第10話 「睦っちはすごいのよ」
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翌朝、私は睦月の声で起こされた。
ものすごい幸せ
〈萌、起きて、朝よ〉
〈今日は、オケの練習よ〉
〈早く起きなさい〉
〈消しゴムはポケットの中よ〉
「なにっ」
ガバッと起きた。
『ジリリリー』
目覚ましを止めて、睦っちに問いかける。
「消しゴム隠したの、睦っちだったのね」
〈隠したのはアンナ、でも黙っててゴメンね〉
「ダメアンナね」
〈萌もそう思う?〉
「まあね」
「〈ふふふっ〉」
〈さあ、起きましょう。おはよう、萌〉
「おはよう、睦っち」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リビングでは、すでにお父さんが起きて新聞を読んでいた。
「おはよう。お父さん、お母さん」
『おはよう』
『おはよう、今日は早いのね。練習は午後からでしょ?』
「うん、ちょっとピアノを練習しておきたくて」
食後、ピアノ部屋に向かった私は睦っちに聞いた。
「睦っち、今弾く? それともオケの練習で弾く?」
〈えっ、オケの練習で弾いていいの?〉
「もちろん、オケで弾いてみよう」
〈うん、ありがとう〉
「今日の練習は、13時から15時までがピアノコンチェルト。2時間だからちょうどいいね。今日は第1楽章よ」
〈萌は練習しないの?〉
「今からするわ」
今日の練習箇所である第1楽章を弾き始める。
右横に睦っちが座って、右手を重ねてくる。
「2時間しかダメなんじゃないの?」
〈身体の一部のシンクロなら、霊体を追い出さないから、負担は無く大丈夫なんだって〉
昨日、ダメアンナに聞いてきた。
「アンナねぇ、会ったことないけど、痛い人みたいね。ウフッ」
「ここの所、一緒に弾いてみて」
「いつも指が回らず、転んじゃうんだ」
〈私も去年の今頃かな、ゆっくりと毎日100回は弾いたわ〉
うわぁ、そこまで練習したことない。
差がつくはずだわ。
バスケのシュート練習ならできるかも。
睦っちと一緒に弾く。
「わぁ、指が回る。転ばないで弾けてるわ」
私は睦っちに、マンツーマンでピアノを教わっているかのように、ピアノに没頭した。
「萌、そろそろ時間よ」
お母さんの声で我に返った。
もう12時だ。3時間も延々と弾いていた。
こんなに楽しく弾いたのはなん年ぶりだろう。
「睦っち、行こう」
〈うん〉
萌はさんどいを頬張り、睦月と学校に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ポーン』
ホールにピアノの「ラ」音が響く。
ピアノからコンミスへ。
コンミスのヴァイオリンから弦楽器、そして管楽器へと、音が紡がれてゆく。
チューニングは儀式のようだ。
演奏前のお祈りをしているかのようだ。
俊介が指揮台に乗り、話し始めた。
『今日は、木曜日に通せなかった第1楽章を通します。』
『落ちても、必ず復活してついてきてください』
『じゃあ、萌、用意はいいかい?』
睦月は頷いた。
『みんなも、天国にいる睦月に届くように、心を込めて』
だから、睦っちはここにいるってば。
指揮棒が振られると、弦楽器のシンコペーションから曲は始まった。
管楽器が重なり、重厚な和音で第一主題が終わった。
ピアノが入ってくる。
あっ、睦っちのピアノだ。
学園祭の時と変わらない。
第1楽章の通しが終わった。
指揮の俊介が何か言いたそうだ
オケメンバー全員が、不思議な顔をしている。
〈ねぇ萌、やりすぎたかなあ?〉
〈ううん、とっても素敵だったよ〉
〈俊介に、「調子がいいので第3楽章まで通しましょう」って言ってみたら?〉
「斉藤先輩、調子がいいので第3楽章まで通しませんか?」
「あ、ああ、みんなはどうだ?」
オケメンバーも文句は無い
「よし、2楽章から」
やった、睦っちのピアノがまた聴ける。
でも、これからの練習、これと比べられるのか。辛いな。