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不信感

 ローラはウォルターが保護者からの協力を取り付けられなかったと頭を下げた。

 ローラには期待をさせ、希望を与え、それを最後に取り上げる形になった。その事を気にしているのだ。

 だが、ローラは微笑み、「構わない」とそれを許した。


「あの場で助けてもらった。ここまで連れてきてもらった。それだけで、もう十分さ。これまでの、ウォルターの助力に感謝を」


 両手を組み、膝をついて頭を下げるローラ。貴族が平民に対して行う感謝としては最上の行いだ。それがどういう意味を持つかは分からないが、ウォルターはローラが深く感謝している事だけは読み取り、だからこそ助けになりたいとより深く思う。


 ローラにしてみれば、ここから先も助力を願うための対価を持ち合わせていない。良心や善意に縋るとしても、助けてもらえるのが当然と考えるほどローラは状況を甘く考えていない。「貴族なのだから平民が助けるのは当然」といった思考をするのは簡単に破滅へのフラグを立てると理解もしている。

 だから、感謝することは会ってもこれ以上を要求しない。


 だけど。

 ウォルターは気が付いた。

 目の前の女性が小さく震えていることに。唇が青ざめるほど

 目の前の女性の目に、これから先への恐怖が宿っていることに。


 誰だって、好き好んで死にたいわけではない。

 誰だって、弱い自分のまま困難に立ち向かえるわけではない。

 独りは不安で、助けが欲しいのだ。


 だが、ローラは安易に助けを求めない。

 奴隷に落ちたとはいえ貴族の娘として育てられたのだ。意地の一つでも張ってみせるのが、誇りある公爵家の人間としての振る舞いであると自分を騙して。



 ローラの部屋から去った二人は、周囲に聞こえない程度の声でローラの事を話していた。


「刺青は消しましたけど……今後のフォローはやっぱり必要じゃないでしょうか?」


 ローラのために用意した宿屋には鏡などという貴重品は置いていない。よっていつ消えたかなど分からないだろうと、マキはローラの刺青を消していた。

 だが、それだけで本当にいいのかとウォルターは問う。


「直接助けるだけが能じゃありませんわよ。陰から助ければいいじゃありませんの」


 そんなウォルターにマキは「公爵家と縁ができなければいい」と、答えを教える。

 マキにしてみればここまで関わった事に関してはもう消せないが、ここから先の関係をああやって突き放すことで抹消したかった。それだけの話である。

 であれば、陰から助け、公爵家と縁を結ばない程度に助けるのは構わない。本当ならウォルターには自分でこのやり方を思いついてほしかったが、そこは経験不足を理由に不問とした。

 このことはローラ本人の前で言うことは出来なかったので、ここで答え合わせとなったという訳だ。


「じゃあ、助けていいんですね!」

「声が大きいですわよ。まぁ、バレないように助けなさいな。さしあたって、あの宿を監視する連中の排除から始めますわよ」


 問答無用でマキが早々に外へと出たがったのには、もう一つ理由があった。

 監視者の排除である。


 マキの周辺警戒能力はウォルターの比ではない。

 ウォルターのそれは巨大鼠による警戒網が無ければ一般人と比較して上という程度。その程度でしかない。

 だが、マキは話を聞き終えた段階で監視者の存在を予測し、発見できた。感知する能力が高い事もあるが、外にいた連中だけが敵の全てではないとすぐさま思い至ったからだ。ローラが本当に公爵令嬢であれば相応の監視体制で事に当たっているはずだし、町でもローラが戻ってくるかもしれないと警戒していただろうからだ。


(そういえば、どうやって逃げ出したか聞くのを忘れていましたわ)


 そんな警戒網の中、どうやって逃げ出したのか疑問に思うマキ。


(まあ、独り捕まえて聞き出せばいいですわよね? ついでにローラの言葉が本当か確認できますし)


 監視者は都合のいいことに、人目に付かない所に隠れながら宿を見張っている。

 マキは気配を殺して近付くと、魔法で意識を奪い、更に人目に付きにくい所に引きずり込んだ。


 監視者が1人という事もあり出番の無かったウォルターであるが、監視者を尋問するに至って与えられた役割は周辺警戒であった。尋問には参加させてもらえない。

 尋問がどのように行われるのかといえば、単純に魔法で解決という、身も蓋も無い力押しである。つまり、手間もかからず、ウォルターの助力など必要ない。


 そのかわり監視者を確保した場所を見張る必要があったので、そちらに回された。

 監視者と黒幕――いるかどうか分からないが――を繋ぐ連絡要員が来るかもしれないし、交代要員が来るかもしれない。そのタイミングが分からない以上、この場を去るまででいいから見ておく必要があったのだが。


(追い出された気分だよ……)


 この件に主として関わりたいウォルターにしてみれば肩透かしを食らった気分だ。

 ローラに出会いここまで連れてきたのはウォルターなので、ここに来て蚊帳の外というのは面白くない。

 言われている内容自体に問題は無いし、理解はできる。

 だが納得は出来なかった。



 あのままローラを見捨てたままのほうがマシだったかもしれない。

 それほどまでにウォルターの中でマキへの信頼が揺らいでいった。

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