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ウーツ出身の討伐者たち

 シュバルツは脳筋と言われるタイプの人間であるが、周囲の人間の言葉を無視するわけではない。短気だったり、あまり考えて行動しなかったり、たまに感情任せに動いてしまう程度だ。信頼できる人間の言葉であれば無碍にしないし、言われれば考えて動くこともする。


 そして彼は、ウォルターをギルドに引き入れたいと考えていた時期があった。と言っても、仲間の反対にあって誘う事すら実現することは無かったのだが。

 シュバルツは強い人間とそうでない人間を見分ける嗅覚の様なものを持っていて、当時10歳なのに独りで生きているウォルターを正当に評価し、その将来性を見出した。仲間にすれば、きっと役に立つ。その判断は間違いではなかった。

 だが左腕を無くしていたウォルターの扱いの悪さ、ウーツの町における彼の立ち位置が仲間には無視できない事だと言われ、仕方なしに諦めた。勿体無いとは思ったが、あまり頭が良くない自分のわがままを通さないだけの分別が彼にはあった


 そんな理由もあり、ウォルターを覚えていたシュバルツ。記憶にある姿よりも成長していて、肉付きも良くなっているが、見間違えたりはしない。意外とそういうところで勘が働くというか、

 当然、問題となった左腕の付け根に注目したのだが……なぜか、左腕が生えていた。思わず目を見開き、失われているはずの左腕を凝視する。ウォルターはコップを左手で持っていて、手袋の類を付けていないので、生身の左手がそこにある。


 シュバルツは混乱した。

 左手が無かったはずだろ? なんであるんだ?

 というより、ウーツにいたはずの腕無し(ウォルター)がなんでこんな所に?

 そもそも、ランク4ダンジョンに挑戦していたっていう事は、自分たちと同等かそれ以上の強さを持っているという事なのか?


 考えた所で答えが出るはずも無く、どうやって聞けばいいのかもわからず、口をパクパクさせるシュバルツ。

 ウォルターの方は、見られていることは分かるが、なぜ見られているのか分からない。全く関わりの無かった相手だ。【瑠璃色の剣】の名前を思い出すわけでもなく、何も言われないので視線は無視することにする。


 その横で取り決めを終えた3人の商談が終わり、その場はお開きとなった。





 マキにお礼を言い、商談を取りまとめたシュバルツら。

 その帰り道、シュバルツはリッツァにウォルターの事を相談することにした。


「なぁ、俺の思い過ごしってわけでもねぇんだが。ちぃっと聞きたいことがある」

「? 何でしょう」

「人間の腕って、取れても生えてくるもんなのか?」

「何を馬鹿な事を。そんな事、あるはずがないでしょう。帝都にあるという上級の回復札でも、そんなことは出来ないはずですよ。というより、一体何なんです、その質問は。いったいどこからそんな事を聞く気になったんですか?」


 「腕が生えてくるのか?」という質問に、ありえないと返すリッツァ。

 彼の記憶にある中で、回復手段とはほとんどが自然回復を促進する薬だ。例外的に回復札という顕現魔法の応用で作られたものが存在するが、聞いた限りでは怪我を塞いだりするのが精一杯で、切れたりして無くなった腕を生やす効果のあるほど強力とは聞いていない。


「いやなに、あの場に子供が一人いただろう? そいつ、ウーツにいた腕の無い子供だったんだが、今日見たら腕があったんでな。生えてきたのかってぇ思ったわけだ」

「ウーツにいた頃の……ああ、そんな子供もいましたね。見間違いではないですか?」

「俺が間違えるわけねぇだろうが!」

「いや、でも、しかし……。もしそれが本当なら、帝国が動くほどの事件ですよ? どうやって生やしたのか、その解明に乗り出すほどの」


 リッツァはシュバルツという人間をよく知っている。何年にもなる付き合いだ。嘘を言う人間ではないし、本人が申告する通り、人を見間違えるような間抜けではない。本人がそうだというなら彼の記憶の通りであるはずだ。

 だが、人間の腕が生えてくるなどと言う話は信じられるものではなく、見間違いだとリッツァの常識が強固に反対する。

 そして、リッツァは最近聞いた話でその常識を覆すようなことを、1つ思い出した。


「……ローラ様の件は覚えていますか」

「あー。確か、攫われて、運よく助けられたって話か?」

「ええ。ご本人の報告の中で、一つ気になる話があったんですよ。ローラ様は、攫われた後、奴隷に(おと)された、と」

「奴隷に? あぁ、そりゃあおかしい話じゃねえか。廊下で見たことがあるが、奴隷の刺青なんてされていなかったぜ。綺麗な顔してたじゃねぇか」

「そうなんですよ。ただ、ご本人は確かに奴隷の刺青を施されたとおっしゃっています。

 そして、ローラ様を助けたというのが、あのマキさんの隣にいた少年という訳です」

「クーラの野郎が言ってたな。あの嬢ちゃんらは“訳あり”って」

「ええ。その“訳”がウォルター少年の腕や、ローラ様の消えた刺青に関係しているかもしれない。

 勿論勘違いかもしれませんが、あながち間違った話でも無いでしょう」


 リッツァが思い出したのは、ローラの話。

 【瑠璃色の剣】がこちらに来たばかりの頃、攫われたローラ。大事件であり、当然誰もが知っている。その後、無事に助けられたという事も含めて。

 ローラの報告のうち、刺青の件は本人の勘違いと言われている。刺青を彫られるというのがどういうものかも知らない――と言うか、普通は知らない人間ばかりなのだが――ローラだから、ペイントか何かで勘違いしたのではないかと思われたのだ。一時的にせよ奴隷に落せば持ち運びがしやすくなるとか、そのような理由で。刺青を彫るのは大変な事なので、そうやって誤魔化したのだと聞いた人間は判断した。



 だが、人間の腕が生えてくるといったとんでもない話を聞き、それらを繋ぐ人物がいるとなると、一気に信憑性が増す。


 この二つは偶然なのか?


 そんな疑問がリッツァの中に湧き上がる。

 一つ一つを聞いたのであれば、どちらも与太話だと切って捨てる、そんな話。

 だが一度連想してしまった事で、思考が一気に回転しだす。


「メルクリウス様に、報告するべきですね」

「……ま、恩人様相手だ。下手な事はしねぇか」


 とはいえ、一介の討伐者に何ができるという訳でもないし、如何こう出来るほど軽い案件でもない。

 一先ずは上司に報告するにとどめ、その指示を仰ぐべきだと2人は判断した。

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