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嵐の後、リハビリ

 フリードとローラが去った後、しばらくの間、マキは動けずにいた。

 しかし一つの結論を導き出すことでマキは気分を落ち着けるのに成功する。


 すなわち、「なるようになる」だ。


 すでに事態が動き出しているものの、その最終的な分岐点に影響を及ぼすのはマキではなくウォルターであるはずだ。

 ならばウォルターが復帰するまで何も変わらないだろうし、ウォルターが決めたことに任せてしまえばいい。もちろん相談には乗るし、変な事になりそうであれば介入する。マキにとってはそれだけの話だった。



 来賓室から出たマキはウォルターの眠る部屋へと戻る。

 ウォルターはマキが出かける前に眠ったのだが、数時間経過した今もまだ眠り続けている。起きた様子は無さそうで、すぐに飲めるようにと傍らに置いておいたコップの水は減っていない。

 ただ、寝汗を掻いたのだろう。シーツをまくってみれば、着ている服が濡れていた。


「脱がせて、体を拭いて。お着替えですわね」


 先ほどまでの反動か、マキは嬉しそうにつぶやく。

 正直なところ、マキにとってウォルターの世話は楽しい事だった。人の世話をするという、メイドの本能がそうさせているのかもしれない。

 マキは笑顔でやるべきことをやっていた。





 ウォルターが回復するまでに、それから7日が必要だった。

 一週間が経過する頃にはウォルターもチランの水に慣れ、お腹を下すことも無くなった。

 しばらく眠り続けていたために体の調子が完全ではないが、軽く動き回るのに問題は無かった。


 「ダンジョンに向かうのはリハビリを終えてから」などと言わず、都合よくランク1のダンジョンがあったので、そこでリハビリを兼ねた金策に向かう事になった。

 もともとランク4のダンジョンに挑むのであれば事前にランク1のダンジョンを踏破しておく必要があり、そのためにも時間を無駄にするより効率がいいと、ダンジョン行きを決定する。

 なお、ランク5のダンジョンに挑むときもランク4のダンジョン踏破が条件になっており、そうやって実力を測るのがチランの流儀であった。

 あと、ランク4以上のダンジョンは入場料を取られ、それがダンジョンの壁を維持するための費用に充てられていたりする。



 ランク1や2のダンジョンというのは、ほぼ全てがフィールド型ダンジョンであり、広範囲をフォローする必要がある。よってダンジョンを囲う壁は街壁以外は木々を組んだだけの簡素な物であり、本気で防衛をするためのものではない。高さは2mと立派だが、所詮は木の柵。どちらかというと、不用意に人が入り込まないようにするのが目的だった。


 ランク1のダンジョンの名は【オズワルド平原】。

 オズワルド平原は木がまばらに生えてはいるものの、見渡しの良い平原である。

 モンスターが自生している事と魔素だまりがある以外は、特に変哲のないただの平原に見える。

 しかし生えている草の背が高く、出て来るモンスターが雑魚で有名な巨大鼠と草原蛇(グラスランドスネーク)で、全くの素人が行けば十分に危険な場所である。

 そして魔素だまりの方に近寄れば見えないボスが出現する。見えない追跡者インビジブルストーカーという、人間サイズの犬型モンスターである。その名の通り、見えないことが最大の特徴という厄介なモンスターで、素の戦闘能力は高くないものの、慣れないと攻撃を躱す事すら厄介なモンスターである。ちなみに、足場の草で現在位置を判別すれば場所だけはすぐに分かるのだが、最初の発見に手間取ることが多く、初撃で殺される討伐者がたまに出る。見晴らしの良さを逆に利用しているようである。



 ウォルターとマキはいつものようにダンジョンに入ろうとする。

 柵に囲われていない門の部分に足を運んだが、そこで2人は呼び止められた。


「ちょっとそこのお二人さん、そんな恰好でダンジョンに入ろうとしないで! いくらランク1のダンジョンと言っても危険な事には変わりないんだよ!」


 呼び止めたのはダンジョンの入場許可を受け持つ門番で、まだまだ若い男だった。

 ランク1のダンジョンという事で素人が甘い考えを抱いて殺される、というのはよく聞く話である。それを窓際でできる限り減らすのが彼の役割で、今回もその例に漏れない行動だった。

 ウォルターらは生地や仕立ては良くともごく普通の服とメイド服を着ているだけだし、武器の類も携帯していない。門番が止めたのは当然であった。


「ご心配していただきありがとうございます。ですが、何の心配もいりませんわ」


 門番に対しマキは微笑むと、即座に戦狼を10体ほど呼び出す。

 戦狼はランク1のモンスターであるが、10体もいればそれなりの戦力になる。戦いの基本は数なのだ。同じランク1であれば数の多い方が有利であり、これだけの数を出してまだ余裕があるなら大丈夫そうだと、門番は安心した。そしてウォルターの方も似たような奴なのだろうと門番はあたりを付ける。


「そっちの坊主も顕現魔法を使えるのか?」

「ええ。今は巨大鼠以外使わないように指示していますが、弱くはありませんわよ」

「よし、ならば通って良し!」


 実力があるなら通さない理由もない。門番はあっさり前言を翻し、通行許可を出す。

 ウォルターとマキは門をくぐり、ダンジョン内へと侵入する。


 二人は【オズワルド平原】に挑み、その日のうちに見えない追跡者を討伐することに成功する。

 ランク1ダンジョン程度ではウォルター1人でも余裕を持って対処できる状態で、≪精霊化≫の出番も無く戦いはあっさり終わる。ランク1ダンジョンだけに収入は大したことが無いが、リハビリという事でしばらく二人は通い詰める事に決めた。

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