でも、断る
公爵家というのは、皇帝に次ぐ名誉ある家柄だ。
公爵本人が頭を下げねばならない相手など、片手の指で事足りるほどに。
しかし目の前の二人は、それがなんなのだと言わんばかりにフリードの申し出を断った。
公爵になるかもしれない相手を前にして、ごくごく自然に自分の言葉で意思を示す。そんなウォルターらに、フリードはあまりの楽しさに笑顔を見せた。
身分を振りかざすことを、フリードは好まない。
言った事は何でも通るし、地位や名誉のある人間が平身低頭、まだ何者にも成っていない己に従う。
それはフリードという個性に一切価値を見出さず。ただその身に流れる公爵家の血に従っているだけでしかない。
それが悪い事とは、フリードは思っていない。その身に流れる血までが己であり、己の価値なのだから。
ただ、面白くないだけだ。
だからフリードは身分を隠してナンパをする。そこにあるのは公爵家とは関係ない、ただのフリードとしての魅力だけ。ナンパが成功するのも失敗するのも自身の魅力次第。それが楽しい。
だからフリードはダンジョンに一人で挑む。そこでは公爵家の名は何の意味をなさない。モンスターと戦うのも、殺すのも、すべて自分の中にある力だけだ。だから誰よりも一人で戦う事を選んできた。
そうやって頑張ってきて、ある程度以上の結果を出した。
ランク8ダンジョンで単独戦闘など、普通は絶対にやらない。チームで挑んでチームで勝つ。普通とはそういうものだ。
そして、たとえ天才のフリードでも、その普通には絶対に勝てない。チームで挑む普通の騎士団は、数と連携を武器にダンジョン攻略を成し遂げる。
しかし、フリードにはそれができない。単独挑戦者の、悲しい現実である。独りではダンジョン内で休憩することができないし、軽い怪我でも致命的だ。交代要員がいなければ継戦能力に欠けるし、荷運びだって楽じゃない。浅い所を回るだけで精一杯になってしまう。
今のフリードは「他の誰にもできないが、同じ結果どころかそれ以上を出来る者達がいる」ので「全体で見れば、たいして凄くない」状態だ。いや、ランク8ダンジョンに挑める人間と言うのはずいぶん限られるのだが。
それを理解できるようになってしまったが故にフリードは自分が納得できそうな人間を集め出したのだが、結果は芳しくない。
権力に媚びへつらう事をしない者、権力に魅力を感じていない者、公爵家の抱える騎士団のようにすでに身命を捧げる相手を持っている者、仲間にしてもあまり意味が無い者。
有能な者たちはフリードに従う意思を見せず、箸にも棒にも掛からぬ者しか見つからない。
フリードにはそういった、仲間を集める才能が無かった。
が、だからこそ公爵家の威光が届かない世界で頑張ることが楽しい。
ウォルターたちは、そんなフリードにとって魅力的な人材だった。
そんなフリードの思いなど知らないウォルターらは、目の前の人間が自分たちを諦めていない事を悟り、暗澹たる気分だった。
公爵家の名前で強制的に従わせる事こそしないが、それに近い状態でもある。公爵家の人間に逆らっているという風評が立ってしまえば、この公都チランで活動するのが難しくなる。
マキは国を出る事を視野に入れる。ウォルターもそれを選択肢として聞いていたから、せっかくできた縁、救世教会の2人を思い出して悲しそうにする。
「おいおい。僕は君らに何もしないし、むしろ助けになりたいと考えているんだけど? それに君らみたいな優秀な人間に無理難題を吹っ掛けるなんて、逆にこっちが悪者になっちゃうよ」
ウォルターらの想像する内容を察し、フリードは慌ててフォローに入る。
フリードにしてみれば彼ら2人は仲間になってほしいという相手であり、害する意思など一切ない。それに、優秀な討伐者というのは多ければ多いほど助かるのだ。チランにいてくれるだけでも利益になる。そんな彼らが出ていく理由を作ったなどと他の兄弟や公爵に知れたら、フリード自身の身が危うい。
ちなみに、ランク8ダンジョンの攻略は屈強な精鋭を揃えた騎士団でも命がけである。そして毎回必ず人的被害が発生し、多額の費用がかさむ。それを回避するため、実力ある討伐者を育てて率いる公爵が切望されるのだ。よって、戦力と言うのはあればあるだけ喜ばれる。騎士団のように維持費用を必要としない討伐者であればなおさらである。道中のモンスターを減らしてくれるだけでも助かるからだ。
仲間になってくれなくとも、チランで活躍してほしいのだった。
「ああ、うん。そうだな。仲間になって、僕の上司になってほしいというのが信じられないのかな? そこは信じて欲しいと言うしかないね。信頼関係も何もない今は難しいと思うけど。そうだ、報酬の話をしよう! 討伐で得た素材や魔核の売却費用に加え、固定収入として一人当たり月に金貨10枚を約束しよう! 今の僕でもそれぐらいのお金は動かせるんだよ! それに公爵家の人間に雇われているとなればチランだけじゃなくて他の土地でも色々と融通が利くよ! チランに留めようとか言うんじゃないし、他のダンジョンにも行ってみたくなるかもね! 知らない土地だと信用を得るのも難しいし、身分の補償としては最上級さ! 権力を使いたい放題とは言わないけど、何かと動きやすくなるんじゃないかな!?」
焦ったフリードは、「仲間になるメリット」を説明しだす。
金銭報酬、月に金貨10枚と言うのは一般家庭の年収に等しい額である。ランク8ダンジョンの魔核売却が最低でも金貨1枚であるが、人数割すれば30体分に相当する。これは破格と言っていい金額だ。
公爵家の人間に雇われた討伐者とは、討伐者としてかなりの実力者として保障されることと同義である。そうなればどこの街でも歓迎されるだろうし、何も言わなくてもいろいろと便宜を図ってくれると思われる。
普通に考えれば、断る理由など無い。
が、ウォルターらは秘密を隠したいというのが一番の理由だ。
よって発生するデメリットの方が無視できない。
「素晴らしいお話ですわね」
「でも、断る」
マキの方で褒めておきながら。
ウォルターの方できっちり断る。
フリードは泣きそうな顔になった。




