表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/208

森の修行

 ウォルターには交渉の経験が無い。

 そして、交渉において何をするべきなのか、何をしなければいけないのか、何をしてはいけないのか、そういった事を何も知らない。

 そうなるとできる事は言われたことをやるぐらいしかない。

 マキはウォルターに対し何かやって欲しい事を思いつかなかったので自主練を言い渡し、人目に付かない場所――ダンジョンですらない町の外で顕現魔法の練習をさせる事にした。


「いいんですか?」

「何がです?」

「いえ、バグズさんの護衛は……」


 マキの指示に、ウォルターは首を傾げた。

 以前、バグズたちから離れる事を良しとしなかったのに、ここに来て方針を変えたからだ。


「クーラは前回の会食を見るに、こちらと積極的に交流を持とうとしていますわ。ここで下手な妨害を行い機嫌を損ねることなどしませんわよ」

「んー。んー? そう、ですね。分かりました」


 一応、マキにも考えがあったの事だ。

 クーラの友好的な面をアピールした会食はマキたちの取り込みを考えての事だとマキは看破している。マキたちを取り込もうとするなら、ここでバグズやミリィに手を出すのは悪手。ウォルターにはそのように説明する。

 もし手を出したなら逆に動きやすくなるのだが、そこまでは説明しない。可能性としては低いのであえてその可能性は無視した。


 ウォルターも自分なりに会食の時の事を思い出し、納得した。少なくとも態度は友好的で、腹に何を抱えているか分からずとも警戒しすぎる必要は無さそうだった。油断を誘っている可能性が頭をよぎったが、こちらも手札を全て見せたわけではなく、相手も迂闊な手は使わないと判断した。


「そうそう、監視が付いたら排除するのよ」

「……了解、です。」


 最後に、可能性が低いとは思ったがマキは監視を警戒させることにした。

 クーラはやらないだろうが、この町の討伐者ギルドなどがウォルターを監視するかもしれない。そう思っての事だ。

 ウォルターも不満を隠しきれないながらもそれを受け入れる。

 あまり人を相手にしたくないのだが、隠しておきたいものが多すぎた。精霊魔法などは異端であると知っているので、見せた場合の未来予想がどうしても腕が無かったころの過去とダブる。従わざるを得なかった。





 アイガンの街の北には森があり、東西を通る街道と南は平原となっている。北東から南西に向けて川が流れており、住人は農業用水と飲み水をそこから確保している。


 街道側、平原に行けば遠くから人に見られる恐れがある。

 かといって人目を避けようと森に行っても、森の奥にはダンジョンがある。そしてダンジョンに行く人が通る可能性が高い。

 となると、森でもダンジョンが関係ないと言えるところまで離れた場所まで移動することになる。念のために大きく移動しないといけない事もあり、移動だけで四半日必要となる。


 視界が良くなる水場を避けるように北西へと向かい、約2時間。念のために巨大鼠で後方を確認しながら移動した。

 道中だけで判断すれば、監視の類は無かった。いたのは野良になったモンスターだけで、これらは身体能力を強化した通常の巨大鼠だけで対処していった。精霊魔法や≪精霊化≫の出番も無く、順調に進む。一度だけダンジョン帰りの討伐者の集団を見つけたが、軽く頭を下げて言葉を交わすことなく別れていく。



「これぐらいでいいかな?」


 ダンジョンの入り口から1時間ほど余分に移動し、ウォルターは足を止めた。

 多少木々の少ない開けた場所を見つけ、そこを拠点とする。収納袋を目立たせないために用意した大きめの背嚢(はいのう)を下ろし、当たりを見渡す。

 木々が無い場所の広さは六畳一間程度とごくわずか。それでも日光を浴びて休憩できる場所と言うのはありがたい。ウォルターは封魔札を取り出し、巨大鼠12体を呼び出した。


 マキから出された課題は「一度に呼び出せる数を増やす事」だ。

 ウォルターは同時4体から6体程度を基本に運用しているが、≪精霊化≫込みでは3体が実用レベルの上限となる。

 顕現魔法による呼び出しは魔力に負荷をうけ、魔法が使いにくくなる弊害があった。これまでは魔法を併用した戦闘を行わなずに済んだので問題なかったが、魔法を使いながらとなると多くを呼び出すことができなくなる。魔法になれてしまえばその上限も増えていくのかもしれない。

 そういう訳で、通常よりも負荷をかけるべく倍の12体を呼び出し、周囲に散らす。野良モンスターが居ればそれを狩って小銭稼ぎという訳だ。


 ウォルターは目を閉じ、巨大鼠達に意識を集中する。

 すると現在どこに巨大鼠がいるのかなんとなく分かるようになり、同時にその状態も把握できるようになる。例えば遠くに行っている1体が交戦状態になっただとか、まだ探索中だとか、そういった情報が一気に頭の中に流れ込んでくる。1体だけにターゲットを絞れば視界情報なども得られるのだが、今回それをするには余裕が無いのでそこまではしない。

 普段よりも数が多い事で情報を飲み込むまでに時間がかかり、指示が遅れがちになるウォルター。それでも歯を食いしばり、戦闘中の巨大鼠をターゲットに≪身体強化≫の魔法をかけていく。

 呼び出した巨大鼠は自分の身体と同じ扱いとなり、距離などに囚われない支援が可能である。普通に使うよりも難易度は高くなるがそれもまた修行。魔法の処理により、より一層頭に負荷がかかるのを耐え、感覚を掴もうとする。

 顕現魔法と精霊魔法、この二つを併せ使いこなす事ができればそれは大きな前進だ。だが≪身体強化≫をすれば別の巨大鼠が消えてしまう。ウォルターは限界ギリギリの魔法制御に悪戦苦闘していた。



 指揮官であるウォルターは動くことなく獲物を狩り、自分の所に集めさせる。巨大鼠をバラバラに行動させたのが良かったのだろう、野良モンスターはウォルターの巨大鼠を狩り易い相手と侮り、逆に数を揃えた場所に誘い込まれて屍を晒す。

 いるのは巨大鼠や戦狼。都合良く弱いモンスターだけだったので丁寧に戦えば勝つのは容易だ。

 そこでの狩りも問題なく進み、いざ帰ろうとウォルターが重い腰を上げた所だった。

 巨大鼠による警戒網に、接近しようとしている誰かの反応があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ