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女神の使徒

 この世界で魔法と言えば、それは顕現魔法を指す。

 しかし、モンスターの中には火の玉を飛ばしたり水の幕を張ったりするモンスターが存在する。これらの能力は種族固有の物ではなく、魔力を用いた法則性のある技術であることが分かっていた。

 習得方法は明らかにされておらず、モンスターのみが使える魔法という事で議論は決着がついており、人間には使えないというのが一般的な常識である。


 そこから導き出される答えは「人の姿をしたモンスターが存在する」というもの。

 人間に使えないはずだという前提条件が覆ることは無く、メルクリウス以外の6人は、先ずその可能性を思い浮かべた。


 だが、メルクリウスはその考えを否定する。


「言っておくけど、彼らは人間だよ。僕ら人間に彼らが使う魔法――【精霊魔法】というらしいけど、それが使えないというのは帝国上層部が意図的に流したデマらしい」

「犯罪者どもの言葉を、父を殺した連中の言葉を信用するのですか!?」

「敵であれ味方であれ、言葉を信用するかどうかは自分で考えて決める事だよね。憎い相手の言葉だからと無条件で否定するのは良くないよね」


 サルタンがメルクリウスの言葉に噛み付いたが、メルクリウスはその言葉を正論で切り捨てた。

 大崩壊を引き起こした犯罪者の言葉であったが、メルクリウスは彼らの主張を信用している。

 というのも、メルクリウスは皇帝をはじめとした帝国上層部を信用していない。彼らは利権と金の亡者としか見えないほどに腐敗していると思っているからだ。

 数年前、父に連れられ訪れた皇都で見た皇帝とその取り巻きは救世教会への寄付金をピンハネすることで得た財貨に溺れており、メルクリウスの目には自制心が緩んでいるように映った。

 皇帝たちがそのような状態になってしまったのが何代前からかは分からないが、そんな彼らであれば保身を重視してそう言った迫害を行っても不思議はないとメルクリウスは考える。

 それに、メルクリウスだって精霊魔法に対して「危険すぎる」という印象を持っている。それは父を殺されたからではなく、精霊魔法の使い手は抜身の刃物を常時携帯しているような状態だからだ。人間の自制心を無条件で信用するほど、為政者というのは甘い存在ではない。


 黙ったサルタンを見て、メルクリウスはまとめられた情報を兄弟たちに教える。


「“女神の使徒()”の主張はこうだね。


『我々こそが、本物の女神の信徒である。

 その証拠として我々は女神アースティアが(もたら)した魔法、【顕現魔法】のみならず【精霊魔法】も継承している。

 本来伝えられるべきはずの精霊魔法はその危険性から時の皇帝に禁じられ、使い手たる我々は迫害されてきた。女神が残した魔法を使えるから、そのような理由で! 本来尊敬と畏怖を集めるべき、我々が!!

 これは宣戦布告であり、女神の真なる徒である我々を脅かす悪の帝国への警告である。

 これは我々の命と尊厳を守る聖戦の始まりである。

 我々を認めぬ限り、我らは抗い続ける。

 これより1年以内に貴様ら悪逆の徒が正義に対し(こうべ)を垂れぬようであれば、我々は全てのダンジョンを崩壊させよう』


 実際にダンジョンで大崩壊が起きた。僕たちの管理しているダンジョンが。大崩壊を人為的に引き起こせるっていうのは、間違いないと思うよ。仮にも女神の信徒を名乗る者がそんな事をするのは矛盾すると思うんだけどね。

 相手の言葉を鵜呑みにすることは出来ないから、皇都へ使者を出し、真偽を問うぐらいはしておいたよ。急がせるけど、往復で2ヶ月はかかる。僕らの知らない話だけど、亡き父は知っていたのかどうか。それも含めて問い合わせてある。

 あと、フリードが敵の捕虜を連れて来てくれた。そこからどれだけ情報を引き出せるか分からないけど、何か分かり次第、すぐに連絡するよ」


 ここまで、メルクリウスは淡々と情報を開示する。

 最後、捕虜を捕まえたという所で一瞬フリードに視線が集まったが、フリードは苦い顔をして何も言わずに首肯する。

 公爵を襲った側の敵は、何人も討ち取ってはいたが、捕虜の類はいなかった。フリードの連れてきた連中はいい情報源になるとこの場の誰もが喜んだ。


「これで今、ここで伝えるべき情報は全部だよ。

 じゃあこれで解散、と言いたいんだけどね。まだ決めなきゃならないことがあるんだよ。

 次期公爵を誰にするか。それはどうやって決めるのか。

 急がないと公爵不在のチランに皇都から代官が送られてくる。屑どもが来る前に、奴らが来るだろう3ヶ月以内に決めてしまう心算でいる」



 この場で伝えるべき情報を全て伝え終えたが、メルクリウスには最後の仕事が残っている。

 情報の共有化も大事だが、今回の集まりで決めねばならない重要な議題が残っているのだ。これまでは前座に過ぎず、ここからが本番であった。

 議題は次期公爵の選定方法。

 本来であれば最強の討伐者ギルドを率いる者が公爵旗下の騎士団に挑み、勝利することで次期公爵候補になるはずだが。肝心の公爵は死亡、騎士団は半壊というありさまだ。これでは公爵を選定するどころではない。

 過去には似たような状況下、例えば公爵がモンスターに討たれて、という事があった。その場合はランク8ダンジョンのタイムアタックなどで実力を証明したのだが、今回はやや状況が違った。


「僕は、“女神の使徒”を見つけ出し、その首魁の首を刎ねた者に任せたいと考えている」


 ダンジョン攻略において優秀な者を公爵と認めるのは、(ひとえ)に治安維持のためである。

 ならば、今回はテロリスト集団のリーダーをどうにかできる者こそ、公爵に相応しいとするのも間違った判断ではないはずだとメルクリウスは提案する。



 この3日後、チラン中に“女神の使徒”を名乗る邪教徒の殲滅が公爵家より通達される事になった。

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