第13話 「120度の位置関係」
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「俊介〜っ、おはよう」
『萌、おはよう。待った?』
「ううん、今来たところ」
〈睦っちってば、嘘ばっかし、30分も早く着いていたくせに。ふふ〉
〈いいの、待つのも楽しいわ〉
「じゃあ行きましょう」
『そうだね』
ここから遊園地までは電車で30分だ。
遊園地に着くと、そこには開園を待つ人でいっぱいだ。
私は睦月から、口と左手をシンクロさせた。
「はぐれないように、いい?」
左手で俊介の右手を握った。
そしてすぐに睦月に返した。
『ああ、しっかり掴まってろ』
〈えっ。ち、ちょっと萌ったら〉
〈ふふふ、スキンシップ、スキンシップ〉
私1人だったら、こんな事出来ないだろう。
睦っちが喜ぶと思うと、自然に出来る。
『おっ、開園したみたいだぞ』
急に人の流れが動き始める。
「きゃっ」
『大丈夫か?』
実は、私が睦っちを押し付けたんだよね。
〈萌、何するのよ。もう〉
〈睦っち。もっとくっつかなくちゃ〉
〈それに私じゃないわよ。混んでるから仕方ないわ〉
〈もう〉
睦っちは嬉しそうだ。
睦っちとって初めてのデートだ。
ん? 待てよ。デートしてるのは私であって、でも心は睦月。
あー、めんどくさい。
今がよければそれでいいんだ。うん。
開けた場所に来た。
萌(睦月)はまだ俊介と手を握ったままだ。
〈睦っち、最初はどれにするの?〉
〈最初はもう決めてあるの〉
「ねぇ俊介、あれに乗りましょう」
萌(睦月)の指差す方向にはコーヒーカップがあった。
『コーヒーカップか、萌はまだまだお子様だな』
〈なんだと。睦っち、言い返してやって〉
「最初はゆっくりした乗り物がいいわ。睦月もきっとそうだと思うの」
『悪い悪い、お子様だなんて言って』
『そうだな、睦月がいれば3人で乗れたしな。よし、行こう』
コーヒーカップには、3人で乗った。
3人で等間隔、120度の位置関係。
俊介や他の人から見たら、ちょっと奇妙な座り方のカップル。
私たち3人は、120度の位置関係だ。
睦っちが亡くなる前からずっと、今も120度の位置関係。
メロディーが終わってカップが止まった。
「ねぇ俊介、もう一度乗りたい。並んでる人いないし、いいでしょ?」
『萌が、コーヒーカップがそんなに好きとは知らなかった。いいよ』
睦月は突然乗り移りをやめて、私は自分の身体に戻った。
睦っち、私にも俊介と楽しませたいのだ。
「俊介、思いっきり回すわよ〜」
『うおおぉ、萌、回しすぎ』
「今度は逆回転〜」
『うわわぁ、目が回る』
「ごめんね、ちょっとやり過ぎたみたいね」
俊介は目が回り、ベンチで萌(睦月)に膝枕をされている。
〈睦っち、やったね。膝枕ゲット〉
〈もう、やり過ぎよ、萌〉
〈でも、嬉しいでしょ〉
〈ちょっとはね、ふふ〉
〈ねぇ萌、見て。俊介、赤ちゃんみたい〉
〈萌、ありがとうね〉
〈まだ礼は早いよ。第2弾、第3弾があるわよ〉
それから、いろいろな乗り物を乗った。
睦月は、全部3人で乗れる乗り物を選んだ。
『お昼どうしようか?』
「私、行きたいレストランがあるの。もう予約してあるんだ。そこでいいかな?」
『いいよ、なんて名前のレストラン?』
「ミクロネシアって言うの、知ってる?」
「30分前だわ、もう行きましょう。クルーズ船乗り場の横なの」
〈睦っち、昨日教えた通りよ。セリフ大丈夫?〉
〈大丈夫よ、ありがとう萌〉
〈予約もだいぶ前にしたから、心配だったけど、昨日確認の電話したら、まだ大丈夫だったよ〉
レストランで案内されたテーブルは丸く、3人分の準備があった。
「ゴメンね俊輔、嫌かもしれないけど、3人分予約してあるの」
「ずっと前に予約して、昨日まで悩んだけどやっぱり3人分のままお願いしたの」
「お店にお願いして、一人分無駄になるけど同じように3人分サーブするようにしてもらったの」
「今日は睦月も一緒よ。ね、いいでしよ?」
『いいに決まってるだろう』
『俺、萌がこんなにも睦月を想っていてくれて嬉しいよ』
『ほら、スープが来たぞ』
〈萌ありがとう〉
〈3人で食べるのってすごく美味しい〉
〈こんな幸せな時間、初めてよ〉
〈ピアノコンチェルトよりもずっといいわ〉