第一話
少年は、特別友達が多いだとか、人と話すのが得意だとか、逆に友達が少ないだとか、人と話すのが苦手だとかそんな性格ではなく、可もなく不可もなくという感じの人間だった。
けれど少年は一人になりたがる癖があり、お昼時になると屋上へと続く渡り廊下で一人寂しくお昼を食べている時があった。
一人が好きなのに寂しくという表現は間違っているのかもしれないが、便所飯並みの寂しさが彼の周りからは感じられたのだが、彼はそんなことは一切思ってもいなさそうである。
時々この場所に来てはいつもお昼を食べ一人物思いにふける彼だった。
そんな彼が、お昼を食べ終えいつも通り屋上への扉に腰掛ける、今日は少し肌寒く、後頭部に当たる扉も少し冷えていたのか、彼は身震いをした。
何かが変だ彼は思った。
いつもならば腰掛けた扉は静止し自分の後頭部の体温で温かくなるのだが、今日はそのまま後ろに下がっていく扉、それに合わせて少年も座椅子に座っているかのようにずるずると後ろに倒れ、仰向けになる少年。
そうなぜかいつもは開いていない屋上への扉が今日だけはなぜか開いていたのだ。
この学校は屋上の出入り禁止となっているわけではないが、普段は開いていないためいけないのだ、なぜ今日は開いているのだろうか、よくここの渡り廊下を利用する少年は不思議でたまらなかった。
開いているとなれば興味を示さないわけもないお年頃の少年は、新たな新大陸、はたまた女湯でも見つけたかのように屋上へと繰り出す少年。
そこには一面緑の屋根と、貯水タンクであろう白い大きな物体がある。
けれど普通どこの学校にでもあるであろう緑色のフェンスや囲いの壁などはない、だからいつも鍵が閉まっていて、屋上などというものは存在しないかのように禁止事項もないのであろう。
普段は開いていない場所が開いているともなれば、誰かがいてもそう不思議なことでもないわけで。
彼以外に屋上には先客がいた。
長い黒髪を一つに縛り、この学校指定の制服を着ている女の子だった。
少年は少しがっかりしたものの、屋上という存在を今確認しているのはこの二人だけなんだという実感に心が高鳴っていた。
彼からすれば彼女は秘密の共有者なわけだ。
けれど、彼女が屋上に一人でいる理由、それを考えるとやはりあるひとつの結論に至る。
彼女は自殺しようとしているのでは?
職員室にでも忍び込み、この屋上へと続く扉の鍵を盗み出し、今飛び降りようとしているのでは?
彼女は、屋上の端にしゃがみ込みなにやら下を見ている、高さに脅えて立てなくなってしまったのだろうか?
けれど今から飛び降りようとしている人の出す声ではない声が少年の耳に飛び込んできた。
「楽しいわーやっぱ人間って最高。」
その少女はなにやらこの場で笑っているようだ、一体なにを見ているのやら。
少年は、少女に気づかれず少女の元まで行き突然声をかけた。
「何がそんなに楽しいんだ?」
その瞬間、その少女はびっくりしてこちらを見た、それに驚く少年。
「びっくりさせないでよ。」
と言いながら少女は立ち上がった。
今思えばここから始まったのだろう、俺たちの死ねないデスループは。
少女が立ち上がった瞬間、大きな風が吹き少女はバランスを崩し、そのまま屋上から地面へと落ちそうになる。
咄嗟の出来事だったのにも関わらず、少年はなぜか少女へ手を伸ばしていた。
少年は少女の手首を右手でつかみ、少女もまた少年の手首を左手で掴んでいた。
けれど、少年の手首は思いのほか細く、やわだ、少女の手首も少年と同じように細く、やわだ。
そして少年の体勢はというと、屋上から少し身を投げ出していて、今にも落ちそうなぐらいなのだが、よく踏ん張っていると言っていいだろう、左手でしっかり屋上を掴んでいた。
「お願い放さないで。」
少女は必死に少年の手首をつかみながらいう。
「放さないわけないだろ!と言いたいところだけど。」
もはや限界なのだろうか?少年の身はもはや屋上に1/2しか残っておらず、少女を放すということよりも、自分の体をこのままの体勢で維持しようとすること自体が無理に近い状況だ、しかも先ほど言ったようように、少年の腕は細くて、やわ。
とてもこのままの状態で少女の手首を掴みながら、自分の体を起こし、そのまま少女を持ちあげるなどできようもない。
少年はもはや走馬灯のように思い出した。
踊り場に昼を食べに行き、そのまま教室に戻ると友人の佐々木はいつも、「おい、どこに言ってたんだよ昼は?」なんてことを聞いてきてくれたことを、今思えば佐々木という存在は俺にとってはとてもありがたい存在で、俺のことを気にしてくれる唯一の存在だったこと、それを今まで足蹴にして、からかってきたこと、もう謝ることもからかうことも感謝の言葉を口にすることができないのかと思いながら。
少年はそのまま力尽きた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
目を覚ますとそこはあたり一面真っ白の世界、少年は思った、俺は落ちて死んだのか。
けれど、右にはなにやら人のような物が立っていることに気づいた。
先ほどの少女だ。
「あ。」
二人が一斉に声を上げる。
「どうやら私達死んじゃったみたいね。」
言わなくてもわかるであろうことをさも悲し気に言う少女。
けれど、その言葉により、実感がわいてくるのも確かだ。
【死】というもの、概念はこんなに嘘くさくて、あほらしくてあっけなく訪れるものなのかと実感した。
「これから天国か地獄に行く裁判でも行われるのかしらね?」
とあほらしいこという少女。
少年はもはや死んだのだ、天国も地獄もどっちだって一緒だと思ったが。
「ああ、天国だといいな。」
思ってもみないことをつぶやいた。
突然全面真っ白だった世界に、黒い黒板のような長方形のモニターのようなものが現れた。
なぜだろう普通なら驚いてもいい光景なのだろうか、死んだ者には心がないのだろうか?いや先ほどの会話からして心があることは確かなのだが、その出来事に驚くことのない二人。
そしてその長方形のなにかに突然何かが書かれ始めた、それは日本語でもなければ、英語でもなく、なにやら文字と認識できるのだが、人間には理解できないような文字が映し出された。
「ん?何か書いてあるな。」
字を凝視するも、少年には読めないようだ、その瞬間文字は消え、新たな文字、日本語が書きだされた。
そこにはこう書いてあった。
ようこそおいでくださいました、人間様方、特に左手にいる少女、四仁奏子<しにそうこ>様。
あなたはあの場でなにをしていたのかお隣の田助泰<たすけたい>様にまずご報告願います。
どうやら少年の名前は田助泰、少女の名前は四仁奏子というらしい。
二人はどうしたものかと顔を見合わせあたりを見るも、扉やらスイッチなどこの状況を打開するには奏子があの場で何をしていたのか話すほか無さそうだ。
「何なのよぶしつけにもう、まぁ話すしか無さそうだから話すけど、私はあそこで人間を見てたの、人間観察。」
奏子は夏休みの自由研究何やってきたの?と友達に聞かれ、アサガオの観察という程度に言った。
人間観察...人間を見てあれだけ笑っていられるのはお笑い芸人を見た時ぐらいだろと思ってしまった泰。
けれど、あの高さ、あの場所、いくら奏子と言えどもお笑い芸人がいたとしてもあの高さでは声はおろか何をやっているかも見えやしないし、お笑い芸人がお昼時に急に学校へきてネタを披露するということもまず考えられない。
それにネタを披露していたとしてなぜあの屋上で見るのか?もっと近くに行ってみることもできるだろうと真剣に考えてしまう泰。
「面白かったか?」
あれだけ笑っていたのに面白くないわけがない。
「つまらなかったわ。」
おおっとここでこの返答は斜め上すぎてさすがの泰も驚く、面白くないものをあれだけ笑っていられるのは愛想笑いぐらいなもので、けれどあの時の彼女の笑いは愛想笑いとかではなく、本気で笑っていたようにも思えたのだが。
「くだらなすぎるのよ、焼きそばパンが売り切れとかどこの世界よ、今更パシリとかはやんないわよ。」
パシリのどこがおもしろいのか突っ込みを入れたいが、確かに彼女は今つまらなかったと言ったばかりなのだが、そういっている今でも彼女は少し笑っていた。
だから何が楽しいのか俺にも事細かく教えてくれるとありがたのだが。
「だってねぇ?おかしいでしょ?一人の空腹を満たすために、一人の男が精神的ダメージを食らい、足を使って肉体的ダメージも食らい、それに加えて空腹にも陥っているのよ?それにパシリを頼んだほうも苛立ち、空腹、なにもかもが増幅するのこんな非効率なことってないじゃない?」
奏子は泰に顔を近づけ、通常でも大きな目をしているのにもかかわらず、これでもかというぐらい目を見開いていった。
そのときの奏子は、まるで人間を殺しに来たかのような人間ではない何者かのように泰には見えた。
ここで黒いモニターにまた文字が映し出される。
私たちはその奏子さんの人間に対する疑問が不思議で不思議でたまらない、同じ人間なのにもかかわらず、醜い行動をすれば見下し、まるで違う生き物を見るかのような冷たい目と感情をお持ちだ、我々神にはそのような感情はもたらされなかった、なので私は君たちをここへ招き入れたのです。
ん?何か今さらっとよくわからない言葉が現れたのだが?神?
そこで私は考えた、あなたたちを人柱、つまりは人間代表として私の観察対象になってもらいたい。
泰は思った、この流れ、もしかしたらもしかしてもしかしなくても異世界転生の流れなのでは!?
今はやりの異世界転生の主人公になれる!そう思うほかなかった泰なのだがその予想は大きく外れた。
もう一度あの状況に戻り、私、つまりは神、創造主【作者】を喜ばせてくれ!
何を言っているのかさっぱりわからないのだが、それでも理不尽な神の言葉は絶対なようで。
1.....2.....3GO!
今まで白一面だった世界は突如姿を変え、二人がもといた世界に早変わり、そして今まさに二人は屋上で落ちそうな状態になっているのだが、突如飛ばされたため、力を入れることができなかった二人は....