最終決戦 出口封鎖
ウォルターと別れたマキは、急いで味方との合流をする。
ウォルターの事が心配という気持ちがあるけれど、今のウォルターなら大丈夫だという信頼がある。心配はするが、不安は無い。
外法兵の大本は皇帝なのだから、皇帝を先に倒すべきという考え方もあるかもしれない。
しかし、それでは皇帝を倒すまでの時間に味方が死んでいく。それも兵士の務めと割り切れればいいのだろうが、今のマキにそのような考え方は出来ない。少しでも被害を減らす方向で思考をまとめている。
それに、皇帝を倒した後に外法兵が消えてなくなるという保証も無い。ダンジョンのモンスターだってダンジョンを止めたからすぐに消えてなくなるという事は無い。体内の魔核が砕かれない限り生き続けるのがモンスターだ。であれば外法兵を削る事にだって意味はある。
他にも、持久戦がマキたちに有利に働くという理由もある。
皇帝は魔力供給減を潰され、すでに死に体だ。外法兵らの顕現に使える魔力が減るという事は、皇帝の生存能力を削るという事に繋がり、たとえこの場を逃しても何もできないほど弱体化させてしまえばそれだけ世界は安全になる。もっとも、皇帝が魔力を失っていけばその分だけ逃す可能性も低くなるし、ここで削れるだけ削り取っておくことは油断せずとどめを刺す事にもつながる。戦闘時間の面では無駄が大きいが、戦後の話と安全の面ではこちらが合理的だ。
個人的な心情といくばかの合理的判断に従い、マキは駆ける。
目の前に立ちふさがる敵を文字通りの鎧袖一触。目につく傍からなぎ倒す。
すぐに、【氷獄】の外で外法兵と戦う味方の姿が見えた。
「マキ様だ!」
「おい、あと少しで戦いも終わるぞ!」
「勝てる! 勝てるぞ!!」
マキが兵士を視認できるという事は、兵士もマキを視認できるという事だ。
【氷獄】の出口、地下水道にマキが姿を表せば兵士たちの中に歓声が響き渡る。歓声はマキが見えない場所にまで響き渡り、戦う兵士に勝利のビジョンを見せた。勝てる、生き残れると分かった兵士は強い。希望を胸に、こんなところで死なずに済むと喜び、未来を阻む敵を蹴散らす。
マキは目に見える敵を一瞬で蹴散らし、それを見た周囲の兵士が勝鬨を上げるのを聞き、満足そうに微笑んだ。
今度こそ、マキは仲間を守り切ったのだから。
「皆、聞きなさい!」
とはいえ、これで戦いが本当に終わったわけではない。
単純に、見える敵がいなくなっただけだ。
マキは【氷獄】の入り口を見据えながら、兵士たちに声を届かせる。
「憎き皇帝はまだダンジョンの中に居ますわ!」
マキは収納袋から黒い石、吸魔石を取りだす。
吸魔石はダンジョンに向けて魔力を送っており、それはダンジョン内に皇帝が潜んでいる証拠となる。
「あらかた敵を片付けたとはいえ、まだ本命たる皇帝を討ったわけではないのですわ!」
外法兵がいなくなったことで、兵士たちの中には弛緩した空気が漂っていた。既に戦後という雰囲気なのだ。
マキはその緩い空気を打ち払うべく、声を張り上げる。
「これが最後の戦いです! 敵が潜むダンジョンには皆を連れてはいけず置いて行きますが、ここより敵が出てこないとは言えません。いえ、皇帝は逃亡の為に必ず兵を差し向けるでしょう! 戦いはまだ終わっていませんわ!」
皇帝を討つまで今日の戦いは終わらない。
その認識を共有する為にも、兵士の気持ちを引き締めないといけない。
皇帝が逃亡しようというのだ、マキたちとの戦闘を避け、ここから出て行こうとするのは明白である。
広いダンジョンではないが、もしかすると中でマキと皇帝がすれ違い、逃がす危険がある。
それを阻止するには兵士たちの協力が必要で、このタイミングで油断されては敵わないのだ。
「我らに勝利を! 連合に栄光を! ここは任せますわ! だから皇帝を討つのは、私に任せなさい!!」
全てを言い終えたマキは、トンっと軽やかに地を蹴る。
そうして再び【氷獄】へと潜っていった。
あとに残された兵士はマキの背に向け敬礼をすると、油断なく周囲の警戒に当たるのだった。




