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1-2 「騎士の奮闘」

魔法の読みを変えました。すみません。

『俺ヲ倒ス?おもしろいことを言うな、ニンゲン』

 キマイラが人間の声とは程遠い低い声で言う。

 

 シャドウはアーサーと今しがた助けた少女の安全を最優先すべく、短く会話を交わす。


「じゃあ、僕はこの子を騎士団の元に届けて、それから加勢するよ」


「ああ、頼む」


「シャドウ・・・・・・もしものときはあの『力』を使うの?」


「・・・・・・あの『力』を使うのは、俺が本気でヤバイと感じたときだけだ。その他では使わないようにするよ」


「そう・・・・・・なら良かった」


「さあ、行け。アーサー」


「うん」アーサーは少女を連れて、騎士団の元へ駆け出した。


『俺を、無視シテンジャネェエエエエゾッ!!』

 逃げるアーサーと少女に吠え、その獅子の頭で噛み砕こうと前足を蹴る。

 アーサーと少女までの距離あとわずかのところで、


「【岩石の巨人よ(ウォーゴーレム)】」

 魔法階級【B】。詠唱無しの速攻魔法。

 地面の土が、岩が、砂が瞬時に形を形成し、キマイラの一撃を防ぐ。


『ヴゥオッ!?』

 キマイラの一撃を防いだ岩石の巨人はその役目を終え、もとの砂、岩、土に戻る。


「待てよ、ライオン君。お前の相手は俺だろ?」


『グググウ・・・・・・キサマァ!!』


「おお、怒ったようだな。だが勘違いするなよ」

 シャドウは少し息を吐き、言葉を続けた。


「俺はお前を怒らせてるんだよ」



―――王都アトラスの騎士団は突如起きた魔物の進入に後を追われていた。

「出現した魔物は何体だ!? それと、固体の名称とランクの詳細を求む」

 騎士団の一人は冒険者ギルドの受付嬢に事の発端と現状の詳しい状況について、額に汗を垂らせながら詰め寄る。


「報告されただけで『ガーゴイル』が十三体、そして『キマイラ』が一頭です」


「キマイラだと!? なぜ、突然この街に?」


「不明です。突如として出現しました!」


「その魔物達のランクはなんだ!? 冒険者達に討伐に行かせる」


「それが・・・・・・『ガーゴイル』がランク【B】。そして、キマイラが・・・・・・」

 そこで、ギルドの受付嬢は言葉を区切る。


「ランク【A】です・・・・・・」


 この世界では多くの事に『階級ランク』と呼ばれる上下関係が存在する。

 最下位が【E】。そして、順にD、C、B、A、S、と位が上がっていく。


 キマイラがランク【A】だとすればそれは立派な上位層だ。


「冒険者階級【B】以上を総動員させろ! 冒険者達でキマイラを倒すッ!!」


「今、手の空いている冒険者を出動させましたが、炎が強すぎて、近づくことが出来ませんッ!」


「ちっ、『キマイラの炎』か・・・・・・」


「どうしますか?」


「『魔術師ギルド』とも連携を取れ。水魔法が使える者を中心に鎮火にあたれ。それが終わり次第、キマイラを倒す!!」


 王都の騎士団が大きく動く。



―――西の外壁の突然の魔物の襲来により、街の中心部に逃げてきた市民は騎士団に救いを求めてきた。


「騎士様、まだ家に子どもがいるのですッ。どうか助けてください!」


「騎士様、魔物を倒してください!」

 そういう市民の声は耐えないが、騎士はどうすることも出来ない。


 騎士だって、人間だ。


 勇気を振りしぼることも出来れば、恐怖に支配され、動けなくなることもある。


 騎士団の一人、ベルトルトもそうであった。


 歳はまだ十八の彼は農民の子どもながらも、その絶え間ぬ努力と正義感を以て、騎士となった。


 だが、それはつい昨日のことだ。


 そして、西の方角にもくもくと広がる煙と燃え盛る炎と人々の悲鳴を聞けば、あの中に広がる地獄は容易に予想が出来る。


 ベルトルトは市民の問いかけに必死に応えた。


「落ち着いてさいッ! 今、騎士団が『冒険者ギルド』『魔術師ギルド』と連携して、魔物の討伐にあたっています。怪我人をこちらに集めて下さい。治癒魔法が使える者を怪我人の治癒にあたらせます!」


 状況はひどいの一言。


 運ばれてくる怪我人を重傷者、軽傷者に分けて、治癒魔法をかけているが、間に合いそうにない。


 現在五人の光魔法使いで、治癒を行っている。

 クソッ、あと三人は欲しい、とベルトルトが思ったときだった。


「ま、魔物だああああああああッ!?」


「何だって!?」


 西の方角を見ると、三匹のコウモリの羽根を生やした『ガーゴイル』が空を飛翔してこちらに近づいてくる。


「騎士様、あいつを倒してくださいッ!!」


「・・・・・・」


「おい、騎士様、・・・・・・おい、応えろよ、この腰抜けッ!!」


 その市民の一言に我に戻ったベルトルトは、腰に携えている剣を引き抜く。


「そうだ・・・・・・僕は騎士だッ!!」


 たとえ敵が強大でも、自分が勝てなくとも、敵に背を向けたらそこで騎士失格だ。それは、昨日、あの方(・・・)に言われたことではないか。


 ガーゴイル三匹が近づく。


『ギィエエエエエエッ!』

「うおぉおおおおお!!」

 ベルトルトは一声上げる。手にした剣を振り上げた時―――


―――突如として『ガーゴイル』の体が真っ二つに裂けた。それも一匹だけではない。三匹同時だった。

 

 絶命した『ガーゴイル』は死骸を残すことなく、塵となって空中に消える。


 剣を振り上げた状態で止まったベルトルトは、現状を理解出来ないでいる。


「間にあって良かった」

 それは、とても優しい声。


「あなたは・・・?」

 そこには、長い金髪を後ろで一つに束ねた少年の姿があった。


「僕のことはいいから、この子たちをお願いします」


 金髪の少年の後ろには、八人の子ども達の姿があった。逃げ遅れていた子ども達だった。


「お母さん、お父さん・・・・・・ッ!」 

 子ども達は、親達の再会に目に涙を浮かべている。


「この人が助けてくれたんだよ!」

 金髪の少年を指差し、一人の少年が母にそう言う。


「ありがとうございますッ。ありがとうございますッ!」

 少年の母は何度も頭を下げる。


「いえ、いいんです。人として、当然のことをしたまでですから」

 そう言って、金髪の少年は西の方角を見る。炎が上がっている方角を。


「では、僕はもう一度、あそこに行きます」


「なぜですか!?」

 あの炎の中は地獄が広がっている、それは誰がどう見ても分かることだ。

 ベルトルトは金髪の少年に問う。

 金髪の少年は一呼吸置いた後、少し笑みを浮かべながら、


「待っている人がいますので」そう言った。

 ベルトルトは西の方角に広がる地獄に向かって走りだす金髪の少年の背中に【勇者】の姿を見た。  


お読みいただきありがとうございました。

次回更新は明日を予定しております。

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