再襲撃
「これは、本当に強くなれるよ……。うん、死ぬかと思った」
1日で巨大ミミズ4体と戦い、うち3回も撃破するという快挙を成し遂げたローラ。
魔力を限界まで使い、頭を酷使して戦術を組み立て、戦場を走り回って事に挑む。その繰り返しでグロッキーになっていた。
「基礎訓練なんて嘘っぱちだ……。ただの実戦訓練じゃないか…………」
今はウォルターの顕現した巨大鼠の背に乗って、地上へ帰還している最中である。
「でも、限界一杯まで魔力を使ったよね。繰り返すと魔力容量の最大値も上がるよ。僕もそうやって魔力容量を伸ばしてきたし」
疲れ果てたローラは気も弱り、愚痴をこぼし続ける。
それを兄弟子のウォルターが宥め、無駄ではないと励ます。
当初の予定では基礎訓練と言われ、素振りのような反復運動や瞑想といった内容を考えていたローラ。しかし現実は「実戦で基礎能力を伸ばせ。手を抜けば死ぬだけだ」と言わんばかりのハードなメニュー。愚痴の一つもこぼれるというものだ。
しかし、ローラの考える普通の訓練で身に付けた力というのは、意外と実戦で役に立たない。求められているのは、限界ギリギリの戦闘。実力を十全に発揮させてようやく勝てる拮抗した勝負で勝とうとする意思。これこそが真の基礎能力である。
限界の先に行きたければ、限界を知れ。知ったうえで先に進む方法を考えろという訳だ。魔力であれ戦術であれ、成長するために限界に挑むのがマキの流儀であった。
往路に対して復路はゆっくりとした移動だ。荷物があるのだから仕方のないことである。行きは1時間ほど奥に軽く走ってからのスタートだったが、戻りは1時間移動してもまだ道半ばである。巨大鼠の背にいるのが心地よかったのか、途中でローラは寝てしまった。
そして、そんな道中でマキとウォルターの足が止まる。
「あれ? 結構数がいるよね? 昨日の今日でなんでこんなに待ち伏せがいるんだろう?」
「可能性はいくつかありますわよ。
一つ。戦力の逐次投入をするほど愚かだった。いえ、ワタシ達がいなければ成功していたのでしょうし、適正戦力を見極めて戦力を投入したのかもしれませんわね。
二つ。別の所で仕事をしていた。他の兄弟に付いては何も知りませんもの。他のダンジョン帰りなのかもしれませんわ。
三つ。増援が今日来た。遠くから人を派遣したのであれば、到着タイミングを読み間違える事もありますし。
四つ。また別件なのかもしれませんわ。その場合の容疑者は“女神の使徒”ですわね。先日襲われて戦力が低下したタイミングを狙ってのことかもしれませんわ。
どちらにせよ、やる事は変わりませんもの。出来るだけ生かして捕えますわ」
「了解! あ、片手落ちにしないと不味いよね?」
「当然ですわね。ワタシが先行します。打ち漏らしに注意なさい」
ウォルターたちは脇道に入って戦闘をしていた。
それは人のいない場所に赴いたという事である。本道であれば誰かが通り過ぎる事を期待できたが、脇道から本道に戻る途中の現状では人が来てくれる可能性は五分五分といったところ。来ないと思って戦う事を2人は選択しない。むしろ、援軍が来るかもしれないと警戒しつつ戦う事を選択する。
マキは精霊魔法を含むいくつかのスキルの使用禁止を確認して、不意を討つ為に天井の鍾乳石を蹴ることで空中を駆けていく。ウォルターは当初の任務に対し忠実に、ローラの護衛としてそのまま歩いていく。
ちなみに、最後にマキの言った「打ち漏らしに注意しなさい」とは「何人か追い込むから練習がてら潰しなさい」という意味である。もちろん、ウォルターはちゃんと理解している。楽をさせてくれる師匠ではないので、当然の事だった。
さて、天井を移動するマキであったが、5分も走れば隠れている人間たちを発見する。その数は20人。かなりの大所帯だ。
彼らは一様に黒づくめで、灯りを使わずに洞窟内を這うように進んでいる。這って動いているにもかかわらず蛇のように滑らかに、意外と素早く進んでいる。これでは人間が彼らに遭遇した時に、姿を視認する前に奇襲されるだろうことが分かった。完全に、対人戦を想定している様子であった。
塵の欠片ほどの可能性で無関係という可能性もあったが、マキは殲滅を選択する。
天井から垂れている鍾乳石をまとめて切断し、黒づくめ共の頭上から降りしきらせる。高さ10mの天井から降る鍾乳石は、その質量と落下速度によって凶器へと変わる。先端が尖っているとか関係なく、打撃武器として約半数の命を奪った。残った者も、腕や足を折られた者がさらに半数。たった4人しか無事だった者はおらず、黒づくめ達はたった一度の攻撃で戦闘不能状態に追い込まれた。
「敵襲!」
「馬鹿な! 一体どこから!?」
「監視は何をやっていた!」
「早く逃げろ!!」
生き残った者たちはパニックを起こし、騒ぎ立てる。
本来襲撃のプロとして戦ってきた彼らであるが、その経験が災いした。彼らは自分たちの知る常識から戦闘マニュアルを作り上げてしまっていて、そういった慣れが視野を狭め、マキのような規格外への対応能力を奪ってしまっていた。
剣などで戦うならフリードほどではないが熟練の戦士である彼らは、正面から戦ってもらえるならマキ相手でも善戦しただろう。だが、想定されていない地形を利用した攻撃の前に一瞬でやられてしまうのだった。
残る4人もウォルターのいる方角に逃げ、これもあっさり迎撃された。冷静さを失った方が負けという訳である。
とはいえ、「出来る限り生き残らせる」という目標はマキの初撃でずいぶん怪しい状態だ。最終的な生存者は8名。半数以上を殺してしまっている。
「思ったよりも練度が低かったのですし、しょうがありませんわよね」
死体は埋めて、他の人間に荒らされないようにする。あとで人を寄越して回収するためだ。
そうやっておかないと、もしここを誰かが通った時に証拠になりそうなものを剥ぎ取られるかもしれないからだ。
それが終われば生き残りを自殺しないようにしてから巨大鼠に括り付け、これも地上へと運搬する。
地上に戻ったのは夕刻を少し過ぎてからだ。
全てをメルクリウスに報告し終えた後に「巨大ミミズも回収したい」と言われて、ウォルターは10数人引き連れてダンジョンへ戻る事になった。どんな状況でもお腹は減るのだし、食用肉を回収できるなら可能な限り回収したい。早くしないとミミズ肉がダメになるかもしれないと、休憩無しの強行軍である。
普段は訓練だけという事で報告などしていなかったのだが、襲撃の件で直接報告をすることになった為、駆り出されるのも仕方が無いのである。




