モフモフのエネルギー
私も自分で何を書いているのかわからなくなって来た。
それは、最悪な光景だった。
「ははっ、遅い! 脆い! 弱い! ここまで雑魚だといっそ哀れだなぁ!!」
「……ランプっ」
僕はあまりの惨状に目を背けた。
ランプは、巨大カラス……ブラッククローに舐めプされていた。
ランプが這っている間、ブラッククローは動かない。しかし、あと少しのところになると飛翔し、ランプを軽く爪で引っ掻きながら距離を取る。その流れを延々と繰り返しているのだ。
外野の人の目には退屈な戦いだと映るだろうけど、僕としては最悪で。ランプは見る見る間に弱っていった。
ランプがノロノロとカラスがいる方へと這っていく。
ダメなんだよ……。そっちにいっても何も無いんだ……。
僕の予想通り、ブラッククローは飛んだ。
その事にワンテンポ遅れて理解したランプはゆっくりと方向転換を開始する。
「はっ!! お前の従魔の目は節穴か?」
モブ君はそう言うけど案外それは真実に近い。
そもそもイモムシは目が悪いのだ。そしてそれはランプも同様。モンスターなだけあって少しは良くなっているみたいだけどそれでも認識能力は著しく低い。
「キュウ……キュウ」
「棄権させて……下さい」
「はい、七回目の却下ァ!!」
ランプは濃緑色の吐瀉物に塗れながら、それでも見当違いの方向へ這いずり回る。
『ご主人に勝利を』と、そう言いながら。
勝てないんだよ!!
無理なんだよ!!
なのに……なのに……ッ。
「何でだよ……何で諦めてくれないんだよ、ランプ……」
負ければ死ぬと分かっている。けれど、ランプがこれ以上嬲られるのを黙って見てはいられなくてそう呟いた。
僕はこれでもモンスターテイマーの卵だ。無駄に苦しませるくらいならいっそ人思いに殺してやって欲しいだなんて口には出来ない。
それは人としてもモンスターテイマーとしても最低だ。
だけれどそう思わずにはいられない。
この苦痛を早く終わらせてやって欲しいと。
……それは『死ね』と言うのと何ら変わりがないのに。
それでも、ランプは必死に這い回る。
「キュィ! ……キュウッ!」
『ご主人、僕頑張ってるよ』?
何回も何回も吐いて、体もいつも以上に動かなくなっているのに。……それでも頑張ると、そう言うのか?
「……何で僕の為に頑張るんだよ!!」
僕は我慢出来なくて叫んでいた。
モフモフ以外は邪道だと、一方的に嫌っていた僕の為に何故戦える!?
分からない、分からない、分からないッ!!
「キュイッ!!」
「『ご主人が、好きだから』、だって?」
思い浮かぶのは当たり前のーーランプのいる日々。
毎日毎日雑草を摘んで、それをランプにくれてやると毎度拝むように受け取って嬉しそうに……心底幸せそうに食んでいた。
それを見ると何だか和んで、嫌な事も忘れてたっけ。
「あぁ、そうだった」
僕がモフモフを求めた理由。
それは癒されたかったから。僕にとって癒しとはモフモフと同義だった。
ならば、今日まで僕を癒してくれたランプは癒しの化身。
つまりーーランプはモフモフなのだ。
僕にとってのモフモフはランプと言う事だ!!
「ランプ、お前は最高のモフモフだ……」
泣きたくなるのは堪えよう。目頭が熱くなっても、鼻がツーンと痛んでも、今は堪えよう。
「ランプ、お前のモフモフはただのモフモフじゃない。……天を衝くモフモフだ!!」
「キュィィィィッ!!」
瞬間、僕とランプはモフモフエネルギーに包まれた。
モフモフエネルギーとは何ぞや、だなんて質問は受け付けない。というか僕にも分からない。
ただ、もの凄い勢いでランプにモフモフエネルギーが集中していく事だけは分かった。
「な、何が起きてるんだ!!」
「モフモフだ」
僕には分かる。ランプは大いなるモフモフエネルギーの本流に包まれながら変化をーー変態している事が。
「な、なんだよモフモフって。訳が分からないなァァァッ!!」
「いいか、良く聞け」
「ーー僕のモフモフは飛ぶぞ」