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1-1 「紅蓮の王都」

よおしくお願いします。

『冒険者』というのは、安定しない職業である。


 常日頃から、『怪物モンスター)を倒してくれ』や『武器の素材に必要な素材を集めてくれ』、などの依頼が来るわけではない。毎日、依頼が来るのを期待して、路上で一夜を過ごす者もいる。

 

 重ねて、冒険者は危険な職業だ。


 歴戦の冒険者が自らの武器を引っさげて、自信げに怪物狩りに出掛けて、帰って来たのが、折れた武器だけだった、なんてことはよくある話だ。


 幻の川を見つけに行く、と言った冒険者が三途の川に行くことになった話は冗談でも笑えない。


 要するに死と隣り合わせの職業なのだ。


 それでも、冒険者という職業が絶えることはない。人々が冒険者を必要としているという理由もあるが、それ以前に、『冒険』という言葉に惹きつけられるのが人の性というものなのだからだ。見知らぬ街、見知らぬ人々、見知らぬ生物、秘境の地、そして最果ての地。それらに出会いを求めて立ち上がった人々は数知れない。


 黒髪の少年シャドウ、そして彼の相棒である金髪の少年アーサーもまたそんな夢を見る冒険者である。 


 夕暮れに沈む森の中でシャドウ達は、怪物に襲われる四人の少女達を助け、そして保護した。少女達の話を聞くところによると、彼女達は王都アトラスに住んでいて、今日は森にピクニックを兼ねて、薬草を採りにきたところをモンスターに襲われたらしい。


 シャドウのその話を聞いたときの感想は、『モンスターがいるところに行くんだったら、護衛の一人くらい連れて行けよ』だったが、相方のアーサーはそのことを言おうとするシャドウの口を人差し指で押さえ、そして、少女達に『怪我がなくて、良かったよ』と言った。 


 なんという神対応。


 その優しい言葉に少女達はアーサーに熱い視線を送るようになっている。


 対して、シャドウはまるで『影』のように扱われていた。


 シャドウ、アーサー、そして少女達は王都へと行動を共にした。また怪物に襲われるかもしれないからだ。どのみち、王都に行く予定だったので問題は無かったのだが。


 のだが・・・・・・。


「アーサーさん、綺麗だし、カッコいいし、強いし、もう最高です!」

 そう賞賛するのは、人間種ヒューマンの長身ガール。


「さっきの魔法、どこで習ったんだニャ?」

 そう問うのは、亜人デミ・ヒューマン・猫種の猫娘。


「・・・・・・金髪・・・・・・萌え・・・・・・たべたい」

 そう呟くのは、亜人・エルフの不思議エルフちゃん。

(ていうか、何言ってんの!?)


「後で、うちのお店来てくださいよー、だぴょん!」

 そうさりげなく店員スマイルを送るのは、亜人・兎種のリアルバニー。


 もちろん、これらは少女達の本当の名ではない。


 少女達はアーサーとの会話の中で、自己紹介をしていたが、シャドウはそれに加われなかった。  


 しょうがなく、シャドウは少女達の見た目と雰囲気から適当に名前をつけた。


 皆、シャドウを相手にもせず、アーサーに詰めよいながら歩いている。


 アーサーもアーサーで、少女一人ひとりに丁寧に対応している(不思議エルフちゃんの時だけは苦笑を浮かべていたが)。


 シャドウはというと、そんな光景を羨ましそうに見ながら、アーサーと少女達の一歩後ろをついてきている。


(ちっ、さっきからイチャイチャと)


 思えば、アーサーと供に旅を始めた当初から、こうだった。


 二人協力してモンスターを倒したにも関わらず、アーサーばかり注目がいき、シャドウ自身になんの報酬金も得られなかったことや、パーティーの招待状がシャドウにだけ送られなかったことが今までにも何度かあった。


 アーサーは、見た目は絶世の美少年で、男達から深い嫉妬を思われても当然なはずなのだが、なにせ人が良い。物腰柔らかく、ゆりかごから墓場までの全人類のことを思っているのではないのかと思うときさえある。


 冒険者としての腕も高く、魔術教本にも精通していることも彼が有能な人材であることの証明になっている。


(まったく、神様ってのは不公平を愛するんだな)


 シャドウは道端に落ちている石を前に蹴る。アーサーと四人の少女達の間を石が転がっていくのを確認し、内心で小さくガッツポーズをとる。

 その時、長身ガールが前方を指をさしながら、言った。


「見えましたよー、あれが私達の街、王都アトラスです!」


 シャドウとアーサーは少女の指差したほうへと目を向ける。


 そこには、四方を外壁で囲んだ王都アトラスが見えた。


 なんとも、あの巨大な外壁は他国の侵入はもちろんのこと、怪獣や魔物の進入も防いでいるらしい。


 シャドウはアーサーと少女達の会話を思い出した。


 と、そこで、アーサーが王都アトラスを見て、気付いたことを口にする。


「うん? 今日はお祭りでもあるの? 何か火が上がっているようだけど・・・・・・」


「えっ?」


「ほら、あの外壁の開閉門のところ」


「いえ、今日はお祭りなんてありません。三日後にはありますが・・・・・・」


 長身ガールが目を凝らし、開閉扉のところを見る。


 シャドウも含め、他の少女達も視線の先を追う。


「前夜祭か何かニャ・・・・・・? でもそんな知らせは聞いてないニャ」

 猫娘は隣の不思議エルフちゃんに何か聞いてないか、と問う。


「聞いてない・・・・・・すぐに忘れる・・・・・・私は」

 小柄な不思議エルフちゃんが呟くように、リアルバニーに質問を渡す。


「私も聞いてません・・・・・・だピョン」

 兎の耳が僅かに立つ。


 シャドウも目を凝らすとアーサーの言った通り、城門の方から、煙がもくもくと上がっている。


 一行がことの異常さに気付いたのは、王都から離れて来た御者が額に玉のような汗を浮かべながらこう言ったときだった。


「魔物だ、魔物が侵略しにきたーっ!!」


「なッ!?」


 シャドウとアーサーはその言葉を聞き入れるとすぐに、四人の少女達を置いて、王都アトラスへと駆け出した。


◆◇◆◇◆


 アトラスティア王国、王都アトラス。


 王が統治するこの国の首都は、統率された騎士団の存在と、四方を高い外壁によって囲う構造により、近隣の諸国はもちろんのこと、怪獣や魔物などの進入にも備えている。


 王都を上空から見た形は円形。中心部には王城が設置されており、都市を大きな円形の時計に見立て、計十二の区画で形成されている。


 東西南北の外壁の門から街の中心へとのびる大通りメインストリートには様々な飲食店、武具屋、雑貨屋などが立ち並び、昼夜を問わず活気に溢れていた。


 都のほぼ中心部、王城からやや離れた場所には、冒険者ギルドがあり、日々、外壁の外の怪物の討伐や武具や魔法道具マジック・アイテム作成に必要な素材の採集などの依頼が冒険者ギルド内に立てかけられている『掲示板ボード』に記載されている。


 ここ、王都アトラスの冒険者の割合は人口の約四割。


 この数字は、他国の平均のそれと比べ、実に二倍以上にあたる。


 多くの冒険者からは、その外壁内の安全さと他の都に比べての圧倒的な治安の良さ、日々絶えることない人々の依頼の多さからこの王都アトラスは『冒険者の都』とも呼ばれていた。

 王が善政を行い、街の問題を騎士団や冒険者が解決する、そのように平和を具象化したかのような街は、

 

 しかし、一日で絶望の色を見せる―――。


 夕刻の空を少し過ぎ、月が姿を見せ始めた頃、両親が雑貨屋をしている少女は家の手伝いを終え、夕食の買い出しをするため、王都の第三区画、西の外壁の門の近くの魚屋まで来ていた。 


「はいよ、千五十ルクスね。おまけしといたから、いっぱい食べなよっ!」


「ありがとう、おじさん!」

 少女は魚屋で目的の品を手に入れ、帰る途中に外壁の開閉扉を見やる。


 緊急時以外、滅多に閉め出されることのない扉には怪しい者を通さぬよう、門兵がいる。


 はずだった・・・・・・。


「あれ、門兵がいない・・・・・・?」

 少女は訝しむ。


 そこには、本来いるはずの門兵の姿がなかった。


 だが、少女が目を凝らしてよく見ると、全身をローブで覆った一人の背の高い男が片手を地面にやり、口元でなにかぶつぶつと呟いている。


「なんだろう、あれ・・・・・・?」


 少女はその男のいかにも怪しい様子に騎士団に連絡しようかと踵を返した時だった。


ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


と何かが爆発したかのような音とともに、少女の体は後方へと吹き飛ばされた。


「きゃっ!?」

 突然の出来事に少女は悲鳴を上げる。


 街の住人は突然の轟音を聞きつけ、おぞおぞと集まってくる。


 何事? 事故?  魔法の暴発? そんな言葉が聞こえてくる中、少女だけがあの爆発した場所の中心にローブで全身を覆った男がいたことを知っていた。


 爆発が起きた中心は煙がもくもくと立ち、そこに何があるか分からなかった。


 だが、煙の中に何かがいることだけはこの場にいた誰もが知っていた。

 その理由が、不気味なまでに煙の中に広がるシルエット。


『ククク・・・・・・ニンゲンが集まるところは久しぶりだ・・・・・・壊しがいがある』


 それは人間とは思えないあまりに低く、不気味な声。


『お前達、ここにいる、ニンゲン、全員殺していいぞ』


 その不気味な影は一つだけではない。

 次から次へと増えていく。


『さあ、晩餐ダァアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 煙がだんだんと晴れる。  


 全長十メートルはあろう巨体。その巨体から染み出る黒いオーラ。


 獅子の頭部に山羊の胴体、尻尾には毒蛇がまるで一匹の生物のように蠢く。 


 そのおぞましい姿は、人々の脳裏に瞬時に『恐怖』を植えつける。


 その怪物の名は、『キマイラ』。


 そして、そのキマイラが従える、黒く光る体にコウモリのような羽根を生やした魔物『ガーゴイル』が十三体。


『キィエエエエエエエエッ!!』と怪奇な声を上げ、ガーゴイル達が一斉に飛び立つ。


「ま・・・・・・ま・・・・・・魔物だああああああああああああああああ逃げろおおおおおおおおおおおッ!!」

 誰かがそう叫んだのを合図に、人々は一斉に逃げ出す。


 そんな人間のようすを滑稽に思ったのか、キマイラはフンと鼻を鳴らし、


『まずは燃やすか』


 近くにある建物の一つに火を口から放った。その炎はあっという間に広がり、紅蓮の炎が街を包み込む。


 誰がこの事態を予想しただろうか。


 人々は逃げまとう、悲鳴を炎の風に乗せて。


 少女は周りの人々に紛れて逃げる。


 だがそこで、気付いた。


「お父さん、お母さんッ、お姉ちゃん!!」


 家に父と母、姉のように慕う少女を残してきたことに。


 逃げていて、お願い!! 少女はそれを切に願う。


 辺りは凄まじい勢いで火の海と化した。


 少女はそのあまりにも驚愕の現実に足の力を失う。その場に崩れ落ちる。足は恐怖に支配され、全く言うことを聞かない。


 火の壁の向こうのキマイラと少女の目が合い、ゆっくりとキマイラが近づいてくる。


『まずは、オマエカラダ』


「あ、あうあわああ、あああ・・・・・・」


 恐怖で声を上げることが出来なった。

 しかし、心のなかでは叫んだ。


 助けてッ!! と。


『死ネェエエエエエエエエエエッ!!』


 キマイラの右の前足が少女の体を潰しにかかるその刹那――――。


 少女の体は何者かに抱き上げられ、空中を飛び、キマイラの攻撃を回避していた。


 少女は恐怖で閉じた目を開き、助けた者の顔を見る。


 夜のような優しい黒髪。どこか固い決意を感じさせる黒い瞳。


「おい、大丈夫か?」その男は少女に問う。


「・・・・・・はい」


 次に、男に駆け寄ってきたどこか美しい少女のような顔立ちをした少年が問う。


「シャドウ、その子、大丈夫だった!?」

 シャドウと呼ばれた男は「ああ」と短く答える。



『ニンゲン、よくも俺の邪魔ヲ・・・・・・』

 掛けられるキマイラの低い声。だが、シャドウは動じない。固い決意を持った瞳で眼前の悪魔を見る。


「アーサー、この子を安全な所に連れて行ってくれ。それが終わり次第、取り巻きのガーゴイル(雑魚)の相手をしてくれ」


 シャドウはまっすぐにキマイラを見据え、

「俺があのキマイラ(デカブツ)を倒す」

 そう宣言した。


お読みいただきありがとうございました。

次回更新は明日を予定しております。

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