第五話 ココ
第五話は、レナードとイーナが町をでて一週間がたちお互いの役割を分担し、お互いにとって欠かせない存在となりつつあった。ある日ココが駄々をこねはじめイーナが地図をひらき町を探すと・・・
イーナと共に旅をして一週間がたつ。その間、町という町を未だ見つからず野宿する日々。変わったことと言えば、ご飯はイーナ、魔物や悪霊といった戦いになる時はレナードという役割ができたこと。
「イーナがご飯作ってくれて助かるわ〜。いつもココに『もっと上手にできないの!?』とか言われるからな」
改めてレナードはイーナが同行してくれることに感謝をする。
「だってレナードの料理ほんっとまずいんだもん。イーナ、レナードに少し料理のこと教えてあげてよ」
ココはうんざりした表情でイーナに言う。
「くすっ…ありがとう2人とも。レナードさんといると調合に必要な素材も難なく手に入るから私の方こそありがとね。レナード」
イーナもレナードに感謝をする。
「魔物とは家族みたいなもんだからな。あれくらいでよかったら全然いいよ」
「魔物とは家族? …ねぇいつも思うんだけど、どうしたら魔物と心を通わせれるの?」
レナードの言葉にイーナが疑問をなげかける。
「俺が住んでたところは木々が生い茂る山の中で暮らしてたんだ。だから自然と動物が寄ってくるんだ」
「でもそれと魔物とどう関係するの?」
レナードは懐かしみながら話すが、イーナはまだわからない感じで尋ねる。するとレナードの顔が悲しみの表情に変わる。
「…俺の母は、退魔師で一流だったんだ。家の周りに魔物を寄せ付けないための御札を貼り付けてたんだ。…俺はよく御札の外をでて遊んでたら、魔物が襲いにきたんだ」
レナードは誇らしげに母を語るが、イーナはなんだか悪いと思ってた。
―彼は親を殺されてるんだ。
イーナの脳裏にココの言葉が過ぎる。
「それで魔物に襲われたんでしょ? それからどうしたの?」
イーナが思い出したかのようにしゃべる。
「俺は魔物と知らずに動物かと思って近づいたんだ。魔物は俺の様子をみて逆に後退りした。俺はお構いなく近づき動物と同じように接したら、自然と友達感覚になれてさ」
「へぇ〜。すごいねレナード!?」
「まだ俺も幼かったからな、その様子を一部始終みてた母は最初は俺のこと心配して叱ってたよ。…でも何度も魔物と触れ合ってるところをみてた母は、『お前は優しいね。魔物と触れ合うなんて誰にもできることじゃないよ。その気持ちずっと大事にするんだよ。』と優しい目で言ってくれてたんだ」
レナードの目には涙で瞳が潤んでいた。
「…レナードのお母さん。とても理解のある人だったんだね」
イーナはそっとレナードの手を沿える。
「…私でも魔物と友達になれるかな?」
イーナがつぶやく。
「今となってはわからない、…でも最初はおとなしい奴からにしろよ」
レナードは心配そうにイーナに言う。
「大丈夫だもん! ここに先生がいるもの」
イーナは微笑みながら言う。その言葉を聞いて突然レナードが驚く。
「はぁ!?俺が先生!?」
「だって魔物は家族なんでしょ? 先生がいれば怖くないもん」
またもイーナは茶化すように話す。
「ふふふっ…よかったね弟子ができて」
ココが茶化す。
「だけど魔物も動物も繊細だから、『自分は敵じゃないよ』と体や態度で示さないとだめだからね」
レナードはココの言葉をおいといて語りだす。
「は〜い!? …あっ! ココとはどこで知り合ったの?」
「レナードは生まれたときからずっと一緒だよ!」
イーナの疑問にココが尻尾をふりながらしゃべる。
「生まれたときから!? …ココっていくつ?」
「ふふふっ…女の子に歳を聞くのはダメだよ。イーナ」
ココは笑顔のままイーナと話すが、ココの目は笑ってなかった。
「いくつかな〜…たしか―――」
ペシッ…と尻尾でレナードを叩く。
「レナード〜。無粋だよ、女の子の歳数えるの〜」
ココは怒りながら言う。
「…悪かったな。ココ」
叩かれた頬を手でさすりながら謝るレナード。
「まぁまぁココちゃん、レナードもこう言ってるし、許してあげようよ。レナードも、女性は繊細な生き物なんだからね。わかった!?」
ココをなだめ、レナードに注意するイーナ。
「繊細って…こんな乱暴する生き物がどう繊細なんだよ」
レナードは女性陣の前で毒つく。
「ムー…イーナ! こいつの晩飯抜きにして」
「私もそう思ってた」
女性陣はそういって、歩き続けた。
「えっ…あ、おいこら。なんでそうなるんだよー!?」
追いかけるように歩きだすレナード。
一方、南側退魔師本部では、火鯉 宗太の上司にあたる森鼠 巡が所長の水蛙 賢治に面会しようとしてた。所長室についた巡はドアをノックする。
コンッコンッ
「森鼠 巡です。所長にお伝えしたく参りました。」
巡が礼儀正しくドアの向こうにいるであろう賢治に喋りかける。するとドアの向こう側で返事がかえってくる。
「…入り給え」
その言葉を聞くと巡はドアを開け、椅子に腰かける水蛙 賢治所長が書類に何やら書いていた。賢治は作業しながら巡に声をかける。
「それで、俺に伝えたいことってのはなんだ? あまり長話になるようなら日を改めてくれよ」
冷たく言う賢治。
「はいっ、先日我が部下が物怪の討伐に向かいましたが―――」
「前置きはいい。要点だけ言え」
またも冷たく一蹴する。
「は…はいっ。物怪討伐に謎の人物が手をかけたという報告を受け、所長にお伝えしようと参りました」
その言葉を聞いた賢治は作業をしてた筆を止めた。
「物怪討伐に手を!? 確かあれは我が退魔師にしか倒せれないはず、その人物は退魔師ということですな」
「その点は私めも同意見です。追求してみましたら特徴をしゃべってくれました」
続けて巡が報告すると、賢治の表情が険しくなっていく。
「その人物の特徴は、6本の剣と白狐を携えていました」
と巡は続けて報告を続けた。
「6本の剣と白狐…白狐なら心当たりあるが、他は…」
つぶやく賢治。しばらく考え込んだあと、賢治がたちあがり、
「その人物は私が直々に調べる。詳しい報告書をもっているな?」
「はいっ…これがその報告書です」
巡が宗太の書いた報告書を差し出すと、賢治は受け取り、パラパラとページをめくる。
「…」
賢治は食い入るように読む。
「それでは自分はこれにて失礼します。失礼しました」
賢治を見据えたまま一礼をしてドアを閉めて出て行った。
「場所は、南側でも1、2を争う程有名なハーブがある『ソーリエ』から数キロ西か…、名はレナード…、身なりは―――」
しばらく読みふけると。
―よし、そのレナードとやらと会ってみよう
身支度をする賢治。
ドアを開け退魔師が屯っている休憩所に向かうと思い思いに過ごす退魔師たち。するとある退魔師が所長の存在に気づくと、皆緊張して所長の動向を見据えた。賢治はすぅと息をすると、
「私はこれからしばらくでかける。各々はそのまま変わらず退魔稼業を続けたまえ」
用件だけ言うと、そのまま本部を出ていった。退魔師たちの緊張が一気に解かれ、うなだれる人たち。
―はやくあってみたいな…レナードとやら。
賢治は思いながら歩き始めた。
レナード一行は歩き続けていたが、ここでココが不満そうにしゃべりだす。
「ね〜もしかしてまた野宿〜?」
「町が見えないからそうだろうね〜」
レナードは力なく答える。
「もう野宿はやだ〜!」
小さい子供みたいにジタバタと暴れながら駄々こねるココ。
「狐の割に、野宿嫌うなんて珍しいね〜」
イーナがココに対して不思議そうに尋ねる。
「私はレナードの母にずっと付きっきりだったからお屋敷暮らしに慣れちゃっただけなの!?」
ココが不満そうにしゃべる。
「え!? レナードのお家ってお屋敷なの?」
「俺の家は別にお屋敷じゃないよ。周りは山ばっかだからな、お屋敷に感じただけだよ」
レナードが言う。
「そうは言うけど〜…、でも旅して思うけど、普通の家の3倍くらい広かったよ?」
ココがおよその範囲を思いながら話すと、
「えーーーーーー!?」
イーナは声を大にして驚き叫ぶ。
「レナード…レナードの家ってどんな構造になってるのよ!?」
イーナはレナードに言い寄る。
「えっと…玄関がこれくらいで、たしかこっちいくと俺の部屋で、こっちに道場があって…。」
その辺に落ちてる木の枝を使って線を引いて説明すると、イーナが止めに入る。
「もういいもういい! はぁ〜もしかしてお坊ちゃま? いや今までの話しを聞いてると野生児って感じかな?」
イーナは生い立ちを想像しながらしゃべる。
「そんなことより町まだ〜?」
ココがまた駄々こねる。レナードは頭を掻きながら困惑する。
「そんなこと言われても…。」
「地図みればすぐにわかるでしょ?」
イーナが提案する。
「…」
2人は無言になる。
「…まさか」
イーナはだんだん顔が青ざめていく。そして口を開くと想像通りの言葉がかえってきた。
「…地図もってない」
「…はぁ〜」
肩を落とすイーナ。
「その調子でよく今まで生きてるよね。そっちのほうが不思議だわ」
言いながら荷物から一枚の紙切れをとりだす。
するとココが目を輝かせて、イーナに駆け寄る。
「これ世界地図!?」
「そ、旅の必需品よ、どうしてこんな大事なもの持ってないのよ?」
イーナは尋ねると。
「地図があるとココがうるさいからな」
顔をそらしてしゃべるレナード。
「ふ〜ん…まぁいいわ」
といって地図を広げるイーナ。自分の歩いた場所を確認しながら地図とにらめっこする。しばらくするとイーナが口を開き始めた。
「…えっと今いるのがここ」
「ふんふん」
イーナが指を差しながら説明するとココが頷く。
「ココちゃんどこかいきたいところはあるの?」
イーナが尋ねると、ココは尻尾をふりながら答える。
「どこでもいいよ〜町があるならどこでも〜」
「そうなると一番近い町はここだね」
指を差すイーナ。
「ふんふん、あとどれくらいで着きそう?」
「これくらいな半日もしないうちに着けるよ」
イーナが微笑みながら言う。
「半日!?」
ココがその言葉を聞くと、辺りを駆け回る。
「早くいこ! すぐいこ! フカフカのベッド! 食べ物! 食べ物!食べ物ー!」
地面をぐるぐる周りながら自分の欲望をさらけ出すココ。それをみたイーナは唖然とする。
「えっと…ココちゃん?」
ココはイーナの声が届いてない感じではしゃぎまわる。
「…わかっただろう。俺が地図をもたない理由…」
「え…ええ」
頷くイーナ。
するとココの動きがとまると、レナードがいつにもまして顔が険しくなり、イーナの手を掴みだす。
「えっ!?」
「いいか…俺が合図をだしたら、全速力で走れ」
イーナに小声で話すと。
「え!?なにが―――」
言いかけたそのとき、ココがこちらに牙を剥き出す。
「ニク…ニク…オメェラサッサトマチイクゾ…サモネェト―――」
さっきまで可愛らしいココがどんどん大きくなり魔物よりもおぞましい邪気を放つ。
「今だ!? 走れー!」
レナードとイーナは全速力で街道を駆け抜けた。
「オメェラカラサキニクッテヤルゥゥゥーーー!?」
豹変したココはレナードたちに襲い始めた。
「ちょ…ちょっとココちゃんに…なにがおきたの?」
ココの身に何があったのか走りながら尋ねるイーナ。
「ココも一種の魔物なんだ。だから本能的にうごきだしたんだ」
「え!? 本能?」
「そうだ、町に着けば上手い飯が食える、魔物の本能みたいに囁く、そうすると魔物以上の力を放出してココ自身抑えれなくなるんだ」
「はぁ…はぁ…そんな…どうすれば…はぁ…治るの?」
「大丈夫! 町が見えたら自然と元に戻る。それまで走れ!」
説明しながら走るレナードは殺されまいと必死に走り叫ぶ。するとイーナの足がもつれて転びそうになる。
「あっ…!?」
「イーナ!?」
レナードは咄嗟に掴んだ手を引っ張り、抱きかかえるようにした。
「レナード?」
「お前がいなくなるの…いやだ!?」
レナードは夢中で走り続けながらイーナに心に想ったことを伝える。
「レナード…」
「ココ…もう少しだ…もう少しで町につく。」
「ウォォォォ! クイモノ! クイモノ! クイモノーーー!」
時間とともに狂暴さを増しながらレナード達を追い続ける。レナードも若干苦しそうな顔つきになる。
「い…イーナ…町はまだか?」
声をかけるレナード。それに報いるようにイーナは目を凝らす。
「えっと…あ! みえた、『ミミネイア』が!?」
イーナは町を見つけ声を大にして言う。
「よし、ありがとう」
レナードが言うと、
「ココー! 町がみえたぞ、とまれーーー!」
大声でココに訴えるレナード。
「マチ!? ドコダ!? …」
町を探すココ。
「マチ!? アァ!? ミエタ…」
町をみつけたココはだんだん速度を落とし始めた。そして豹変したココからまたいつもの可愛いココに戻ろうとしてた。
完璧に戻ったココは何がおこったかわからない様子でレナードに近づく。
「あれ? 私どうしたの? それに…」
キョロキョロしながら辺りをみまわし、レナードとイーナの格好をみて、
「それに…なんでレナード、イーナ抱いてるの?」
「え…? あ!」
レナードはイーナを抱いたまま固まる。
「あ…その…」
イーナもそのままの格好で固まる。
「ねぇねぇ〜いつからそんな仲になったの〜? ねぇ〜!?」
ココがイーナを降ろさせないようにレナードの足元をジグザグに動き始める。
「お…おい、どけっココ! 降ろせれないだろう!?」
「や〜だよ〜。こんないい場面すぐやめるなんてもったいないじゃない。もっと堪能したいも〜ん」
尻尾をふりながら尚も動き続ける。
「やめろ! やめるんだココ!? おいイーナもなんか言え」
イーナに声をかけると、
「…一度でいいからお姫様抱っこされてもらいたかった…もう少し
こうして夢みさせて…」
イーナは放心状態で精一杯だした言葉がこれだった。
「あ…」
イーナの言葉を聞いたレナードは顔を真っ赤にして、抱いていた手の力がなくなる。その結果イーナを落とす形となってしまった。落ちるイーナを避けて、ココは顔を歪めた。
「あっちゃ〜やりすぎちゃったな…、お〜いレナード〜」
固まったレナードを呼び戻すココ。イーナは落ちたままの格好で固まる。
「あ…あ…」
と出してるか出してないかの声をだすイーナ。
するとココは最後の言葉を発した。
「蓮! 目を覚ませ!?」
ココは大声で叫ぶ。
―蓮?
イーナはその言葉を聞いてハッと我に戻る。すると、
「おめぇ…その名前は言うなと」
固まってたレナードが動き出し、怒りを露にする。ココもその表情をみてさっきまで茶化した顔が青ざめる。
「言うなーーー!」
怒鳴りんがら怒りの拳をココに突き立てる。間一髪ココは避けたが、その拳は地割れするほどの力だった。避けたココは安堵のため息をつき、
「ふぅ〜、やっと目が覚めたね」
とにこやかな顔しながら尻尾をふるココ。
「そんな名前呼ばれたくなかったら、呼ばれないようにしてよね、レナード君」
もう殴らないと確信したかのように、レナードの頭にしがみつく。
「くっ…だれのせいでこうなったか…」
悔しそうに顔を歪めるレナード。
「ごめんなさ〜い」
と謝るが、その態度は反省の色が見受けられなかった。
「町見えたんだからはやくいこっ!」
無理やり話題を変えて町に向かおうと促す。それを聞いてレナードはイーナの傍に行き、手を差し出す。
「なにはともあれ、町が見えたからいこっか!?」
とイーナに声をかける。
「うん」
返事をしてイーナは差し伸ばした手をじっとみるイーナ、
「あ…」
またさっきの光景を思い出して顔を赤くするイーナ。それをみたレナードも慌てて手をひっこめて、
「えっと…なんて町だっけ?」
レナード慌ててイーナに尋ねる。
「『ミミネイア』って町だよ。あそこは私達魔法使いの役立つ道具がいっぱい取り揃えてる場所なの」
立ち上がりながら町の説明をするイーナ。
「へぇ〜魔法使い御用達って町なのね〜」
2人の間にココが割ってしゃべりだす。
「ねぇねぇレナード、イーナに魔法の道具とか案内してもらおうよ〜」
ココがレナードにおねだりしはじめた。
「俺は別に魔法なんか興味ないよ…」
するとココがいきなり尻尾でレナードの首を絞め始めた。
「ぐっ…なにするココ!?」
「イーナの一面がみえるかもしれないよ…それでもいいの?」
先程の光景をみたココは2人の仲をもとうとする。
「俺は別にそんなの…ぐっ!?」
さらに絞める力を強めた。
「私はみてみたな〜いいでしょ〜イーナ〜」
ココはイーナに声をかける。さっきの豹変したココをみたのか少し怯える。
「わ…私はいいですよ」
と言うと首を絞めてた力がなくなりわさわさと尻尾をふりはじめた。
「ゲホッ…ゲホッ」
「わ〜いわ〜い、魔法ってどんなのかな〜楽しみ〜」
「…可愛い」
「…ふっ」
ココが楽しみながら話す姿を見て、あまりの可愛さにうっとりするイーナ。レナードもココの喜んでる様子をみて顔が緩む。そしてミミネイアに向かって一行はあるきだした。
ミミネイアに到着したレナード達だが、町は少しざわついていた。イーナはかけより事情を聞いてみた。
「すいません何かありました?」
「うわぁ…きたー!?」
聞きに来たイーナ達をみて人々は散り始めた。
「どうしたのかしら?」
イーナ達は訳がわからないままだった。
「ハッ! もしかして…」
思い出したかのようにレナードが口を開く。
「イーナ…もしかしたら俺たちのこと見てたのかもしれないぞ」
「みてたって何を?」
イーナに話すが何の事かわからない感じで聞き返す。
「ココだよ」
「え!? 私?」
ココが驚く。それを聞いたイーナもハッと思い出す。
「そっかココちゃん豹変して町に向かったからね」
イーナがそう言うと、ココがしゅんとする。
「私…またやっちゃった?」
「うん…やらかしたな」
レナードはココを撫でる。
「町でるか?」
レナードは気遣う。
「この空気だけはどうも私も…」
「じゃあでよっか…」
諦めてレナードは町を出ようとすると、ある店から出てきた女性がイーナに声をかける。
「イーナ? イーナでしょ!?」
「え?」
イーナが振り返るとイーナにとって懐かしい人がそこにたっていた。
「あはは。やっぱりイーナだ! あたいのこと覚えてるでしょ?」
女性はしゃべり続ける。その姿は短パン半袖と実に動きやすく、イーナと同じ魔法使いらしいが、魔法使いというより武闘家っぽくみえる。体のあちこちに生傷がところどころ目に映る。
「覚えてるわよ。ミーミでしょ!?」
久しぶりに出会ったイーナと女性はお互い手をとって飛び跳ねる。
「久しぶりね〜イーナ。魔法学校を卒業してからだから、もう一年半くらい? バリバリ調合とかしてるの?」
「そっちこそ!? 冒険者としてやってる感じね〜」
お互いの状況を確認するかのように話しを続ける。
「あの…この人は?」
やっとレナードが話しかける。
「な〜にこの人! ハッ!? …もしかしてイーナの彼氏!?」
その言葉を聞いて、先程の光景を思い出すイーナ。
「あ…その話しは―――」
「か…かれ…か…」
レナードが止めようとするが、一足遅かった。顔を真っ赤にして固まるイーナ。
「アハハハ! 相変わらずそっちの免疫がないのか…仕方ないなぁ」
ミーミという女性がイーナの肩をポンポンと軽く叩くと、レナードに振り向く。
「初めまして。ミーミ・グレッチェンといいます。よろしく」
「あ、俺はレナード・ボルクです。よろしく。」
お互い自己紹介して、挨拶の握手をする。まだ固まってるイーナをみて頭をかくレナード。
「どうしようイーナ…」
「大丈夫! 私にまかせて!?」
ミーミがイーナの耳元に口をもっていき何かをつぶやいた。するとイーナは手にしてる杖を思いっきりミーミに振り下ろしながら、
「だ…だめー!」
顔を真っ赤にしながら叫んだ。ミーミはその杖を素手で抑える。
「おっかえり〜。イーナ」
ミーミはにっと笑いだす。イーナが動き出したところでレナードが町の様子を恐る恐る聞く。
「ミーミさん、もしかしてだけど…この町の人たち―――」
と言いかけると、レナードが何が言いたいか察知してミーミが口を開く。
「そう、あっちの方から白い魔物がこの町に攻めてくるとみんな大騒ぎしてたんだ。あれって君たちのことだよね?」
ミーミは言いにくいことをズバッと言う。するとココとレナードは肩を落とし、
「やっぱりそうか…誤解をとく方法はないかな?」
レナードはミーミに尋ねた。
「大丈夫、私についてきて」
ミーミに案内されるが、町の奥へ歩く度に家屋から覗かせる人の視線が痛く感じる。
「どこまでいくの?」
レナードは堪らず尋ねる。
「もしかして…学校いくの?」
イーナも口を開き聞き始める。
「そう、誤解をとく一番確実な方法は学校の放送室を使うしかない」
意気揚々と歩くミーミ。だけどレナードはイーナの足取りが重く感じた。するとイーナがだんだん険しそうな表情になり、
「でもミーミ…この状況で学校にいくと…」
不安を抱えるイーナのその言葉にミーミは歩みを止めず、
「間違いなく戦闘体制で迎えてくるはず、でもイーナがいれば少しは話が通じるかなって思ったんだけど」
ミーミはやや自信なさげに言う。
―大丈夫か? …こいつ
ミーミの言葉に不安を感じつつ歩いていく。
「…」
イーナは多分レナードのことを案じてるだろうと直感する。
するとミーミの足がとまる。
「…ついた、けど〜」
とミーミが案内を終えたが、目の前は大きなお屋敷に立派な門が佇んでいた…。その門の前に何十人と武器を構える人をのぞけば。
「イーナ…、あたいと一緒にきて、卒業生のあたいとイーナがいれば話しやすくなると思う」
ミーミがイーナに振り向く。
「い…いいけど」
言いながらイーナの視線はレナード達に向く。
「俺たちなら大丈夫、こういうのは慣れっこだから、話しにいってきていいよ」
レナードは気丈に振る舞う。それをみてイーナは決心して、
「…わかった」
ミーミとイーナは両手を上にあげながらお屋敷の方に歩いて行った。
カツッ…カツッ…カツッ…
2人はお屋敷の前にいる人たちを見据えたまま歩きだす。ちょうど中間くらいのところでミーミが大声でしゃべりだす。
「私はムルミル魔法学校の卒業生、ミーミ・グレッチェンといいます」
身分を証しながら近づく。それにならってイーナも大声で身分を証す。
「わ…私もムルミル魔法学校の卒業生、イーナ・アランといいます」
それを聞いた何人かざわつきはじめた。すると、群生の中、1人の女性が前に出てきた。
「魔法学校の卒業生であるなら、その証明をみせろ!?」
イーナ達に向かって言い放つ。それを聞いたイーナ達は自分の荷物から手帳をだした。それを女性の前にみせると、
「今そちらに人をやる、そいつらにその証明を渡してそこを動くな」
またも女性が言い放つ。すると数人武器を持った人達がイーナ達に近づき手帳を渡す。手帳を預かった1人が女性の元に行き、手帳をみせた。
「…」
しばらくの沈黙の後、女性が再びしゃべりだす。
「何用で参った?」
その言葉を聞いて、
「私達は先程町の外で向かってきた魔物であろうという生物と一緒にいます、ですがこの方々は危害を加える意志がありません。ここの放送室をお借りし、町内全員にその旨をお伝えしたくここまで参りました」
ミーミが力強く言い放つ。その言葉を聞いた女性は
「その生物は私が直々に調べる。無害であるとわかれば放送室を使わせやろう」
といいだした。
「やっぱりそうなるわな…」
レナードがつぶやく。続けて女性がまたいいだす、
「今からそちらに人をやる。おとなしくその生物を渡していただきたい」
「それはできません!?」
イーナが急にいいだした。
「お…おいイーナ!?」
ミーミが驚いてイーナに視線を向ける。
「なぜできない? それが無害というなら素直に引き渡せばよかろう。やはり魔物の手先だから渡せないのか!?」
女性は挑発するように話す。
「いいえ! 彼らは無害です。引き渡せないっといった理由は、彼とその生物は一心同体です。生物単体だけでは引き渡せないということです」
イーナは臆することなく理由を述べた。
「…わかった。その生物と男をそちらに連れてこい。但し妙な真似をしたら即攻撃をする」
承諾する女性。それを聞いたレナードは歩きだし、数人がレナードに向かって歩みよる。
レナードの周りに武器を構えた形で取り囲むようにして女性の前まで歩きだす。イーナとすれ違う距離まできたところで、
「がんばったな」
とレナードはイーナにお礼の言葉をなげかける。その言葉を聞いたイーナは少し緊張がほぐれた様子だった。そしてレナードの前にあの女性が立ちはだかる。近くまでいくと眼力だけで大の男が怯みそうになるくらいな威圧感を絶えず放っていた。
「俺の大事な相棒だ…この状態で調べてくれ。」
レナードは堂々と話す。
「それでは調査ができぬ、置くこともできぬか?」
「…どうする?」
レナードはココに尋ねる。
「私はいいよ、何かあったら…助けてくれるよね?」
とココはそう言ったが、しがみつくその手足はプルプルと震えていた。
「大丈夫、俺を信じろ…」
話すレナードとココを見て苛立つ女性。
「おい! なにをゴチャゴチャしゃべってる」
「すまん。そこに置くだけだぞ」
ココは自分から降りて指定されたところでちょこんと座った。レナードが動かない様子をみた女性は
「男よ、そこをどけ! 調べれないじゃないか」
「置くだけといったはずだろ。それを了承しただけだ。俺がどくどかないまではいってないだろう」
女性はレナードに命令するとレナードはひるまず言い放つ。
「…私の負けだ。この状態で調べてみる。妙な動きをしたら攻撃する」
「そっちこそ、俺の相棒に妙な真似をしたら斬る」
お互い一歩も退かない様子だ。
レナード達に緊迫する時間が過ぎていく…。
「うっ…」
ココが一言もらすと、レナードが剣に手をかける。それをみた数十人は武器を構え始める。
「大丈夫だから」
ココが気丈に言うと、レナードは剣から手を離す。それをみた数人も武器を持つ手を緩める者もいた。
「…」
調査する時間はかなりかかった。そして女性の口が開きだした。
「調査は終了した」
女性が言うと、奥にいるイーナ達に声をかける。
「お前らの用件を聞き入れよう。放送室をつかって町内に無害だと主張する許可をだす」
その言葉を聞いたイーナ達は顔が緩み、お屋敷に構える何十人は武器を収めた。そしてすぐにココもレナードの頭にしがみつく。
「よく頑張ったな。えらいぞ、ココ」
レナードはココの頭を撫でる。手帳もイーナ達の手に戻った。するとイーナは急にその場にへたり込んだ。
「イーナ!? 大丈夫?」
ミーミが声をかけると、レナードはイーナの方に振り向く。
「あはは…、ごめんねみんな。こんな緊迫した状況初めてだから腰抜けちゃった」
イーナが苦笑いをする。レナードはイーナに駆け寄って、肩に手をかける。ミーミもイーナの肩に手をかける。
「ごめんね。ミーミ、レナード、ココちゃん」
「まだ謝るのは早いよイーナ、町を自由に歩けれたらな。」
緊張を緩めずにレナードは話す。
お屋敷に向かうレナード達だが、まだ放送室までの道まで人集りで通路が塞がれていた。やっとの思いで放送室に着くと、ミーミが手際よく操作をし、マイクを口元に持っていった。
『町内の皆様、先程の白き魔物のことについてお伝えします、先程、魔法学校の前にて校長先生直々に白き魔物を調査し、無害であることを宣言しました。皆様大変ご迷惑をおかけしました。普段通り生活していてください。繰り返します。先程の―――』
ゆっくりと一語一句丁寧にミーミが町内に言いかけました。それを聞いた町の人達は恐る恐る家からでてしばらくして何事もなかったように生活に戻りました。
レナード達はその光景を魔法学校の屋上で達観していた。
―やはり俺たちは恐れられる存在か…
その平和そうな光景を目に焼き付けるレナードは悲しげな表情になる。
「レナード…何考えてるの?」
「…」
ココの問いにレナードは無言になる。
「レナード…」
ココはレナードのその悲しげな表情で思ってることが全て理解する。レナードはたくさんの死体の中を立ち尽くす自分を思い出していた。
「レナード…生きてちゃいけない生物なんてこの世にはいないんだよ」
ココは慰めようとするが、
「だが…俺は悪霊や物怪を殺してきた、あいつらも生きてたんだ、存在してたんだ、だけど俺は…殺してしまった」
「それは人間を襲うからでしょ!?」
「それだけの理由だろ? それなら俺達だってそうだろ? 一歩間違えればココも俺もあの物怪となんら変わらないよ」
そう言うレナードに。
パンッ…。イーナが平手打ちする。
「レナード! あなたは違う!? ココだって違う!? この意味わかる?」
イーナが怒りだした。
「…わからないよ、そんなこと」
「教えてあげる。あなたとココは必要な存在なの!」
「…」
「あなたは私が襲われた時助けてくれた。ココも一緒になって物怪を倒してたじゃない。悪霊や物怪は誰かのためを思って行動することないでしょ? レナードやココちゃんは私のために必死になって助けてくれたよね?」
イーナは必死で説得する。その言葉にレナードは涙を流す。
「…くっ…俺が馬鹿だった」
「私はあなたたちが必要なの。今度は私が言ってあげる」
イーナは泣いてるレナードを抱きしめながら言った。
「私はあなたが必要なの…。だからそんなこともう二度と言わないで」
イーナが言うと、
「私もレナードが必要だよ。私はあなたの相棒…パートナーだから」
ココも優しくレナードの首に尻尾を巻きつけた。
名前 ココ
年齢 秘密
職業 無
武器 妖力
好きなこと 家族(特に瞳)、食べること
嫌いなこと 人間(退魔師)、家族を傷つける者
ココの先祖は昔この世界の半分を業火の海にさせたことがあったが今は訳あってレナードの良きパートナーとして傍にいる。その力は先祖ほどの力はないが、その辺にいる物怪を軽く倒せるほどの力を秘めている。しかし生きていくための本能、食べることとなると我を忘れて食べ物があるところへ走っていく。こうなったら誰もココは止められない。