発覚
クーラを見送った後、マキとウォルターは宿から出て、ダンジョンに向かう事にした。
しかし、宿の店員から再び来客があると告げられた。
「千客万来ですわね。いったい誰ですの?」
「【瑠璃色の剣】という、討伐者ギルドの方です。なにか、お礼を言いたいと?」
「……クーラ、使えない子」
【瑠璃色の剣】の名前は、先ほどまでいたクーラから聞いていた。マキが助けた男たちの所属し、メルクリウスが擁する討伐者ギルドだ。
クーラが来たのは代表として、マキたちに配慮したからだ。クーラはマキかウォルターが訳アリで大勢と関わる事を好まないと思ったから自分一人でいいと周囲に説明し、単独で会いに来たのだ。
ローラの時の、アイガンの町でもそうだが、他人に感謝されるべき場面で名乗りをあげず、感謝もいらないと振る舞う様は、クーラから見て訳アリとしか思えない。本気で隠れているのであれば少々雑に見えるが、あまり目立ちたくない程度の行動から言えば、何かちょっとした隠し事があるだけだろうとクーラは推測している。
そしてマキたちと敵対したくないので一定の配慮をしたのだが。
そんな事情だろうからと言われて大人しくしているほど、ギルドのリーダー、シュバルツは出来た人間ではなかった。感情の声に従い、助けられた本人やギルドの代表である自分が直接礼を言うべきだと思って動いたのだ。
ギルドの主要メンバーと助けられた2人を連れての来訪である。
メンバーが多いのはそれだけ感謝をしていると伝える他に、ダンジョン内で助け合えそうな知己を増やすためだ。ダンジョン内では討伐者同士が争う事も少なくないが、助け合うことだってある。そして今回の人助けの様子からマキを「助け合える相手」として正式にギルドの中で情報共有するべきだと主要メンバーの一人、リッツァが主張したからでもある。狩り場がかち合う相手と顔を合わせておけば不要ないざこざも減るだろうし、何より相手が少人数なのだ、倒したはいいが素材の剥ぎ取りも魔核のみというのだし、肉をダンジョン内で購入することもできるようになるかもしれない。討伐者としてはどうかという考え方だが、同志を増やすのは互いにメリットがある。メルクリウスの意向を考えるとプライドより優先すべきだとリッツァは判断したのだった。
宿の来賓室でマキたちとシュバルツらは顔を合わせる事になる。
マキたちは水差しの水をグラスに注ぎ、椅子に座った状態で客を待つ。そこに現れたのは筋肉質の巨漢、シュバルツに率いられたご一行。ギルドリーダー、知恵袋、会計、荷運び人夫2人の5人だ。椅子に座って待っていたことに対し反応するほど礼儀に拘る人間はこの場に居らず、シュバルツの方も相手に窺うことなく腰を下ろす。残り4人は立ったままだ。
「俺は【瑠璃色の剣】のギルドリーダー、シュバルツだ。ウチの人間が世話になったみてぇだな。あんがとよ。ホレ、テメェらも」
「「ありがとうございました!!」」
どこかのチンピラかと言いたくなる言葉遣いに、マキは礼儀というものを叩き込みたくなる衝動にかられた。が、この手の手合いに何を言っても無駄だし、この場限りの関係であれば気にしないのが一番だと呆れを押し込める。
チラリとリッツァの方を見れば、困ったことをしてくれたという表情。ドライゼの方も苦虫を噛み潰したようであり、彼らの苦労が忍ばれる。
バーボンドとゴルンの方は深く頭を下げて礼を言う。
2人は助けてくれた相手がマキだと、直接顔を合わせて確信した。パニックになったところを止めてもらい、水の施しを受け、帰り道を教えてもらった。ダンジョン内では水が貴重品という事もあり、そのこともあって2人は本気で感謝していた。
2人はまだ若く、ダンジョンの経験が浅い。チランで雇われた彼らは、あの時は後方から奇襲を受けて命の危険を感じパニックになってしまったのだ。後方警戒は非常に難しく、後ろを気にしていた戦士の反応が遅かったのだ。地中からの奇襲があるとは聞いていても、覚悟ができていなかった。初めて死にそうになったという事もあり、冷静さを保てなかったのだった。
一つ間違えれば死んでいたかもしれない恐怖と、そこから助けてくれた女性。2人の感謝は本物だった。
そしてウォルターは完全に蚊帳の外であり、水をチビチビと飲んで「先に戻っていればよかったなー」などと上の空である。ギルド側のメンバーもウォルターに意識を向けていない。
そして、その感謝をマキがとぼけて誤魔化し、シュバルツの方も「礼を言うだけ言ってすっきりした」という態度で誤魔化しをスルーし、話はマキとリッツァとドライゼによる協力体制の話し合いへと移る。
「成程……巨大ミミズ1体でそれだけのお肉を。この街、やけに肉を扱う店が多いと思いましたが、そういうカラクリでしたのね」
「はい。食料の安定供給は犯罪発生率の低下に結び付きますから。メルクリウス様も特に力を入れている分野なのですよ」
「では、買い取り金額はこれぐらいですわね」
「……その程度でいいのですか? 正直、6割は要求されると思ったのですが」
「人件費を考えたらそれぐらいで妥当ですわ。“互いに利益のある提案”ですわよね? もともとその場に放置するしかありませんもの。捨て値で構いませんわ」
「ありがとうございます」
商談は3人だけで完結している。
こうなると、今度はシュバルツが暇を持て余すようになった。彼は暇をつぶすために、後ろに立つ新人2人よりも目の前のウォルターに意識は向けた。
シュバルツは何か言おうとして――目を見開き、言葉を失った。
シュバルツは、ウォルターの事を覚えていた。
左腕が無かった、そのことも含めて。




