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失策

「うわぁぁ~~!!」

「もう駄目だぁ~~!!」


 そうやってマキが周辺のモンスターを間引きしていると、どこか遠くから声が聞こえた。

 洞窟内は音がよく反響するので、わりと大きな音を立てればかなり広範囲に響き渡る。どこから聞こえてくるかもわからず、声は聞こえるもののマキの索敵範囲外。一瞬、マキはどうするか迷った。

 方向の特定そのものは簡単である。ウォルターから離れるように、地図に記載されているエリアを目指して進めばよい。人が来るとしたらそちらからしか有り得ないので、考えるまでも無い。


 気にしたのは、合流した後の話である。

 一般的に、討伐者というのはチーム内で完結することが望まれる。ダンジョン内部では討伐者同士で争う事もあるので、当然の話だ。また、ダンジョンというのは管理されてから攻略手順が確立されていくことが多く、助け合わなくともリスクをコントロールできるというのも大きい。やり方が分かっているのだから、失敗するのは頭が足りない、ダンジョンに挑戦するに値しない程度の馬鹿だけという考え方である。


 ではそんな愚かな討伐者を救うメリットは?

 それはもう、マキの自己満足以外にありえない。仲間を失い、物資も持たず、生き残るのに必死なだけの連中など、助けた所でマイナスしか存在せず、プラスになる事などほぼ無いと言っていい。ウォルターの訓練の事もあるし、「助けて、ハイさよなら」とはいかないであろうことも、助けたくない理由の一つだ。


 入り口付近の上層1層目であっても、死ぬときは死ぬのだ。甘く見た方が悪い。

 マキは見捨てようと考え、ふとウォルターの事を思い出した。

 アルヴィース(マスター)を損得勘定抜きで助け、これからも人助けをするであろう自分の弟子を。


「……見つからなければいいのですわ」


 マキは自分に言い訳をすると、声のする方に向かって駆け出した。



「ひぃ、ひぃ。た、助け……」

「なんで、なんでこんなことに……」


 マキが駆け付けた先では、2人の男が息も絶え絶えに足を動かしている。見た所に運びの人夫なのだろう。武器防具の類は身に着けておらず、洞窟の寒さ対策に厚手の服を着ている。

 マキが男たちの所に駆け付けるまでに3分ほど経過しており、男たちの声はすでにか細い。呼吸するのも辛そうで、滝のような汗を流しながらも必死に逃げて生き残ろうとしている。

 ただ、マキが拍子抜けしてしまう事に、モンスターに追われているとかではなかった。もちろん人に追われているわけでもない。索敵範囲にいる人やモンスターは誰も男たちを追っておらず、モンスターに襲われても何とか逃げ延び、道に迷っただけのようだ。今は逃げなければという強迫観念から足を動かしている状態であり、正常な判断ができていないだけであった。


 マキはどうするか、再び迷った。

 周囲には他に人のグループがいる。多少離れてはいるものの、おそらく彼らが仲間なのだろう。気配の状態からモンスターと戦っているようだとマキは判断した。

 そこまでこの男たちを連れて歩けば、ウォルターを長時間放置することになる。命の危険が直近に無い以上、救出の優先順位はずいぶん低く見積もっていい。ついでに自分の姿を見せずに助けるのが難しいというのもあり、助けようという気持ちはずいぶん小さくなっている。だがせっかくここまで来たのだ、このまま放置するのも躊躇われた。



 結局、マキは助けるように動くことにする。

 マキの身体は全身魔力で出来ている。服も例外ではなく、なんとなくマキは男装し、革鎧に長剣と、いかにも軽装の剣士といった風を装ってみる。とりあえず人間の姿であれば討伐者でもない彼らはそこまで警戒しないだろうし、したとしても一言仲間のいる方角を教えればいいと楽観視する。


 マキは男たちの前に姿を現し、声をかける。


「そこまでです……だ。この先は危険」


 マキは思わず素で喋りそうになるのを抑える。

 慣れない口調に変な喋り方になるが、一度始めてしまったのだ。もうそれでいくことにする。


「地図の範囲外。戻るならあっち」


 2人に対して端的に情報を伝える。

 男たちはというと、突然現れた謎の剣士に戸惑い、足を止めた。そしてそのまま倒れるように座り込む。体力の限界から立ち続ける事もできずに、マキの方を見ようともしない。息を整えるだけで精一杯のようだ。


 マキはもうどうでもいいといった風に男たちに見切りをつけ「せめてこれぐらいはしませんと」と、水袋を取り出し2人に渡す。


「水だ」

「お、おっふ。あ……りやと」

「たひゅ……」


 差し出された水を、貪るように飲む2人。

 「もういいですわよね?」とマキは踵を返す。


「戻るなら、向こう。戦う音がする」


 最後に、念のためにもと来た道を引き返すように2人に警告をする。

 今度は2人とも聞き取れたようで、声に出して返事はしないがこくこくと首を縦に振る。

 それを確認したマキは2人の前から姿を消した。





 残された男2人は、先ほど自分たちに水を恵んでくれた謎の剣士にとても感謝していた。

 恐怖で暴走していたところを止めてくれた事もあり、帰ったら礼の一つでも言おうと2人で誓う。


 10分15分としばらく休憩すれば、喋る程度の元気は戻ってくる。本当は眠ってしまいたかったが、それをすれば今度こそ命が無い。モンスターに襲われることもそうだが、汗で濡れたまま眠れば体温の低下を招き、余計に体力を消耗して動く事すら出来なくなる。

 だからある程度回復すれば疲れた体に鞭打って立ち上がり、仲間の所へ向けて歩き出した。


 男たちの名はバーボンドとゴルン。

 討伐者ギルド【瑠璃色の剣】の荷運び人夫だ。

 彼らは仲間との合流を果たし、仲間と共に地上へ帰還する。

 助けてくれた人がいたと仲間に語り、魔核買取所やダンジョン入口で謎の()剣士を探し回る事になる。

 ダンジョンの出入りは管理されているため、ほどなくして「マキ」というメイドがその剣士の正体であることが発覚する。メイド服姿と剣士装備に差異はある物の、容姿から彼女しかないと判別されたのだ。

 マキが特定されるまで、約10日。

 それが一つの転機となる。

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