第3話 「ベンチウォーマー」
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私と睦月は、初等部低学年の時から、双子の天才ピアニストと呼ばれ、学園では有名だった。
そのため何年も前から、中等部に入ったらオーケストラでピアノコンチェルトを弾くことが決まっていた。
中学に入学した時にピアノの先生から何曲かの譜面を渡されて、
『来年の9月の学園祭、そして12月の定期演奏会で弾いてもらうわ。
どの曲にするか、よく考えてね。』
と言われた。
睦っちと私は譜面を見て、弾く曲がすぐに決まった。
モーツァルトの20番だ。
2人とも同じ選曲だった。
1年の最初のうちは、睦っちと私どちらがコンチェルトを弾くのか、決まっていなかった。
けど、夏には差が開いているのが、誰の目からも明らかだった。
私はもう1つの部活、バスケにのめり込み、毎日のピアノの練習時間は、睦っちの半分以下になっていた。
今年の学園祭が終わった後、先生から発表されたソリストは当然、睦っちで、指揮者は来年のオーケストラ部部長の俊介だった。
私は、睦っちの控えを希望した。
私はホッとした。
強がりでなく、心から睦っちで良かったと思った。
だって、睦っちは私の音楽の目標だから。
それに、俊介が指揮者!。
よかったね睦っち、tuttiが毎回デートだよ。
性格も考え方も同じ、だからきっと、睦っちは私の気持ちもわかってる。
でもね、
私は睦っちにこそ幸せになって欲しいんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日は17時からゲネプロだ。
明日15時には本番開演だ。
ゲネプロは、軽く曲を通す練習で、客席の音響などのチェックに終始した。
明日が本番だから、今日は無理をしない。
でも睦っちは、今日も本気。
俊介にかける愛のメロディには、手を抜く所が無いようだ。
ゲネプロが終わると、父が車で迎えに来てくれていた。
片付けの後、みんなに挨拶をして、車に乗り込んだ。
『睦月、どうだ調子は?』
『ぼちぼちかな?』
「大好きな俊介くんとの初共演だものね。
緊張してる?」
『もうっ、変なこと言わないでっ』
目が笑っている。
本当に嬉しいんだろう。
自分の感情を、いつもは内部に秘めてしまう睦月。
だけど、ピアノが間にあれば睦っちは雄弁となる。
tuttiはいつもピアノを通して、俊介へ愛の告白だ。
車が突然スピードを落として、父はクラクションを鳴らした。
『おーい、俊介! 乗ってけよ』
『ありがとうございます、おじさん。お邪魔します』
お父さん、グッジョブ!
後ろのシートは睦っちと俊介、思わず聴き耳を立ててしまう。
ん?
なんで今ごろバックミラーを直してるの?
父よお前もか。
でも前見て運転してよ。
『睦月、今日のゲネプロ、とっても良かった。明日の本番も頼むな。俺も精一杯頑張るから 』
『うん』
『それと明日の午前中、学園祭を回りたいだろうけど、出来れば出番まで、どこにも行かずにゆっくりとしていて欲しい』
『わかってる、心配性ね。ホールにいてどこにも行かないわ』
『気のせいならいいが、3楽章の終わり、少し疲れが出てるって感じたんだ』
『それが心配性っていうの。大丈夫、元気一杯よ』
『着いたぞ、俊介』
『あ、ありがとうございます』
『明日頑張ろうな、睦月、萌』
『俊介、明日聴きに行くから、このバカ娘2人よろしくな』
『おやすみなさい』
「バカ娘ってなによ? もう」
『睦月、初恋の人って俊介か?』
お父さんナイス、ど直球でどストライク。
『えっ、お父さんっ何言ってるの? 俊介はずっと幼馴染で、それに初恋かなんて、まだ』
うんうん、言葉とは裏腹に、本音が漏れてるぞ。
『俊介が言うように、疲れているみたいだから、今日は早く休め』
「『はい』」
『萌はベンチウォーマーだから大丈夫だろう?』
「メインには乗るわ」
「ベンチウォーマーなんて、失礼な」
まだファンタジーは、出てきません