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第七話 暴走

第七話は魔法学校ではぐれてしまったレナードは宿に戻るがココとイーナはまだ帰ってきてない様子だった。しばらく待っているとテレパシーを通じてココと連絡が取れた。するとイーナが攫われたということを聞いてレナードは助けるために宿をでる。


 レナードは宿にかえり、ところどころ見て回っていたがミーミも、イーナもみつからなかった。

コンッコンッ、

「イーナ? 俺だ、レナードだ。帰ってきたぞ」

レナードはイーナの部屋をノックして声をかける。

―返事がない…。

はぐれて怒ってるんじゃないかと思いドアを開ける。

「はいるぞ」

ガチャ。

そこにはイーナの姿がなかった。

―まだ買い物してるのかな?

そう思い、レナードは自分の部屋に戻っていった。…静かな時が過ぎていく。ベッドでじっと座って待つことにした。

「…」

夜がきて、辺りが暗くなった。心配になって探そうと立ち上がろうとした時、

(…ド…)

頭に直接誰かが語りかけてきた。

―なんだ?

その場で立ち止まり、意識をそちらに精神統一した。

(…ナード)

―聞こえた! これは…。

(ココ? …ココか?)

声をかけた方にレナードは念じる。

(…レナード。…助けて)

ココはテレパシーでレナードに助けを求めるがその思念波から弱っていると確証する。

(どうした!? ココ? 何があった?)

(イーナが…攫われた)

(何!? ココは今どこにいる? 今すぐそっちにいく!)

突然の悲報にレナードは立ち上がる。

(町から…宿から北西の…路地裏に)

(わかった。ココ、待ってろ!?)

レナードはすぐに宿をでてココのいる北西に向かった。


 向かった先に待っていたのは、傷だらけのココが倒れていた。

「ココ!? どうした? ココがいながら何があった?」

レナードはココを優しく抱き上げながら事情を聞く。

「…レナード。…ごめん、イーナが…男共に…」

「しゃべるな!? …ココ、匂いは覚えてるだろ? その匂いを辿って俺が助ける」

「…うん。ありがとう…奴らは町をでて北に行った」

「わかった。行こう!?」

弱々しい口調でここまで説明したココと共にレナードは振り向き、北へ向かった。


 町に出ようとしたとき、ミーミが立っていた。

「ミーミ?」

レナードがミーミをみつけると、

「…ミーミ!?」

ココはレナードの言葉に驚いてミーミに顔を向ける

「イーナが連れ去られた。ミーミ、一緒に―――」

話しかけようとしたとき、

「レナード…そいつから、イーナを攫った匂いがする」

「何だと!?」

ココの話しを聞いてレナードは身構えたが、ミーミは拳を突き立て、レナードに旋風が襲う。

「うわっ!?」

レナードはココを抱えたまま堪えた。

「ココ…ここで少し待ってろ」

レナードは隅にココをそっとおいて、ミーミの前にたつ。

「ミーミ…なぜこんなことする!?」

レナードは突然の奇襲に戸惑いながらも尋ねるが、

「…なんで、あの子ばっかり…」

「ミーミ…」

「なんであの子の傍に集まるのよ!?」

そう言ってミーミは悲しい表情でレナードを襲う。拳を今度は直接突き立てるが、寸前のところでレナードは避ける。だが、その拳から旋風が生まれ、レナードはその旋風をまともに受けて飛ばされる。

「くっ…」

レナードは倒れる、だが尚もミーミが襲う。

「なんであの子ばっかり甘い汁をすすってるのよ!?」

またもレナードに拳を突きつけるがレナードはそれを受け止めた、

「ぐはっ…」

拳自体はレナードの腕で受け止めたが、拳から生まれる旋風をまともに受け、地面が割れる。

「レナード!?」

心配になって思わず声をあげるココ。

「なんであの子ばっかり…」

「ミーミ…」

彼女の目からポロポロと涙が溢れる。レナードはそっとミーミの涙を指で拭き取る。

「ミーミ…君の良さを誰もわかってくれないと思ってるかもしれないけど、俺は知ってるぞ。…ミーミはみんなの中心に立って先導する」

「うぅ…ぐすっ…」

「みんなを楽しませるムードメーカーってことを」

「う…うぅ…」

「みんなを元気にさせる力をもってるんだよ。」

レナードはミーミをなだめ始めた。

「ミーミは、イーナの友達だろ? 友達を悲しませるようなことしちゃだめ」

「う…うん」

「イーナの場所…知ってるだろ? 教えてくれ」

レナードはイーナの場所を聞く。しばらくするとミーミは口を開いて。

「ミミネイアから北、そこに砦がある…そこに」

「ありがとう」

場所を聞いたレナードはココを抱き上げ、砦に向かっていった。

「イーナ…」

ミーミはその場から動かず泣き続けた。


 イーナの元に向かいながらレナードは謝り出す。

「ココ…ごめん」

「え?」

「お前にこんな怪我させて」

「私…必死に戦ったよ、でもこの姿じゃまともに相手できなくて…」

ココの瞳は涙で溢れそうになる。

「でもココはイーナを守ろうとした。それだけでも立派だ、さすが俺の相棒だ」

「レナード…あの子を汚したら、その時は私が―――」

「好きにして構わない」

許さない。ココはそう言おうとする前にレナードがココの頭を撫でながら割ってその先を止める。

そうこうしているうちに目的の砦に着く。砦は山のような形をし、廃墟となったところに煉瓦や木で無造作に補強した程度の形だ。

「よし。ココ、動けるか?」

「戦うことは無理だけど、動けれる」

弱々しくも気丈に振る舞いながら応える。

「よし。今からイーナの元まで全力で駆け抜ける。そのときはココ、イーナを連れてすぐにでてくれ」

「了解!」

そう言ってレナードはココを抱いたまま砦に向かう。


 「…う…ん〜」

気絶したイーナは目を覚ます。

「おぉ!? 気がついたか、ねぇちゃん」

ガラの悪そうな男がイーナの顔を覗く。

「ここは…?」

イーナは動こうとしたが、手も足も鎖で繋がれていて身動きができない状態で拘束されていた。

「いい身体してるね〜。それに顔もいい」

別の男もイーナの身体を認める。すると奥からどこかで見たことのある顔がイーナに近づく。

「こいつを売りにだすのが勿体無いくらいだな」

「あ…!? あなたは」

イーナは声をだしてその男を思い出す。

「指名手配のジャルン!?」

そう言うとジャルンと呼ばれた男がニッと汚い歯を見せる。

「俺を知ってるってことはギルド関係者か」

「指名手配犯は一通り覚えてるからね」

気持ちを強くもとうとするイーナにジャルンはイーナの表情をみてまたニヤつく。

「今の状況をわかってるのかね? 今はお前は『商品』なんだ」

「く…」

その言葉に表情を曇らせる。

「明日には馬車で市場まで行って、その身体が高値で売れるだろうな」

ジャルンはその光景を想像してニヤケて顔がひきつりだす。

「ココちゃん…レナード…」

そうつぶやくとイーナは涙が止めどなく流れる。すると奥から慌てて入ってくる人がジャルンの元に駆け寄る。

「ぼ…ボス、大変です」

「どうした!?」

「男が攻めてきて、仲間が次々と…」

手下は状況を説明すると、

―レナード!?

イーナはそう確信した。

「なんだと!? 敵は何人だ?」

「一人です…。でもあいつ手も使わず剣を自在に操ってるんです」

「なんだと!? 魔法使いか? …まぁいい、そいつを全力で片付けろ」

ジャルンは手下にそう指示すると、何十人と従えて敵を討とうと向かっていった。残ってるのはイーナとジャルンだけになった。


 レナードはココを抱いて歩きながら、四本の剣を『気』で操っていた。

―すごい…ずっと一緒だったけど、レナードが人に対してここまで力を使うなんて。

ココはレナードをじっとみつめる。その顔は瞬きもせず、ロボットのようにイーナがいるであろうという場所にズンズンと突き進む。

「野郎! 舐めた真似を…」

レナードに襲いにくる敵は、ある人は剣を、ある人は槍をと様々な武器で攻めるが、レナードの操る剣の前に皆倒れこむ。一本は武器を斬り、一本は敵に刀背打ちをする。最初にイーナと会った時とは違う。レナードはわかっていた、この敵から感じるのはレナードに向けられる『悪意』ではなく恐怖であることを。『悪意』と感じないレナードにとって、それは殺してはならない生き物、武器を破壊し、戦意を喪失させ、動けないように気絶させる本来のレナードの動き。

 そしてイーナの元に辿り着くと、拘束されたイーナ、指名手配のジャルン、ジャルンの手下が残り二十人ばかり、

「イーナ!? 助けに来たぞ」

「レナード!? ココちゃん!?」

レナードとイーナは互いに声をかけるが、イーナの首にジャルンはナイフを突きつけた。

「おっと、妙な真似するなよ? こいつがどうなってもいいのか?」

ジャルンはレナードを脅しはじめた。

「…」

レナードはジャルンを見据えたまま動かない。するとジャルンの手下はすぐにレナードの周りを包囲した。

「フフフ…殺れ」

勝ち誇ったように笑うと手下に命令する。一斉に手下がレナードに突撃する。そして、レナードは手下の群れで見えなくなり、その場で固まると、

「殺りました」

男の声が響きわたる。その言葉を聞いてジャルンは突きつけたナイフを降ろし、

「ここまでてこづらせやがって…」

イーナから離れ、レナードの死体を確認しに群れの方へ歩みよる。

「レナード…ココちゃん…ぐすっ」

イーナは絶望し泣き出す。すると、

ガチャン…。

イーナを拘束してた鎖が解かれる。

「え!?」

イーナは驚き、自由になった身体を確認するように動きだす。

「何だと!?」

それをみたジャルンも驚く。すると、

「助けにきたよ、イーナ」

イーナの足元にココがいた。

「ココちゃん!?」

―馬鹿な!? 確かに殺ったはずだ!

レナードに抱かれていたココをジャルンも見ていた。そしてジャルンは群れとなって固まっている手下を見ると、そこにはまだレナードが立っていることに驚く。

「な…何故だ!? 俺の部下で埋もれてたお前がなぜ生きてる? 『殺った』と言ったじゃないか!?」

ジャルンは疑問に思ったことをレナードに言い放つ。

「さぁ今すぐここからでよう!?」

ココはイーナにそう言って歩き出そうとするが、イーナを助ける時に負った傷でよろめく。それをみたイーナはココを抱いて、

「無理しないでココちゃん」

イーナは抱きかかえたまま出口へ走っていった。それを確認したレナードは表情を変えずにジャルンの問いに応えた。

「こう人が多いと、一人一人の声なんて覚えてないだろ」

レナードがしゃべると、

「あ!? その声さっきの!?」

―殺りました。

ジャルンは思い出す。その声がレナードだった。

「イーナは返してもらう」

その場を出ようとしたそのとき。

「グッ!」

レナードが突然胸や頭を抱えて苦しみ出す。

「俺の商品を…部下…よくも」

ジャルンはナイフをもってレナードに突撃する。そう、『殺してやる』そう『悪意』をレナードに向けながら。

「やめろ…やめろ!?」

レナードは苦しみながらジャルンに請う。

「死ねーーー!」

何十人と従える手下を無残にやられさらに商品となるイーナまで逃げられたジャルンは鬼の形相をしながら襲いかかる。

「ウォォォ!」

謎の声をあげながら、ジャルンの身体は六本の剣によって突き刺し、手を切り落とされ、首をも切り落とした。


 「ゥォォ!」

レナードがいた方から不気味な声が轟く。

「レナード!?」

「え!? レナード? …あの声が?」

ココの言葉にイーナはその声がレナードということに驚く。その声は魔物や魔王のような人が恐れる不気味でおぞましい声だった。

「私がいないから、直接『悪意』を感じたんだ」

ココは本来守るはずのレナードが変貌したことをイーナに説明する。イーナは最初にあったレナードがイーナを助けるときに殺してしまった人たちの光景を思い出す。

「じゃあまた誰かが…」

イーナはそういった。だがココの口からはもっと恐ろしいことをイーナは聞くことになる。

「全力で逃げて! この砦は…血の海となる」

「!?」

そう言った瞬間。

シャキン! 

イーナの目の前に何かが横切った。

「逃げるんだ。早く!」

ココは焦ってイーナを急かす。イーナは走りながら何かが横切ったところを見ると、その天井と床は鋭利な刃物で斬られ、天井から赤い液体が垂れていることを見てしまった。

「こ…これがみんなレナードがやったっていうの!?」

走りながらココに尋ねる。

「そうよ。今のレナードは我を失って、暴れているんだ」

レナードの状況を説明すると、

「それよりも早くここからでて!レナードを見つけたら私が止めるから」

傷だらけのココはイーナに話す。

「…わかった。ココちゃんを信じる」

イーナはひたすら走り続けた。話しをしてる間にもあのおぞましい声は絶えず唸り、鋭利な刃物がところ構わず斬りつける。例えそれがその場に倒れて気絶しているジャルンの手下であろうとも容赦なく斬りつける。斬りつける度にそこは地獄と化す。ある人は足を切り落とされ、ある人は頭から曲線を描くように斬られていた。もちろん砦も無事ではない。斬られたところから壁が床が崩れ落ちる。イーナ達が砦を抜けた時は血の匂いでむせ返るほどに、砦は半壊していた。それでも尚剣技の嵐はおさまらない。


 ある程度離れたところでイーナは立ち止まると、

「この惨劇はいつ終わるの?」

「…人が見えなくなるか、あの建物が跡形もなくなるか、なくなってもまだおさまらないか、それは私にもわからない」

尋ねるイーナにココは砦を見ながらそう言った。

「だけど、私がいれば間違いなく止めてみせる」

そう言ってると砦は崩れ、とうとう瓦礫の山となった。その瓦礫の山からレナードらしき人がゆらゆらとたっていた。

 その姿からレナードとは想像できないほど豹変する。

4本の剣は宙を舞っているが、手には2本の剣を、瞳は鋭く紅く光り、以前のレナードよりも身体は一回り大きく豹変していた。ココはそれを確認すると

「レナード!?」

豹変したレナードに向けて叫んだ。

「ガルルゥゥゥ…」

唸りながらココに狙いを定め、そしてココに襲いかかろうとする。イーナはこの光景を目に焼き付けようとじっとみていた。ココは妖しく光るとレナードの動きがだんだんと鈍くなる。そしてカッとココの瞳が妖しく赤く光り、光線を出す。その光線を浴びたレナードは一瞬怯むと、

バタッ…。

その場で倒れ込んだ。ココは妖力を使ってレナードの武器を収める。そしてイーナはココの元に駆け寄る。

「ココちゃん!? 大丈夫?」

イーナはココを抱き上げる。

「はぁ…はぁ…どう? …すごいでしょ、私」

苦しそうに息をするココ。

「レナードはどうなったの?」

動けないココにイーナは状況を尋ねる。

「大丈夫…ちょっとしたショックを与えただけだよ。はぁ…霊力の…ね」

息を切らしながら説明するココ。

「しばらくしたらいつものレナードが起き上がるよ…今は気を失ってるだけだから」

「ココちゃん…」

そう言ってココをぎゅっと抱きしめるイーナ。

「えへへ…温かい。イーナ」

ココは苦しながらも笑って応えた。


 「ふふふ…あいつ、自滅したか」

木陰からレナードとココの様子をみていた二つの影が覗かせる。

「剣を封じるために御札まで書いたっていうのに、…まぁいい」

その影はイーナ達に近づく。

ザッ…ザッ…。

イーナはココを抱えたまま目を閉じ、ココの頭を撫でていた。まるで子供をあやすように優しく撫でる。

「またお会いしましたね」

影はイーナに声をかける。イーナは声のするほうに視線を向けると、そこにはあの火鯉兄妹がたっていた。

「宗太さん…どうしてここ?」

「あなたを迎えに来ました」

尋ねるイーナに宗太はお辞儀をしながら話しを続ける。

「え!? 迎え?」

その言葉を聞いてきょとんとするイーナ。

「俺はイーナさんにあって一目惚れしてしまったんです。そして強くなるために図書館で勉強したり、修行したりしました。そしてあなたをお迎えにあがりました」

宗太は自信に満ちた口調でイーナを口説く。でもイーナはそんな話しを聞かず、助けがきたと思い込み、

「レナードを助けてください。あそこにレナードが倒れているんです」

瓦礫の近くを指差すイーナ。

「見てましたよ。あのおぞましい化物の一部始終を」

宗太はレナードを冷たく言った。

「!?」

イーナの表情が歪む。その表情に気づかず続けてしゃべる、

「それにイーナ!? そいつも危険だ。そいつから離れるんだ」

宗太は続けて抱きかかえるココのことも冷たく言う。

「危険? …ココちゃんのどこが危険なのよ!?」

イーナは傷つき怒りながら宗太に問い詰める。

「そいつのことを調べたんだ…。そいつは『死神の使い』といって恐ろしい―――」

その言葉を聞いた瞬間、ココはイーナから離れた。そして…。

「キサマ…我ヲ『死神の使い』トイウタナ…」

ココは怒りを露にし、地図をみせたときのココに豹変しつつあった。

「ココちゃんはそんなふうに言わないで!?」

イーナはココの前にでて庇いはじめる。

「ココちゃんもレナードも私の大切な仲間よ。例え死神でも化物でも私の仲間よ!」

必死に訴えるイーナだが、その想いは宗太には届かなかった。

「こいつを世に放ったら、世界の半分を壊滅させるだけの力があるんだ。このまま野放しにはできない」

そう言って火鯉兄妹は武器を手にする。

「やめて宗太さん!? ココちゃんはそんなことしない」

その訴えは宗太の耳に届かなかった。

「こいつは今ここで消さないといけない存在なんだ」

攻撃をしかける宗太に

「我ヲソンナフウニカンガエルニンゲンハ…死ネ」

ココは口を開き炎を吐き出す。その炎に触れる者は骨すらも残らないほどの高熱。宗太はそれを避け、いつもの兄妹の連携を見せる。

 鈴の御札でココの口を封じ、宗太が矢や槍をココの身体をあちこちと刺しまくる。ココは堪らず暴れ始める。

「ガァァァ…ウガァァァ!」

巨大な化物の力に鈴は持ちこたえきれず、鈴ごと引っ張られる。そして宙にまった鈴を前足で地面に叩きつける。

「鈴!?」

暴れまわるココの攻撃を必死に避ける宗太。だが、鈴がやられたことで一瞬動きが鈍ったところで、「ガァァァ…」

バクッ…。

宗太の上半身はココの口に持っていかれた。イーナはまたも惨劇を見ることになった。

残った下半身もココの口に入り、鈴も食べようとしたとき、

「ココちゃん!? もうやめて」

鈴の前にたって止めに入るイーナ。

「イ…イーナ!?」

イーナを見てココは動きを止める。鈴は地面に打ち付けられ気を失っていた。

「ココちゃんもこれ以上人を殺したくないはずよ!? ココちゃんやめて…」

イーナは泣きながらココに訴える。

「ウ…ウゥ」

その気持ちにうたれたココはだんだん小さくなり元に戻り、そしてそのまま倒れこむ。

「ココちゃん…。ココちゃんにそんな過去が…」

息をしてるかしてないかわからないほどボロボロのココを抱きしめるイーナ。

―いつも私は助けられてばかり…レナード…ココちゃん。

自分の無力さに打ちひしがれるイーナ。

―イーナは魔法薬があるじゃない、…それで癒してくれよ。

「!?」

イーナはレナードの言葉を思い出す。

「今度は私がレナードとココちゃんを助ける番。待ってて二人共、すぐに治してあげる」


 荷物を漁ってると傷を癒す薬を手にするイーナ。だが、イーナの視界にふと映りこんだ人物がいた。

「ミーミ!?」

ミーミが草むらで佇んでいた。

「な…なによこれ」

ミーミは目の前の惨劇を見た。砦は血で染まり生臭い異臭を放ち、化物と戦ったであろうという跡があるなか、血だまりと一人の女の子が倒れ、レナードとココは傷だらけで倒れていた。イーナは一人の友達として助けを求める。

「ミーミ…お願い助けて。私一人じゃ治療が間に合わないの」

頼み込むイーナだが、

「あたいのレナードを…こんな…」

ミーミの瞳にはレナードしか映っていなかった。そして怒りの矛先をイーナに向ける。

「あなたは疫病神ね。レナードをあんなに目にあわせて!?」

イーナに拳を突きつける。

ズンッ…

「かはっ!」

まともに受けたミーミの拳に加え、さらに旋風でイーナを突き飛ばす。

ドカッ…

瓦礫に腕をぶつけ左腕を骨折する。

「ミーミ…」

イーナはミーミの気持ちを感じた。

「イーナー!」

半狂乱になりながら次の拳がイーナを襲う。

「ぐっ…」

最初の一撃を喰らったところにまたミーミの拳がはいる。そして旋風がうまれるが、ミーミは今度はイーナを掴んで直に旋風を浴びせた。その風で瓦礫は舞い、イーナにぶつける。

ガンガンガンッ。

そのとき一際大きい瓦礫がイーナの右足にぶつかり、足は妙な方に曲がっていく。

「うわー!?」

イーナは痛みに耐えれず声をあげる。それを聞いたミーミはポケットからナイフを取り出し、

「苦しい? じゃあ苦しまないように今から楽にしてやるよ!?」

ミーミは狂いながら笑みを浮かべながら突き刺そうとした。


 ブスッ…。

―刺された…。

そう思ったイーナだが、そんな痛みが感じれなかった。

―私もう痛みも感じないほど身体やられたのね。

と思ったそのとき。

「なんで…」

ミーミの声が聞こえてきた。

「なんであんな子を庇うんだよ」

―だれと話してるだろう…。

意識が遠のき始めたとき。

「なんでイーナを庇うんだよ…レナード!?」

―え!?

その言葉を聞いて意識を取り戻すイーナ。するとイーナの前にレナードの背中が映っていた。

「レナード?」

苦しみながら声をかけるイーナ。

「ハァ…ハァ…ミーミ…イッタダロウ」

その声はまだレナードではなかった。

「イーナ二トッテ…ミーミハ…トモダチダロ」

レナードはまだ『悪意』の中にいるが、イーナを想ったレナードは『悪意』の狭間で気を取り戻し、咄嗟にイーナを庇ってナイフが刺さる。

ポタッ…ポタッ…。

レナードの血が垂れる。それでもレナードはミーミの腕ごと掴んで離そうとしなかった。

「イーナ…ハ…オレガマモルトヤクソク…シタンダ(イーナ…は俺が守ると約束…したんだ)」

化物と化したレナードと人間のレナードの声が重なりながら必死にイーナを助けようとする。そしてもう片方の腕でイーナを掴んでたミーミの腕を掴む。

「レナード…いや…死なないで」

イーナは放心状態になりながらレナードが死ぬことに耐え切れなくなりかけていた。

「オレハ…イーナガ…イキテルカギリ…シナナイ(俺は…イーナが…生きてる限り…死なない)」

「離せ、離せ!?」

暴れるミーミだが瀕死のはずのレナードの方がミーミをおさえている。

「イーナハ…イーナガデキルコトヲ…スルンダ(イーナは…イーナができることを…するんだ)」

「!?」

その言葉を聞いてボロボロの身体を引きずるイーナ。

「なぜこんなことする? …そんなにあの子が良いのか?」

ミーミが泣きながらレナードに問いかける。

「イーナハ…ジュンスイデ…キレイナコダ…ソレヲ…ダイジ二シタインダ(イーナは…純粋で…綺麗な子だ…それを…大事にしたいんだ)」

必死にミーミの問いに応える。イーナも自分ができる精一杯をしようとココの元に行く。

「オレハ…イーナガ…スキダ(俺は…イーナが…好きだ)」

「!?」

その言葉を聞いたミーミはナイフを持つ手を緩め、レナードに身を委ねるような姿勢になった。

「最低よ…好きにさせておいてイーナが好きだなんて」

ミーミは泣きじゃくる。イーナはココを背負い、荷物も引きずってレナード達の傍によると、荷物から妙な形のバッジを手に取る。それを握り締めるとイーナ達は光りに包まれ、そして光りの中に消えていった。


 ガサガサッ…っと藪の中から賢治が身を露にする。

「あいつがレナードか…相当なキレものだな。『死神の使い』である白狐を意のままに操り、六本の剣も扱う退魔師。どこの退魔師だ?」

レナードの様子をみて感想を述べ始めた。

「おっといけない、大切な部下を連れて帰らないと…だが退魔師が退魔師を殺した…これはなんと報告すればいいのか」

鈴を抱きかかえ、御札を口に加えると、賢治も光りの中に消えていきました。


 「―――魔法とは手品とかマジックみたいなものです」

とある場所にて熱心に教える人がいました。

「手品やマジックに『タネ』があるように魔法にもそれを操るための『タネ』があります。これを勉強すれば、だれでも簡単に魔法を使えるということになります。また『魔法武器』といって直接武器に魔法をかける技法もあります。この原理は―――」

教えてはいるが…。聞いてる人は一人いるかどうかというのが現状。それもそのはず、熱心に教えようとしてる本人は、さっきから黒板に字を書いて教える方を見てないからだ。そのおかげで、みんなは静かに思い思いに過ごしていた。

「そもそも魔法は大昔から―――」

黒板に字を書きながら説明してたそのとき、部屋の外が昼間のように明るくなりだす。

「えっなに!? もう朝になったの?」

「眩しい…寝てたのに」

みんな窓の方に近づき、光りの発信源をみようとした。

「こらっ!? 危ないですよ! 授業中ですよ!」

注意するが誰もその言葉通りに動かず、窓の近くに行く。すると一人声をあげはじめる。

「人がいる!?」

「え!?」

さっきまで注意してた人も恐る恐る窓を見ると、そこには傷だらけの白狐、女性を抱く男、そして地面を這いずりながら玄関に近づこうとする別の女性がいた。

「え…え!?」

この自体を飲み込めないまま、

「き…今日は自主学習にします!? みんなは絶対絶対教室からでないでください」

そう言って、部屋をでていったが、その言葉を聞いても、みんなは窓の外を見入っていた。

ピンポーン…ピンポーン…。

お屋敷のベルを必死な思いで鳴らす女性。

その音は屋敷全体に響き渡った。

「はぁ…はぁ…うっ」

痛みを堪えて必死に鳴らす女性。

ピンポーン…。

だが、

ピン…ポーン。

その音はそれ以降鳴らなくなった。

ガチャ、

ドアが開くと、中から

「うるさいね〜今生体実験中なんだよ。こんな時間に非常識だな」

不機嫌な顔をして玄関のドアを開ける綺麗な女性。だが鳴らしていたお客は見えない。

―いたずら? 全く…。

ドアを閉めようとした時、

「べ…ベゾンナ…先生」

か細い声が下から聞こえた。

「私の名前を気安く言わな…!?」

下を覗くとそこには、

「イーナ!? どうしたのよその怪我?」

さっきまで不機嫌にしてたベゾンナと呼ばれた女性が血相を変え出す。

「イーナ…アラン。ただいまもど…」

言い終わるまえに気を失う。

「イーナ…イーナ!?」

身体を揺らそうとしたが、彼女の腕と足をみてすぐに重症ということがわかった。そして顔をあげると抱き合ってる男女が目に映り、顔を真っ赤にしてその男女に近づく。

「お前らこんなとこでイチャつくんじゃねぇ」

男と女を離そうと間に割って入ろうとしたが、

「な!? イーナに続いて…」

男の腹部にナイフが突き刺さっていた。他の人から見たら抱き合うカップルにみえるが、近くで見ると血がポタポタと絶えず垂れていることが伺える。それに片腕でナイフを刺したまま女性は泣いている。その女性にベゾンナは見覚えがあった。

「おいミーミ…何してるんだ!?」

その声を聞いたミーミはやっと返事をする。

「べ…ベゾンナ先生…あたい…あたい…うぅ」

ミーミは泣きながら事情を説明しようとするが話せる状態ではなかった。

「とにかく人を呼んでくる!」

ベゾンナ先生は屋敷に戻り数人の人を連れてきた。

「ここにいる人は全員重症だ。慎重に運べよ」

ベゾンナは指図する。大きくて丈夫な布の上に寝かせるイーナ。

「おい…離せ、離せ!」

二、三人が男とミーミを引き剥がそうとするがなかなか離れなかった。

「仕方ない…。その二人一緒に運べ。あとで薬を打って引き剥がそう」

ベゾンナは指示すると男が口を開いた。

「ココ…ココを…」

置いてけぼりの白狐に目配せしながら心配する。するとベゾンナはその男の耳元で

「大丈夫だ。あの狐も助ける」

その言葉を聞いても信じようとしなかった。

「ココを…」

必死に目と口で訴える。

「…はぁ」

ベゾンナはめんどくさそうに外に行き、白狐を抱いて中に入った。

「…これでわかった?」

冷たく言うと男は、

「ココを…助けて」

男は絶えず訴え続ける。

―すごい執念、いや精神だな。

男の身体をみてベゾンナはそう思った。イーナと変わらないほど男も重症だった。腹部にナイフ、身体中に無数の擦り傷や切り傷。肉眼ではわからないが、内蔵にもかなりの損傷していることをベゾンナは察知した。

「よし。治療をするぞ!?」

ベゾンナは次の指示をしだした。


 イーナ達を運びながら、

「お前とお前でイーナを頼む、そっちの五人はミーミとこの男を頼む」

ベゾンナは治療のメンバーを割り当てる。

「私はこの狐を治療する」

そう指示するとみんな別々の部屋に運ばれていった。

―しかし狐か…しかも白。

―手元に置きたいが、そんなことしたらあの男に殺されそうだな。

そう思いながらベゾンナは治療を始める。


 イーナ達が着いた先はモルミル魔法学校だった。イーナ達が魔法学校に着いた次の日、正確には朝方、それは魔法学校全体にその噂が広まった。

「イーナ先輩とミーミ先輩が男を巡って争ったみたいよ」

「ミーミ先輩が押し倒したって」

「イーナ先輩が男のペットに八つ当たりして怪我させたって」

皆思い思いのことを勝手に想像して話しを広げていく。治療班はイーナ、ココの二人は昼食の時間になりかかるところに終わりを迎えた。だがまだレナードだけは難航していた。先に治療を終えたベゾンナが助太刀にレナードの治療部屋に入る。

「どうだ? あとどれくらいで終わりそうだ?」

「外傷はほぼ終わりました。…だが開いてみると、これは我々だけでは手に負えません」

「見せてみろ…おい!? …こんな症状まだ私でさえお目にかかったことないぞ!?」

ベゾンナ達が驚愕したその理由は…。

「内蔵が…」

人間の構造ではありえないことがレナードの身体に起こっていた。

「ちょっとワクワクしてきたな。お前の生体…もっと私にみせてくれ?」

ベゾンナは目を煌めかせて治療に取り組む。


 日が沈みかけた頃。

「…うっ」

イーナが目覚めると骨折した箇所は固定され、ベッドから動けれない状態だった。辛うじて首を動かして辺りを伺う。

「どうやら命は助かったみたいね」

安堵のため息をつくイーナ。

コンコンッ、

イーナがいる部屋のドアをノックする人が声をかける。

「失礼します」

そう言って医療担当の先生が入ってきた。

「おぉ! 気がついたかイーナ」

イーナが目覚めたことに先生は喜ぶ。

「先生。他の皆は?」

運ばれた他の人達を心配するイーナ。

「白狐はベゾンナ先生が治療して隣の部屋でまだ寝てるよ」

ココの安全を確認する。

「レナードは? レナードはどうですか?」

レナードの心配をする。すると先生の顔が暗くなり始めた。

「彼は…」

先生は言おうか言わないか迷っていた。

「まさか…」

イーナは最悪なことが脳裏に過ぎる。

「まだ生きてる」

イーナの考えを遮るように先生は口を開く。だがその言葉に引っかかりを感じるイーナ。

「まだ? まだってどういうことですか?」

「外傷は全て治療した。だが中身が我々人間の構造じゃないんです」

「人間の構造じゃない? どういうことですか?」

イーナは訳がわからなかった。だが治療してる人たちもわからないだろう。

「あのベゾンナ先生でも手を焼いてるんです」

「ベゾンナ先生が!? 生物ならこの学校で詳しいはずの先生が?」

ベゾンナのことを誰よりも知っているイーナは驚く。

「イーナもこの学校の卒業生だから見せても大丈夫と思うが…。治療中の写真を見てみるか?」

「・・・見せてください」

イーナは覚悟を決め、先生は懐から一枚の写真を取り出す。

「これが彼を開いた状態です」

「え!? 内蔵が…変化の途中で止まってる?」

それは人間ではありえない症状だった。

 肺は四つのように見えるし、無理にみればくっついて二つにも見えなくもない形に、心臓は未だ形成途中、腸は一部膨れたりしぼんだりと何かの変化の途中であることは明白だ。その写真をみてイーナは息をのむ。

「今…彼は?」

一刻も早く確認しようとするイーナ。

「一応この状態でも生きてはいる。だが普通の人間ならもう死んでいてもおかしくない構造。今は生徒達が入らないようにベゾンナ先生の部屋で眠ってもらっているよ」

「そうですか…」

状況を理解したイーナに先生はレナードのことについて尋ねだす。

「彼は一体何者なんだね?」

「私も出会って一ヶ月経つか経たないかの付き合いです。少しづつ…彼のことをわかりかけてきたところです」

イーナは暗い表情のまま語る。

「…もしよかったら先生に教えてくれないか? イーナの知ってる範囲で」

イーナはしばらく考えた、そしてイーナの答えは…。

「…すいません。例え先生でも、彼についてはしゃべりません」

イーナは黙秘宣言する。レナードのこれまでの行動や言動、共に行動したレナードのことを想ったイーナの答えだった。

「それだと彼を手助けすることができない。先生達だって、目の前の命を失くしたくないです。それでもだめか?」

「言えません」

お互い真剣な目で話す。

「そうか…。変わったね、イーナ」

「…」

「この学校にいる時のイーナは、いつも皆の後ろにいた自己主張しない子だった。それがここまで強く言い張れるなんて…」

「…」

「彼の影響か?」

「はい」

先生はイーナの変化を内心喜んでいた。そして、

「彼のことをよく理解しているイーナなら彼を救えるかもしれんな」

イーナの決意の姿勢にうたれ、応援しだした。

「すいません。私のわがままで…」

その言葉を聞いた先生は少し笑いだした。

「ふふ。いつもの口癖がでたね…『すいません』って」

そう言って部屋をでる先生。


 ―私にしか…彼は救えない。

イーナはレナードを助けると決意し、再び眠ることにした。

今回はレナードとココの秘密をご紹介します。

いつも街に入るとき首にココの尻尾を巻き付かせていたのはこの作中にある通り、魔物と化さないためであります。ココの尻尾から微妙に調節された妖力で人間が放つ悪意を緩和させる力があり、ココなしではレナードは満足に街を歩くことができないのです。そして今回ココはイーナと共に砦を脱出させたがためにレナードは真っ向から悪意を直視し魔物と化しました。

次にココですが、先祖の話しは以前ご紹介させていただきましたが業火の海にかえたことからココの先祖は「死神の使い」と言われるようになりました。それでもココはレナードと共にしたのにはレナードの家系とココの先祖の悲しい宿命が絡んできます。この話しはまた作中にて説明します。

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