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クーラ

 クーラはアイガンの街に古くからあるバームソロ商会の跡取り息子である。

 悪辣で冷徹、非情だがやり手で知られており、あとは娼館通いを好む女好きとして有名だ。


 だが、その評判の悪さに隠れあまり知られていないが、女癖の悪さを語られながらも実際に被害に遭った女性というのはいなかったりする。

 すべては、クーラの印象操作によるものだった。



「帰ってこない……」


 クーラは商会の持つ事務所の一つで書類仕事をしながら子飼いの討伐者の報告を待っていた。

 討伐者たちには昨日であった流れの討伐者、ウォルターたちの後を付けるように言った連中だ。ダンジョンに向かったという話なので、実力を確認するために人を動かしたのだ。

 いつまでダンジョンに潜るか分からない連中だ、昼までに一回調査を切り上げて報告に来いと言いつけてあったのだが、待てども来る気配が無い。すでに時刻は夕方になってしまった。

 そこまで待っても戻ってこないという事は、討伐者たちはウォルターに排除されたと考えて間違いなかった。彼らは優秀で、ランク4どころかランク5のダンジョンでも通用する、この街でもトップクラスの討伐者だったのだから。


 クーラは静かに考える。

 自分の使える討伐者の中でも一番の大駒、それを1チーム丸ごと失ってしまった損失について。

 そして、ウォルターに暴力を用いることの愚かしさについて。


 クーラは基本的に優秀である。

 よって、この段階で暴力的行為を含む選択肢をすべて破棄した。ウォルターがいる以上、成功する確率が低くリスクの方が大きいからだ。最悪、自分を消しに来る――そしてそれを防ぐ手段が無い――という所まで認識を改めた。

 搦め手を使おうにも、この町に基盤を持つ相手でなければ“干す”のは難しい。旅人相手に買い物制限などかけても話を通しきれないし、最悪ダンジョンで食料品を現地調達されて終わる。金銭その他で懐柔できそうであるなら構わないが、そもそも自分と敵対することを恐れない人間が金で動くと考えるほどクーラの頭はおめでたくなかった。金が万能ではない事をクーラはよく知っている。

 そうなるとウォルター相手に取れる策は情による懐柔か相互不可侵のいずれかが現実的だ。敵対的であるのは問題外。損失は大きいが、それに拘って被害を拡大させてもしょうがないと割り切った。


(男と女の組み合わせ。色を使った交渉は出来ないと考えていいな。金と女、おそらく権力でも無理だろう。何を欲しているか調査する必要があるな……)


 クーラは考える。

 世の中には分かりやすい三大欲求、金と異性、権力に興味を示さない奴がいる。おそらく、ウォルターもその類だろうと。

 自身の感情を優先し、当人にしか理解できない美学で動く人間。ある程度以上の能力を持った人間ほどこういった厄介な性質を持つことがあり、その行動原理を理解できずとも知らなければ動けない相手だと。


 だからクーラは考える。

 己の目標を。己の欲求を。

 現状、手放していいものと、手を放してはいけないものを。



 己の目的と打てる手さえ理解していれば迷いはない。

 それがクーラの信条だ。

 できなければ、できるようにする。

 そうやって今まで生きてきた。


 より多くのカネを。

 より強い権力を。

 だけど(ミリィ)はどうでもいい。


 危険は少なく、見返りは大きく。

 より楽で安全な手段を。


 分かりやすい、俗物な生き物だとクーラは己を理解している。

 だからクーラは新しい手を構築し、バグズたちの家ではなくウォルターに向けて侵略を開始した。

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