第四話 退魔師
第四話は魔物の傷が治るまで昔お世話になった町で療養していたレナード。だけどちょっとした気持ちの行き違いでイーナはレナードから遠ざかる。
先に町をでたイーナは別の退魔師コンビに出会う。
あれから数日、レナードは外にでて剣術、退魔術を使ってリハビリをしていた。
「もう体調は良さそうだね」
近くで見守ってたココが言う。
「そうだな」
言いつつ構えていた剣を収める。
「またこんなところでリハビリしてるの〜」
イーナはレナードの体調を気遣いながら近づく。
「誰かに怪我させられたからね」
皮肉を言うレナード。少しムッとしてイーナも楯突く
「怪我させられたじゃなくて、勝手に庇って怪我したんでしょ」
「やっぱり助けるんじゃなかったな。」
イーナも負けじと話すが、レナードはまたも憎まれ口で言う。
「か弱いレディーに怪我させるんだ〜」
退かずに言うイーナ。
「…」
とうとうレナードが折れかけたとき、
「お兄さん!? もう動いていいの?」
広場の方からイーナより少し背が低い女の子が駆け寄ってきた。
「ミル…か?」
「そうミルだよ! 覚えててくれてたんだ!」
ミルは体を使って喜びを表す。
「随分会ってないからわからなかったよ。また一段と可愛くなったな」
ミルの頭を撫でる。
「も〜子供扱いしないでよー!」
撫でる手を振り払うミル。
「わかったわかった。じゃあ子供じゃないところを証明してみろよ」
少しからかうと、ミルは小さな胸を露にしようとする。
「ほらっ胸だってこんなに―――」
「ちょっと待ちなさい!」
露にしようとする手を慌ててとめる。
「胸が大きいからってそれは大人の証明にはならないぞ」
言いながらデコピンをするレナード。
「本当は見たかったんでしょ? …このロリコン」
頭を叩くイーナ。
「いってぇーな…イーナ!」
「ふん!」
と振り返り、家に向かっていった。
「全く…加減ってもの知らねぇんだから」
「ふふふっ…お兄さんとあのお姉さん、仲いいんだね」
「どこみて言ってるんだよ」
頭をさすりながらイーナのことを話すと、ミルはレナードとイーナの様子を見て話す。それを聞いたレナードは少しムッとする。
「もうそろそろ飯だな」
レナードは家に向かう。するとミルもついていく
「ミル? 君の家はあっちだろ?」
「私も時々お姉ちゃんのところでご飯食べに行くんだよ」
ミルはそう言って家に入る。
皆席につきご飯を食べ始める。
「体調はいかがですか? レナードさん」
ナナは気遣うとレナードは元気な姿を見せながら話す。
「はいっおかげさまですっかり治りました」
「お礼を言う相手が違いますよ」
「えっ?」
「レナードさんの看病したのは、イーナさんですよ」
ナナとレナードはイーナに目を向ける。
「…」
まだあの時のことがあったのかムッとしながらご飯を食べる。ミルが急に話し始める。
「お姉ちゃんずっと看病してたんだよ。お兄さんが寝てる間とか一生懸命身体拭いてあげてたんだよ」
ミルが言い出すと、イーナとレナードは驚く。
「なんだって!」
「ミルちゃん! そんなこと言わなくていいの。」
と2人は席をたち、一斉に言う。ミルがその光景をみてクスクス笑う。
「くすっやっぱりお兄さんとお姉ちゃん仲いいんだね」
またもミルがしゃべる。
「誰がこの女!」
言うと、イーナはその言葉を聞いて、
「私もよ」
イーナも言う。それをみていい加減とめることにした。
「はいはい! もういいでしょ。さぁご飯たべましょ」
ナナはご飯を食べるようにその場はおさまった。
とある場所で会議が始まろうとしていた。
「時が流れるごとに我々の存在が薄れていくなぁ」
すでに席についている老爺が言う。
「仕方ないでしょ。今は魔法のほうが主流になってきてるからね」
テーブルに腰かける女性が言う。
「…時代の流れか、残酷だな」
眼鏡をかけ直す中年男性が言う。
「大事な会議なのにまたあの人は遅刻ですか? いい加減にしてほしいな〜」
童顔の青年が苛立ちを隠さず言う。
ギー! そういうとドアが開く。
「会議…なんで朝なんですか? 昼間がいい」
眠そうに目をこすりながら席に近づく青年が言う。
「全員集まったな。これより会議を始める」
老爺が開始の指示をする。
「まず、ここ最近の状況を説明してもらう。火鴉 紗枝」
老爺が先程テーブルに腰かけた女性の名前を呼び席をたつ。
「はいっ、ここ最近悪霊の発生が去年と比べて5%多く、物怪となり被害がでているところだけでも去年と比べて2%多くなっています」
紗枝が発表すると、老爺が次の指示をだす。
「うむ。では次、活動記録を土蜘蛛 伸二」
眼鏡の中年男性が席をたつ。
「はいっ、東西南北で4分割で活動状況を見てみますと、東のほうがやや多く討伐。南、西は特に目立った活動記録はなく、北は物怪が多く討伐が未だ間に合ってない状況です」
「北か…次、個々の退魔師の体調管理、木葉虎 守」
童顔の青年が席をたつ。
「は〜いっ、えっと…各々の体調管理は万全です。いいニュースとしたら、計5人の子供が生まれました。血統は、3人は退魔師同士の血が入り、2人は退魔師と一般人の血が混ざった状態です」
「血統も大事だが子供が生まれたことは喜ばしいことだ。次、霊の浄霊、除霊記録、水蛙 賢治」
最後に会議室にはいった青年が席をたつ。
「…浄霊、除霊活動は至って問題は見られません。だが…以前として何者かが浄霊活動した形跡が南にありました」
「浄霊活動か…6年前に始まった謎の人物…」
老爺が顎に手をあてて考える。
「浄霊活動してるんなら別に害はないでしょ? 退魔師としては楽なもんじゃない」
紗枝がしゃべる。
「それだけならいいけど、もしその力を悪用する者としたらあまりよろしくない」
老爺が言う。
「やはり気になりますね…」
伸二が眼鏡をかけ直しながら話す。
「6年前と言うと、退魔師の中でずば抜けた力の持ち主が亡くなった時ですよね…瞳」
悲しそうな顔をする守。
「天龍 瞳…当時守の座にいた器量のいい女性でした」
賢治が言う。
「亡くなった人のこと話しても会議は終わらない。今までの統計から対処法を講じる」
老爺が話題を元に戻す。
「浄霊、除霊活動は特に変わらず、南側から一番優秀な退魔師を1人東に派遣、以上」
老爺が終える。すると賢治が挙手をする。
「すいません、議長 空鯨 玄」
「なんだ? 賢治」
「この謎の人物を調査しても構いませんか?」
提案する賢治。
「構わんが、自分の立場に支障きたさない程度にな」
議長 玄が言う。
「ハッ」
返事をする。
「では、解散!」
言うと各々席をたち自由に動き出す。
「瞳さん…どうして死んじゃったんだろう?」
まだ悲しむ守。頭を撫でながら優しくしゃべる紗枝。
「守は瞳の元師だもんね…すごく心酔してるしね」
茶化すように伸二がしゃべる
「心酔じゃなくて惚れてたんだろう」
言うと守が怒り出す。
「うるさい!」
怒鳴る守る、
「あの人は退魔師としても、武術にしても、優秀な人なんだ」
守が元師の瞳のことを語る。
「噂だと物怪にやられたとか、悪霊に取り憑かれたとかって聞くね」
「そうなったら一度手合わせしてみたいね。武術大会5回連続優勝の猛者、天龍 瞳さん」
賢治が楽しそうにしゃべる。
「お前みたいな浄霊記録担当にはかなわないよ」
守は賢治を小馬鹿するような口調で言う。すると紗枝がしゃべりだす、
「守は知らないだろうけど、賢治は退魔術に関しては議長に一目置かれてるんだよ」
「え!? こいつのどこにそんな」
驚く守、
「退魔師の技はなにも武術だけじゃないんだよ」
賢治は守に一枚の御札をみせる。
「それって…式神の護符!?」
「そうだよ、さすがその歳で体調管理担当してるだけはあるな」
逆に守を小馬鹿にする賢治。
「式神の護符が使えるなんて、かなり訓練した証拠だな…」
伸二が賢治を褒める。
「では俺はそろそろいく、もし悪人だったらこの護符で退治するさ」
賢治は会議室をでていく。
ご飯をたべ、旅支度を終えたレナードたち。
「今度はちゃんと見送ってあげるね」
ナナが旅支度するレナードに声をかける。
「どうもこう別れるって苦手で、あの時は黙って行っちゃってごめん」
レナードが言う。
「気持ちはわからなくもないけど、あの時はすごく感謝してたんだから見送りたかったよ」
少し寂しそうにしゃべるナナ。
「悪かった。」
詫びるレナード。
「さて、行くかココ、イーナ」
言うとココは頭にしがみつく、がイーナは返事が帰ってこない。
「イーナは?」
辺りを探すレナード。
「あの子ならさっき町をでたわよ」
ナナが言う。
「…そうか」
レナードは残念そうにつぶやく。するとココがしゃべりだす。
「気になるなら追いかける?」
イーナの安否を気遣うココ。
「…いや、イーナの歩む道だ。俺が干渉してもなにもかわらないさ」
レナードは気丈に振る舞う。
「では、お世話になりました。」
と頭を下げて町をでていくレナード。
イーナはというと、ご飯のときレナードと口論した言葉が頭を過ぎる。
―誰がこの女。
―誰かに怪我させられたからね。
―胸が大きいからってそれは大人の証明にはならないぞ。
言葉の一つ一つが脳裏を過ぎる。
すると目の前に荒れ果てた町跡があった。そこに若い男女がなにやら物色していた。イーナは駆け寄って声をかける。
「あの〜何をされているんですか?」
若い男女に声をかける。
「ん? 誰だ、お前?」
男はそう言うと、女性はある一点を手をあてて何かを探ってる様子だった。
「あっ私はイーナ・アランといいます」
自己紹介をするイーナ。
「イーナちゃんか〜。可愛いね〜」
男性がイーナの身体をみる。
「あ…あの」
イーナは男の視線に嫌悪を感じながら男性に声をかける。
「あ? 悪ぃイーナちゃん。俺は火鯉 宗太、あっちは妹兼パートナーの鈴」
「かこいそうた? すず?」
聞きなれない名前に首を傾げる。
「ははっ聞きなれない感じの口調だね」
笑う宗太。
「俺たちは退魔師なんだ。退魔師の名前は他の名前と違って、縦文字で表されて、名前をもって、霊や悪霊を退治できるんだ」
自慢気に語りはじめる。
「今鈴がここで暴れた悪霊の気配を探ってるところなんだ」
鈴の行動を説明する。
「…みつけた」
探っている鈴がしゃべりだした。
「ここから数キロ先に悪霊が漂っている。今から行けば間に合う」
用件だけいう鈴。
「わかった! いくぜ鈴」
支度をする火鯉兄妹。すると宗太はイーナに振り向き、
「イーナちゃんも来る?」
イーナに声をかける。
「え?」
「退魔師の仕事ってなかなか御目にかかれないからね。貴重な体験をみせてあげるぜ」
宗太はそう言うと、イーナの手を掴んで走り出す。
「え…えっと私まだ―――」
声をかけたが宗太は離さず走っていった。
レナードはというと、気ままに歩き続けていた。ココは寂しそうにしゃべる。
「レナード〜、イーナのご飯食べた〜い」
駄々をこねる。
「…」
「…イーナっていい身体してるよね〜」
「…」
「…イーナ今どこにいるんだろうね」
「…さぁな」
歩き続けたレナードがやっと口を開く。
「もうイーナのこと言うな」
「え?」
「イーナはイーナの道があるんだ。俺たちがとめちゃだめなんだ」
「だけど…一緒に行動するくらいは―――」
と言いかけた時、目の前に荒れ果てた町跡が目に付く。
「ここ…昔町があったのかな?」
ココが言うと、
「…いや、つい最近町があったみたい」
レナードが言うと、瓦礫の中から剣を見つけるが、その剣は錆てなどなかった。ココも見渡すと、畑の野菜をみると、もう少しで収穫時期間近であろう野菜がそこかしこにあった。
「…ココ」
「レナードもわかったんだ」
声をかけると、走り始めた。
しばらく走ると、森のほうで、その辺りの木々より大きい蛞蝓が暴れていた。
「いたっ! 物怪」
言いながら蛞蝓の近くに走り寄る。
「やばいな…退魔師」
退魔師を見つけると木陰に隠れるレナード。そしてそこにはイーナもいた。
「い、イーナ!? なんであんなところに?」
「そんなのわかんないよ。どうする? レナード」
「…少し様子を見よう」
レナードとココは木陰で様子を見ることにした。
火鯉兄妹は物怪に苦戦する。
「悪霊かとおもってたのに、物怪って聞いてないぞ! 鈴!」
悪霊だと思ってたのが物怪とわかった宗太は怒り出す。
「悪霊か物怪かなんてわからなかった」
必死に戦う火鯉兄妹。
「…物怪」
イーナはつぶやく。物怪が飛ばす粘液に苦戦する兄妹。その粘液は木を枯れさせ、土は腐らせる程だ。
「くそっ…鈴、一気に片付けるぞ!」
「うん」
呼吸を合わせると、武器を召喚しはじめた。
「我、この世に仇なす物怪を狩りとる者なり、退魔師 火鯉 宗太の名より物怪を討つ者」
「我、この世に仇なす物怪を狩りとる者なり、退魔師 火鯉 鈴の名より物怪を討つ者」
兄妹が唱えると宗太にいくつかの武器が現れ、鈴には紙の御札が現れた。
それをみるとイーナは思わず声をかける
「それは?」
「退魔師にはそれぞれ武器を持ってるんだ。俺はオールマイティーに使える万能タイプだからね」
ニヤリとした表情で説明する宗太。
「無駄口はいい…倒すよ」
鈴が一蹴する。
「よっしゃ、鈴いつものように足止めしてくれよ」
「うん」
声を掛け合うと、鈴は御札を鞭のように使い、物怪を縛り付けた。すると宗太は弓や槍を使い、物怪を射抜き、続けざまに剣で斬りつける。
「どうだ!? 俺たち兄妹の連携技」
「…」
物怪は動かなくなった。それを確認した、宗太はイーナに近づき声をかける。
「どうだい? これが退魔師の力。」
自信満々に言う宗太。
「え…っと」
「あまりにもすごくて声も出せなくなっちゃったかな?」
宗太は続けてしゃべる。
「でも退魔師はいろいろ―――」
話しを続けていると、
「ヴァァァァァ」
唸りをあげながら粘液を飛ばす物怪。
「!?」
「『ガウンド』」
イーナが唱えるとバリアを展開した。鈴は御札を使って粘液を弾く。
「あ…ありがとう」
腰を抜かす宗太。
「倒したのでは?」
イーナは物怪を見据えたまま宗太に尋ねる、
「ちっ、まだ生きてるのか!?」
再び兄妹は武器を構えるが、
「ヴォォォォォ」
いち早く物怪が動き出し、粘液を飛ばし続ける。
「うっ!?」
「くっ!?」
火鯉兄妹は避けきれず粘液がかかる。
「私の魔法じゃ持たない…」
イーナの展開した魔法も徐々に効き目がなくなりかけてきた。
―だめ…もちこたえれない。助けて…レナード
と思うと展開した魔法が効力を失い、粘液がイーナにかかろうとする。
そのとき、ヒュルルル。
「ひっ!?」
目を閉じるイーナ。…するとイーナの前に剣が高速で回っていた。
「えっ!?」
イーナは目を開ける。
ヒュルルル、ヒュルルル、森の方から剣が2本飛んできて、火鯉兄妹の前で高速に回り始めた。その剣は物怪が飛ばす粘液から守ろうとするかのように。
ザッ…ザッ…
森の方から誰かが近づく音が聞こえた。それはイーナにとって見覚えのある人物がたっていた。
「レナード!?」
喜びに満ちた声で叫ぶイーナ。
レナードはイーナに近づくと、いつもと変わらず優しく声をかける。
「大丈夫か? イーナ」
「私は平気、でもあの人たちが…」
イーナは火鯉兄妹に目を向ける。レナードも火鯉兄妹をみて、イーナに声をかける。
「ここからは俺がやる。イーナは…魔法であの人たちの傷を治してあげるんだ」
レナードが言うと、
「うん! まかせて」
イーナは声をだして返事をする。
「よし、じゃあココ! 作戦通りにうごいてくれよ」
「レナードこそドジるなよ」
声をかけあうレナードとココ。するとココはレナードから離れて物怪に向かって走っていく。すると物怪は標的をココに向けた。
レナードはイーナたちを守った剣を呼び戻す。
「お前!? 誰だ?」
宗太が牙を向く。
「…助けたのにその態度か、気に入らねぇな」
レナードは不機嫌になる。
「お前は退魔師じゃないだろう! あいつは物怪だぞ、退魔師の俺たちじゃないと倒せれない相手なんだ」
宗太は尚も牙を向く。
「お前ら、あいつと一戦してその様だろ? その程度じゃ何回やっても奴を倒すことはできん」
レナードは冷たく突き放す。
「あれは油断したんだ。次は本気をだせば勝てれる」
言い訳をする宗太。
「そこで見てろ、すぐに倒してやる。お前らはイーナに治してもらえ」
言ってレナードは物怪に向かって走り出す。
「あいつ…なんなんだ?」
「彼はレナード、彼なら大丈夫ですよ」
「だが、さっきも言ったように物怪は退魔師じゃないと倒せないんだ」
イーナにも楯突く。
「レナードは大丈夫です。レナードならきっと倒してくれる」
自信に満ちた声で言う。
「…」
その言葉を聞いて宗太はレナードの戦いを見守る、今の宗太や鈴に戦うだけの力がなかった…今この状況で戦えるのはレナードしかいなかった…
遅れて戦いに参戦するレナード、ココは必死に物怪を翻弄していた。
「遅いレナード!」
「悪い、聞き分けないの悪い坊主に説教してて」
「説教なら終わってからにしてよ。もう!」
不機嫌になるココ。
「よしっここからは俺が相手だ」
ココと物怪の間にたつ。
「さぁ化物、かかってこい。」
身構えるレナード。
「ヴァァァァァ」
唸り声をあげながら粘液を飛ばす。それを華麗によけるレナード。
「化物、お前はそれしかできないのか?」
挑発すると、物怪は身体全体を使ってレナードに体当たりをしかける。
―きた!
「ココ! あとはまかせた」
と言って、レナードは物怪の体当たりを避けずにうける。その体当たりは木々を次々と倒していく。
「!?」
一部始終をみてたイーナと火鯉兄妹。それは絶望的だった。
「おい…あいつ、喰われちまったぞ」
「…もうダメね」
絶望の声をあげる火鯉兄妹。その中でイーナはまだ諦めてなかった。
「レナードは…まだ生きてる」
物怪は起き上がり、標的はココに向ける。粘液をココに集中して飛ばす、それを必死で避けるココ。
―レナード…早く。
そう思うと、物怪の動きが急に止まる。
「…なにがおきたんだ?」
「レナードだ!? レナードがまだあの中で戦ってるんだ」
そうイーナが言うと、
「ヴァァァ…グァァァァァァァ」
物怪は苦しみの声をあげていた。
―やっとかレナード
ココはそう思い足を止めた。
「ヴァァァ…グァァァ…ワァァァァ」
唸り続けるとある異変がおきる。
「あの蛞蝓…小さくなってる?」
「うん…」
火鯉兄妹が声をだす。唸りをあげる度、物怪は小さくなっていく。
対峙したときは木よりも大きく目立っていたが、今は人より若干高めの大きさになっていく。
そして次の唸り声をあげたとき、物怪の口から勢いよく人が飛び出してきた。
「遅いレナード、もう少し早くできなかったの!?」
怒るような口調だったがその言葉には間違いなく心配するココだった。
「ココなら大丈夫と思ってたさ、それよりも」
レナードは物怪を見据える。物怪はまだ小さくなっていく。子供くらいの大きさになると、レナードは手に巻きつけてあるロープを勢いよく引っ張る。
「オラッ!?」
気合をいれて引っ張るレナード、すると物怪の口から一本の鞘がでてきた。
「鞘?」
宗太がつぶやく。鞘を手にとるレナード、するとまたレナードはその鞘を物怪に突き刺す。
「化物! 貴様が喰った霊を全部だしやがれ!」
鞘を突き刺したところや物怪の口から光がでる。小さくならなくなった頃合をみて、鞘を戻す。そしてレナードは右手に力を込めると右手が光輝き始めた。
「かわいそうに…今楽にしてやる」
悲しげな表情をしながら渾身の拳を浴びせる。すると物怪は光と共に浄化された。
「う…そだろ? 退魔師でもないのに、どうして…」
宗太は愕然とする。鞘を剣先がない柄で収め、物怪が居た場所に手を合わせるレナード。レナードはイーナたちに近づくと、レナードはイーナに声をかける。
「イーナ、治療はおわったか?」
優しく言う。
「うん!」
元気な声で返事をする。レナードは優しく微笑むと、急に険しそうな表情になり、火鯉兄妹に目を向ける。
「お前ら、イーナに礼は言ったか?」
睨みながら言うと、
「は…はい!」
怯える宗太と軽くお辞儀をする鈴。そしてまたイーナに振り向く。
「あの…イーナ」
声を掛けようとするレナードだったけど、先にしゃべりだしたのはイーナだった。
「レナード…また迷惑かけちゃったね。ごめんなさい」
先に謝れてしまって罰が悪そうな顔して顔を背けるレナード。
「ま…全く、こんな危険なことに巻き込みやがって、この貸しは高いぞ。…それに」
イーナにまた振り向くと、
「それに…だれがココの飯をつくるんだよ…あれからお前の飯食いたい食いたいってうるさくて敵わんのだぞ」
ココをダシにつかうレナード。そしてそっと手を差し伸べるレナード
「一緒に…行こう! イーナ」
その手をみてイーナは
「…うん!」
と言って手を掴む。レナードが歩きだすと、最後に火鯉兄妹に言葉を言い放つ。
「自分の力量と相談して、無理なら応援を呼ぶことをオススメする。では」
レナードとイーナは再び歩きだす。その後ろ姿をみて宗太は
「退魔師でもないのに…くそっむかつく……レナードと言ったな、あいつのこと徹底的に調べてやる」
復讐の炎を燃やす宗太。
「お兄ちゃん…」
鈴は心配そうに宗太の後ろ姿をみる。
しばらくしてココがしゃべりだす。
「ねぇ…レナード」
「うん? どうしたココ」
「いい加減素直な気持ちで言ったらどう?」
「素直な気持ち? なんだよ」
レナードは首を傾げる。
「あのときは言わなかったけど、私をダシに使うなんて…最低〜」
「うっ…」
痛いところ突かれて何も言えなくなったレナード、それを聞いてイーナがしゃべりだす。
「ねぇ素直な気持ち…聞かせてほしいな」
いたずらする子供の顔をしてレナードに近づく。
「はぁ…わかった」
歩みを止めて、イーナに向き直す。
「俺は…イーナにいてほしい」
「!?」
イーナはその言葉に驚く。
「イーナがいると…ご飯に困らないしね」
またはぐらかすレナード。
「…あっそ。ご飯のためだけに私にいてほしいのね」
ワナワナと拳に力が入る。
「最低!」
パシッ…とイーナの平手打ちをうける。
「いってぇ〜」
叩かれた頬を抑えるレナード。
「今のはあんたが悪い」
とココも一緒になって頭に噛み付く。
「あぁぁぁぁ!」
イーナの平手打ちに加え、ココに噛み付かれたレナードは叫びながら転げまわる。
「でも…私も傍にいたかった」
イーナは素直な気持ちでレナードに言う。それを聞いてレナードとイーナは赤くなる。
「い…いくぞ、また野宿になるかもしれないからな」
歩きだすレナード。それに続いてイーナも歩きだす。
すると突然イーナは口を開けて、
「でもどうやって物怪をみつけたの? あの人たちでも時間かけてやっと見つけた感じだったのに」
疑問におもったことを聞く。
「簡単なことだ、あの荒れ果てた跡をよくみると、生活跡が所々見受けられた。それにあの物怪の出入りの跡もあった」
説明するレナード。
「え!? じゃああれはつい最近まであそこに人が住んでたってこと?」
「そう、それに住人は物怪に入ったことも気づかれず、1軒ずつ食い殺していったんだ」
「ひぃ〜」
イーナは想像して声をあげる。
「蛞蝓にとり憑いた悪霊は随分賢くてね、蛞蝓のだす粘液を自由にすることもできるようにした。多分そのせいで、あの兄妹は気配を感じ取れなかったんだろうな」
「そう…」
「悪霊か物怪かはわからずともあそこまで気配を感じ、追いかけたあの兄妹もなかなかだ」
火鯉兄妹を褒めるレナード。
「わかった?」
「うん…でもあの蛞蝓はどうやって?」
次に物怪の倒し方を聞くイーナ。
「あの物怪をよく観察すると、男の放つ矢や槍は刺さってるように見えてるけど、あの粘液で止めて見せかけてたんだ、それに剣で斬った切り口も蛞蝓の肉片の色をだして見せかけただけ」
「じゃあ外側じゃ攻撃は通用しないってこと?」
「そう、そうおもって中に入ることにしたんだ」
「もしダメだったらって考えなかったの?」
イーナは不安そうな声をだす。
「どんな敵にも必ず弱点がある。イーナだって、中で暴れたら何もできないでしょ?」
説明するレナード。
「中に入るとまだ未消化の人や霊魂がかなりあったんだ。物怪の餌は生きた人間や霊をなんだ」
「じゃああそこで手を合わせたのも…あの町の人に?」
「…」
レナードはそれを思い出すと悲しげな表情をする。
「だから中で浄化したり、成仏できない霊はこの鞘に収めた」
先程の鞘をみせるレナード。
「その剣って思ったんだけど、なんで刃がないの?」
尋ねるイーナだが。
「それは秘密。」
「どうして〜!?」
「この剣は特別な剣なんだ。これを狙う人も僅かばかりいるんだ。イーナがそうじゃないってのはわかってる、けどどこかで口を滑らせる可能性もあるからね」
レナードはイーナの性格を見透かしたようにみる。
「…否定できない」
がっかりするイーナ。
「じゃあ最後にもう一つ聞いていい?」
イーナはまたも質問する。
「…今日は質問多いな、今度はなに?」
少しげっそりするレナード。
「じゃあ聞くけど、私を助けた時、剣を使ってたよね?」
それを聞いたレナードは表情が険しくなる。
「あの物怪は殴って倒したのに、どうして剣を使わなかったの?」
「…」
レナードは無言になる。イーナも場が悪くなったと思って、
「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。」
イーナが察して言うと、ココがしゃべりだす。
「イーナなら大丈夫だよ。レナードが許す範囲でいいから打ち明けたらどう?」
ココが穏やかな声でレナードに声をかける。
「…わかった、ココ、イーナ」
重い口をあけるレナード。
「あの兄妹が言うように、物怪を退治できるのは退魔師しかできない。ということは…俺は退魔師ということになる」
「…」
イーナは無言で聞き続ける。
「俺は退魔術や武術も全て母に教わった。その剣術を使うと俺の正体がバレる恐れがあるからね」
「正体? バレる?」
「退魔師と名のつく人物の前では極力力を抑えて戦ってることさ」
―レナードの正体は退魔師ってことは薄々感じてたけど、でもそれがバレるとなにが起こるの?
イーナはそう思うと。
「俺が言えるのはここまでだ…」
「うん…打ち明けてくれてありがとう…レナード」
「…でもこれだけは約束する。」
「?」
「なにがあっても、イーナは俺が守る」
「!?」
イーナはその言葉を聞いて、脳裏を過ぎる。
―イーナちゃんは私が守ってあげるからね。
今度はイーナの表情が険しくなった…
「?」
レナードとココはその真意がわからなかった。
南側退魔師本部―――火鯉兄妹は報告書を書いていた。
「…」
「…書けた」
火鯉兄妹は報告書を書き、提出する。
「報告書こちらに置いておきます」
「ご苦労様、宗太」
「…」
「どうした? 宗太」
「…報告書にも書きましたが、俺と鈴は物怪の討伐しようとしたけど、失敗し、見ず知らずの人に手柄を取られました」
「うん…」
「俺は…悔しい」
「悔しいだろうな。宗太…お前はこの南側の退魔師の中では一番の腕っ節、その宗太がここまで打ちのめされる相手とは…そいつの特徴は?」
上司らしき人が尋ねる。
「特徴…名前はたしかレナードと名乗っていた」
「レナード? 退魔師にそんな名前はいないはず。他には?」
「あとは6本の剣と白狐を携えていました」
「6本の剣に白狐…いずれも聞いたことない特徴だな…だが間違いなくそのレナードとかいう人物が物怪を退治したんだな?」
「それは間違いないです」
「…わかった。そのことを水蛙所長に相談してみるよ」
「報告は…いいです」
宗太は上司の提案を拒否する。
「宗太? 何を考えている?」
「奴は俺が調べて…必ず倒す。」
「倒すかどうかはともかく、深追いはするなよ。宗太」
心配する上司。
「鈴、こっちに来い」
「はい…」
上司によばれた鈴は近くに寄る。
「兄が暴走しないように見守ってやってくれ。パートナーは鈴だからな、何かあったら報告してくれ。以上」
「お気遣い…ありがとうございます」
お辞儀する鈴。そして火鯉兄妹は本部をあとにした。
退魔師には退魔師本部に籍を入れて二人一組で行動しなければいけないという規約があります。兄弟、親子、親戚同士、会社の上司と後輩、様々な組み合わせがあります。なぜ単独行動ではないのか? それは今回登場した物怪を退治するためです。
次に物怪の説明をします。物怪とは虫や動物に悪霊となった霊が融合することによって生まれる怪物です。物怪と化した生物は自我を失くし悪霊に支配されることになりますが、悪霊も力の使い方を知らず動物としての本能と悪霊として残った「人間への復讐」と混ざり、近くの街や人間、霊力の強い生物にも襲う習性が備わることになります。