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足跡と道標

 旧帝都での決戦を終えた連合軍はその場で解散した。


 不幸中の幸いというか、多大な被害が出たものの連合各国の軍で全滅した国は無く、それぞれの国が旧帝都にあった財宝を国に持ち帰ることができた。

 ウォルターとマキも一度チランに戻り、これからについて考える事となった。





「おお、ウォルター様にマキ様。お久しぶりですね」


 チランへの帰途、二人は復興中であるアイガンの街に立ち寄った。

 チランまでは1月以上の時間を要するので、街に寄れる時には出来るだけ寄るようにして、屋根のある場所でゆっくり休みたいからだ。

 野宿というのは、あまり疲れが取れないのである。



 アイガンの街の代表は、かつて商人をしていたクーラである。その彼が軍の重要人物である二人の応対に駆り出された。

 クーラは隣にバグズの妹ミリィを連れており、その様子は実に親しげである。


「貴女は確か、バグズの妹さんでしたわよね?」

「はい。今ではこの人の妻をしております」


 彼女は一度、強制的にクーラと結婚させられるところであった。

 それをウォルターとマキが介入し、その結婚を阻止し用と働きかけたのだが。寄り添う二人は幸せそうで、あの時介入したことが間違いだったのではないかと思うほどであった。


「街の復興に有効な手立てだったのですよ、この結婚は。バグズがいなくなったことで妻の家が荒れていたという事もあります。誰もが支え合わねば生きていけなかったのです」

「こういう言い方をするときは大概照れているんですよ、この人」


 何か言いたげな二人にクーラは簡単な説明をするが、そのぞんざいな言い方にミリィは笑って訂正をする。そしてそのまま何があったのかを説明しだした。



 アイガンは皇帝の手により若い衆の大半を傀儡蟲で連れて行かれ、物資もずいぶん奪われていた。そして最後に火を放たれ、多くの建物が焼き払われたのである。

 そんな中で生き残った者が「生き残っただけ幸運」などと言えるような状態だったはずも無く、残り少ない物資を分け合い、寒さに震えながら厳しい冬を乗り越えていった。


 そのような故郷の窮状を知ったクーラは私財を投げ打ち、街の復興に大いに尽力した。

 ミリィはその様子を見てクーラを高く評価し、かつての評判が間違った物であると思い知った。あとは共に街を復興しようという二人が惹かれ合い、結婚するに至った。たったそれだけの話である。



 説明を聞き終えた二人は若奥様による「旦那様がいかに素晴らしいか」という惚気話を合間ごとに聞かされ、砂糖を吐くような思いであった。


「二人があの時手を貸してくれたことは、無駄じゃありませんでしたよ。

 もしもあのまま結婚していたら、きっと私はこの人の事をもっと誤解し、今のようにちゃんと見ることができなくなっていたと思います」


 例え素晴らしい人でも、その為人(ひととなり)を見る目が無ければ意味が無いんですよ。

 ミリィはそのように付け加えた。





 懐かしい顔と一緒の食事を終え、ウォルターとマキは同じ部屋で寝る事になった。

 二人に用意されたのは貴賓室というにはほど遠く、ベッドとテーブルなど最低限の家具だけが置かれた狭い部屋である。隣の部屋との壁が薄く、壁の向こうから誰かの足音が聞こえてくるような場所であった。

 復興途中のアイガンにまともな宿があるわけも無く、この部屋もクーラが作らせた長屋の一つで、とにかく雨露さえしのげればいいといった建物だ。軍という大勢の人間を受け入れる為に提供されたものなので仕方が無いと言えた。



「≪遮音結界≫。これで内緒話ができますわ、ウォル」

「このまま何も決めずに帰ると面倒な事になるよね、絶対。国のお偉いさんになれって言われるのかな?」


 二人はベッドに腰かけ、この先の話をする。


「いきなり立場を与える事なんてしませんわよ。与えるのは勲章や名誉といった“箔”ですわ」


 軍の中で戦った二人は論功行賞においてかなり高い報酬が約束されている。もともと最強戦力であった事もそうだが、皇帝を討つ等の戦果も十分だからだ。

 マキに関しては味方を放置し全滅させた負い目があるが、それでも第一等は間違いないと言えた。


 さて、そうなると高い立場などが与えられるように思われるが、実はそのような事はまず無い。


 土地を与え、領主とする。

 言葉にすると簡単だが、領主不在の土地が無い限りそういった事は行われない。仮に戦争で領主を失ったとしても、何らかの不名誉による領地はく奪が行われない限り、普通は後継ぎがそのまま領地を受け継いで終わりだ。

 新しく土地を開拓する許可を与える場合、どちらかと言えばこれは左遷の様なもので、これをマキにやった場合、「出ていけ」と三下り半(りこんとどけ)を突き付けるようなものだ。よって、これもない。

 そもそも領主に据えるには相応の能力を持っている相手を選ぶ必要があり、そうでなければ家臣団を用意する必要がある。今回の場合は戦争で活躍した者への褒美であり、内政能力が評価された者への褒美ではないのだ。言うなれば活躍した場と褒美のジャンルが違う


 ではチランの法衣貴族として取り立てる?

 これも、無い。

 マキを部下にするなど周辺国家が黙っておらず、軋轢を生むだけだ。


 よって考えられるのは名誉と金という、実に身も蓋も無い答えしか残らない。


 ウォルターについてはすでに教会勢力の代表という立場があるので組織の長としての対応が可能になる。

 ウォルター個人としてではなく教会という組織相手に利権を与え、あとは勲章などでお茶を濁すと考えられた。



「それなら僕らは“今まで通り”なのかな?」

「ええ、“今まで通り”ですわね」

「あれ? じゃあ、問題ない?」

「いいえ。問題だらけですわ」


 二人にとって大して価値の無い物を押し付けられるようだが、それを貰って何が変わるとは思えない。そんな事を考え、ウォルターは小首を傾げた。

 しかし、それは大きな間違いであるとマキは指摘する。


「戦争に出る前、精霊石作りをしていたのを忘れましたの? あと、練兵もしましたわよね? あれをずっとやるつもりですの?」

「え? あ、あれは値上げしたからまだマシになるんじゃないの? あと、兵士たちって、もう勝手に自分たちで訓練した方が良いと思うんだけど。ほら、もう戦争は無いんだし?」


 どこか甘い予想を立てたウォルターに、マキは大きくため息を吐いた。


「甘すぎですわ。激安価格が適正価格になったぐらいで仕事は減りませんわ。兵士の方もこの戦争で多くが死にましたわ。補充を考えるのは当然じゃなくって? 戦争はしなくても、ダンジョンはまだありますわよ」

「あー、そっか……」


 駄目な所を指摘され、項垂れるウォルター。ちゃんと考えれば分かる事だが、考えていなければとっさに正しい答えを返せるわけではない。

 帰った後の事、周囲の反応についてウォルターは何も考えていなかったのがよく分かるやり取りである。



「まぁ、現状確認はこれぐらいで構いませんわ」


 項垂れたウォルターのせいで途切れてしまった話を修正すべく、マキは話の内容を方向転換することにした。


「これからの事は考えてますの?」

「うん! やろうと思ってることがあるんだよ!」


 元々の話は「これからの事」である。

 そうやってマキが軌道修正した所でウォルターは目を輝かせ、「やりたい事」について語りだした。

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