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睦月と萌  作者: 乙 君
14/16

第14話 「小犬のワルツ」

『午後はジェットコースターとクルーズだな』


ジェットコースター乗り場に来た3人が見たのは、沢山の人の順番待ちだった。


『やっぱり日曜日は混むな』


『2時間待ちだってさ、どうする?』


「乗りたいっ、ね、いいでしょ?」


『わかった、これが最後の乗り物になるかもな』


萌(睦月)がおもむろにスマートフォンを取り出し、ピアノアプリで、右手パートを弾きだした。


片手用に、アレンジを加えながら。


「最近は便利よね。どこでもピアノが弾ける」


弾いているのは、ショパンのノクターン。


〈睦っち、よくそんなに小さい鍵盤で弾けるわね〉


〈慣れよ、慣れ〉


ショパンのノクターンが、睦っち色に染まって奏でられている。


曲が終わると、周りから拍手がわいた。


「恥ずかしいっ」


萌(萌)は、俊介に抱きついた。


〈ちよっ、ちょっと萌、何やってんのよ〉


〈はい、交代。しばらく抱きついてたら。ふふ〉


『恥ずかしい事なんてないって。萌の演奏が良かったから。胸を張っていいんだよ』


「迷惑だった?」


『いや、迷惑じゃないさ』



『あのぉ』


そこには、小学生低学年の女の子が立っていた。


『アンコールお願いします』


「おなまえは?」


『みずき』


「みずきちゃんは、小犬好き?」


『うん、大好き』


「じゃあ、みずきちゃんのために、小犬のワルツを弾いてあげる」


軽快に小犬が走りだした。そんな演奏だった。


〈そんなに小さい鍵盤で、ほんとよく弾けるわね〉


俊介は、にこやかに萌(睦月)を見ていた。


待ち時間の2時間は、とても楽しい時間となった。



私たちの順番が来た。


4人がけに、萌(睦月)と俊介、その隣に見えないはずの私が座った。


だけど、係のお姉さんは、あと2人を座らせようとしない。


霊感が強いのだろうか?


ジェットコースターが終わって、興奮気味に萌(睦月)と俊介が建物を出た。


ジェットコースター名物の落下写真には、しっかりと3人が写っていたのは内緒だ。


睦っちと私は、しっかりと両手を上げていた。



夕焼け空になり、帰る時間となった。


「ハァ、楽しかった。ね、俊介」


『あぁ、そうだな』


「また来れたらいいね」


『いつでも来れるさ』


睦月は無理だ。あと3ヶ月で天に昇る。



電車の中、睦月は頭を俊介の肩の上に乗せて寝ている。


駅に着くとお父さんが迎えに来ていた。


『はい、お邪魔します』


『萌と俊介、今日はどうだった?』


「すっごく楽しかった。ね、俊介」


『ああ、とっても楽しかった』


「睦月も喜んでいるわ。ずっと一緒だったもの」


『そうだな』お父さんは短く答えた。


『おっと、俊介はここか』


『今日は萌をありがとうな、俊介』


『こちらこそ送っていただいて、ありがとうございます。それでは』


『じゃあな』


「俊介、また明日ね」



私と睦っちは入れ替わり、元に戻った。


ストップウォッチは、6:09となっていた。


このストップウォッチは霊界製で、私と睦っちの頭の中でしか見えない。


〈萌、結構時間を貰っちゃったね〉


〈萌、ありがとう〉


〈まだ今週、8時間もあるわ〉


〈オケの練習もあるし、楽しみね〉


〈睦っち、12月24日まで楽しまなきゃ〉



『おい、萌。着いたぞ。早く降りろ』


「もうお父さんったら。今日の余韻に浸っていたのに」


『なにが余韻だ。たかが遊園地ぐらいで』


「あっ、お父さん妬いてるの?」


『アホ、こんな娘に付き合わされた俊坊が、可哀想と思っただけだ』


「ひっどーい」


『いいから降りて、メシだメシ』


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