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プレゼントは家

「君がウォルターで、そっちのメイドちゃんがマキでいいんだよね? ああ、うん。返事なんてしなくていいよ、調べてあるから。口に出して確認してみただけだし。

 で、名乗らないと分からないだろうから名乗るけどさ、僕の名前はガルフ=ルーニア=エアベルク。公爵家の次男坊さ。隣にいるのが妹のローザ。まあ、覚えておくといいよ。覚えなくても構わないけど。

 でね、でね。君たちに一言お礼を言うのと、ちょっとしたプレゼントを持ってきたんだ。腹違いとはいえ、うちの妹を助けてくれたことに感謝してるのさ。うん、妹が世話になったね。ありがとう、ウォルター君。で、プレゼントの方だけど、昨日、君たちの話を魔核買取所から聞いたらね、家が欲しいけどお金が無いって言うじゃないか。だから僕らで君たち二人の欲しい家をプレゼントすることにしたんだ。どの家が欲しいかは聞いていないし、確認する気も無い。欲しい家を指定したら、その代金が僕らのギルドから支払われるように手続しておいたのさ。そっちの方が効率的だろう?

 念願の家が手に入るんだ。嬉しいだろう? 嬉しいよね?

 そうそう、家を持ったのだし、これで君たち二人もチランの民になったんだ。節度ある、チランの民にふさわしい振る舞いをしてくれたまえ。細かい事は行政府移民局の者に聞くといいさ。

 ああ、勿論君たち二人を僕らのギルドのいずれかに誘おうなんて考えていないから安心してよ。この件で恩に着せようなんて考えていないからさ。お礼で渡したプレゼントで恩に着せるなんて非常識な真似はしないさ。そんなことは貴族として恥ずべき行為だからね。

 ああ、そうだ。もう一つプレゼントを追加しよう。もし他の兄弟から誘われたら、僕らの名前を使って断っていい。使い方は自由さ。そうだね、「ガルフ様より、公爵家のギルドに参加するなと言われています」って言えばいいさ。もし参加したくなったら僕が前言を翻したことにしていい。そこら辺は自由さ。

 じゃあ僕はもう行くよ。貴族として、忙しい身なのでね。

 これからの、君たちの活躍に期待するよ。じゃあね」


 赤毛の男ガルフは捲くし立てるように喋ると、馬車に乗って去っていった。

 ウォルターとマキは、何が起こったのか分からず、ただ茫然としていた。





 時は少し遡る。

 朝日が昇ると同時に起きた二人は身支度をすると宿で用意された朝食を摂り、ダンジョンに向かって歩き出した。

 すると【コルテスカ地下宮殿】の入り口付近に豪奢な馬車が鎮座しており、入場手続きをする受付に一組の男女が手続きをする様子も無く、ウォルターらを見ていた。

 男は身長は高めの180㎝強、筋肉質な大男で、燃えるような赤い髪が印象的な、整った顔立ちの青年だ。高級な服を着ているので、貴族の子供であることが見ただけで分かる。

 隣にいる女性の方は身長170㎝と女性にしては高めで、腕や脚は衣服で隠されているので分からない。男と同じく赤い髪をしており、着ているドレスも含めて血縁であることを匂わせていた。

 2人の表情の方は対照的で、男の方はにこやかだが女の方は面白くなさそうな、憮然とした顔をしている。

 ただ、2人とも目は同じような感情を宿している。人を見下す、嫌な目つきだ。悪意をぶつけられることに慣れたウォルターは勿論、マキの方も視線に宿る感情を理解している。


 何か疚しいことがあるわけでもない、2人は堂々と受付に向かい、入場手続きを行おうとした。そこで男に掴まった。

 そして一方的に捲くし立てられ、ウォルターやマキが何か言う前に2人とも去って行ったのだ。

 言葉はそこまで悪くないが、あまりにも一方的な言動にウォルターらは絶句している。状況を飲み込めずに、何をどうすればいいか分からないのだ。



 どれだけの時間固まっていたのだろうか。

 他の討伐者らが来たことで、ようやく2人は動き出した。


「予定変更ですわ。移民局まで行って、状況を確認しますわよ」

「うん……。いったいどういう事だろうね?」

「分かりませんわ。相手の行動でワタシ達にどのような影響があるのかすら予測できませんわ。後手に回りましたが、手遅れになる前に状況を確認するしかありませんわね」


 2人は踵を返し、ダンジョン入口を後にした。



 そうしてやってきたのは、魔核買取所内にある移民局。

 討伐者が移民申請をするのに一々街中を走り回らせるのは非効率なので、討伐者が使いそうな施設類はダンジョンごとにある魔核買取所内とその近辺に集中している。逆に行政府の職員を基準に見ると非効率に見えるかもしれないが、討伐者には他職とは違ったルールが適当されるので、独立させた方が効率は良かったりする。ちなみに、大雑把な括りとして「貴族」「討伐者」「商人」「その他」と設定されている。「その他」に入るのは職人や知識人、そして奴隷だ。


 移民局に来る人間などほとんどいないので、受付担当者の女性職員は暇そうに本を読んでいた。だが、ウォルターらが近づいてくるのに気が付いて本を閉じ、営業スマイルを浮かべ、仕事をしだした。


「ウォルター様、マキ様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「家の件ですわ。話は聞いていますわよね?」


 マキは不機嫌さを隠そうともせず、受付を睨んだ。

 受付嬢はマキの視線にたじろぐが、実害は無いのだと自分に言い聞かせて応答する。


「はい。ガルフ様より、指定された家をお渡しするように申し付けられています。

 また、家の購入に当たり発生する納税の義務について説明するようにも言われております。

 お時間が宜しければ、今からでも説明します。如何なさいましょうか?」

「そう、ですわね。頼みますわ」


 ややぎこちない笑顔を浮かべ、受付嬢は職務を果たそうとしている。

 受付嬢に八つ当たりするのは良くないと、マキは矛を収めた。受付嬢に今後の事を考えるための説明をするように促す。


「はい、では説明させていただきます」


 そうして受付嬢は家の購入後に発生する、チラン都民の義務について語りだした。



 まず、発生するのは購入した家屋の金額に見合った固定資産税だ。良い家を購入すればそれ相応の金額を毎年払わねばいけなくなる。払えない場合は半年まで滞納できるが、それ以上払えない場合は家屋の取り上げとなる。

 次に、人頭税。成人している人間の数だけ、銀貨を払わねばならない。これは毎月である。これも半年分まで滞納できるが、払えない場合は奴隷落ちが待っている。

 最後に、賦役。職種に応じた仕事を指定されるというもの。これは一回限りだが、1年間は拘束される。仕事の内容は一般市民が外壁の補修の手伝いや、灌漑工事など。農民は開拓事業で、商人は例外的に物納で商品の供出を求められる。そして討伐者の場合は、当たり前のようにダンジョンでのモンスター討伐がほとんどだ。


「という訳で。まだ指定はされていませんが、何かあればご協力をお願いすることになります。恐らくですけど、御二人には潜ったことのあるダンジョンの中で最もランクの高いダンジョンで一定数のモンスター間引きをするように求められると思います。

 もしくはワンランク上のダンジョンで、そこを縄張りにする討伐者ギルドの方と合同攻略ですね」


 受付嬢の説明に、マキは「やられましたわ!」と内心で叫んだ。

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