反逆の徒
ウォルターはフリードに頼まれた通り、魔素だまりを散らしたこと、大崩壊が終わったことを討伐者たちに告げながら全力移動する。モンスターは出て来る端から駆除されているので、周辺警戒などを行わずに宮殿を駆け抜けた。
宮殿内部の探索には1日かかると言われているが、何時間もかけて移動する理由の大半はモンスターを警戒するからだ。あとは荷物の運搬で、重い荷物を抱えて走るのは体力の消耗が厳しいからだ。警戒をしなくてもよく運ぶ荷物も無いのであれば、半分にも満たない時間で移動できる。ウォルターは3時間で魔素だまりの部屋から元休憩場に辿り着く。途中で連絡事項を伝えるために足を止めなければ、さらに半分の時間で済んだだろう。
そして休憩もそこそこに、元休憩場を守っていた部隊に状況の説明を行った。
大崩壊は食い止められたこと、犯人と思しき連中がいたこと、そして彼らが殺されていたこと。フリードが現場検証に残っている事も伝え、応援を要請する。
そこまでの報告をやり遂げ、その後は簡単ではあるが質疑応答に移る。ウォルターはそこまで多くの情報を持っていないが、それでも事前に引き出したい話はいくつかある。犯人集団の規模や装備の質、フリードの行動予定などだ。
すべてやるべきことを終えたウォルターは休憩所で一泊し、地上へと戻った。
あとはマキと合流し、疲れた体を癒すべく、宿でゆっくり二日ほど寝て過ごすのだった。
フリードはわざわざ様子を見に来てくれた討伐者の助けを得て、6人の生存者を発見した。鎧など装備もいくつか回収し、地上へと持って帰ってきた。
そして兄であるメルクリウスに報告をすべく、公爵邸に足を向けた。
が、そこで信じられない話を聞くことになる。
「父様が……死んだ?」
【コルテスカ地下宮殿】が原因不明の大崩壊を起こしたことで、他の3ダンジョンの警備も増強された。さすがにランク1ダンジョンの警備など強化したところでおなざりなものだが、他のダンジョン、ランク5とランク8のダンジョンは特に警戒された。
危険度の高いランク8ダンジョンには公爵自らが騎士団を率いて調査に向かい、そしてそこで襲われたのだという。
その時の事を生き残った騎士から聞いたメルクリウスは、長兄として残る兄弟姉妹全員を集め、事件のあらましを説明した。
突然の事態に全員戸惑い、リーダーとして振る舞うメルクリウスの表情にすら余裕が無く、硬くなっている。困ったような、頼りない表情ではない。にこやかな、人好きする笑顔も浮かべていない。冷徹で、見たものの心を底冷えさせる、鋭い目をしていた。
次男ガルフは無理に余裕のある笑顔を浮かべようとしているが、それはうまくいっていない。歪な、口の端を無理やり笑みの形にしたそれは、悲しみに震える目の揺れもあって泣くのを我慢しているようにも見える。ガルフは父である公爵の事を尊敬しており、その訃報がどこか信じられないというのもある。当時はランク5ダンジョンの警戒に当たっており、「自分が近くにいれば」と後悔を滲ませ、拳を強く握っている。
長女のヴィオは目を閉じ、表情を削ぎ落している。普段の彼女は快活で、いかにも生きているといったエネルギーを溢れさせているような女性である。それが幽鬼のごとく佇んでいる様は、まるでこれから彼女が自殺すると言っても不思議に思わないほどだった。
三男フリードは困惑している。父である公爵は武人よりの人物で、政治的にはあまり優秀ではなかったが騎士団を率いる将として、フリードが知る中では誰よりも「強い」人間だった。その父が殺されたなど、想像できなかった。
次女ローザは涙をこらえきれずにいる。お付の侍女が隣で支えているが、本当なら部屋で泣いていたかったのだろう。自分一人では立てなくなっていた。
四男サルタンは怒りを顔に滲ませている。握られた拳から血が滴り、床を汚している。頭の中では「どうやって仇を討つか」しか考えていない。
三女の末娘ローラは呆然として、現実を受け止めきれずにいる。フリードと同じく、父が殺されるなど想像の埒外だからだ。これは彼女が平和ボケしていたからではなく、これまでと同じ日常が続くのだと信じられるだけ周囲の人間がしてきた努力を信じていたからだ。その積み重ねを知っているからこそ、どうしてこうなったのかが理解できない。
兄弟たちの顔を見渡したメルクリウスは口を開く。
「僕が一時的に公爵代行を務める。異論は無いね?」
継嗣、つまり次期公爵は決まっていない。
だが、いざという時のために指揮権はメルクリウスが預かる事に決めてあり、そのことは公爵家の関係者の誰もが知る事だった。無論、異論を挟む者はいない。
「“敵”は『女神の使徒』と名乗り、自身こそが正当な救世教会の教皇だと名乗り、帝国に反旗を翻すと宣言した。
そして騎士たちの話を聞く限り、奴らはモンスターと同じ――」
魔法を使う。
メルクリウスはそう言った。




