大崩壊/ウォルターサイド
マキと別れたウォルターは、魔核の売却を行った。その後は基礎訓練でもするつもりだった。
しかし、ウォルターはフリードと2人で【コルテスカ地下宮殿】に挑むことになっている。
翌日の早朝、フリードに拿捕されたのだ。
本来なら公爵家の人間であるフリードだ。ダンジョンに潜るなら護衛ぐらい付くのが普通なのだが、フリードの戦闘能力はランク4ダンジョン如きでは過剰と言えるモノであったし、逆に足手まといにしかならない。必要なのは荷運びをする人間だけだったわけだ。下手に人数を増やせば逆に守らねばならない人間が増えるからと、【コルテスカ地下宮殿】で活動しているウォルターが荷運び役をやる事になったのだ。フリードと顔見知りだったことと、他のギルドのメンバーは慣れている面子で挑むのだから、ソロ状態のウォルターはちょうど良かったという訳である。
もっとも、フリード自身はマキという戦力も確保したがっていた。自分以上という見立てが正しいのであれば足手まといにならないし、純粋に戦うところを見てみたいという思惑もあった。が、残念ながらマキは別行動で、フリードはそれを聞いた時盛大に落ち込んだものである。
大崩壊が起きた時、所在が分かっている討伐者は基本的に強制で大崩壊に抗う事になっている。やり方はある程度自由が利くけれど、全員で下層を目指して戦う事になっている。
最速攻略のためにある程度の役割分担だけ決めて、道中で出て来るモンスターを全て他の討伐者が受け持ち、休憩場の合った場所で一泊し、最後にフリードとウォルターが下層魔素だまりを制圧することになっている。
ウォルターは数時間前の自分にどんな落ち度があったのか、そのことを考えながらダンジョンに入って行った。
一言で言えば、本当に危険なのか疑うレベルで楽な行程だった。
多数のギルドが参戦していることもあって、過剰戦力もいい所である。移動を最優先にして出て来るモンスターを押し付けながら進んでいるはずだが、休憩ごとに減っていったはずの戦力が再集結するほどであった。
それもそのはず。騎士団も別に動いていたし、巨大ミミズは必ずしも倒さねばならないモンスターという訳でもなく、ある程度ダメージを与えて逃げられたとしても問題にならなかった事が大きい。普段であれば逃がさないための戦い方をする必要があったが、今回は魔核の剥ぎ取りは仕事に含まれない。よって少ない戦闘時間だけで済み、合流が可能になったのだ。他にも、今回参加したメンバーにはランク5や8のダンジョンをメインに戦う討伐者が多いというのもある。
戦闘は持ち回りだったので、どのギルドも大きく消耗することが無い。地底湖の休憩場跡地まで半日かかるのが普通だというのに、その半分の時間もかけずに駆け抜けた。その為、一泊せずにそのまま下層の宮殿エリアに突撃することが決まった。
「骨巨人兵がいなかったな……」
「敵が少ない?」
「気にするな。既定のエリアを制圧するぞ」
マキが暴れまわったこともあり、宮殿内部の敵はそこまで多くなかった。
ある程度のスペースがあった洞窟に比べ、通路という狭い場所での戦闘がメインになるので、退路を確保するためにもギルド単位で動くことになる。決められたエリアを巡回し、現れるモンスターを狩っていくのだ。大崩壊の最中は敵の出現速度がかなり多く、初期配置の敵が少ない事は討伐者たちにとって都合が良かった。移動速度も上昇する。
ウォルターとフリードは何をするわけでもなく、ただひたすらに走り続ける。何度か休憩を挟むものの、戦闘の少なさが足を速くする。
「なんでモンスターが少ないんだろうね?」
「さあ? いいんじゃないでしょうか。何か不都合があるわけでもないし」
道中、フリードは何かを悟ったように、ウォルターに向けて問いかけてくる。
マキの不在、討伐された後のモンスター。それを関連付けているのだ。
倒されたモンスターの体は素材となる。だが、それはダンジョンの外に出した物の話だ。ダンジョン内部に放置されたモンスターの死体などは、わりと短時間で消滅する。だから巨大ミミズの肉などを外に運ぶにはタイムリミットが存在するのだが、それはおおよそ1日程度。これはダンジョンのランクに関わらず、共通した事項だ。
そして宮殿内部には戦闘跡があり、砕かれた骨が散乱している。誰かが少し前に戦ったであろうことは明白。それがマキだと、フリードは確信している。
ウォルターはとぼけるが、何かを隠そうとしていることは明らかだった。元々隠し事には慣れていないから、上手く隠せないのだ。
そしてフリードは腐っても公爵家の人間。それを見逃すことは無い。
が、この場では言いくるめられたふりをして、今後の事を考える。
ダンジョンでモンスターを討伐する、しかも大崩壊で危なくなった場所を先行して、だ。それは別に責められることではない。
なのにそれをウォルターが隠す理由は“マキの戦闘方法”に起因すると見抜いている。顕現魔法の使い手という話なので、特殊な物か、この辺りでは珍しい魔封札を持っていると考えた。それが露見すれば、あまり大っぴらにしては自分の魔封札を取り上げられると思われている。そう推測したわけだ。
実際、珍しい魔封札や有用なものは騎士団が使うからと、一般の討伐者から取り上げる事がある。事例としては少ないのだが、旅を続けていれば他所の地方にあるダンジョンに出るモンスターを魔封札に落とし込んでいることがあり、そういった地方独特のモンスターを欲しがる人間は意外と多い。強硬手段を取る事は少ないが、付きまとわれたりするなど、不快な思いをするのは避けられない。
フリードはそう言った厄介事を避けるために2人がギルドに所属しないのだと、そのように考えた。
これは半分正解で半分間違いだが、そのことを訂正する人間はこの場にいない。フリードはそれを前提に2人を仲間に引き込む策を考える事にした。




