第三話 過去
第三話は夜遅くレナードは1人でイーナを助けたときに誤って殺した人たちを弔いに出かけました。事情を知ったイーナは殺してしまったのかココに尋ねる。事情を聞いたイーナはレナードの支えになろうと決意するが突然魔物がレナード一行に立ちふさがる。イーナは素材採取のため戦おうとするが・・・
(御者とは自動車でいう運転手のような人です)
夜遅く、レナードは一人起き上がり、闇夜に消えていった。
日が昇り始めた頃、イーナが目を覚ます。
「ふわ〜」
と欠伸をすると、ココの近くに置き手紙があるのに気づく。
『ちょっと用事ができた。戻るまでイーナの面倒よろしく。〜レナード〜』と書かれていた。
「ココちゃん起きて〜」
軽くゆするとココも目を覚ます。
「おはようイーナ、夕べは美味しかったよ〜。またつくって〜」
とご飯のおねだりをする。
「起きたらレナードがいなくて、これが…」
ココに置き手紙をみせる。
「やっぱり行っちゃったか…」
「やっぱり?」
レナードの行動を察して呟くココにイーナは聞き返す。
「なんでもないよ。『戻る』と書いてあるから戻ってくるって」
ココはイーナを諭す。
「そう…どこにいったのかな? 私達を置いていくなんて」
と言うと、ココは思い耽った感じで顔を下に向ける。
「レナードは、弔いに行ったんだよ」
「弔い?」
「レナードも殺す気はなかったんだよ。あれは一種の事故なんだ」
ココの言葉に耳を傾けながら続けて話す。
「私が助けてと言ったから?」
イーナが尋ねるとココは首を横にふる。
「彼だったら武器を壊すか、みんな刀背打ちにするつもりだったんだ。でもあの数人のうち、誰か『悪意』を持ってたんだよ」
「『悪意』?」
レナードの異変を話すココだが、イーナは悪意という言葉に引っかかりを感じながら話しを聞く。
「彼は幼い頃、親を殺されているんだ。それがきっかけで『悪意』を感じると力が暴走しはじめるんだ」
レナードの過去を話しながら続けて話すココ。
「あの時は私が調節を微妙にずれて、あんなことになっちゃったんだ。だから…ごめんなさい」
謝るココに対し、それを聞いたイーナは少し慌てて手でちがうとジェスチャーしながら、
「そんな謝らないでください。あの時私が頼んだばっかりに…私の方こそ謝らないと、ごめんなさい」
と言いながらイーナはポロポロと涙を流し始めた。
「なぜイーナが泣くの?」
ココは尋ねると、イーナは感じた気持ちを話す。
「だって…悲しいじゃない。親が殺されて、そのせいで『悪意』を感じると自分で殺したくないのに殺しちゃうなんて…そんなの悲しすぎるよ」
泣きながら頭に思い浮かんだ言葉を並べる。ココをそれを聞いて、尻尾でイーナの涙を拭き取る。
「彼のために泣いてくれてありがとね」
ココはお礼を言いながら、レナードの心境を代弁する
「多分だけど、私が頼まなくても彼はイーナを助けたと思うよ」
「…え?」
「レナード…イーナの目を見たとき、少し喜んでいたよ」
「喜んでいた?」
不思議に思ったイーナにココはこたえる。
「そ。このご時世の中あなたみたいな人に出会えて嬉しかったんだと思うよ。今までいい人と巡り合ってなかったからね」
人攫いや人殺し等、人間社会の荒波に澄んだ人に会えたことを喜んでいたのだろうと推測しながら話すココにイーナは何かできないか相談する。
「私にできることはない?」
「今は傍にいてあげて」
とココは優しく言った。
「レナードが帰ってきてもいいように朝ごはんつくろ。私お腹すいた〜」
間の抜けた声で場を和ませようとした。
「わかったわ。じゃあ朝は簡単なものにしましょ」
イーナもついてくようにしゃべりだす。
レナードが戻ってくると、ココとイーナが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり〜」
「おかえりなさい」
「た…ただいま」
レナードは少し戸惑りながら挨拶を返す。そしてすぐイーナ達の後ろには朝ごはんが置かれていたことに気づく。
「たった今朝ごはんできたばかりですよ。一緒に食べましょ」
イーナはレナードの腕を掴もうとする。が、レナードはその手を振りほどく。
「え…!?」
イーナは驚くとレナードは表情を変えず
「近くに川があったからそこで手を洗ってくる。そしたら飯いただくよ」
と川の方へ向かっていった。
「大丈夫。食べるって言ってるからイーナの行為は無駄にしないよ」
ココは慰めると、その言葉を聞いてイーナは元気を取り戻す。
「ありがとうココちゃん。」
「礼なら美味しいご飯作ってくれるだけで充分だよ」
ココにとって美味しいご飯が食べられることのほうが大事のように言う。
レナードが戻ってくると、ご飯の前で座り食べ始めた。それをみてイーナは止め始めた。
「レナード!」
「なっ! なんだよ。食べちゃだめか?」
「食べる前に『いただきます』って言わないとだめでしょ!」
驚くレナードに、イーナは最低限のマナーを言い始める。
「・・・」
ココに目を向けると、ココはなぜかレナードを睨んでいた。場の悪そうに、
「…い…いただきます」
と言って食べ始める。ココとイーナは目配せして心の中でガッツポーズする
―やった!
そう思いながらココとイーナも
「いただきます」
と言ってご飯を食べ始める。
ご飯を食べ終わり、片付けをするイーナ。レナードはゆっくりとイーナに近づくと、
「あ…あの」
「ひゃ!?」
後ろから声をかけられたイーナは驚いて声をあげる。
「ご…ごめん、飯…美味かった」
とレナードは顔をそらして礼を言う。
「い、いえ…助けていただいたのですからこれくらいのことしかできなくて」
とイーナも場の悪い感じでしゃべりだす。
「片付け…手伝うよ」
「いえ、いいですよ」
「いや、やるよ…1人より2人のほうがはやく終わるから」
せめて手伝わせてくれと言わんばかりにレナードは手伝いを申し出る。イーナもそれをみて少し笑顔になった。ココはというと、その光景をみてにやけていた。
しばらくして、レナード達は旅を続けた。
「…」
「…」
「…」
話す話題がないのか3人は無言のまま歩く。口を開いたのはココだった。「イーナのご飯って美味しいよね。どこで覚えたの?」
と言い出す。
「え…あ、ありがとうございます。料理は魔法学校でやってました。」
と元気な声でしゃべるイーナ。
「魔法学校? そこで魔法とか覚えるの?」
「そうそう。調合と調合するための素材の勉強の魔法薬と、魔物と戦うための戦闘魔法と、魔物の生体や構造を調べて、街の強化をする壁や家、兵器とかをつくる兵器魔法学と3科目に分かれていて、私は魔法薬と戦闘魔法を習いました。」
と魔法について語りだすイーナ。
「へぇ〜イーナって魔法使えるんだ」
とレナードも口を開く。
「はい。でも私戦うのはちょっと苦手で緊張してまともに呪文を唱えれなくて…」
頭を掻きながら自分の不甲斐なさを話すイーナ。
「ふ〜ん…でも調合できるだけでもすごいよ。私達も調合はするけど、魔法みたいに本格的じゃないからさ」
弁解をしながら話すココに。
「え!? レナードとココちゃんって調合とかするんですか?」
驚きながら尋ねるイーナに、レナードはココを叱ろうとする。
「ココ! なんでそんなことを…」
「まぁまぁいいじゃない悪い子じゃないし」
軽くあしらうココ。
「お前、いつからイーナの味方になったんだ」
「最初っからだよ」
尻尾を振りながらイーナの肩を持つ。
すると目の前に1匹の小さい猪型の魔物があらわれた。それをみたイーナは目を輝かせて、
「あー!? 石豚だー」
「い…いしぶた?」
普段見慣れてる魔物だが、名前を知らないレナードとココは聞き返す。
「そうそう。石豚! あの豚の歯と蹄は調合の基本の素材の一つなんです。最近足りないから少し欲しかったんだ」
と杖を構えて戦闘体制に入るイーナ。
「さぁその蹄と歯を私にちょうだい。『氷のつぶ―――」
と呪文を唱えると、
「!」
レナードはイーナを突き飛ばす。
「て!?」
呪文を唱え終わると杖の先から氷の塊がレナードの胸に命中する。
「いったーい。ちょっとなにするのよ!?」
立ち上がりながら怒ると、レナードの姿を見て言葉を失う。
レナードの胸に命中した氷の跡、先程の魔物の一回りおおきな魔物が腕に噛み付いてた。
「く…うっ…」
レナードは持ちこたえる。噛み付かれた腕を下ろしながら、
「大丈夫。俺たちは何もしない…」
なだめ始める。
「ガルルルッ」
腕を噛み付きながら魔物はまだしがみついてた。イーナは急いで駆け寄ろうとする。
「レナード!?」
「来るな!」
イーナを止めるレナード。
「大丈夫…何もしない…」
なだめながらもう片方の腕をだして魔物の頭を撫でる。
「ガルルル…」
腕に噛み付いた力をだんだん緩めていく。そして離すとレナード達を見据えたまま小さい魔物の近くにいく。
「もしかして…あの石豚の親!?」
つぶやくイーナに、レナードは最後に、
「いっていいぞ」
石豚に優しく言う。その言葉を聞いて、石豚達は森の中に消えていった。
「レナード大丈夫!?」
「レナード!?」
ココとイーナが心配そうに駆け寄る。
「はぁ…はぁ…大丈夫だ…」
必死に笑顔をつくるレナード。
「いいかイーナ、…魔物を見つけたらまず周りの状況を…確認するんだ」
イーナに優しく言う。
「しゃべらないで…傷口を塞がないと」
イーナは荷物から薬を取り出そうとあわてふためく。
「これくらい…大したこと…な…」
言い終わる前にレナードは倒れる。
「私のために…ごめんなさい」
泣きじゃくるイーナにココは尻尾でイーナの頬をさする。
「泣かないで、イーナはイーナのできることをして」
「…うん、わかった。傷口に薬塗るから、あの木の下まで運ぼう」
イーナをなだめるココ。それに応えるように行動をする。イーナはレナードの肩に手をかけて運ぼうとする。ココもそれを手伝おうとする。
「石豚にも人間を殺せるくらいの毒もってるのに、なんであんなことを」
手当を終えたイーナはレナードを看取りながらココに尋ねる。
「さっきもいったけど、レナードは殺したくないんだよ。それが人間でも魔物でも」
「そんな…もし魔物が襲ってきたらどうするんですか!?」
説明するココに、イーナは問い詰める。
「レナードは今まで魔物を殺してないんだ。襲われても絶対に」
「え!?」
驚くイーナに、ココはある話しをもちかける。
「人間と魔物の違いってわかる?」
とイーナに問いかける。
「え? 人と魔物…牙? …翼?」
「ううん、人間と魔物の違い。それは本能なんだよ」
考えを巡らせて答えを言うイーナだったが、ココは否定して説明する。
「魔物は本能のままに動くんだよ。食べるために食べ物を探す、喉が渇いたら水場を探す。…でも人間はちがう」
とココはだんだん険しくなる。
「人間は…欲望で動く生き物。欲望を満たすために平気で殺したり、盗んだりする。…そこが人間と魔物の大きな違い」
「欲望…」
その言葉に息をのむイーナ。
「レナードはいつも魔物と会うとまず様子をみてその動きから魔物の気持ちを読み取るんだ」
ココは語り終わる。
「魔物の気持ち…」
―魔物の気持ちってなんだろう?
そう思いながら呟くイーナ。
「レナードが目を覚ましたら聞いてみたら?」
「うん…」
イーナの気持ちを察してか、レナードに尋ねるように促す。
すると街道から一台の馬車がやってきました。
―こんなところで魔物とあったら私じゃ太刀打ちできない。
そう思ったイーナは馬車の前に走り出す。
「ちょ…ちょっとイーナ!」
「とまってくださーい!」
ココの制止も聞かず、イーナは馬車の前に飛び出す。
「バカ野郎! 危ないだろう」
「ごめんなさい、どこか休められるところまで乗せて頂けませんか?怪我人がいるんです。お願いします。」
御者に必死に頼みこむ。だけど、
「お前みたいな見ず知らずな人は乗せれないね。それに怪我人も乗せれるスペースもないんだ。諦めてくれ」
「そこをなんとかお願いします。」
断る御者だが、イーナは涙ぐみながら必死に頼みこむ。
「こっちにも都合が―――」
「構いませんよ。乗せて差し上げなさい」
御者が再度断ろうとする言葉に馬車の客席から女性が割ってはいる。
「怪我人がいるのでしょ? だったら尚の事乗せてあげなさい」
「そこまで言うなら…」
御者を説得する女性。
「ありがとうございます」
「困ってる時は助け合わないとね」
と言いつつ、レナードを馬車に入れようとするイーナと御者。すると女性がレナードを見ると、
「この方…レナードさん?」
「レナードさんのこと知ってるんですか?」
女性が尋ねると、身を乗り出してイーナも尋ね返す。
「レナードさんは私の友人と当時婚約者の夫を助けてくださった方ですよ」
と事情を話す。
「私も昨日助けてもらって、今日は私のせいで魔物に襲われるところを庇ってくれて怪我を…」
イーナは俯くと、女性は思い出すように自己紹介を始める。
「あ、申しくれました。私ナナ・ブランケと言います」
「えっ…あっ私はイーナ・アランです」
続いてイーナも自己紹介した。その名前を聞いてココはしゃべりだす。「そっか〜。ナナさんか〜」
思い出すような口調で言い出す。
話してるうちに町に到着した。
「じゃあ私は旦那を呼んでくるからちょっとまってね」
とナナはそう言って、馬車を降りていった。じきにナナと筋肉質の男がやってきて、レナードを担いで家まで運ばれていった。イーナは御者にお辞儀してココと共に家に入って行きました。
イーナはナナ夫婦にお礼を言うと、ナナ夫婦はレナードをベッドに寝かせながら、
「いいのよ、恩人のためだもの。これでやっとお返しができるって思えて嬉しいんです」
ナナはにこやかに言う。
「俺が看取ってるから、ナナはお客さんと一緒に休んでて」
「ありがとう。でも私こう見えて体力には自信があるから、あなたも無理しないで。」
お互い気遣いあう夫婦。
「イーナさんとココちゃん。こっちにきて少し休みましょ」
ナナに案内されてイーナとココを居間に入る。イーナとココは椅子に座って辺りを見渡す。ナナはお茶と肉をもってきてイーナ達の前にだしていく。
「はい。イーナさん、ココちゃんは…お肉だったよね。どうぞ」
「ありがとうございます」
「きゃん!」
イーナ達はお礼をいって、お茶とお肉に口をつける。
「少し落ち着かれました?」
「私は大丈夫です。」
イーナを気遣うナナに、イーナはレナードのことを尋ねる。、
「ナナさん。…レナードのこと教えていただけませんか? 私…少しでもレナードの支えになってあげたいんです。ここにいたレナードのこと教えてください」
イーナは頭を下げる。
「もしかして…レナードの事、好きなの?」
と聞きたい事とは全然違うことが返ってきたことと『好き』という言葉で顔を赤らめて慌てる。
「ち…ちちちち違いますって!」
両手と首を振りながら否定するイーナ。
「ふふふっ面白い子」
と言ってイーナをからかう。
「ふふ…ごめんね、場を和ませようとしたつもりだったけど、その必要ないみたいだね」
笑いを堪えながらナナは言う。
「そうね〜レナードのこと、どこから話そうかな」
しばらく考え込むと。
「順を追って、話すね」
ナナは事情を話し始めた。
「あれは…3年前、私の身の回りで不幸なできごとが続いてたんだ」
3年前に遡り、ナナはこの日は22歳の誕生日を迎えようとしていた。
ナナは墓地で墓参りしていた。すると教会の神父が近づき、
「ナナちゃん、今日も墓参りかい?あまり気落ちしないでよ」
気遣う神父に力なくこたえるナナ。
「うん…事故なんだもん、仕方ないよね」
神父に振り向きながら、少しやつれた顔つきのナナは言う。その瞳には生気がほとんど残されていなかった。
「私だけ、家をでてボルバの街に行ってたから火事に巻き込まれなかったもんね」
と弄れたようにしゃべる。
「火事は残念に思うよ、でも来月は結婚するんだろ? 両親のために幸せいっぱいの家庭を築くのがせめてもの供養ですよ」
神父は穏やかな表情で気遣う。
「ありがとう神父さん。こんな顔してたらお父さんやお母さんが悲しむよね」
必死に笑顔をつくろうとするナナ。
広場に近づくと、何やら人集りができざわついてました。
「どうかしましたか?」
ナナが尋ねると、住人の一人が、
「おぉナナちゃん、これを…」
傷だらけの猫が地面に倒れてた。それをみたナナは手を口にあてて、
「この子…ミルのとこの猫じゃない!? どうして?」
「今この猫が町に戻ってきてなにがあったのか…」
住人達が説明する。
「ミルは一体…どこに」
ミルの安否を心配するナナ。
すると、ザザザッザザザッと人集りの一番近い薮が揺れ始めた。
皆はその薮を凝視する。
ザザザッザザザザザッと音が大きくなる。
するとそこからレナードとココがあらわれた。
「近道っていうわりには結構苦労したな〜」
とぼやくレナード。住人の1人が鍬をレナードに突きつけた。
「お前が猫にこんなことをしたのか!?」
すごい剣幕で言い放つ。
「!?」
レナードは猫の傷をみて驚く。するとレナードの後ろから小さい女の子が顔をだす。
「ただいま〜。ほらお兄さん着いたよ!」
元気のいい声が響き渡る。住人はそれをみて驚く。
「ミル!? お前今までどこに?」
と住人達は心配してミルに駆け寄る。
「大丈夫? 怪我はない?」
「うん! 私はだいじょ…!」
と言いかけたとき傷だらけの猫をみつける。
「もっくん!? 大丈夫!?」
傷だらけの猫を抱くミル。その光景をみてレナードに牙をむく住人、
「やっぱりお前か!?」
と今にも襲いかかろうとする住人達。するとミルがレナードの前に立つ。
「このお兄さんは私を助けてくれたんだよ」
レナードを庇うミル。
「ということですよ、皆さん」
「お兄さん、もっくんなんとかできない?」
疑いが晴れたレナードにもっくんを抱いて頼みこむミル。
「…大丈夫。そこにもっくんをおいて」
「うん…」
レナードは優しく声をかけると、ミルはもっくんという猫をそっと置く。
「ふぅ…ココ、頼む」
頭にしがみついたココにお願いするレナード。
「きゃん!」
返事をして猫を尻尾で包み込んだ。すると淡い光が放ち、その光がなくなり包み込んだ尻尾をどかすと、元気な姿のもっくんが鳴き始める。「おぉ〜!?」
住人達は驚く。
「あなた様は一体…」
最初にあった時の態度から一変する住人。不思議そうにみる人や、気味悪がる人も中にはいた。そんな状況でもレナードはにこやかに、
「俺はただの旅人ですよ」
そう名乗るレナード。
レナードは人集りの中からナナのほうをじっとみつめた。
「!?」
直感的にこの人はやばい人と思ったのか、妙に身構えてしまうナナ。
するとレナードの前にミルの両親が立ちふさがる。
「私達の娘を助けていただいて感謝します」
レナードにお礼を言う。
「いえっ、俺は別にしてません」
「すごかったよ〜お兄さん、剣をふって魔物を追い払ったんだよ」
ミルが身振り手振りで説明する。
「そうですか〜それはそれは、お礼がしたいので我が家にきてください」
「いきなりお邪魔して大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、お客人には慣れてますので」
ミルの両親の誘いに困惑しながら尋ねたレナードを快く迎え入れる。
「ではお言葉に甘えて」
ミルの両親に導かれてレナードとココは案内される。それに続いてナナも行く。
招かれたレナードは居間でお茶を一口飲む。
「いいお茶ですね」
お茶を褒めるレナード
「ここはお茶や薬草で成り立ってる小さな町ですからね〜。その言葉町の人全員に聞かせてやりたいねぇ〜」
ミルの母が言うと、
「!」
レナードは気配を感じる方向に目を向けた。そこはナナがこちらを警戒するように見据えていた。それをみたミルの母は、
「あ〜あの子叔父の娘さんなんですけど、半年前火事で叔父夫婦が亡くなってしまってね、私達がお世話していますの」
「そうですか…」
説明する母親に優しい眼差しで見つめるレナード。レナードは立ち上がり、ナナに近づく。ナナは警戒はしたままレナードを見据える。するとナナの耳元で、
「夜、あなたの両親のお墓まで来てくれるかな」
小声で言いながら外へでるレナード。
「あれ? どこかへおでかけですか?」
「えぇ少しこの町を見てまわろうかなって」
レナードに声をかける母親に、笑顔を見せながら言って出かけて行った。
―なんだろう…あの人をみるとなぜか警戒しちゃう…どうして?
思いながら安堵のため息をするナナだが、足元にココがいることに気づく。
「…?」
ココはじっとみつめるとココは屋内を探索し始めた。
レナードはというと墓地に来ていた。するとあるお墓の前に立ち止まる。
時は過ぎ、日が沈むとレナードがかえってきました。
「ただいま戻りました」
「おかえり、ちょうど今ご飯の準備ができましたよ」
母親とナナがテーブルの上にご飯の準備をしているだった。各々椅子に座り、ご飯を食べ始めた。
「ねぇお兄さん。お兄さんはどうして旅をしてるの?」
無邪気に話しかけるミル。
「こらこらミル!」
「いいですよ」
母親は叱るがレナードはとめる。
「俺はね、昔大きな罪をしちゃったの」
レナードは優しくミルに語る。
「大きな罪?」
「そう、その罪の償いと自分の使命をするために旅をしてるんだ」
「使命?」
「そう使命。俺は他の人には見えないものを見えて、それを退治したりすることだよ」
「見えないものってそれってお化け?」
「そう」
「お化けってやっぱり怖いの?」
「怖いよ。でもねこれだけは覚えてね。人にもいい人や悪い人がいるでしょ? それと同じでお化けもいいお化けと悪いお化けがいるんだよ。悪いお化けを退治するのが俺の使命なんだよ」
レナードは優しく、それでいて強い気持ちでミルに話しかける。
「ふ〜ん…じゃあそのときはまたお兄さんを呼ぶね」
笑顔でレナードに話し終える。
「ミル、あなたご飯食べるの遅いからさっさと食べなさい」
「は〜い」
母親に叱られながらまたご飯を食べ始める。
そして夜がふけ、みんなが寝静まる。
―あの人の言葉通り行ってみる?あの訳のわからない人に?
ベッドに腰掛けて思いふけるナナ。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
ミルが心配そうにナナをみる。
「うん? なんでもないよ」
無理やり笑顔をつくって話すナナ。するとナナはミルにお願いする。
「ミル…お願いがあるけどいいかな?」
「な〜にお姉ちゃん?」
「ちょっと私についてきてほしいの。お兄さんに呼ばれてるけど、1人でいくの怖くて。…ミルはあのお兄ちゃんのこと好き?」
「うん! 私ともっくん助けてくれたんだもん。大好きだよ」
満面な笑顔で答えるミル。
「…わかった、じゃあ一緒にいこ」
ナナとミルは手を繋いで夜の外にでる。
レナードの言う場所、両親が眠ってるお墓の前にレナードは立っていた。
ミルがそれを見つけると、
「お兄―――」
ミルが言いかけた時、ナナは手でミルの口の前にだす。
「私になんのよう? こんなところでデートでもするの?」
警戒を露にするナナ。
「お姉ちゃん?」
心配そうに顔を覗くミル。
「どうしてミルを連れてきたんだ?」
「あなたが変なことしないために」
「はぁ…」
肩を落とすレナード。
「やるしかないか」
と剣に手をあてるレナード。
「何をする気?」
ナナが問いかける。その答えには応えず、
「ミル…今からやること、怖がらないでしっかりみるんだよ」
「う…うん」
ナナではなくミルに声をかけるレナード。ナナとレナードはお互い見据えたまま動かない。するとレナードは勢いよく鞘から剣を抜き横になぎ払う。その勢いはミルとナナに襲う。2人は思わず目と閉じる。
ゆっくり目を開けるとレナードは抜いた剣をしまい始める。
「な…なにをしたの?」
ナナが聞くと、
「キャー!」
ミルが後ろを向いてやや上に目線をむけてなにかに怯えていた。
「やはり子供のミルには見えるんだな。ココ、眼鏡をナナに」
ナナには見えないとわかるとココは眼鏡を咥えて、ナナに渡す。
「これは?」
「それをかけて後ろを向くんだ!?」
レナードは叫ぶ。ナナは言われるまま眼鏡をかけ、ミルと同じところを向く。するとそこには得体の知れないものが浮かんでいた。
「ナナにとり憑いていた、悪霊だ」
「あく…りょう」
ナナがつぶやくと、その悪霊は町の方へ向かっていった。
「まずい!? 追いかけないと」
「お兄さんまって」
「だめ! 行かないで」
悪霊が逃げた方に向かってレナードは追いかけ、ミルも行こうとしたとき、ナナはミルの手を掴んで止める。
「どうして? お姉ちゃん」
「ここからはあの人の仕事よ。だから邪魔しちゃダメ!」
ナナはとめるが、
「お兄さんは私に言ったんだよ。『しっかりと見る』って。だから私お兄さんのやること見に行く」
ミルの意志は堅く、それでいて説得力のある言葉を言われナナも決心する。
「わかった、ミルのことは私が守るからね」
ミルとナナも追いかけ始めた。
悪霊はある家にはいっていった。レナードも続いて入る。遅れてミルとナナも入るが、ナナはこの家のことに覚えがある。
「ここって婚約者のビルの家…どうして?」
「おい。守鬼! 観念しろ」
困惑するナナに、レナードはビルの頭上に守鬼と呼ばれる悪霊に向かって叫ぶ。
「もりぎ?」
「こいつは幼い時に死んだ子供を世話をする元々はいい鬼だったんだ。それがどういうわけかナナにとり憑いてたんだ」
衝撃的な言葉に絶句するナナ。
「説明はこいつを浄化したらしてやる。これ以上犠牲者を出す前に…」
剣を抜くレナード。
「ゲハハハ! コンドハコイツニツイテフコウヲマキチラシテヤル」
今度はビルにとり憑こうとする悪霊。
「仕方ない…」
剣に力を込めるレナード。
「タダノケンシニナニガデキル?」
嘲笑う悪霊にレナードは表情を変えずに言い放つ。
「残念だな。俺は剣士ではない。…はぁー!」
剣先が光り輝くとすぐさま悪霊に飛びかかり、頭から突き刺した。
「グワァァァ!」
この世と思えぬ悲鳴をあげながら悪霊は光りへ帰す。消える間近、鞘の中に悪霊は吸い込まれていった。
そこでビルが起き上がる。
「うるせぇな〜今何時だとおもってるんだよ」
「ビル!?」
怒鳴るビルにナナは抱きつく。
「なっ!? ナナ? どうしたんだよ」
なぜナナがいるのかもわからないビル。そんな2人を他所にレナードはミルに近づく。
「怖かったかい?」
「ううん! だってお兄さんがいるから平気」
レナードは優しく撫でながら、ミルはレナードに抱きつき始めた。
「えらいえらい。他の人ができないことをするのが俺の使命だよ」
撫でながら優しく話す。
落ち着いたところでビルの家で事情を説明をはじめた。
「最初にナナを見たとき、悪霊の気配をすぐに感じた」
「私に?」
「そう。守鬼は死んだ世界、黄泉の世界の鬼だが、なぜかナナに憑いてしまった。なぜだろうと住人達やナナの両親に聞いて回った。すると、ナナの幼いとき、ちょうどミルくらいのときに、仲のいい友達がいたでしょ?」
「うん…カールって名前の子だけど、あの子は病気で亡くなったって」
ナナはカールのことを思い出しながら話す。
「そのカールを迎えに来たとき、なにかしらの事故でこっちの世界に迷いこんでしまったんだ。カールの傍に守鬼好みの幼いナナにとり憑きはじめた。そして歳を重ねてくうちに、彼女自身や、心の内で醜い一面等を吸収して、本来守鬼の役目を忘れ、悪霊となりナナの身内を呪い殺すこととなったんだ」
「そんな…じゃあお父さんやお母さんが死んだのって…」
「火事は本当だ。火事の原因は守鬼が行った放火なんだ。」
「うっ…ぐすっ…」
原因がわかったナナは両親を想いながら泣き出す。レナードは続けて説明する。
「でも守鬼の暴走はそれだけではなかった。今度はミルに襲いかかってきた」
「え? 私?」
ミルが驚く。
「襲いかかる魔物をみたとき、何かに操られてるように見えたんだ。心配だったから町までついていくことにしたんだ」
「そうだったんだ〜」
「そうして守鬼は次々にナナの心の拠り所を殺そうとしてたんだ。悪霊の好物は主に人間の絶望や恐怖の感情を餌としてるんだ」
「じゃああのまま放っておいたら…」
「…もしかしたら、この町の人たちは死んでたかもしれない」
「…」
一同は無言になってしまった。
レナードが説明を終えるとナナの手を掴み、
「一緒に来て欲しいところがある」
と言ってナナを連れて外に出ていった。
「ちょっと…どこへ連れてく気?」
「…」
レナードは無言のまま墓地に入る。
「実はナナを呼び出したのは、悪霊を引っ張り出して浄化するつもりだった。けどミルをつれてきたことであの悪霊は標的を変えるしかなかった」
「なにがいいたいの?」
レナードの言葉がわからず聞いてしまうナナ。
「あなたは未だに両親のことを悔やんでいた。ナナ1人だけきてたら拠り所である両親に襲いかかると思ってたんだ」
「まさか!?…」
レナードがやろうとしたこと、それはナナにとって残酷なことだった。それを理解したとき、ナナは怒り出す。
「…もう一度ナナの両親を呼び出すつもりだった」
パシッ…。ナナは怒りにまかせてレナードを平手打ちする。
「最低ね…」
「…何言われても言い返せれないよ」
レナードは俯く。
「でもナナがミルを連れてきたおかげで両親は襲われずに済んだ」
「…」
「償いってわけじゃないけど、少しだけ両親と話しをさせてあげる」
「え!?」
「ここに木でつくった人形があるだろ?」
驚くナナに、墓の一角に指をさすレナード
「これは?」
「降木形と言って、霊を降ろし、その木の人形に宿す術なんだ。これを使って悪霊にまだ生きてると錯覚させ倒す算段だった」
「…」
「今からこれを使ってナナの前に両親を降ろしてあげるね」
レナードはそう言って儀式を始めようとする。
「じゃあ始めるよ。眼鏡をかけてね」
「はっはい!」
ナナは慌てて眼鏡をかける。レナードは大きく息を吸って、
「サリー・ベンダ、ミック・ベンダ…あなたをもう一度現世に留まるための器を設けました。どうかこの器に入り、姿をみせてください」
唱えると、墓の上に白く漂う人の形があらわれた。
「お…お母さん、お父さん」
涙ぐむナナ。
「ナナ…お父さんとお母さん死んじゃった」
「でも悲しまないで、神父様も言ってたでしょ。私たちの分までいっぱい幸せになってねって」
娘の身を案じる母と父。
「うん、でも…レナードさんはお父さんとお母さんを悪霊退治に利用しようとしてたんだよ…それだけは許せないよ」
レナードに対して恨みを露にする。
「誤解だよ」
「これはお父さんとお母さんがレナードさんにお願いしたことですから」
両親はレナードを庇う。
「え!?」
「レナードさんはこの町の人たちのことを考え、どうすればナナに憑いた悪霊を退治できるか考えてたんだ」
「そこでお父さんとお母さんが身代わりになると言ったんだ」
「なんでそんなこと…苦しむのはお母さんたちなのに」
訴えるナナ。
「子供のために親ができることをしたまでだよ」
「レナードさんも私達の想いを伝えたら、承諾してくださったよ」
ナナをみつめる。
「そんな…私のために…」
「でもレナードさんに頼んでよかったですね」
「あぁ…こんな辺鄙な町やナナ達のことを思ってくれるなんてね…」
話し続けてると、ナナの両親は消えかかろうとしてた。
「そんな…行かないで、お母さん! お父さん!」
「どこにもいかないよ…」
「ナナの傍にずっと…」
言い終わる前にそのまま消えてしまいました。
「うぅ…えぐっ…」
その場に座り込み涙が出尽くすまで泣いていました。
ナナが気が付くとそこはナナの寝室のベッドでした。横ではミルがまだ穏やかな寝息をたてていた。ナナは急ぎ居間に向かうとミルの母親が朝食の準備をしていた。
「おや、ナナちゃん。どうかしたの?」
「レナードさんは?」
昨晩のお礼を言おうと尋ねるが、
「あの人は朝早く出て行っちゃったよ」
「出ていった…」
「レナードさんここを出る前にナナちゃんに伝言頼まれたよ」
母親がそう言うと、ナナに残した伝言を聞く。
「で…伝言ってなに?」
ミルの母親に近づき問い詰める。するとにこやかな顔をして、
「『いつまでもお幸せに』ってさ」
その言葉を聞いて笑顔になるナナ。しばらくして皆起きてきて、朝食を食べ出す。
「ねぇ〜お兄さんどこいっちゃったの〜?」
「どこいったんだろうね…そのうちまた町にきてくれるよ」
レナードがいなくなったことに気づいたミルはナナに尋ねると既に出かけたと話す。
朝食を済ませて、墓参りに出かけるため墓地に向かった。墓の掃除をしていると木でできた人形が2つ置いてあった。その人形には1つずつこう書いてあった。
「サリー・ベンダ」
「ミック・ベンダ」
「この2人の想いは永遠に」
と書いてあった。
現在に戻り、イーナはたまらず泣いていた。
「よかったですね…ナナさん」
「うん。ありがとうイーナさん」
片付けながらナナはこたえる。
「さぁあなたも疲れたでしょ? レナードさんのことは私たちが見てますから」
「うん…」
と言ってイーナとココは客室用の寝床に案内された。案内を終えたナナは旦那であるビルのところに行った。
「様子はどう?」
「運ばれてきたときと比べてぐっすりねてるよ」
レナードの寝顔をみつめるナナ。その目には少し涙で潤んでいた。
「どうかしたか? 眠いのか?」
ビルは心配そうに声をかける。
「ううん…あの人達に昔のことを話したらまたお母さんたちに逢いたくなって…」
ベッドの近くの鏡台に目を向ける。
そこにはあのとき使われた降木形が大事そうに飾られていた。
この世界は魔物と人間と二つの生き物が生活しています。どの話しにも魔物は人間を襲い、人間は魔物退治とするようなごくありふれた世界ですが、このお話しは魔物に一切手を出さないレナードという設定で話しを創らせてもらっています。なぜレナードは魔物に手をあげないか。それは魔物もこの世界の住人と考えているからです。これからもレナードの優しさに触れながらお楽しみくださいませ。