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大崩壊③

 マキは生み出されてからほとんどの時間をウォルターと一緒に過ごしてきた。


 そのことに不満を感じていたわけではない。自分で望んだことだ。

 そのことを止めたかったわけではない。止めてしまえば自分の望みが潰えてしまう。


 他にやりたいことがあったわけでもなく、たった一つの望みを叶えるために必要な行動を取って生きていた。

 必要だから他人に合わせ、必要だから守る事をして、必要だから自分を抑えていた。



 だが、今はその頸木から解き放たれている。

 この戦いは自分で望み、自分だけで行い、何の制約も制限も無い。

 この戦いが終わればまた元の日常に変えるが、そのことが嫌ではなくとも――


 ――今は、自由だ。


 誰の目があるわけでもなく、誰を導くわけでもなく、自分以外の誰かを気にしないのであれば、どんな戦い方でも構わない。

 チランを守るという一つの願いさえ忘れなければ、ここから先は全力を出していい。

 先ほどまでの戦いから今に至るまで、気兼ねなしに戦えるというのはマキにとって新鮮な事だった。





 中ボス相当の骨巨人兵(ボーンジャイアント)10体を軽く下し、魔素だまりまでの道中で雑魚をさらに薙ぎ払う。

 慌て苛立つ心はすでに平静を取り戻していたはずだが、今度は気分が高揚し、別の意味で冷静さを失っていた。



「たまにはこういうのも良いですわね」


 マキは死霊を破魔札で倒し、どこからか床に落ちた魔核を回収する。

 下層には意外とモンスターがおらず、その大多数が外に向けて移動したのだと推測できた。おかげで戦闘回数は少なく、探索に時間を多く割り当てることができる。

 ただ、マキはまだウォルターに下層へ挑戦させるつもりが無かったので、下層の地図を持っていない。建物に入ってからは階段を目指して走り回っていた。



 【コルテスカ地下宮殿】の下層は宮殿部分だ。内部は外縁部、庭園、宮殿地上1階、宮殿地下1階、宮殿地下2階という形で階層が別れている。下層5層目にあたる地下2階に魔素だまりがある。

 出て来るモンスターが地底湖エリアにあふれていたアンデットもどき。特に変化はない。

 外縁部は宮殿を守る外壁で、門は1ヵ所しかない。骨巨人兵が守っていた場所でもある。門をすぐに抜ける事もできるのだが、脇道に逸れれば無骨な石造りの防壁内部を探索できる。

 庭園は色鮮やかな花や綺麗に刈り込まれた木々があるはずの場所だが、手入れがされていないのでそれらはすべて荒れ放題。戦闘でダメになった部分もあるので、毛色の変わった森と思って大差ない。

 宮殿内部は地上は平屋で2階は無く、地下に向かって広がっている。普通の討伐者であれば1階層を探索しきるのに戦闘などをしないとしても1日は必要とされるほど、広い。



 マキはその無駄に広い宮殿部分で攻略につまり、時間を掛けながらも魔素だまりを目指す。途中、宮殿の床をぶち抜いて真っ直ぐ下に降りる事も検討されたが、残念ながらそれは出来なかった。何か所か大穴をあけ数m掘ってみたが、そういったズルは出来ないようになっているのだった。


 そして1日かけて魔素だまりに辿り着き、見た目で言えば何の変哲もない大部屋で死体の巨人兵(ネクロジャイアント)を焼き尽くすと、魔素を散らしてモンスターの外部流出を防ぐ。

 マキにしてみれば貴重な全力戦闘の機会が簡単な魔法であっさり終わってしまった事に多少の不満があったが、命のやり取りをしているのだ、やはり簡単に終わったことに対して不満を持つべきではないと自分を諌める。



 “大崩壊”は魔素だまりの魔素が濃くなりすぎた時に起きる現象だ。ダンジョンのモンスターが大量発生し、外へ向かってしまう

 しかし、こうやって魔素を散らしてしまえば何とかなる。出現してしまったモンスターが消えるわけではないが、異常発生は終わり、通常のダンジョンに戻る。魔素が消費されるのか、時間が経過しても平常に戻るのだが、その場合は魔素が消費されるまでの数日間、モンスターが大量発生し続ける。

 その場合、少なくない被害がチランに出るだろう。たとえモンスターによる人的被害が出ずとも、事態の解決まで大勢の討伐者を拘束することになるし、危険に対する手当などの支出も必要になる。経済的なピンチになるのだ。

 そういった未来はマキの望むところではないのだ。



 一仕事終えてホッと一息つくマキ。

 しかし、マキの頑張りが厄介な事態を招く。

 同じような考えの騎士団か討伐者ギルドの人間と思わしき者たちが魔素だまりを目指しているのだ。しかも相手は地図を持っているのだろう、まっすぐ、最短ルートでマキのいる魔素だまりを目指す。道中のモンスターはマキが殲滅しているので、その移動速度は速い。最悪な事に、彼らがいる場所から魔素だまりまではほぼ一本道だ。逃げる場所が無い。


「ここで人に見られるのは拙いですわね……」


 道中のモンスターを倒し、魔素だまりを散らしに来たわけだが、それを証明する手段は無い。しかも入り口を通るときに受付で手続きをしていない、不正な方法でダンジョンに入っている。下手をすれば今回の大崩壊を仕掛けた下手人として連行される恐れがあった。だからと言って殺すのは本末転倒であり、最後の手段だ。そういった考えをマキはしたくなかった。

 変装しているから大丈夫とは言い切れないし、戦闘があるかもと警戒している連中に≪魔法化≫によるすり抜けを試みるのは危険度が高い。余計なリスクを背負うべき場面ではなかった。


 マキは思案すると、急いで床石を引きはがし、かなり深い穴を掘り、その中に身を隠す。階層を無視した移動はできないのだが、穴を掘る事自体は出来るのだ。

 床石を元に戻して気配を絶ったマキは、息を潜め魔力を抑えて隠れながら様子をうかがう。そうやって討伐者たちが帰るのを待つことになった。



 だが、予想に反してやってきたのは討伐者ではなかった。

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