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ガルフの思惑と軍勢顕現

「えっと……。どういうこと?」

「相手の目的が、ワタシ達ではなく、ワタシ達の技術か持ち物だったという事ですわ」


 移民局を出て、宿屋に踊ったウォルターとマキ。

 ガルフの目的を推測しようと、2人は額を突き合わせて話し合っていた。


「ええ。ギルドに入れるのが嫌だけど、どうやってワタシ達がモンスターを狩っているのかを知りたい。賦役の範囲であれば、合法的に知ることができますわ。あまり手を明かしたくはありませんが、こうなってはほんの少し、情報を開示する必要がありますわね」

「うーん? チランを離れればいいんじゃないの?」

「その場合は『逃げる理由がある』と相手に思われますわ。事実、逃げたいのですけどね。「家は欲しいけど買えない」などと言った弊害ですわ。こんな形で退路を塞がれるとは思いませんでしたわよ……」

「じゃあさ、そもそも受け取らないっていうのは?」

「受け取らない理由が必要ですわ。遠慮が通じる相手ではありませんし、下手な理由を付けて受け取りを拒否しようものなら「ローラ嬢の価値を低く見ている」ことを理由に、貴族に対する侮辱罪が適用されますわね」

「え? それってこじつけじゃないの?」

「貴族との会話なんてそんなものですわ。それに、公爵家からローラ嬢の救出に対する報酬を、今まで受け取っていませんからね」

「あれ? この間、マキが金貨10枚も貰ったって言ってなかったっけ?」

「あれは「貸したお金を返してもらった」のと、その利子でもありますわ。そしてそのお金を支払ったのはローラ嬢ご本人。「公爵家」から謝礼をもらったわけではありませんわ。別枠ですのよ」

「ええー」


 貴族との会話は、言葉遊びに曲解や拡大解釈、意図的に間違った解釈を多用して、抜け穴があれば確実に突くような言いがかりを付けることがある。

 ウォルターはその難解さを説明されるが半分も理解できず、すぐに降参した。

 とりあえず思いつく限りの対策をウォルターは口にするが、その考えはことごとく叩き斬られた。ウォルターやマキが思いつく範囲は、全てどうにかする算段を付けなければいけなかった。



 結論としては「公爵家の要望に応え、情報を開示する必要がある」となり、どこまで情報を開示するか、それが焦点となる。


 魔法を教えるのは論外だ。

 魔法というのは、扱いが危うい。例えばだが、街中で武器を抜くのは違法である。誰かを傷つけたとか被害の有無にかかわらず、罰金が科せられる。そして魔法とは、覚えてしまえば常に抜身の武器を携行しているのと同じであり、取り上げることができない危険物でもある。広めた場合、防犯・警備などの体制が整うまでどれだけの被害が出るか予想しきれない。かつてアルヴィースがウォルターに隠すよう言い含めたのもそれが理由だ。

 顕現魔法であれば封魔札を取り上げれば済むので、生身一つで使える異世界魔法とは扱いが違う。今の世界は今のバランスで綺麗に調和が取れているのであった。


 では≪精霊化≫はどうだ?

 こちらも、論外である。そもそも≪精霊化≫は精霊魔法を前提としているので、これを教える事は精霊魔法を教えるのと同じだからだ。


 つまり、ウォルターが今まで教わってきた内容は開示できない情報となる。



 では、どうするか?


 新しい技術を教えればいい。そしてその情報を開示する。

 マキはそう結論付けた。


「今から覚えるの? さすがにそれは……」

「覚えようとしている最中とでも言えばいいですわよ。どうせいつか教えるのですし、それが早まっただけですわ」


 ウォルターは≪精霊化≫の応用編を練習し始めたばかりだ。乗り気ではない。

 だがマキはウォルターの不満も何のその、どうせいつかやる事だからと気にしない。


「うー。じゃあ、どんなことをするの? 今回の件ってさ、巨大ミミズの件が発端でしょ。あれをどうにかするような顕現魔法を今から覚えるの?」


 不満を覚えていても結局はやらされると思い、ウォルターは話の続きを促す。


「新しい技術(スキル)、それは『軍勢顕現(レギオンコール)』ですわ」


 マキは平らな胸を張り、言い切った。





「今日はもうダンジョンには行きませんもの。今この場で簡単に説明しますわ」


 そう言ってマキは一冊の本を取りだした。


「普通の顕現魔法を使うのに使うのは『封魔札(カード)』ですわ。ですが、『軍勢顕現(レギオンコール)』には、この『封魔本(ブック)』を使いますわ」


 マキはそう言って、取りだした本を開いてページをめくる。


 取りだされた本はおおよそ40㎝×50㎝程度の大きさで、厚さは50ページ程度。使われている紙が分厚いのか、本はそれでも肉厚である。


 白い表紙には『鼠の書』とだけ書かれており、開いたページには封魔札と同じような図柄が描かれている。一見すると、封魔札を大きくして製本しただけに見えるのだが。


「……一部図式の省略と、見慣れない記述がたくさん。使われている魔法陣は封魔札と同じだよね。魔法陣が顕現するモンスターを表しているんだっけ? 呼び出されたモンスターの制御方法……じゃない、呼び出すモンスターの条件付け? が変更されている訳かぁ」


 封魔札の書式については、ウォルターもある程度教わってきた。

 が、そのウォルターの知識には全くない図形などで封魔本は作られていた。


「これ一冊で、100を超える巨大鼠を呼びだせますわ。必要魔力は半分以下、3割から4割程度ですわね。制御そのものはこれでずいぶん楽になりますわよ。

 巨大鼠しか呼べないと分かってしまえば、力不足を指摘されますけど、何か言われてもより上位の書を見せるわけにはいかないと、そこから先は適当にごまかしますわよ」


 これも危険な技術だと、安易に情報を口にしないようにマキは注意を喚起する。

 そしてウォルターに『鼠の書』を渡した。


「明日からは軍勢顕現の練習ですわよ!」

「はい!!」


 こうしてウォルターは新しい技術二つを並行して学ぶことになった。

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