第7話 「プランA、B、C」
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『題して「モーニングコール大作戦」
ワーッ、パチパチ』
「アンナさん、ふざけてないで、真面目に教えて」
『いつも真面目よ、失礼しちゃうわね〜』
『モーニングコール作戦というのは、
萌ちゃんが使っている目覚まし時計の鳴る5分前から、テレパシーを使って話しかけるの』
『萌、時間よ、起きなさい』
『ピアノの練習をしようよ』
『学校に遅れるよ』
『など、毎朝睦月の声で起こしてあげるの』
『1つだけ、萌ちゃんの知らないことを言ってあげるのが効果的よ』
『そのうちに、夢うつつの間は、睦月ちゃんと会えると思い始めるわ』
『その時がお願いするチャンスよ』
『どう?上手くいきそうでしょ』
「‥‥」
「プランBはあるの?」
『あるわよ、プランZまであるわ』
「プランBを教えてちょうだい」
『プランBはねぇ、毎回お風呂で頭を洗っている時に声をかける案なの』
『でもこの前は、その子、シャワーヘッドを使うようになっちゃって。失敗したの』
ダメだ、この案内人。
自分で考えるしかないな。
『あっ、あっ、あーっ』
『私を信じてないでしょ。そりゃ失敗続きだけど、私にも奥の手があるのよ』
『私は、2人がテレパシーで会話している間、その空間以外の時間を止めることができるわ』
『つまり、2人でどんだけ話しても、時間は進まないの』
『だから、心ゆくまでゆっくり話し合えるわよ』
う〜ん、ダメ元でプランAを試してみるか。
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睦月が亡くなってもう5日。
お葬式も納骨も済ませた。
昨日までは、胸にポッカリと穴があいたような、虚脱感があった。
でも、今日はちょっと違う。
今朝は睦っちに起こされたのだ。
夢なのだろう、でも睦っちに起こされたことがとても嬉しい。
睦っちの声が、まだしっかりと頭に残って響いている。
『萌、朝よ、起きなさい』
『ピアノの練習しようよ』
『早く起きないと遅刻よ』
『冷蔵庫のプリン、今日が消費期限よ』
『私の代わりに食べちゃってね』
そこで、目覚まし時計が鳴って、本当に目が覚めた。
夢だったんだろうか?
でも、冷蔵庫にプリンはあった。
消費期限は夢のお告げの通り、今日までだった。
睦っちが望んだ通り、食べてみる。
不○家のちょっと高めのプリン。
一口目、濃くて甘くてとっても美味しい。
二口目、あれっ味がしない。?。
でも、頭の中で睦っちが喜んでいる気がする。
三口目からは、味が戻った。
美味しい、睦っちありがとう、ごちそうさま。
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『こらーっ』
『勝手に萌ちゃんの味覚を借りたでしょ』
「一口だけよ、だってずっと楽しみにしていたんだもん。コンサートが終わったら食べようって」
『もうしてしまったことは仕方がないけど、今度からは気をつけてね』
『でも、一瞬だけの貸し借りができるなんて、睦月ちと萌ちゃんは、よっぽど貸借の相性がいいわね』
『今度、萌ちゃんがピアノを弾く時、隣に座って、右手を重ねてごらんなさい』
『きっと一緒に弾けるわ。これだけの相性なら』
『でも絶対にまだ自分で弾かないでね。萌ちゃんの弾くのに合わせて弾いてね。』
『焦らないでね』
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『さて、プランCを行うわよ。これはプランAと併用すると効果的なの』
『題して「あれ、どこいった?」作戦』
『見てて』
アンナは、萌の消しゴムをブレザーの左ポケットに入れた。
『これで、明日の朝、今朝みたいに睦月が教えてあげるの』
「えーっ、意地悪みたいで嫌だなぁ」
『我慢しなさい、萌ちゃんと話せるようになったら、謝って許してもらうの』
「わかったわ」
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放課後、萌はオーケストラ部の部活動のため、ホールに向かった。
アンナと睦月も付いてきている。
「ねえ、萌が、私がいるんだって思えば、私のことが、見えるようになるんだよね?」
『そうよ。でも怖がらせるのはダメよ』
「うん、わかった」
練習が始まった。
今日は、ピアノコンチェルトの通し練習のようだ。
『ホラ、萌ちゃんの隣に座って、萌ちゃんの右手に自分の右手を重ねてごらんなさい』
「大丈夫かな?」
『でも決して自分で弾こうとしないで。萌ちゃんに任せて、弾いてみて』
「ひ、弾いてるわ、ピアノが弾けた」
「萌の弾き方、懐かしい」
「私、今、萌と一緒に弾いているのね」
その時、萌には異変が起きていた。
右手が軽い。
とちりやすいパッセージも、今は余裕がある。
まるで睦っちが乗り移っているようだ。
睦っちが、一緒に弾いてくれている、とても
そう感じる。
ふと右を見ると、半透明の睦っちが隣に座って、私の右手に睦っちの右手を重ねて、私とピアノを弾いていた。
それを見た瞬間、私は意識を失った。