第一節 鬼界颯
都会の喧騒は、片田舎出身者にとっては、嫌になるほど肩が凝る。
日本の中心都市、東京。その更に中心、渋谷ともなれば、それはまた、ひとしおだ。通り過ぎていく人々はどこか忙しない。色々な声と言葉が飛び交って、拾えそうな情報をすべて拾っていくだけで、頭はパンクしそうだ。
それでも耳をそばだてるのは、普段から人を観察し、その場の空気に合わせる癖がついているからに他ならない。
「ねえ、また妖魔が出たんだって」
「この間の試験、ボロボロだったよ」
「いい曲があるんだけれど、聞かない?絶対にハマるって」
「東京郊外の山奥」
「そこのお姉さん、調査に協力を」
「第一級祓魔師のくるみちゃん、かわいいよな」
待っている時間は暇なので、スマートフォンを弄り、東京独自の情報記事を眺めて行けば、その大半が現在問題視されている、妖魔関連のものだった。
『妖魔の仕業か?祓魔局、調査に乗り出す―――本日未明、新宿区にて妖魔に襲われ、十代の少年が重体。一週間前より東京都各地で出没している妖魔と同じ個体と禊魔局は見解を示し、調査を進めている―――』
そんな物騒なニュースが、スマートフォンの検索画面に引っかかって来て、またか、とため息を吐いた。
「ちょっとキミ、いいかな?」
声を掛けてきたのは、四十代半ばの髭面の男と、二十代後半頃のひ弱そうな男の二人組だった。見るからに高級そうなスーツを身に付けて、営業スマイルを浮かべている。
「中々イケメンだね。私たち、こういう者なのだけれど」
差し出されたのは一枚の名刺だ。
『芸能事務所ファイナル 営業部課長 舘武三』
文字を読んだ後に、名刺を掴む骨ばんだ指を見る。そこに絡まる、悪意があった。黒くもやりとした、霧状のもの。感情が視覚化されたものだ。
人は皆、“気”を持っている。 “気”は人の感情によって輝くときがあれば、澱むときもある。人はそれを無意識に放出する。どんな達人であろうと、誰も、この世界の誰も、その存在を忘れ去っている。
それを、少年は見ることができる。
一体どのような悪意があるのか、そこまでの境地にまでは至っていないが、ともあれ、自分にとって目の前の人間が敵か味方か、それを見分ける程度の力は、この三年間で身に付いた。
「なあ、おっさんたちさ」
にやり、と笑って問いかける。
「そんなつまんない嘘を吐いて、一体何を考えてんの?」
う、と男たちが唸った。まるで人の心を見透かすような、日本人ではまず、そうそうお目にかかあれない真っ赤な瞳を、少年がこちらに向けていたからだ。
「っ……!」
「い、いや、失礼。いきなり話しかけて、混乱しているだろう?しかし、本当に我々はモデルのスカウトをする会社の人間だよ。嘘だと思うのならば、ここに書いてある名刺の電話番号に掛けてみるといい」
ひ弱そうな男性は言葉を詰まらせて、それを庇うかのように、髭面の男性は堂々すらすらと、まるで始めから決めていたかのように言葉を吐き出した。無論、口から流れ出る言葉の音と共に、澱んだ霧が男の体の周りを漂い始めている辺り、悪意ある嘘で間違いないだろう。
―――にゃはは、嘘を吐きなれているなあ、この人間!
耳元でとても楽しそうに笑う、陽気な少女の声がする。
―――そうだな。ま、気の流れを調整できていないから、嘘を吐いていることが丸分かりだけどな。
心の中で応対して、少年はふむ、と鼻を鳴らした。
「分かった。んじゃ、電話するわ。会社の名前は芸能事務所ファイナルだっけ?」
スマートフォンで検索をかけつつ、確認をとる。
「そうそう、そうだよ」
ひ弱そうな男性が頷いた。こちらは髭面の男性よりも若干空気が澄んでいる。悪いことをしているという自覚がないのか、罪悪感が強いのか、それとも。詮索するのもほとほとにして、少年は男二人にスマートフォンの画面を突き付けた。
「そんでさ、おっさんたち。おっさんが見せてくれた電話番号と、『芸能事務所ファイナル』の公式のホームページに載っている電話番号が違うんだけど。なんで?」
髭面の男性が何とか言葉を絞り出す。
「それは、総合案内をする電話番号だからだよ。私が紹介している電話番号は、営業部直通」
「因みに路上スカウトは東京都の条例に違反してんじゃねーの?」
「みんな、こっそりとしているものさ」
「明星あけみ、結城れいか、橘ゆうき、冴羽晶」
「は?」
素早く紡ぐ人間の名前に、髭面の男性はことりと首を傾げた。対し、首を傾げなかったひ弱そうな男性は、眼を点にした後、表情を青くする。
「今、オレが言ったのは、ファイナルに所属している有名な芸能人の名前。社員なら絶対に知っていなきゃいけないはずだよな。ましてやそれが、営業課長なら尚更だと思うけれど」
髭面の男性の表情が、今度こそ引きつった。効果てきめんだ。このまま引き下がるとは思わないが、上げ足を一つ、取ることには成功した。
更に追い打ちをかけるべく、少年は口を開き、
―――二代目。
冷静な女性の声がすると同時に、赤い瞳を大きく見開いた。
黒い霧が、地面の一部に急速に収束し始めていた。地を巡る気の流れ―――龍脈の中にあった負の気が集まり始めているのだ。
―――顕現するぞ!
陽気な少女の声が弾む。その予測通りに、負の気はぎゅるりと捩じれたかと思えば、一気に膨らみ上がった。両手を地面につければ、その地面は割れ、長い翼が傍にあった街路樹を斬り裂いた。
そこには、一体の化け物がいた。長い翼に逞しく太い両手足。いわば妖魔と呼ばれる化け物の類。この世界に於ける、本来生まれるはずの無かった命の無いモノ。
その傍を、歩行者が悠然と通り過ぎていく。
彼らはまだ、妖魔が認識できないらしい。
―――おいおいおい……仮にも大都会の駅前だぞ……?こうも簡単に妖魔が顕現していいものなのか……?
甘ったるいが爽やかな声が、呆れたように呟いた。
―――ここはあちら側とは違う。妖魔の顕現に必要な媒介が、そこかしこに漂ってんだ。こういう現象、日常茶飯事だっての。
簡単にこの世界の常識を説明してやれば、面倒な、と小さく声がした。
恐慌の悲鳴が、辺りに響き渡った。どうやら妖魔の出現をやっと認識できるほど、そこかしこの負の力をかき集め終わったらしい。見れば妖魔の足元に咲いていた、小さく青い花が何本の姿が崩れつつある。
「妖魔よ!」「祓魔師はまだ?」「結界はどうした!」「アラームが鳴っていないぞ!どういう事だ!」
人々が逃げまどう。少年をスカウトしてきた男たちもどさくさに紛れて逃げ始めている。
―――逃げてしまう。どうするのじゃ?
―――いい、翡翠。それよりも、周辺に祓魔師の気配は?
妙に落ち着いた、しかし幼い子供の声に応じて尋ねれば、すぐ様答えが返って来る。
―――五秒間は現れん。
―――それなら、オレらで対処するしかないか……。
のろり、と少年は動いた。掌に僅かに力を込める。そこには、ひらがなによく似た、しかし全く違う文字が仄かに輝き、渦巻き始めていた。細く息を吸う。
まずは、周辺の人間の身の安全の確保が先決だ。
ならば、結界を張ることが一番必要か。
「こんご……」
―――待て!祓魔師が来た!かなり強い気配じゃぞ!
幼い子供の声の制止がかかり、少年は動きを止めた。
直後、ふわり、と。
一人の少女が視界に入り込んだ。年代は丁度少年と同じ頃。長い黒髪を高い位置でまとめ上げた、凛々しい顔つきの少女だった。彼女は少年の隣を走り抜けながら、懐から取り出した札を妖魔に向かって放り投げた。
その札は、何十枚もまとめられたものだった故に、剥がれ、離れ、妖魔の周囲を取り囲む。その一枚一枚が力を発揮し、輝き、互いにつながって強力な結界を形成する。少女の体から迸る清廉な気は、周囲の澱んだ空気を一気に清浄へ戻していく。それほど、吐き気がするほどに。
―――霊力だけならば、Aランク相当ですね。
冷静な女性の声が分析を口にする。霊力とは、祓魔師が体外に気を無意識に変換した力の名前だ。霊力は自然を操ったり、妖魔を消滅させたり、様々な現象を引き起こす。霊力の量が多いほど、そしてその霊力が強いほど、祓魔師は必然的に強いというのが、この世界に於ける常識だ。
―――そうだな。しかもあの制服……祓魔堂のものだ。まだ学生か。
少女の服装は、学生服のそれだった。少し緩めのブレザーの学生服。下に着ているのはベストだろうか。スカートは膝丈。きっちりと校則を守っているあたり、優等生っぽい。
「……ていうか、この結界術って」
―――ああ、そうだな。本当に、俺って運がねえ。
見覚えのある結界術に、少年が呟き、同意するように爽やかな声が聞こえる。少し嫌そうだ。
結界が徐々に縮小していく。それに伴い、妖魔が苦痛の悲鳴を上げた。体全身が圧迫される痛みは、その痛覚は、人間も妖魔も変わらない。故に、少年は理解できて、鳥肌を立てた。
「……これで終わりだ」
開いた掌を、少女は前方へと突き出した。その掌を、ぐっと握りしめた。
瞬間。
一気に結界の空間が一握りの大きさまで縮み切った。妖魔の悲鳴は最初こそ大きかったが、空間が閉じたことにより消失。結界の内で妖魔の出来上がる素である澱みだけが残る。
周辺で歓声が起こる。それは、少女の祓魔師としての働きを称賛する声だった。
不意に。
腕を握りつぶされた記憶が蘇る。いわゆるフラッシュバック現象、と呼ばれるものだ。払拭したつもりでも、未だに心の中で燻り続ける、自分が死んだ記憶。
―――大丈夫か?
小さな子供の声がして、
―――大丈夫だ。
小さく息を吐いて、少し乱れた呼吸を整えた。
平常心。
「ちょっと」
少女がこちらを見ていた。ずかずかと近づいてきていた。
胸倉を掴まれた。
「へ」
意味が分からない。見ず知らずの祓魔師の少女に胸倉を掴まれるとは、一体何事だろうか。
「一体何をやっているの!妖魔相手にぼんやりと突っ立っているなんて、それでも祓魔師の端くれか!」
その胸元で、金色と銀色によって作られた太陰対極図を模した丸いバッジが光る。
―――祓魔局に属しているのか。
冷静な女性の声がする。
―――そうだな。服装は学生だが、正式な祓魔師の身分証であるバッジを持っている、ということは、何処かの家の当主ってトコだな。
心の中で受け答えをして、
「ちょっと、聞いているの、鬼界くん!」
呼ばれたのは、とても懐かしい名前だった。僅かに目を瞠る。それが彼女に気づかれていないことを願う。
理解した。とてもとても理解した。
彼女が自分のこの顔を見て、自然と苗字を言い当てた。それだけで、今現在、自分がどのような出来事に巻き込まれているか、なんとなくだが理解した。
「あー……うん、とりあえず、自己紹介からいこうか」
「は?」
少女がきょとんとする。その表情をしてしまうのも理解できるが、まずは誤解を解くとする。
「オレの名前は、鬼界颯。お前が知っている鬼界とは兄弟」
「へっ」
少女の顔が一気に真っ赤になった。彼女は颯の胸倉を掴んでいる自らの手を見て、慌てて手を離す。そして、何度も何度も、颯の顔を見る。
「きょ、兄弟……同じ顔ってことは、じゃあ、三つ子……?」
「そゆこと」
少年―――鬼界家の三つ子の一人である鬼界颯は、赤い瞳を細めて笑った。
「どうやら兄弟たちが世話になっているようだな。サンキュな、あいつらと友達になってくれて」
「あ、ええ。いえ、その、友達っていうわけでも……ていうか、ごめんなさい!ごめんなさい!いきなり胸倉を掴んじゃって!あああ、私、てっきり巧くんかと思って……!」
「お嬢様!」
遠くから、黒いスーツ姿の人間が駆け寄って来る。しっかりと髪を切り揃えた、いかにも仕事ができそうな女性である。
「八尋お嬢様!」
黒いスーツの女性の言葉で、ふむ、と颯は少女を見た。
「へえ、あんた、お嬢様なんだ」
「ああ、いえ、別にお嬢様っていうほどでも……」
八尋と呼ばれた少女は、慌てて首を横に振った。
いやいや、絶対にお嬢様だろう。護衛までつけちゃってさ。
そう言いたかったが、彼女の話を持ち上げると、更に話が発展して長引きそうだったので、颯は口に出さない。
「もう、八尋お嬢様!危険に自ら飛び込まないで!あなた、次期天霧家の当主なのですよ!」
―――うわあ、やっぱり……。天霧家の次期当主だ。ツイてねえ……。
黒いスーツ姿の女性の言葉を聞いて、爽やかな男の声が耳元で嘆くように呟いた。無論、ここに本来存在してはいけないものである声は、この場の全員には聞こえていない。
―――先ほどは五行召喚を使わないで正解じゃったの。話が拗れるところじゃった。
子供の声の主が頷く気配。全くだ、と颯は肩を竦めた。
「ごめんね、沢さん。体が勝手に動いちゃって。今度から気を付けるから」
「それはもう百回は聞きました」
呆れたように沢と呼ばれた女性はため息を吐いた。それから、傍にいた颯と向き合う。
「きみは―――お嬢様とは知り合いか?」
「いや、知り合いの家族ってトコロかな」
「ほう、一体どこの家柄の子供だ?」
―――出たよ、血縁主義。
爽やかな男の声が聞こえてくる。
祓魔師の能力は霊力で決まる。そして、その霊力は一世一代で身に付くことは滅多にない。世代を重ねること。これが必須条件である。
日本で有名どころになると、陰陽術の創始者である安倍家、その分家筋にあたる土御門家、三善家といったところか。ともかくも、家柄を聞けばその家の特性や力量が測れる。それによって人を判断してしまうのが、祓魔師の悪いところである。
そして、
「鬼界」
「なに、鬼界!」
鬼界の苗字を名乗れば、驚かれるのもまた、必然である。
「お、鬼界、と言えば……常に厄介ごとを引き起こす、疫病神のような家じゃないか!」
「うわーお、都会ではそんな風に思われてんのか、俺の家。これはこれは、ひどい言われ様」
尤も、遠からず。その評価は合っている。実際、自分がここにやって来たのは、人を危険に陥れる災厄に対する、後始末だから。
「あのさ、もうちと、当事者の心境を考慮した言い方をしてほしかったなあ、おばさん」
「おばっ……!」
にやにやと笑いながら、明らかに二十代後半の女性に向かって、“おばさん”呼ばわりをすれば、予想通りに彼女は目くじらを立てた。
「お嬢様、このような無礼な輩とは話さないほうがよろしいかと存じます。ええ、御耳が汚れます、お目も汚れます」
口元が引きつっている。彼女から漏れ出す気配は、怒りを表す赤色へと変色している。
「はいはい、言われなくとも、さっさと立ち去るよ。別に俺、あんたらに会うためにここに来たわけじゃねえしさ」
―――そうだ、さっさと立ち去ろうぜ!天霧家とは一分一秒も関わりたくねえよ!
―――ほいほい、落ち着け、金剛。
耳元でぎゃあぎゃあと、騒ぐ声。それを宥める声。苦笑した颯の耳に、けたたましいアラーム音が響き渡った。辺りに設置されているスピーカーや、通行人たちが持つ携帯電話から、一斉に、妖魔が出現する予兆を告げる、警報が鳴り始めたのだ。
「な、なんで今更……?」
「機械の故障でしょうか。こんなこと、滅多にないのに」
八尋と沢は、驚き戸惑いながら、辺りの音に顔を顰めている。
二人の話題が颯から逸れたことをいいことに、颯は二人に別れを告げた。
「じゃあな、次期当主殿」
そこまで言って手を振ろうとして手を挙げて、ふと思いついて付け足した。
「脱獄囚に気を付けろよ」
「「は?」」
ぽかんとする天霧八尋と沢に背を向けて、ふらりふらりと颯はその場を立ち去りつつ、片耳にイヤホンを付けて、瞳を伏せる。
声が、近づく。
気配がより如実になる。
「たく、まさか天霧家と出くわすとは、ああ、出だしからついてねえ!」
眼をゆっくりと開く。
隣に人の気配がくっきりと感じるようになっていた。
彼らはその姿を現していた。
通り過ぎていく人の体をすり抜ける、実体のない姿。金髪の赤い眼の美青年が、隣で大きく伸びをした。どうやら緊張していたらしい。派手な着物の襟首を整えながら、辺りをちらちらと見渡している。
「それにしても気配が多いな、こりゃ。これが“こちらの世界”か。息が詰まりそうだ。精霊の気配が全然ない」
「それは仕方がないじゃろう。“こちら”はそれらすべてを追い出し、人間の世界を創り出したのじゃから」
幼い声は、颯の下方から。そこには長い黒髪を地面に垂らした、美しい着物を着た女の子が歩いていた。歩くたび、ふわりふわりと黒髪は浮き上がり、決して地面にはつかず、かといって離れすぎない、絶妙な位置を保ち続けていた。
そして、背後には黒髪を一つにまとめ上げた、軍服姿の女性が歩いている。腰には一本の長い刀を差している。彼女は顔の上面に仮面をつけており、ひたすら口を閉ざしている。おそらく、都会の風景に目を奪われていて、言葉を発することも忘れているのだろう。おそらく、仮面を外せば目を輝かせた彼女の顔が見えるはずだ。
彼らの姿は人には見えていない。
それだけの存在力を持っていない。
それでも、颯には見えている。
彼らと同じ存在だから。
「奴をさっさと探し出さねぇと。顕在化することはできないが、五行八卦の力を使われたら厄介だ。下手したら災害になりかね無ぇ。ああ、面倒くせえ」
イヤホンを付けて、携帯電話で話しているかのように見せかけて、隣を歩く三人に話しかける。
「……ん、三人……?」
足を止める。
振り返る。
一人。二人。三人。
人数を数える。
「……紅玉は?」
「「「……あれ?」」」
人には見えない三人は首を傾げた。辺りを見渡す。目的の人物はいない。
「こ、紅玉!どこに行った!あの死神野郎!危険だろう、あいつ一人じゃ!」
白髪の青年は頭を抱え、
「きっと遊びに行ってしまったのじゃのう、好奇心旺盛でいいことじゃ。きっと大物に育つぞ、あ、いや、もう大物じゃったか」
のんびりと感想を述べる十二単の少女。そして、
「く、少し羨ましい」
歯ぎしりをしながら、拳を握る軍服姿の女性。
三者三様の反応を見せる。女性陣は余裕がありすぎる。
「黒金がここに居れば、あいつはいずれ見つかるだろ」
黒い軍服姿の女性―――黒金に颯が目配せをすれば、彼女はこくりと頷いた。
「遊ぶのは後でな。今は情報収集優先で。俺だって遊びてぇよ。情報収集がある程度終わったら、ぱっと遊ぼうぜ」
「いや、紅玉を探すのを優先しよう、あいつは危険だって!色々な意味で!」
金髪の青年が必死に訴えかけてくるが、颯はいつも通り、のんびりとした様子で宥めた。
「落ち着け金剛。別に制約はかけているし、大人しくしていれば、少し頭がアレなだけの女の子だって」
「オレはあいつに一度殺されかけているからこそ、危険視しているんだってば!お前だってそうだろ、颯!」
今、現在の名前を呼んできた金髪の青年―――金剛に、颯は口元を歪ませた。
「実際一度死んでいるから、殺されかけることなんて優しいもんなんだよ。ま、そんなもの経験するもんじゃねえけどな」
ぐ、と金剛は息を詰まらせた。さすがに悪いことを言ってしまった。そんな表情だ。
少しいじめが過ぎたか。悪いな、と呟いて、足を止める。そして、くるりと三人のほうへと踵を返す。
「とにかく、優先して探すべきは二つだ」
指を一本立て、もう一度、大切な仕事の内容を告げる。
「地獄から逃げ出した脱獄囚の情報の収集、及びに奴らの地獄堕としだ。いつどこで遭遇するか分からないから、十分に気ぃつけろよ、お前ら」
そして、いつの間にか癖になってしまった、彼が唯一彼である証明である言葉を、放つ。
「では各々、抜かりなく」