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戦端の有無

 ウォルターはマキとローラの会話を聞いているが、話の内容は全く理解できなかった。というのも、ウォルターは政治的な知識が全く無く、興味が無かったので考えた事も無かったからだ。彼にとって政治とは貴族が庶民からお金を回収する手段でしかなかったのである。最近はローラやフリードと関わる事によってダンジョンの攻略や食糧事情の改善も政治活動の一環として実感するようになったが、搾取の対象がお金だけでなく労働もその一つだと知っただけにすぎない。まだまだ外交や公共事業などについては意識が及んでいなかった。



 そんなウォルターが不思議と思ったのは、マキとローラは「帝国が軍を動かさない」という予測を立てた事だった。


 これは二人の持つ常識に照らし合わせれば簡単な推論である。他国に対して攻め入るには、この世界は環境が悪い。それぞれの国がダンジョンという爆弾を抱えていることが抑止力となり、攻め入った後の統治が難しいことがその理由だ。下手に攻め入って兵士を損耗しダンジョンを大崩壊に導けば、占拠した都市の損害が大きくなるばかりでなく自国領土の安全まで脅かされる。しかも、ランクの高いダンジョンを治めている都市はそれ相応の騎士団を持っているという事である。他にも周辺国家の治安にまで影響が出れば国交にすら悪影響を及ぼす。そうなると敵対するリスクは更に大きくなる。

 特にチランのように帝国唯一、最大難易度のダンジョンを持つ都市に攻め入るのはリスクが大きすぎて攻め入ることは無いだろうというのが二人の共通した考えだった。


 ではなぜ「軍で攻め入る」ような一文があったかというと、その非常識さを利用してチラン側の偽造文書であるかのように見せかける工作ではないかというもの。

 チランが帝国から独立しようとすれば周辺貴族に悪影響が出る。その影響を緩和するためチラン側を悪者に仕立て上げるのに、帝国側が無茶な要求を突きつけたと「嘘の理由を並べ立てた」事にしようとしているのではないか。

 メルクリウスあたりが帝都に顔を出せば監禁して人質にするなど、考えられる最悪を想定すれば身の潔白を証明するのも難しい。そういった事情も利用されていると考えていい。



 だが、そんな話を聞いていても、ウォルターは思うのだ。


 最悪を想定するなら、相手が攻めてくる事も考えるべきじゃないだろうか、と。


 というより、攻めても大丈夫という算段があるからこそ、このような一文が混じっているように思えるのだ。

 そしてウォルターの勘は、きっと攻めてくるんじゃないかと思っている。

 だからウォルターは「周辺貴族との交易で関税率の見直しをするためローラが直接交渉に行くべきではないか?」と話し合う二人の間に割り込んだ。



「考えすぎですわ」

「費用対効果で言えば、割に合わないと言う他無いんだ。チランが孤立する時点でそれ以上は必要ないはずなんだよ。もしチランがダンジョンを大崩壊させてしまうほど弱体化すれば、帝国だって困るはずだからね」


 しかし二人の返答はそっけない。

 やはりダンジョンの大崩壊を危険視すれば、戦争など出来ないと断言する。


「ここのダンジョンをどうにかできるだけの余剰戦力があるって可能性は?」

「無いよ」


 それでも食い下がるウォルターに、ローラは丁寧に説明する。


「チランの騎士団と討伐者は合わせて1000人近い規模なんだ。帝国は広く人材は多いけど、それだけの戦力を捻出するのは難しい。何より、経験がリセットされれば必要な戦力は1000人では到底足りないはずだしね。ダンジョン用の精兵や討伐者を2000人集め、それとは別にチラン攻略用の戦力を3000人は用意できなければ、まずやるだけ無駄なんだ。

 それに、それだけの戦力を動かすお金と物資は膨大だよ? チランをどうにかできたとして、今度は他の都市が台頭するだけなんだ。現実的じゃないよ」


 騎士とは維持費用がバカにならない。育てるのも大変なので、すぐに集める事もできない。

 そんな騎士をたくさん集めた所で戦争でさらに資金と物資が激減すれば、帝国の屋台骨が傾く可能性がある。

 それを聞いても、ウォルターは納得しない。別の可能性を考える。


「じゃあ、じゃあ。もしも新しい魔封札を手に入れたとしたら? それがチラン攻略に使えるようなモンスターを顕現させるものだったとしたら? それなら、少ない戦力でも――」

「夢物語ですわよ、ウォル。そんなモンスターがダンジョンにいるなら、そもそも帝都の騎士たちにも少なくない被害が出ますわ。もし外部から購入するなら相応のお金が飛びますもの。攻める余裕など更に消えてなくなりますわね」


 戦力の不足を顕現魔法で補おうとすれば、マキから駄目出しが入った。

 マキのいう事は尤もで、ウォルターもようやく口を噤む。



 相談を続ける二人に対し無言を貫くウォルター。

 だが、その胸中には漠然とした不安があった。

 何か見落としは無いか?

 自分の知らない何かがあるのではないか?


 勘というのは無視しにくい判断材料であるため、ウォルターはあとでメルクリウスに一言注意しておこうと決めた。

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