表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/208

最終決戦 ウォルターの叫び

 戦端が開かれた事は、まだ後方にいるウォルターたちにも伝わった。

 洞窟内は良く音が響くので剣戟の音が聞こえてきたのだ。


「もう、始まっていますわね!」

「まだ、みんな戦っているよ!」


 逸る気持ちを押しつぶしながら、二人は駆け足で進む。

 戦っているという事は、まだ仲間が生きている事。そして仲間が危険に身を晒しているという事。

 それを考えれば足も速くなるというものだ。


 しかし、そうやって急ぎ過ぎては戦うための体力が残らない。

 慌てて駆けつけましたが戦う力が残っていません、では話にならないのだ。



「僕は周囲の索敵をするよ。前は任せるね!」

「ええ、早く皇帝を探しなさい。せめて、ワタシが敵を全滅させるまでには、ね!」


 走り続ければ、聞こえてくる鉄と鉄を打つ音がどんどん大きくはっきりしていく。

 もうすぐ敵が見えるという所で、ウォルターは足を止め、マキは加速した。


 この先に敵がいて、仲間が戦っているのは明白だ。

 しかし、そこに皇帝がいるなどと二人は考えていない。


 【宵闇の聖域】で皇帝が見せた不死身さを考えれば前線に出てきてもおかしくは無いのだが、マキとウォルターと戦う事を避けた事を考えれば、皇帝がそんな事をするとは思っていない。

 だったら近くで姿を隠し、増援を顕現させていると考える方が自然だ。



 マキは戦闘において最強であり、危機に陥っているかもしれない仲間のために前へと出る。

 ウォルターは『軍勢顕現』で大量の鼠を放てるため、索敵能力に優れる。隠れた敵を探すのであれば、ウォルター以上の適任者はいない。


 どちらも必要な事であり、得意としていることが分かれるのであれば、役割分担は簡単に決まる。


顕現せよ(マテリアライズ)! 軍勢鼠(レギオンラット)!!」


 ウォルターが鼠の軍勢を顕現する。

 足元から現れた青白い毛皮の鼠達はすぐに通路の床を埋め尽くし、どんどんとその勢力を広げていく。

 前へ、後ろへ、側道へ。

 鼠の津波が【氷獄】の通路を埋め尽くす。


「あれ? これ、かなり難しい……っ!」


 ただし、それを行うウォルターの顔色はかなり悪い。

 元々、魔力消費を低くすることで軍勢鼠は維持できているのだ。これは魔力の総消費量を抑えるための、ごく一般的な方法である。


 しかしここは【氷獄】。極寒の洞窟である。

 環境に適応させるには『精霊化』を行うしかなく、一体あたりに必要な魔力量がはね上がる。それに自身の保護に使う魔力循環も止めるわけにはいかない。

 それらを全く考慮しなかった訳ではないのだが、事前に試すことなく行われた『軍勢顕現』と『精霊化』、『魔力循環』の併用は、ウォルターの想像を超える負担となって襲い掛かった。


「でも……頑張る!!」


 大量の鼠たちからのフィードバックと魔力循環へ割かねばならない意識。

 『精霊化』によりはね上がった魔力負担。

 膨大な情報処理と魔力消費の倦怠感で意識が途切れそうになるのを、ウォルターは気合で乗り越える。


「あんな奴に、絶対負けたく、ない!!」


 皇帝との戦いで、フリードを喪った。


 戦争なのだから自分たちに被害が出るのは当然で、覚悟をしておく必要があって、相手を殺そうとしているのに自分たちが殺されるのは許されないとはただの我儘でしかなく。

 言ってしまえば理不尽な感情論で、正義も何もない八つ当たりのような言い分だが。


 それでも、知り合いを殺されて平然としていられる訳はない。怒りを覚えない訳はない。

 もう会えない誰かを悲しむことが間違っている訳はない。

 だからウォルターの決意は正しい。


 ウォルターは歯を噛みしめ、拳を血が出るほど強く握り、薄れゆく意識を繋ぎ留める。


「これ以上、誰も殺させない!!」


 ウォルターの叫びが木霊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ