきたベルワイト侯爵。
齢28歳とまだまだ若い侯爵は、ルーカスと同じハニーブロンドを後ろでひとつに結び、エメラルドグリーンの瞳は光の加減でたまにゴールドが煌めく、イケメンだ。
近づくにつれ、自分の息子の様子に気がついたベルワイト侯爵は、凛々しい眉を一瞬だけピクリと動かすと、心配そうにルーカスに語りかけた。
「ルーカス、どうしたんだ?涙なんかためて…。」
「あ、いえ、何でもありません。紅茶でむせてしまって…。」
「そうなのかい?アメリア嬢?」
「はい…。話が盛り上がって、少しはしゃぎすぎてしまって…。」
探るような侯爵の目を、困ったように見つめ返しながら答える。
苛めてたなんて思われたら、婚約が流れてしまうかもしれない。
せっかく見つけた仲間を、みすみす逃してなるものか!!
俺が内心焦っているのを感じてか、俺の令嬢モードに固まっていたルーカスが、はっとしてフォローを入れてくれた。
「本当です、父様。アメリア嬢は心配して、ハンカチまで貸してくれたんですよ?」
そう言って、さっき渡したハンカチを父親に見せる。
それを見た侯爵は、納得したように笑顔でお礼を言ってきた。
「そうだったのか。ありがとう、アメリア嬢。」
「いえ、当たり前の事ですわ。」
「随分仲良くなれたようで、安心したよ。まだまだ話足りないかもしれないが、日も傾いてきたし、今日のところはお暇させていただくよ。」
「もう、そんな時間なんですか?残念ですが…、仕方ありませんよね……。」
「そちらが良ければ、また近いうちに会いに来るとしよう。いいかな?ルーカス。」
「はい!また会いたいです!」
心底残念そうにうつ向きかげんにそう言うと、侯爵から有難い返事が貰えた。
ルーカスもしっかり援護射撃してくれる。
よっしゃ!これで、次回の面会は早く出来そうだな。しめしめ…。
「ルーカスが令嬢とそんなに仲良くなるなんて、驚いたよ。いつもは苦手そうにしているのに。」
侯爵は目を開いて、不思議そうにルーカスを見る。
当のルーカスは、少しすねたようにしながら、父親を見つめ返す。
「アメリア嬢は、他の令嬢とは違うから…。婚約者になるんですし、別に悪い事ではないでしょう?」
「悪いだなんて思っていないよ。むしろ、喜ばしい事だ。」
「では、明日にでもまた会えますか?」
「それは…急だな。アメリア嬢の都合があるだろう?」
「アメリア嬢、ダメですか?」
そう言って、まるでチワワみたいに瞳をうるうるさせたルーカスがこっちを見てくる。
だから、それはズルいって!!無駄にキュンキュンさせんな!
後からの精神的ダメージがきついから!!
「私なら、大丈夫ですわ。いつでもいらしてください。」
「ありがとう、アメリア嬢!」
ルーカスは回りに花が咲くの?ってぐらいの笑顔を見せて、握手を求めてきた。
だ・か・ら!!いや、もうこれは言っても仕方ないのか…。イケメン、怖い。
「これからは、ルカって呼んで欲しい。」
(ルーカス卿って、あんまり可愛くないし。呼ばれるなら、ルカの方が女の子っぽくて良いよね。)
俺はその手を握り返して答えた。
「わかりましたわ。では、私のことはアミィと呼んで下さいませ。」
(仲間を一人ゲットだぜ!これでやっと、死亡フラグ回避の第一歩が踏み出せた…!)
それぞれの思惑を胸に秘めつつ、俺達が熱い握手を交わしていると、今度は俺の父親、エドウィン・ランバーソン伯爵が部屋に入ってきた。
「おや?随分仲が良さそうだね。二人の気が合ってなによりだ。」
「あぁ、ランバーソン伯爵。そうなんだ、ルーカスもアメリア嬢を気に入ったらしくて、明日にでもまた来たいと言ってるんだ。」
「本当かい?!こちらは全く構わないよ。勿論、アメリアが良ければだけど…」
ちらりと目配せで、親父が俺の返事をうかがってくる。
「私はいつでも来ていただきたいと、先程お伝えしていましたの。お父様の許しを得る前にお返事してしまって、ごめんなさい。」
その答えを聞いた親父は、目を見開いてビックリしている。
そんなに驚かなくても…。
「そうか!だったら、いつでも来なさい!我が家はいつでも大歓迎だ!」
親父はそう言って、嬉しそうに頷いている。目にはちょっと涙まで浮かんでないか?
うざいことこの上ないが、表情には出さない。これでも伯爵令嬢だからな。それに、まぁ、少しは俺の日頃の行いのせいでもあるし…な。
「ありがとうございます、ランバーソン伯爵。では、さっそくですが、明日伺っても宜しいですか?」
「勿論だとも。ルーカス卿、アメリアをよろしく頼むよ。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ルーカスは親父とも握手をしてから、こちらにやってきた。
「じゃあ、話の続きはまた明日。アミィ。」
「えぇ、お待ちしておりますわ。ルカ」
こうして、俺達の初顔合わせは無事に終わった。