悪役令嬢はBADENDを回避したかったようです
悪役令嬢は裁かれ、苛め抜かれていた貴族令嬢は王子様と幸せに婚姻を結びました。
コレはそんな物語の前の話である。
……どうしてこうなった?全力で回避しようと思っていた、このバッドエンド。
でも変える事が出来なかった。だから素直に舞うとしよう、私を、裁く、この喜劇/悲劇の舞台を。
「おい、アナスタシア・バレンシュタットフェルト、聞いているのか」
そう騒がしく、舞台上で喚くのは、この国の第1王子、クロイツ殿下こと、クロイツ・フェルマニス様である。先程まで一応私の婚約者の筈でしたが、今や赤の他人、いえ、主従の関係に成り下がりました。
思えば5歳の時より婚約を言い渡され、今日まで続いていた関係でしたが、脆く崩れる時は存外呆気ないモノでした。
そんな騒がしい殿下の他にも、宰相様の二男、騎士団長家の長男、魔術師長家の三男など豪華なメンツが揃い踏みである。
さてこの舞台だが、場所自体は偉く簡単で、王国城内、謁見の間が舞台となっている。
このことから解るだろうが、上記、王家、宰相家、騎士団長家、魔術師長家のご親族並びにその他大勢の方々が来れれている。まあ大半はセリフも無いモブにしか過ぎないのだが。
おもむろに私は口を開いた。
「聞いております殿下、ですが私の言い分も碌に取り合わず、このような場でいきなりの婚約破棄、私としても多少の心の空白というモノが生まれてしまうのも致し方ないかと」
「黙れ、貴様、まだシラをきるつもりか、彼女、マリアに散々の嫌がらせを学園で行い、あまつさえ生命の危機を起こしかねない毒物まで贈りつけていたなど、言語道断だ」
「一応その辺の裏付けは僕らの方でも行いましたが、公平を欠くといけませんので、別口でも調査して頂きました。この件には全く関係ない王宮機関を動かして」
「皆、快くしゃべてくれていたぞ、アナスタシア嬢がマリア嬢に言い募っていたことや、殿下と仲良くすることを暗に責め立てたり、最終的に平手で頬を打っていたとの証言も出て来たぞ」
「貴女自身を擁護するモノが一人もいなかったことは、嘆かわしくもありましたよ、人望の欠片も無かったのですね、アナスタシア嬢」
そう連携しながらこちらを責める王子達だが、肝心のマリア嬢はこの場にはいない。
「その件については貴方達にも色々と言い募ってきた筈です、殿下ならずも他のお三方とも親しくするのをお止めしていましたし、毒物の件は私には身に覚えがございません。調査自体で発覚したことも程度を越さぬように、一線は引いてありましたわ。そもそも肝心のマリア・ボーデンス令嬢はどこにいらっしゃいますの?」
そう私が眉間に皺をあまりよせずに言うと
「危険人物の前にのこのこ晒す訳がないだろう、しかも彼女は先の毒物の件で酷く心を痛めている、休息が必要なのだ」
「そうですの、でも私と先程婚約を破棄し、今は彼女を婚約者とすると?」
「そうだ、政治的手腕はまだ良いとは言い難いが、それでもいろいろと才華はある、貴様の様に卑しく影でコソコソと苛め抜くような女性ではないのだ」
「確かに彼女はサイカに優れてらっしゃいます。ですが私が彼女を苛めていたなどと言いがかりだった場合、まだ私の方が優れていると思うのですが」
「優れていたとしても、貴様の本性はとっくに見破っているわ、何でもそつなくこなすものの、最低限度しか私と行動しなかったり、極端な話、この十年間の婚約で貴様がそれらしいことや状況になったことなど無かったではないか。」
「確かに私は殿下との婚約関係では素っ気なかったかもしれませんが、王妃となった場合、王より国、支えるべくは国だと私は思っての行動です」
そう言いだした私に周囲は呆れを持ったのかシンと静まり返る謁見の間
『意見の出しあいはこれで終了だな……アナスタシア・バレンシュタットフェルト侯爵令嬢の言い分も確かに一理ある、だが、物証としても報告が上がっているので、クロイツが虚偽の報告をしているわけでもない、よって婚約の破棄を受理し、新たにクロイツにはマリア・ボーデンス辺境伯令嬢を婚約者とする』
終わった、何もかも終わり、BADENDへとこのまま直行しそうである。だから
「そう、ですの。…残念です。最後まで殿下のお心を覚ます事も、この裁きの場で本当に判って頂けなかったのも、凄く残念です。」
「何を今さら白々しい、本来ならば貴様を牢に放り込んで、処刑も視野に入れていたのだ。」
「だが今回の件でバレンシュタットフェルト家当主並びに次期当主たる貴殿の兄上共々から爵位返納、領地の返却、財産を一部残してすべて国に戻し、国外追放の処罰を持って許してほしいとの嘆願書が直々に届いたのだ」
『正直な話、こちらとしてもそこまでされ、処分を強行すると他の貴族からの反発を買う可能性があるのと、現在スムーズに領地の再配分をする段階まで行っていてな、そのまま了承せざる得なかったのだよ』
そう最後に王は締めくくった。
「お父様にお兄様が……残念です、ええ、本当に残念」
そう口に出しながら若干笑みが浮かんだのだろうか。
「残念がりながら微笑むとはやはり性根が見えるな」
「あら、本当に残念ですのよ、……私を選ばなかったのですから、幸せになってくださいね?殿下」
「ふん、良いからさっさとこの国から出よ、迎えに馬車が王城前に停まっている」
まあここまで不遜な感じなら構わないだろう、周囲もまるで憐れむように、蔑む顔をしている。
ああ、この顔がどう変化するか若干、楽しみになっているのは、追い詰められているからか。
強いて言えば、上手くいけばいいですわね。
そして、あの国から1つ国を隔てた場所に、家族と居を構えてから3年経った。
アレからのことを端的に話すならば、あの舞台から半年も経たずにクロイツは、学園卒業とともに彼女と婚姻を結んだ。その時、彼の周囲を固めていたのはあの舞台にいた3馬鹿ではなかった。不慮の事故などで死亡または療養中、あるいは行方知らずとなったようだと、風の噂で聞こえてきた。
まあ、生死不明3馬鹿はこの際どうでもいいのだ。婚姻から3年経たずに彼の王家が、滅んだことも。滅ぶ原因が彼女だったことも。その国を他国が併呑したことも。ただ一点問題なのは、何故彼女が目の前で私が出した紅茶を啜っているのだろうか、という点になるだろう。
「……何の御用ですの、貴女がここを嗅ぎ付けるなんて思いませんでしたわ」
『随分冷たいお言葉ね、アナスタシア様』
「止めて下さらないかしら、貴女にそんなこと言われると鳥肌が立ちますわ、マリア・フェルマニス元王妃、お亡くなりになって随分身軽になられましたのね」
『そちらこそ、嫌味たらしさは相変わらずね、まあ一つだけ確認したかったのよ、何で貴女が本当の理由を知っていたのか』
そう言って、彼女はカップをソーサーに置いた。
「あら、答え合わせが必要かしら」
『気になると、静かに眠れないじゃない?』
「はぁ……とある国がある時、隣接する国を取ろうと思い、計画を立てました。初めは戦争を起こしてしまえばいいと思いましたが、正当な理由も無かったので、理由を作ろうと考えました、ですが非の打ち所のない国だったので、長年手が出ませんでしたが、転機が訪れたのは今から15年前隣接する国の辺境に住む貴族が人知れず流行病で亡くなっていることが判りました。本国はまだ気づいておらず、その貴族自体も王宮の夜会などにも費用的に行っていなかった為、乗っ取りが成功する可能性は決して低くは無かった。そして実際成功してその後、国の内情を知る為に乗っ取った貴族家の令嬢を仕立て、学園に送る事に決めました。周囲との交流も無かった貴族だった為、令嬢の年齢も誤魔化し、最良の時期にいれることが叶いました。多少誤算があったものの、学園内の有力者と親しくなりながらも、王宮の中核へと到るのは時間の問題でした。ですがここで一つのミスを犯しました。自身が持ち寄っていたモノが有力者に見つかり、あわや計画自体が露呈するかに思いましたが、恋は盲目と言った所で別の女性に矛先が向いたのです。ですが、その矛先の相手は彼女の周りをいち早く怪しみ、調査し、古い記録から彼女の正体を割り出したとある貴族令嬢でした。ですが所詮彼女は学生の身、しかも記録自体は貴族令嬢家が記録していた品の中のモノ、信憑性も信頼性も大きく欠けていました。そして彼女最大の幸運はこの国の制度、貴族令嬢からすれば不幸な制度。王族関連の婚姻の場合、婚約をやすやすと破棄できぬように契約により最短でも5年はその関係を続けなければならない、むやみやたらと婚約者をコロコロ変えない為のモノであるが、これは如何なるもの、たとえ王族であっても、代が変わろうとも、統治者が宣言した時点から効力を持ち、変更、拒絶、虚偽等が行えないモノとする。そんな悪法と言える法が彼女最大の盾であり、王家にとっては猛毒の塗られた矛でしたが、王家は気付かずその矛を呑み込んでしまいました。」
『まあ、あの時は流石に私も終わったと思ったわ。毒物を鞄から出すのを見られるとはってね、でも終わってたのはアイツらの方だったわね。今となっては笑い話よね。自分達に盛られていた毒をわざわざ、貴女のせいにして』
「仕方ないわよ、だって貴女の国薬学に造詣深過ぎよ、初め貴女の家の事調べた時、毒薬でも使って乗っ取ったと思ったモノ」
『アレは本国も僥倖だと思ったみたいよ、でもそんな情報を探れるアンタらの家の方が不気味だったわよ、本当何度暗殺しかけようかと』
「そう言う事にしておきますわね、実際未遂ですし」
『……ありゃばれてたか、やっぱり』
「というか、私の家の事知らなかったんですの?あの国の汚い部分全て請け負ってた家ですわよ、正確に言えば情報網は影が、それを元に粛清とか、脅迫紛いに潰したりもしていたようですし」
『知ってたから、本国も迂闊に手を出せなかったのよ、実際一切接触禁止認定されてたのよ』
「あら、光栄と言えばいいのかしら……さて、実際アンタは何故この場に来たのかしら、ゴルベスト王国所属、アミリシア様」
『ん~、まああの国も取った後だからね、遊びに来ただけってのが本音よ、一応私、死んでるんだし』
「死人がヒョコヒョコ歩いているのが、私としては目障りよ」
『……では、お暇しましょう、また来ますわ』
「もう二度とこの家に足を踏み入れないでほしいわ」
そう言い、テーブルから離れ、窓際に行き、いざ窓枠に足を掛けてから、こちらを振り向いて
『そう言えば、何ですごすごと引き下がったの?あの舞台で暴露っちゃえば、私の計画滅茶苦茶に出来たでしょうに』
そんなことを言うモノだから呆れて、注いでいたお茶を飲んで、息を一息吐いて
「……決まったエンドに悪役はいませんのよ、それに悪役が塩を贈るなんて似合いませんもの」
『………フフフ、アンタはやっぱり悪役令嬢ね、いえ、今は貴族じゃないから悪女か』
そう言って彼女は姿を消した。その後、廊下からドタドタと煩い足音が聞こえ始めた。
はあ、今更と嘆くべきか、彼女の潜入技術を称えるべきか、まあまずは来訪者に喝を入れなくては。
何たって私は悪役令嬢、嫌味たらしく叱責を投げかけるとしよう。
各キャラの詳細設定を記載(登場順/名称として出てきた順)
アナスタシア・バレンシュタットフェルト
バレンシュタットフェルト家の令嬢。この物語の主人公。ある意味良い神経をしている。
容姿は切れ長の目で、目鼻立ちは通り、薄い唇、赤髪でご多分に漏れず両頬の辺りでドリルとまではいかないモノの巻いてある。
自分の家の特性をよく知り、周囲からの評価も気にしてはいた。だが我が道を行く状態で育つ。
殿下との許婚時は、腕白さに辟易しつつも、支えるべき主君といった形でそのまま関係を継続。
学園にて、殿下に近寄ってきた例の彼女を調査した結果、色んな事実が判明。排除を試みるが、裏目裏目に出てしまい、それが今回の裁きに到る。
裁きが発生した時点で家が王国に見切りをつけていた為、国外退去は家が準備okとの報告だった。
その後は1つ国を挟んで、そこにある別荘地に住んでいた。まさか凸してくるとは思わなかった状態で、結構驚いてはいた。
クロイツ・フェルマニス
フェルマニス王家の第一王子。馬鹿その1。有能だが思い込んだら一直線で扱いは楽。
容姿はツリ目がちの金眼、肩口まである金髪、鍛錬も怠らずにすらっとした筋肉をつけた、キツメ系イケメンである。
王家の第一子である事で周囲にチヤホヤされ、幼い頃は増長、成長すると重圧を感じるようになっていく。
主人公との許婚時は、一種の一目惚れ、だから構って欲しくて色々するも、空振り状態が続き、勝手に失恋し拗らせる。
拗らせが原因として、今回の結果へと到る。生死不明(生存は絶望的だが死んでいるとも言ってない不明な状態)。
宰相様の二男、騎士団長家の長男、魔術師長家の三男
重要そうだが作者が名前を考えるのと、例の彼女との絡み、その他諸々容姿とかも含め、
めんどくさがったので、モブ化した可哀そうな3馬鹿。
そして、第一王子の婚姻時には生死不明の扱いとなったが、上記と同じで生存は(ry……といった状態である。
マリア・ボーデンス
辺境伯爵令嬢。実際は架空人物。ボーデンス家は本当に流行病によってひっそりと没していた。
容姿は蜂蜜の様な瞳に、濃い茶色い髪を首の辺りまで伸ばした、平凡系な感じ。
王国の中枢人物を探る目的で学園に潜り込むが、令嬢に目を付けられるもののそれを利用していく。
そして、無事(?)王国の中枢、女王の座に就き、2年半程度で、本国を引き入れられる程度に掌握する。
そして、王家ごと没したことにし、その後消息不明……だったのだが……。
サイカ
殿下が言ったのは才華、主人公が言ったのは災禍、ここから若干周囲との差異がある。
強いて言えば、上手くいけばいいですわね。
主人公が言い残した言葉、殿下に言ったのか、それともその場にいない彼女の計画に対してなのかは、ご想像にお任せな方向で。
生死不明3馬鹿
宰相様の二男、騎士団長家の長男、魔術師長家の三男だが、謀殺されたとか、事故死だとか、僻地に追いやられたとか。
いずれにせよ痴情の縺れといった感じである。
ゴルベスト王国
主人公、殿下含む4馬鹿がいた国の隣国。薬学分野、医学分野に秀でており、兵力は劣るため、手を出さず、雌伏の時を過ごしていた。
機会が巡り、早急に手を出すことなく、長時間の計画だったのはある意味気が長いのか、国民性なのか。
何故乗っ取りを計画したかだが、資源枯渇という名の希少薬草群の栽培に適した地がその場所だったからという、若干締まらない理由。
アミリシア
マリア・ボーデンス辺境伯爵令嬢を演じ、女王の座にまで行った、ゴルベスト王国の人間。
容姿は打って変わり、蒼い瞳に、灰色の髪となっている。薬剤などにより変えているのか、変えていたのかは不明。
たまにドジをし、最大級のドジが鞄からポロッと毒薬入り瓶を落としたこと。
そして裏話だが、この毒薬はそれ単体では効力は無く、彼女の着けている香水の成分が体内に入ると、
心臓の鼓動を早めたり、若干思考が鈍くなったりするといった効果があり、毒薬量によってそれは変わる。
一種の恋の症状に似せた偽恋愛薬として、ゴルベスト王国が一から作り上げたモノ。で、当然過剰摂取すれば死に至るようにもされている。
で、小話だが、この毒薬実は4人中3人にしか使用はされておらず、4馬鹿中1人は本当の意味で恋をしていた模様。
蛇足話
実は最初の頃は、あの長い例え話みたいなものを裁きの場で吐露し、そのまま彼女はやはり悪役の様に国を去って行ったで、〆ようと思ったが、
王国滅びる=バットエンドだったため、これを棄却、急遽、妙な笑みを浮かべ、立ち去ったに変更したという経緯がある。
あと、最後悪役令嬢家で足音させていたのは、生死不明4馬鹿の1人か、家族か、本当に令嬢が好きになった相手か、
ただの侍女かの4択を頭の中に描いていたが、そこは描写も匂わせもしないことにした。
理由は3馬鹿の時と同じ、面倒に思ったから。展開とか、続くのかとかのその他諸々。
ですが、これで以上になります。作品としてボロボロな今作を評価、閲覧等なさって下さり、感謝で、指が震えていますが
本当にありがとうございました。黒衣カイトの次回作にご期待できたら、ください。
2015/09/24 感騒の存在に気づき、うっかりタイトルミスしていたのを確認。修正。